ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険

守 秀斗

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第59話:ダリオさんの結婚式

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 ラドゥーロ市の警備隊にマリーオ・バーバを引き渡した。
 そこから、電話でフランコ長官に連絡。

 ゾンビの死体は軍隊が処理するそうだ。
 ダリオさんは大学に帰るそうだが、その前になにか用があるみたいで、あたしは念のため連絡先を教えて別れた。
 あたしは墓屋さんに行った。

……………………………………………………

 今、あたしはラドゥーロ市の東地区の一番安い宿屋に泊まっている。
 共同トイレに共同風呂。

 明日には、メスト市に帰る予定だ。
 机に座って漫然としている。
 財布は空っぽだ。

 この前のギャンブル大勝利の大金は全て、チェーザレ、アベーレ、ベニートの墓代で消えた。
 チェーザレは許してくれるかなあ。

 ん? ダリオさんとはどうなったのって? うーん。
 ダリオさん、名家の息子、医者で大学教授。
 あたしとは全然釣り合いが取れん。

 抱きしめてくれたじゃないかって? 女が泣いてれば、それくらいするんじゃないの、優しい男性なら。
 ずいぶんしらけてるなって? そうなんよ。

 また、鼻くそをほじくっている男の顔が空中に浮かんだ。
 チェーザレだ。
 チェーザレの言葉を思い出す。

『高望みすんなってことだよ、人生、妥協することも大切だぞ』

 そうなんよ。

 すっかり気弱になってるあたし。
 ダリオさんは素敵な男性だけどさ。

 けど、これは吊り橋効果、と自分を無理矢理納得させる。
 ん? 吊り橋効果って何だって? 勘違いすること。詳しくは自分で検索して調べて。
 まあ、今回はあきらめよう。

 え? お前らしくないって? うーん、十六歳の頃なら突撃してたかもしれない。
 だけど、もう二十一歳なんよ。

 もう大人なんよ。
 成人なんよ。

 万引きして捕まったら、新聞に写真と名前が載っちゃうんよ。
 あたしと全然釣り合わないんよ。

 高望みどころか、エベレストかK2並みよ。
 
 もう、あたしも大人になってもうた。
 え? 全然変わってない、子供っぽい? ふざけんな! と言いたいが、確かに成長しとらん。

 まあ、とにかく可能性ゼロよ。
 今回はパス。

 チェーザレたちの件で落ち込んでもいるんよ。
 謝ろうとしてた人を撃った。

 幼馴染の三人を撃っちゃったんだから。
 たとえ死体でも。

 今、元気がないんよ。
 これでいいんよ……。

 ノックの音がした。

「開いてます……」

 力なく答える。
 扉が開くと、何とダリオさんが入って来た。

「失礼します」

 おまけに、花束を持っている。
 あたしはびっくりして立ち上がる。

「プルムさん」
「は、はい」

 えー、まさかの大逆転か!

「すいません、突然」
「な、なんでしょうか」

「これをあの方に渡してほしいのですが。あと、この手紙も」
「は? どなたですか?」
「以前、あなたと一緒にいた方です」

……………………………………………………

 あたしはサビーナちゃんに、その手紙と花束を持って行ってやったよ。
 花束はしおれないようにしてしっかりと。

 手紙も花束も捨てればって? そんなことしませんよ。そんな意地悪な女じゃない。
 シーフ技使って、手紙の中身を読んだだろって? 読まないよ。

 そんで、今度はサビーナちゃんに頼まれたんよ。
 ダリオさんに返事を渡して下さいって。
 おまけになんか贈り物を付けて。

 え? 郵送でいいじゃんって? サビーナちゃんが、もし、誤配とか、途中で無くなったりとか、中身読まれたら嫌だって言うんよ。
 だから、直接、ミスカトニク市立大学まで持って行って、ダリオさんにあげたよ。

 ダリオさんは大喜び。
 あたしは伝書バトかって。

 え? 贈り物の中身? シラネーヨ!
 手作りのチョコか、手作りのケーキか、それとも手作りの漬物かな。
 興味ねーよ。

 そんで、今日はダリオさんがサビーナちゃんの家に初訪問。
 なんで知ってんだって? サビーナちゃんが教えてくれたんよ。
 あの人いろいろと相談してくるのよ。

 仕事中だろうが、昼休みだろうが、ダリオさんのことやたら聞いてくんのよ。

 ちゃんときっちり正確に答えたわよ。
 名家出身。
 大金持ちの息子だって。
 それに次男坊。
 医者だって。
 博士号持ってる学者で大学教授だって。
 遠くから見ても近くから見てもイケメンだよって。

 真面目だよって。
 誠実だよって。
 優しいよって。
 けど、決断力もあるし、勇気もあるよって。

 ああ、それから、裁縫も得意だよって。

 は? 金目当て? 知らんよ、サビーナちゃんに聞いてよ。
 最近、やたらそわそわしてるけどね、彼女。

 まあ貧乏よりは金持ちのほうがいいんじゃないの。
 邪魔すりゃいいのにって? 
 は? サビーナちゃんは親友なのよ! かわいい妹分なのよ!

……………………………………………………

 サビーナちゃんの家の近くの教会の天辺にある鐘の下、双眼鏡で見張るあたし。
 覗きとは悪趣味だって? 違うわい! サビーナちゃんが心配なのよ。

 ダリオさんが実は連続殺人鬼かもしれない。
 その時は助けにいかないと。
 あたしの百発百中のナイフ投げの技を見せてやる。

 え? そんなわけないって? そうよ、そんなことあるわけないわよー!
 じゃあ、なんで見てんのかって? もしかしたら、今日、ケンカして別れるかもしれない。
 そしたらあたしにもチャンスがあるじゃん。

 全く無いって? うるさい!
 空しくないかって? うるさい!

 おっと、ダリオさんが来た。
 あら、サビーナちゃんが路上で出迎えてる。

 いきなり抱き合う二人。
 ギューっと抱きしめ合っている。

 おい、ダリオ! 乗合自動車からサビーナちゃんを双眼鏡で見ただけじゃん。
 はっきり言って、遠かったぞ。

 一目惚れとはよく言うし、あたしも散々やったけどさ。
 双眼鏡で見た相手に一目惚れって聞いたことないんだけど。

 今、流行ってんの?

 サビーナちゃんもダリオさんをかなり遠くから見ただけじゃないか。
 見えたのは、豆粒くらいの大きさだろ。

 はっきり言って、顔見るのは今日が初めてじゃん。
 ダリオさんとあたしとは、丸一日、一緒にいてゾンビと戦ったっていうのに。

 いつまで抱き合ってんの! 
 他の通行人の邪魔だろうが! 
 あ、やっと離れた。

 で、サビーナちゃんがダリオさんの腕を引っ張って、自分の家に連れて行く。
 かわいい顔して積極的ね。

「お茶でもどうぞ」って感じかな。

 そして、紅茶とか飲みながらおしゃべりして、お互い心の中をさぐりあって、帰り際に次のデートの約束か。
 次回は公園とか美術館って感じかな。

 と予想してたら、家に中に入るなり、居間でブチューと熱烈キス。
 おい、いきなりかよ!
 え? そーゆもんなの?

 けど、サビーナちゃん、彼氏いたこともないし、男性と手もつないだことないとか言ってたんだけど。
 いつまでキスしてんだっていう濃厚キス。

 いざとなったら、女ってこーゆーもんなの? そうなの?
 あたしも女だけどさ。

 おい、そこの二人、さっさと紅茶飲めよ!
 やっと、離れた。

 そんで、またサビーナちゃんがダリオさんの腕を引っ張って、隣の部屋へ。
 隣の部屋は確か寝室じゃん。

 おいおい、サビーナ! 積極的すぎるぞ!
 これがフツーなの?

 人それぞれって? そうなのかよ。
 初めて出会って十分くらいしか経ってないぞ。
 おいおい、いーのかよ。

 え? 出会い系ってそんなもんだよって? いや、これは出会い系じゃないでしょ!

 で、サビーナちゃんが寝室の窓のカーテンを閉めた。
 おいおいおい。
 そして、明かりが消えた。

 夕焼けの中、教会の鐘の下で脱力するあたし。
 いったい、あたしはこんなとこで、何をしているんだろう。

 二歳年下のサビーナちゃんに追い越されてしまった。
 あたしはまだキスすらしたことないのに。

 昔、警備隊員の頃、寮の同じ部屋でお互いベッドにダイブ遊びをしていたサビーナちゃん。
 あの頃は、あたしが十七歳でサビーナちゃんは十五歳。
 懐かしい。

 サビーナちゃんは、今、ダリオさんの胸にダイブしたのね。
 あたしは正真正銘、ベッドにしかダイブした事ないぞ! 
 クソー!

 夕焼けを見ながら黄昏るあたし。
 ダリオさんはサビーナちゃんの家にお泊りね。

 カラスが二羽飛んでいくのをぼんやりと見る。
 あのカラスもカップルかしら。

 楽しそうね。
 カラスですら。

「ウギャ!」

 顔面にカラスの糞をかけられた。
 おまけに教会の鐘が鳴った。

 うるさい、鼓膜が破れるかと思った。
 糞だり鳴ったり、じゃなくて、踏んだり蹴ったり。

 もう、だめだあ。

……………………………………………………

 ダリオさんとサビーナちゃんの結婚式に招待されました。

 超豪華!
 アロジェント家の別荘で挙式。

 庭に噴水とかあるぞ。
 お手伝いさんがズラーリ。

 精一杯のオシャレをしてアホ毛をおさえて、出席です。
 サビーナちゃんのウェディングドレス姿。

 普段のポニーテルじゃなくて、髪の毛をおろして優雅に編んでいる。
 きれいだなあ。

 え? お前も髪の毛を伸ばしたらって
 ロングヘアは似合わないんだよな。
 え? 何やっても同じ? ウルセー!

 ダリオさんに紹介される。

「私とサビーナを結びつけた恋のキューピッド、プルムさんです」
「えー、本日はお日柄も良く……」

 テキトーに挨拶。
 別にあたしが結びつけたわけじゃないじゃん。

 あんたらが勝手に結びついて、からみあっただけじゃん。
 あたしは伝書バトみたいな事しかしてないぞ。

 サビーナちゃんが近づいてくる。

「プルムさんにむけて、花束を投げますね」

 サビーナちゃんに小声で言われた。
 え、何のこと? ああ、ブーケトスか。

「そんな、別に気にしなくていいよ、アハハ」

 ああ、最近空しいんだなあ。

 豪華な結婚式。
 まさに玉の輿。
 あたしは、指をくわえて見てるだけ。

 ボケーッとしてたら、品の良さそうな小柄な中年女性が話しかけてきた。

「プルム様でしょうか。サビーナの母でございます」
「あ、サビーナさんのお母様ですか。あの、失礼ですが、お体の調子はいかがですか」

「はい、おかげさまで体調は回復いたしました。それより、お仕事でサビーナはご迷惑をかけていませんでしょうか」
「ああ、いやあ、そんな事全然ありませんよ。サビーナさんにはこちらもご面倒をかけていますので、アハハ」

 ダリオさん取られちゃったけどさ。

「いえいえ、いつかプルム様には、お礼を言おうと思っていたんです。サビーナのことをいつも可愛がっていただいて、本当にありがとうございます。おまけに、こんな素敵な方を紹介していただいて」

 サビーナちゃんのお母様は涙を浮かべている。
 まあ、嬉しいんでしょうけどね。

 けど、紹介なんかしてねーちゅーの。
 お礼なら双眼鏡に言ってよ。

 まあ、お母様に文句は言えないけどね。

 さて、ダリオさんとサビーナちゃんの方を見てたんだけど。

 げっ! 上空をカラスが飛んでるぞ。
 また糞をかけんのか! とカラスに警戒するあたしだったんだけど。

「ウギャ!」

 花束が顔面にあたって、あたしは噴水の池に倒れて、全身びしょ濡れ。
 隣に立っていたバルドにひきあげられる。
 せっかくのおしゃれも台無し。

「プルムさん、ごめんなさい」

 サビーナちゃんが近寄ってきて謝られる。

「いや、よそ見してたあたしが悪いのよ。これが水も滴るいい女よ」

 みんなが笑う。
 あたしも顔で笑って、心で泣いた。
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