ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険

守 秀斗

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第81話:無職になった

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 深夜。
 私がベッドで寝ていると、誰かが扉の外に立った。

 何だか不気味な雰囲気がする。
 勝手に扉が開いた。

 ダークスーツの男が立っていた。

「お前はナイアルラトホテプ!」
「何だ、やっと俺の名前を覚えたのか、プルム・ピコロッティよ」

「あんた、確か、十万年後に戻って来るって叫んでたじゃないの」 
「十万年後も一年後も、俺様にとっては似たようなもんさ」

「何の用!」
「お前を殺しに来たに決まってんだろ」

 ナイアルラトホテプは体を変化させ、手が鉤爪状態、頭から体が縦に半分に割れる。
 事務次官用の宿舎の高い天井まで巨大化するナイアルラトホテプ。

 私に襲いかかって来る。
 絶体絶命!

 そこで、目が覚めた。
 こんな夢をよく見る。

 忘れっぽい私だが、さすがにナイアルラトホテプのあの恐ろしく醜い姿は、トラウマになっている。
 と言って、天然女神にしゃべるわけにはいかないな。
 こんな怖い話をしたら、クラウディアさんがショック死してしまう。

 最近、眠れない。
 不眠症だ。
 耳が痛い。
 フランコ長官は亡くなったので、もう怒鳴る人はいないのだけど。

 目も痛いし、頭痛がする。
 首も痛いし、肩も背中も痛い。
 お腹の調子も悪いし、息が突然詰まったりする。
 たまに眩暈もするし、突然、不安になったりする。
 やる気も出ない。

 散々、ドラゴンキラーと呼ばれて、こき使われた結果、体がおかしくなったのか。
 それとも、これがうつ病というやつなのか。
 
……………………………………………………

 賄賂事件を解決したバルドが王宮で表彰されることになった。

「あーキミ、キミ、今回の働き、褒めてつかわす」
「ありがたきお言葉、光栄の至りでございます」
「あーそれから、キミ、今日から警備長ね、ヨロシクー!」

 警備長って、大隊長の上か。
 バルド出世したなあ。

 ところで、何で私も呼ばれるのかと不思議に思っていたら、イガグリ坊主(王様)に言われた。

「あーそれから、キミ、キミ、賄賂貰ったんでクビね、ヨロシクー!」

 なんだと!
 ふざけんな! 散々こき使ったあげくクビかよ、このイガグリ坊主!
 それに、私は賄賂なんて受け取ってないぞ!

 あれ、今、イガグリ坊主がニカーと笑ったんだけど、歯が全部ピカピカだ。
 忘れっぽい私でも、クーデターを鎮圧した時の表彰式で、双眼鏡で見たあの顔は忘れないぞ。

 前歯二本欠けてたし、他の歯もガタガタだった。
 歯の色も汚かった。

 今はピカピカ、こいつクトゥルフだわ。
 ラスボスだ!

「このクトゥルフめ、覚悟しろ!」

 私はイガグリ坊主(王様)に飛びかかる。

「ヒエー! 助けてー!」

 逃げる王様。
 口から入れ歯が飛び出し、イガグリ坊主はフガフガ言ってる。

 やばい! 入れ歯かよ!
 いいや、もう!

「だいたい、クーデターが起きたり、警備隊大隊長が殺人に関わったり、やたら汚職とか蔓延するのはあんたに人望がないからよ。『働いたら負け』ってなによ!」

 自分のことを棚に上げて、イガグリ坊主の首を絞める。
 王様の護衛兵に取り押さえられた。

……………………………………………………
  
 気がつくと、事務次官用の宿舎の床で寝ていた。
 王様に襲いかかったんだから、普通は死刑ね。

 だけど、皇太子妃様、ご懐妊ということで恩赦になった。
 他にも、クラウディアさんとサビーナちゃんの必死のとりなしで、なんとか死刑は逃れた。
 ありがとうございます。
 
 どうやら、新官房長官が慣れてないので間違った書類を渡してしまった。
 王国安全企画室と情報省安全調査室を間違えたようだ。

 あのイガグリ坊主(王様)も何も考えないで、それを読んだ。
 もうボケ老人ね。
 まあ、いきなり襲いかかった私も悪いけど。

 死刑は逃れたが、クビは決定。
 ナイアルラトホテプとの戦いがトラウマになって寝不足で、ボーッとしてましたって言い訳は全然通用せず。

 懲戒免職。
 退職金も無し。
 無職になった。

 やけ酒ついでに賭博場。
 持ってるお金、全部つぎ込んでパーにした。

 用心棒と久々の大喧嘩。
 賭博場から、叩きだされて終わり。
 無一文になった。
 
……………………………………………………

 さて、昼頃起きた。
 シャワーを浴びる。
 さっぱりした。

 鏡で自分の裸をあらためて見る。
 昔とほとんど変わってない。

 変わってないって、まさか、お前はクトゥルフかって? フフフ、そうよ。
 よく分かったわね。
 実は私はクトゥルフ。

「あたし」から「私」になった時点でクトゥルフに変身したのだ。

 私は呪文を唱える。

「クトゥルフ、クトゥルフ、リワオー! グスウモー! ウトガリー! アテー! レクデンー! ヨデマゴイー! サヲツー! セウョシイー! ナラダクナー! ンコー! ラナー! ルイガー! トヒタイデー! ンヨシモー!」

 疲れた。
 ふう、子供っぽいことはやめるか。
 いつまで経っても、子供っぽい。

 外見も中身も。
 独身だからかなあ。

 アデリーナさんもサビーナちゃんもミーナさんもすっかり大人。
 子供がいるからかな。

 だいたい、クトゥルフが顔のシミを気にしたり、依存症患者の集会に出るわけないぞ。
 私がクトゥルフだったら、お話が根底から覆るじゃない。
 そういうオチのホラー小説を読んだことはあるけどね。

 やれやれ、来年は三十路だ。
 うら若くもない三十歳の崖の下に落っこちた乙女になる。

 もう、どうでもいいや。
 とにかく、私以外、私の裸なんて誰も見ないしー!

 私は仕事一筋に生きることに決めたんよ。
 仕事ってなんだって? シーフよ! 泥棒よ! 本業再開よ! 
 最初の仕事は、こうなったらイガグリ坊主(王様)が大切にしているとか言う王宮の宝物を全部盗んでやる。

 実は王宮内部の図面をすでに取り寄せてある。
 全て調べ上げてあるからね。
 あのイガグリ坊主(王様)に目に物を見せてやる!
 
 もう、「私」はやめて「あたし」に戻るぞ。
 さて、パジャマに着替える。

 昨日の酒が残っている。
 口の中が気持ち悪い。
 歯磨きをする。

 ありゃ、アホ毛がまた立ってる。
 どうでもいいや。

 あたしは寝るぞ!
 もう起きたんだから、泥棒でも仕事しろよって? 
 いいんだよ! とりあえず、二度寝よ、二度寝!

 働いたら負けはやめたんだろって? 今日できる事は明日も出来るんよ。
 追い出される時は、この部屋で大暴れしてねばってやる。

 と考えていたら、ノックの音がした。
 ちぇ、もう来たか!

「開いてるよ~」

 扉が開くと、あら、バルドだ。
 なんだか、私服だけどパリッとした格好。

「あ、ごめん」とパジャマ姿のあたしを見て、バルドはいったん開けた扉を閉めようとする。
「いいよ、入って」

 花束、ああ送別って意味ね。
 引導を渡しに来たのか。
 知り合いのバルドなら、あたしが暴れないとの配慮ですか。

 ん、バルド、なんだか、緊張しているぞ。
 トイレにでも行きたいのか?

 突然、バルドが言った。

「プルム……ずっと前から好きだった。結婚してくれないか」

 えー! マジ! マジ! ホントー! ふざけてるんじゃないの? いや、バルドの顔が大真面目。えー! どーすんの! どーすんの! どうすればいいの。バルドってあたしにとって、空気みたいな存在だったけど。いや、リーダーがイケメン過ぎて、気がつかなかったけど、バルドもそこそこいい男じゃん。あたしと背が違いすぎるけど、それはまあ大丈夫ね。年齢はあたしより一歳上。全然問題無し。バルドの趣味は確か、ジグゾーパズルと貯金。地味だなあ。

 ん、何故か鼻くそをほじくってるブサイクな男の顔が浮かんできた。
 今は亡きチェーザレだ。
 急に思い出したぞ。
 チェーザレの言葉だ。

『高望みすんなってことだよ。人生、妥協することも大切だぞ』

 そうよね。
 人生、妥協が大切! 妥協、妥協と。

 あれ、けど、バルドって、大企業の社長の息子で、確か遺産貰ったって言ってたな。大金持ちじゃん。貯金が趣味だし、仕事も警備長になって出世頭。妥協どころか、玉の輿だぞ! けど、心配だ。スラム街出身の孤児、懲戒免職くらって無職、無一文のあたしなんて大丈夫かね。バルドの親に猛反対されそうだ。いや、ここで既成事実をつくってしまえばいいのよ。まあ好きでも嫌いでも無いしね。けど、気は合うし。仲良しだし。よーし、もう、こいつでいいや! よっしゃあ! 結婚だあ! 結婚だあ! 三食昼寝付きだあ!

 以上、あたしはすばやく頭の中で、一秒で計算した。

 ちょっと待ったー! え? おい、こら! ふざけんな! お前の恋愛至上主義はどうしたんだって? 
 愛がない人生なんて生まれてきた意味ない。
 愛こそ、この世の至上の宝。
 愛のない男女関係なんて信じられない、とか偉そうに言ってだろって?
 純愛! 純愛! 相思相愛! とかやたらわめいていただろって?

 何だよ、大金持だー! って、はしゃぎやがって! 
 愛は金で買えない! とか何とか言ってただろって?

 好きでも嫌いでも無しってどういうことだって?
 こいつでいいやって何だよって?
 純愛原理主義者じゃなかったのかよって?
 お前は、この期に及んで、お話を根底から覆すつもりかよって言いたいのでございますか?

 そうね、十代の頃は恋愛至上主義のあたし、純愛にあこがれていたあたし。

「愛があれば何もいらない」とか言ってた十六歳の乙女だったあたし。

 だけど、今は二十九歳の乙女なんだな。
 もうあたしは大人なんよ。

 これでいいんよ!

 さて、男性から告白されたのなんて初めてなんで、どう対応すればいいのかわからない。
 女性からはあったけどね。

 どう返事しようか? と考えていると、
「プルム!」とバルドにいきなり抱きつかれた。
「ちょ、ちょっと、待って、あっ……」

 ああ、もういいや、好きにして。
 あたしとバルドはベッドに倒れこむ。

 その時、あたしは思った。
 歯磨きしといて良かったと。
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