ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険

守 秀斗

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第66話:皇太子御夫妻結婚パレード

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 で、結婚式当日がきてしまった。
 あたしは、王宮警備隊の目立たない制服を着て、他の隊員たちと一緒に馬に乗って、教皇庁の大教会の側面で待機する。

 いろんな要人たちが、大勢教会の中に入っていく。
 教会前の大きな広場には、一般市民も集まって来ている。

 教皇庁か。
 懐かしいなあ、フランチェスコさん。

 今も、勉学に励んでいるのだろうか。
 会いたいけど、迷惑だろうからやめておく。
 三年前、あたしをちゃんと抱きしめてくれた唯一の男性なんだけど。

 おっと、仕事中にこんなこと考えてはいかん。
 それも、皇太子御夫妻の結婚式だと言うのに。

 オリヴィア近衛連隊長が先導して、皇太子御夫妻を乗せた馬車が予定通りやって来た。
 大歓声が上がる。

 見物人がオリヴィアさんの名前を呼んだりしている。
 みんな、彼女を見に来たんじゃないのかってくらいの大歓声だ。
 確かに、これではカクヨーム王国のお妃様が霞んじゃうな。

 皇太子御夫妻の馬車が教会前に到着。
 お二人が馬車から、降りられて教会へ入っていく。
 かなり厳重に警備が行われているので、御夫妻がほとんど見えないなあ。

 オリヴィア近衛連隊長が、あたしに近づいてきて、敬礼された。

「プルム隊長、後はよろしくお願いいたします」

 相変わらずカッコいい女性だな。
 近衛連隊は私服に着替えて、一般人に紛れて警護するようだ。

 さて、教会の外で待機しているあたしたちには見えなかったが、どうやら式は無事に終わったみたい。例の「教会で殺してやる」って脅迫状はイタズラだったのかね。

 式を終えた皇太子御夫妻が姿を現した。
 お二人とも華麗な衣装にお色直し。
 さすがに歓声がわく。

 本日は快晴。
 教会前には、屋根なし馬車が停まった。
 ご夫妻が乗り込む。
 
 さて、あたしたち王宮警備隊の先導でパレード出発。
 あたしが一番前。
 緊張するなあ。
 
 道は見物人でごった返している。
 市民全員が見に来たんじゃないかってくらい人がいるぞ。
 みんな王国旗を持って、振ったり、歓声をあげている。

 あたしが馬に乗って、皇太子御夫妻の馬車を先導していると、沿道から見物人が文句言ってるのが聞こえてきた。

「誰、あの人」
「なんだ、オリヴィア様じゃないじゃん」
「あんなちんちくりんよりオリヴィア様の方がいいのに」

 あたしだって、好きでやってるわけじゃねーよ! と怒鳴りつけてやりたくなったが我慢する。
 チラッと後方を見ると、皇太子御夫妻がにこやかに手を振りながら観衆に応えている。
 わりと順調に行って、教会のある南地区から西地区、北地区を通り過ぎ、東地区まで来た。

 お、バルドが先頭に立って、警備を指揮している。
 体がデカいから迫力あるな。

 ん、チャラチャラした警備隊員があたしに向かって、手を振っているぞ。
 チャラ男ことロベルトだ。

 なんか食ってるぞ。
 アイスクリームをなめてる。

 買い食いしてんじゃん。
 ちゃんと警備しろよ。

 相変わらずいい加減な奴だ。
 って、あたしもよく買い食いしたなあ。

 あれ、リーダーもいるけど、なんだか、ボーッとしている。
 大丈夫かなあ、体調悪いのかな。
 
 さて、もう少しで王宮だ。
 ふう、これは何とか無事に終わるかなと思っていたんだけど。

「バン!」

 突然の爆発音。

 やばい! テロか!
 馬がびっくりして、立ち上がった。

 しまった!
 突然、立ち上がったもんだから、あたしは落馬してしまった。

「ウギャ!」

 後頭部と背中を地面に強打。
 なんという大失態。

 新聞社が写真を撮ってやがる。
 こりゃ、歴史的大失態だ。

 すぐに立ち上がろうするが、うまく立ち上がれない。
 脳震とうかな。
 まずいぞ、これは。
 
 ん、女性が走り寄ってきたぞ。
 よく見ると、なんと皇太子妃様じゃん。

「大丈夫ですか」
「……あ、はい、なんとか」

 皇太子妃様はあたしの目の動きを確認している。

「休まれた方がいいのではないでしょうか」
「あ、いや、大丈夫です。大変申し訳ありません」

 本当は大丈夫じゃないけど、なんとか、あたしは立ち上がって、再び馬に乗る。
 部下が近寄ってきて、報告を受ける。

「さっきのは単なる爆竹のようです。子供がふざけただけみたいです」

 やれやれ。
 爆竹で落馬か。
 情けない。 

 王宮前の入り口に到着。
 やっと終わった。
 
 あたしは、さっきの落馬で調子が悪い。
 馬から降りて、入り口近くに待機する。
 御夫妻が馬車から降りる。
 
 入り口前で御夫妻が並んで立って、王宮前に集まっている市民に手を振っている。
 サービスのためか、なかなか王宮の中には入らず、手を振り続けているので、観衆がどんどん増えて、御夫妻をもっと間近で見ようと近づいて来た。

 警備隊員が抑えているが、これはまずくないかと思っていたら、あれ、観衆の中にいる、あのやせっぽちの女、見たことあるぞ。
 この前の政治団体同士の乱闘で火炎瓶を投げた女じゃないか。

 ん、しかし、眼鏡をかけてないな。
 別人か。

 その女は、ゆっくりと、目立たないようにこっちに近づいてくる。
 政治団体関係者は御夫妻に危害を加えないって、クラウディアさんは言ってたけど。
 何だか挙動不審だ。

 あれ、手をポケットに入れている。
 怪しいぞ。

 必殺、百発百中のナイフ投げ! をしようと思ったが、さっきの落馬の後遺症か、体がふらついて、的が絞れない。
 まずいぞ。

 女がポケットから拳銃を取り出した。
 やばい。

 周りの警備員に伝えようとしたら、その女の横に、さっと黒いスーツ姿の人物が近づいて、拳銃を叩き落とす。その後、手刀で首を叩いて、倒した。
 周りの人たちは気づかない。

 よく見ると、黒いスーツ姿の人物はオリヴィア近衛連隊長ではないか。
 カッコいいな。

 皇太子御夫妻は暗殺事件に気付かず、王宮内にお入りになった。
 ふう、やっと終わった。
 って、あたしは依然として頭や背中が痛い。

……………………………………………………

 さて、犯人の女だけど、皇太子殿下に片思いをしていたそうだ。
 脅迫状も出したのも、この女。

 教会には警備が厳重なので近づけなかったようだ。
 差別反対と火炎瓶を投げていたくせに、カクヨーム王国の皇太子妃を狙うとはどうなってんの?

 政治活動と恋愛は違うと本人は証言したみたい。
 いかれとるね。

 純愛原理主義者のあたしもここまでひどくはないぞ。
 ちなみに伊達眼鏡を普段はかけていたそうだ。

……………………………………………………

 翌日、午前中は病院に行く。
 落馬して、後頭部と背中を打ったので、診てもらうことにした。
 とりあえず、なんともないとのこと。

 午後に出勤すると、サビーナちゃんに言われた。

「フランコ官房長官がお呼びですよ」
 
 やれやれ。
 また、怒鳴られるのか。
 確かに、爆竹ごときで、あの落馬は大失態だもんな。

 やっぱり近衛連隊にまかせればよかったんじゃないのか。
 あのオリヴィア近衛連隊長なら、落ち着いてこなしただろうに。
 
 はっきり言って、落ち込んでいる。
 新聞社にも写真をいっぱい撮られてしまった。
 ナロード王国の歴史に残っちゃったよ。

 いずれ、新聞社発行のナロード王国歴史写真集とかにも載ってしまうのだろうか。
 憂鬱。

 官房長官室に行くと、いつもの丸眼鏡青年パオロさんじゃなくて、違う秘書が出てきた。

「あれ、パオロさんは?」
「パオロは、本日、病院に行くため休んでおります」

 チョコの食い過ぎで歯医者かな。
 それとも、あの若さで糖尿病か。

 いや、もともと体が弱いとも言ってたな。
 しょっちゅう医者に行ってるみたい。
 大丈夫かね。
 
 それはともかく。

「あの、王宮警備隊長のプルム・ピコロッティです。フランコ官房長官に呼ばれたんですが」
 
 官房長官室に通される。
 また怒鳴られるかと思ったら、四角い顔のおっさんが新聞の一面を見て喜んでいる。

「今回はよくやった!」

 おっさんに、やたら褒められる。
 そこにはあたしを介抱する皇太子妃様の写真が載っていた。

「お前が落馬した時、怪我してないかと皇太子妃様が駆けつけられたのが、国民に好感度を上げたようだ。今まで、カクヨーム王国の女性との結婚に反対だった連中も静かになった」

 そう言えば、元看護師だったなあ、皇太子妃様。
 職業柄つい駆けつけてしまったようだ。
 怪我の功名かね。

 あたしとしては、フランコのおっさんに怒鳴り散らされないので、ほっとして、安全企画室に戻ると、サビーナちゃんがぴょんぴょん飛んで慌ててる。
 昔より飛ぶ高さが低くなったなあ。

「オリヴィア近衛連隊長様がプルムさんに会いに来られたんですよ!」

 興奮してるサビーナちゃん。

「王宮の屋上で待ってますって」
「は? 何で屋上?」
「言いたいことがあるそうです」

 何だろう。
 階段を上りながら考える。
 うーん、やっぱり落馬の件かな。

 今度から、王室関連のパレードは全て近衛連隊にまかせろとか言われるのか。
 あたしに言われてもなあ。

 だいたい、もうすぐ併任は解かれるっていうし。
 文句はフランコのおっさんに言ってよ。

 屋上に行くと、オリヴィア近衛連隊長が待っていた。
 今日は私服だな。

「何のご用でしょうか」

 なかなか喋らないオリヴィアさん。
 何だろうと思っていると、変な事を聞かれた。

「あのー、あなたは、恋人はいますか」

 何だよ、いきなり。
 不躾な人だなあ。
 落馬と何の関係があるんだよ。

「いませんけど」

 あたしは憮然として答える。

「私はどうでしょうか」

 は? 何言ってんの、この人。
 意味が分からんな。
 え、まさか。

 頭が混乱してきた。
 あたしはボーッとしている。

「あのー、よろしければ、私と付き合ってくれませんか」

 えー! 意味が分かったぞ。
 うーむ、そりゃ、カッコいい人だけどさあ。
 すごい美人さんだしねえ。

 これが、相手が男性なら有頂天になって、天を舞っちゃうけど。
 でも、女性だからなあ。

「アハハ、あのー、すみません。えーと、その、私は男性の方が好きなので」
「そうですか」

 がっくりしているオリヴィアさん。 

「プルムさんは男性と一緒の時は全く無く、いつも一人で行動されているので、私と同じ趣向の人かと思いました」

 好きで一人で行動しているわけじゃないわよー!

「では、失礼」

 踵を返してカッコよく立ち去るオリヴィア近衛連隊長。
 しかし、途中で顔を両手で押さえて足早になった。
 泣いているのかな。

 うーむ、なんだか、悪い気がしてきた。
 え? 女は、自分が振った男性には、まったく未練がないもんだって。

 逆に男はけっこう相手に悪い事したかなあと思うもんだって。
 へー、あたしって男っぽいのかなあ。

 けど、相手が女性じゃなあ。 
 ん、LGBTQ? なにそれ?

 それにしても、今回もあたしが振ったってことになるんかな?
 最近のあたし、乙女のくせに偉そうだな。

 まあ、ともあれ恋愛不成立。
 またもや恋愛活動連敗記録を更新してしまった。

 お前、もう見込みが無いんだから、この際、相手が女性でもいいんじゃいかって? 
 うーん、いや、まだがんばるぞい。
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