ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険

守 秀斗

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第80話:安全企画室長(事務次官級)になった

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 私の名前はプルム・ピコロッティ。
 ナロード王国安全企画室長(事務次官級)だ。

 事務次官って、事務のトップらしい。
 いいのだろうか、私がなっても。

 私の部署って、三名しかいないけど。
 事務っぽい仕事って、官報整理くらいしかしてないし。

 スポルガ川の水質が改善されて、だいぶきれいになった。
 故フランコ長官のおかげだな。
 本人は天国で喜んでいるかなあ。

 さて、とうとう警備隊の寮を追い出された。
 しかし、代わりに事務次官級の公務員宿舎を用意してくれた。

 2DKなんだけど、部屋がでかい。
 風呂も大きい。
 シャワー付き。

 全身が映る鏡も置いてある。
 ベッドもダブルベッド並み。
 なんかスゲー豪華。
 ドラゴンさんの像でも飾ろうかしら。

 ただ、いくら広くても、私一人で住んでちゃね。
 広いベッドも、一人で寝るだけ。

 寂しいね。
 仕方が無いか。

 フランコ元官房長官が亡くなって、新しい官房長官が就任したのだが、私の存在というか、この部署の存在自体に困っているようだ。
 なんせ、この安全企画室って、故フランコ元長官が無理矢理作ったようなもんだから。

 何をさせようか困っているみたい。
 そういうわけで、全く仕事の指令がこない。

 なお、サビーナちゃんとミーナさんが、安全企画室員に復帰。
 サビーナちゃん、太ったまんま。
 いや、さらに太っている。

 ミーナさんはスレンダーな体形に戻っている。
 うーん、この違いはなんなのか。

 出産後のダイエットの違いか。
 って、あたしには出産とか関係ないけどさ。
 
 さて、しょーがないから、でっかいテーブルでサビーナちゃんとミーナさんとで、例によって官報整理。

「サビーナちゃん、子供が二人もいて、子育て大変じゃない」
「そうなんですよ~、けど、ダリオさんが協力してくれるんですよ~、優しいんですよ~」

 とまたまた延々とダリオさんのろけ話。
 これはいかんとミーナさんに話題を向ける。

「リーダー、じゃなくて、アギーレさんの体調はどうですか」
「はい、完全に治って、仕事も順調のようです」

「子育ての方はいかがですか」
「いろいろと大変ですが、夫が助けてくれるので大丈夫です」

 ミーナさんは、真面目な人なんで、サビーナちゃんのようにベラベラと喋り続ける人ではないんだな。
 黙々と仕事をするタイプ。

 ただ、たまにサビーナちゃんとミーナさんが子育ての話で盛り上がることがある。
 子育てか。

 私がする事は無いんだろうなあ。
 何だか暗くなる。
 寂しいっす。

 暗くなってるところで、サビーナちゃんが教えてくれる。

「そう言えば、皇太子妃様がご懐妊されましたね」
「へ~それはめでたい」

 ご懐妊ですか。
 これも私には縁のない話かもしれんなあ。

 パオロさんも亡くなったので、チョコを持って、世間話をしに来てくれる人もいない。
 寂しいね。

 私は眠くて仕方が無い。
 うつらうつらしそうになるが、我慢する。

 おっと、なんかいい香りがしてきた。
 扉の隙間から、眩い光が。
 扉が開いて、クラウディアさんが入ってきた。

「こんにちは、プルムさん」

 相変わらずニコニコしている。
 今日のファッションは、ハイネックのミッドナイトブルー膝丈ワンピース、エレガントな感じ。胸に秋田犬のワッペン付き。

「何用でございますでしょうか? クラウディア様」
「もう『様』はやめてくださいよ、私より全く上の人なんですから、プルムさんは」

「あ、そうなんですか」
「私は参事官です。課長級ですよ。プルムさんは事務次官。四段階上。雲の上の人ですよ」

 そう言いながら、ウフフと笑うクラウディアさん。
 そうだったのか。

 クラウディアさんの参事官とは課長級だったのか。
 今知った。

 フランコ元長官に怒鳴られてばかりだったので、全然、自分が偉い気がしなかった。
 しかし、今や、あの怒鳴り声も懐かしい。

 二度と聞けないのか。
 何か悲しい。 

「けど、十三年前、ニエンテ村で仲間の命を助けてくれた恩人ですので、『様』を付けたくなりますね。これからも様付で呼ばさせてもらって、よろしいでしょうか」
「はあ、かまいませんけど。そうだ、だいぶ前に、トラウマを治す方法を開発するってお話しをしましたよね」

「え、トラウマを治す魔法、完成したんですか」
「いえ、残念ながら出来ませんでした。ただ、他にトラウマを直すことができますよ」

「それはどういう方法ですか」
「そのトラウマになったことを、あらいざらい他人に喋るんです。どうですか、私を信じて、まかせてみてはくれませんか、プルムさん」

 失恋しまくったあげく、すっかりやる気を無くして、いまだに乙女二十九歳の人生をあらいざらい喋れませんよ。
 しかも、相手は天然女神。

「アハハ、いや、けっこうです。私は記憶力悪いし」
「そうですか、残念ですね」

「で、クラウディア様、用事の方は」
「突然ですが、情報省安全調査室の方がプルムさんにご質問があるそうなので、ご案内してきたんです。プルムさんはお偉い方なんで、廊下に待たせてありますが、今、よろしいでしょうか」

 私はいつのまにやら、お偉い人になっていたのか。
 あと、安全調査室って聞いたことがあるなあ。

 思い出した。
 本来、私が警備隊から異動する部署だったはずだ。

 クラウディアさんが、ポカやって、この安全企画室に異動してひどい目にあったんだ。
 で、今や宙ぶらりんな状態。

 クラウディアさん、すっかり忘れてそうだな。
 まあ、いいか。
 今さら責める気にもなれん。

「別にかまいませんよ」
「そうですか。ありがとうございます」

 クラウディアさんと入れ替わりに部屋に入ってきたのは、中小企業のサラリーマンのような冴えない感じの中年男性。

「お忙しいところ、申し訳ありません。情報省安全調査室のルキーノ・アルボーニと申します。プルム室長、今、よろしいでしょうか」
「はい、ではソファの方で」

 ソファに座って、何の用事だろうと思っていると、いろいろと質問される。

「え~、四年前のことなんですが、聞いてよろしいでしょうか」
「はあ、かまいませんが」

「スポルガ川の汚染調査を行いましたか」
「はい、フランコ元長官の命令で行いました」

「各工場の排水を調査したようですが、フェデリコ・デシーカという人物を知っていますか」
「知ってます」

「その方の所有の工場は基準値を超えていましたか」
「超えていました」

「プルム室長はどうされましたか」
「指摘しました。本人からは改善しますと回答がありました」

「その時、フェデリコ氏から便宜を図ってもらうよう言われませんでしたか。また、本人から何か受け取りませんでしたか」
「便宜を図るってどういう意味ですか」

「基準値を超えたことを、見逃してくれるようにってことです」
「無いですね」
「何か本人から見せられませんでしたか、封筒とか」

 うーん、確かあの時、家に呼ばれて、ソファテーブルに封筒を置かれたんだよなあ。
 どうしようかね。

 まあ、正直に言うしかないな。
 別に私は賄賂なんて受け取ってないし。

「そうですね、フェデリコさんから封筒を見せられました」
「その時、なんて言われましたか」

「確か、これでよろしくお願いしますって言われました」
「中身は何でしたか」

「中身は見てません。すぐ、そのまま返しました」
「内容を見てないのに、何ですぐに返す必要があったんですか」

 ちょっと、いやらしい聞き方をする人だなと私は思った。
 まるで、尋問みたいだな。

「フェデリコさんが中身を何か言わないで渡されたんで、返したんです。悪いですか?」
「いいえ、悪くないですよ。とにかく、プルム室長は受け取っていないんですね」

「そうです」
「封筒の中身はお金と思って返したわけですか」

 困ったなあ。
 さて、どうするか。

 フェデリコさんをかばうべきだろうか。
 いや、かばうもなにも、実際、中身は見てない。

 悩んだ末に答える。

「その時、何を考えていたか記憶にありません」
「そうですか、わかりました。あとひとつお願いします。スポルガ川の汚染調査ですが、内務省の調査結果と、この安全企画室の調査結果が、フェデリコさん所有の工場だけ、全然違っていたんですよね」

「そうですね。調査時は、約二年、間隔が空いていましたけど」
「わかりました。ありがとうございました」

 そう言って、安全調査室のルキーノさんは帰って行った。

 この情報省安全調査室って、人の仕事の粗探しをするような部署だな。
 うーん、こういうのは苦手だなあ。

 安全企画室の方が結果的に、私に合っていたかもしれない。
 でっかいテーブルに戻ると、サビーナちゃんが興味津々と言った感じで聞いてくる。

「プルムさん、封筒ってなんのことですか」
「フェデリコさんに見せられたのよ」

「もしかして賄賂ですか」
「どうなのかなあ。まあ、私は受け取ってないけど」
「さすが、プルムさん」

 今考えると、受け取らなくて本当に良かった。

……………………………………………………

 数日後、出勤してすることがないので、新聞を読んでいると、私は驚いた。
 変死体が発見されたのだが、名前はルキーノ・アルボーニ。

 先日、会ったばかりの人ではないか。
 中小企業のサラリーマンみたいな情報省安全調査室の人。

 刺殺されたらしい。
 賄賂の件を調査してたみたいだからなあ。
 犯人は誰なんだろう。

 なんて、考えていたら、突然、部屋の扉が開いた。
 バルドだ。

「あら、お久しぶり。何でしょうか、バルド大隊長殿」
「プルム・ピコロッティ。殺人容疑であなたを逮捕します」

 何ですと。

……………………………………………………

 東地区警備隊の二階の取調室。
 目の前にバルドが座っている。

「私はルキーノさんを殺してないよ。あと、賄賂とかも受け取ってない。信じてよ」
「信じるよ」
「え?」

 どうやら、刺殺体から発見されたのは、私が運動場の隅でよく練習していたナイフの一本だったらしい。
 思い出した。

 二年前に一本無くなっていたことがあった。
 カラスが持って行ったと思っていたのだが。
  
 まさかチャラ男ことロベルトの復讐か。
 散々、いろんなもので頭をパシパシと殴ってたもんなあ。
 鼻紙を丸めて顔面にぶつけたり、蛸の足で殴ったり、決裁サインハンコを無理矢理代わりに押させたり。

 思い返すとひどいことばかりしてたなあ。
 って、関係無い人を巻き込むわけないな。

 どっちかというと、ロベルトの奴、私に向かってナイフを投げつけてきそうだ。

「逮捕したのは、プルムを守るためでもあるんだよ。殺されるかもしれない」
「え、もしかして、賄賂の件かしら」

「うん、プルムに濡れ衣を着せようとした奴がいると思う」
「とすると、スポルガ川の件くらいしか、思いつかないけど」

「フェデリコさんは六年前のスポルガ川の調査の時、多分、内務省の役人に賄賂を渡したと思うんだ」
「それをルキーノさんが暴こうとして殺されたのかな。けど、内務省の役人が殺人を犯したりしますかね」

「そこら辺も捜査中なんだ。そういうわけで、プルムには地下の留置場に入ってもらう」
「えー、留置場!」
「だから、そこが一番安全なんだって」

 と言うわけで、人生初めての留置場。
 泥棒時代でも捕まったことは無いので、入ったことはない。
 やれやれ。

 留置場の固い寝床で横になっていたら、チャラチャラした足音が聞こえてきた。
 この足音はチャラ男ことロベルトだな。

「ウィーッス、プルム室長、お食事ですよ~」

 なんだか、サービスワゴンに豪勢な食事をいっぱい持ってきた。

「どうです、あっしが作ったんですよ。美味しいっすよ」
「え、あんたが作ったの……まさか毒とか入ってないよね」

「は? なんで毒を入れるんすか?」
「……だって、私のこと恨んでんでしょ」
「なんで、プルム室長を恨まなきゃなんないすか? プルム室長は、私とジェラルドさんをくっつけた愛のキューピッドっす。もう、大感謝っすよ。足を向けて寝られないっす。庭にプルム室長の銅像でも建てたいくらいっすよ」

 そうなのか。
 頭を殴られたことは全然気にしてなかったのか。
 まあ、殴ったとは言っても、紙を丸めてパシパシと叩いただけ。

「今、バルド大隊長殿が頑張っているので、すぐに出られますよ」
「そうならいいけど」

 私としては、もう留置場で寝てるしかないな。

……………………………………………………

 数日後、リーダーがやって来た。
 留置場の扉を開けてくれる。

「釈放ですか」
「いや、残念ながら、プルム、君の死刑が決まったんだ」
「えー! 何で私が死刑になるんですか」

 仰天して、真っ青になって震える私。
 すると、リーダーの背後から、ピョーンとロベルトが飛び出す。

「ウヒャヒャ、ひっかかった」

 ヘラヘラ笑ってやがる、このチャラ男が。

「何よ、もしかして冗談」
「そうっすよ」

 私はシーフ技でさっとロベルトの背後に回り、留置場のトイレットペーパーの芯でロベルトの頭をパシパシと叩く。

「痛い、痛い」

 逃げ回るロベルト。
 リーダーに止められる。

「もう、何でリーダーまでウソをつくんですか」
「いや、ロベルトが、プルムが嬉しがるとか言うからさ。死刑じゃなかったら嬉しいでしょって」

 冗談もほどほどにしてほしい。
 チャラ男はいつまで経ってもチャラ男。

 さて、バルドの考え通り、六年前、フェデリコさんは内務省の幹部に賄賂を渡していた。
 そして、情報省安全調査室員がその事を指摘したら、逆に内務省の幹部からお金を貰って丸め込まれたらしい。

 その件をしつこく調べていたのが、ルキーノさん。
 フェデリコさんが渡していた賄賂の件の容疑者には私も含まれていた。

 で、殺されたんだけど、犯人は情報省安全調査室長。
 六年前に内務省の幹部から賄賂を貰った、当時の室員。
 バレそうになったので、私が寮の隣の運動場で練習していたナイフを盗んで、濡れ衣を着せるつもりだったらしい。

 内務省の役人も逮捕。
 それから、フェデリコさんも逮捕されてしまった。

 但し、殺人には関わっていなかったので、大金払ってすぐに保釈になったようだけど。
 しかし、自警団長は辞めるそうだ。
 これから大変だな。

 それにしても、今回、私は何もやってないなあ。
 留置場で寝てただけ。
 十六歳の時、ニエンテ村の宿屋のベッドで、さぼって昼寝をしてた頃を思い出してしまった。
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