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第2話:二階の部屋での夜の出来事
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さて、正直に言うと、あたしもこの窮屈な孤児院生活からそろそろ脱走したいと考えているんだけど、友達と別れるのは寂しいなあと思っていて、どうしようかなと迷っている。また、実際のところ脱走した後、どこに行けばいいのかわからないし、どうやって生きていけばいいのかと考えると踏ん切りが付かずにいた。自分としては冒険者ギルドに登録して、颯爽と冒険者として活躍したいんだけどなあ。十三歳じゃあ、無理なのだろうか? この前、脱走した子はどこで何をしているんだろう。
この孤児院の先生は、ハゲで偉そうな口ヒゲを生やしているエベレス院長と、背が高くて眼鏡をかけているマリア先生、小柄でおとなしそうなシャルロッテ先生の三人。あと、先生じゃないけど、あたしたちに食事を用意してくれる給食担当の陽気なアナベルおばさん。ただし、アナベルおばさんは、最近、腰が痛いようで心配だ。たまに、あたしがみんなに呼びかけて、かわりばんこで腰を揉んでやっているのだが、子供の力じゃ弱いのかあんまり効果が無いみたい。
それから、この孤児院で男性は院長と用務員の白髪頭のフィリップ爺さん、そして、この孤児院の代表者のマルセル事務長だけ。なんでマルセル孤児院と言うと、マルセルさんのお爺さんが四十年前に創設したからで、孫の名前も同じマルセルだ。この孤児院の経営はマルセルさんのお爺さんの遺産で成り立っているみたい。
マルセルさんは、本来は医者なんだけど、ここでは事務長という職名なんだ。体が弱いようで二階の一人部屋で療養中。実はほとんど何にもしていない。ごくたまに児童の養子縁組に立ち会ったりとかはしているようだけど。普段は部屋で本を読んだり、趣味の絵を描いたりしているだけのようで、たまに調子の良いときは孤児院の周りとかを散歩するだけのようだ。
病気の治療のため、いつも同じ馬車会社の御者の人を雇って馬車を走らせて外国まで行くことがあるようで、数日、孤児院を留守にする時がよくある。ご両親は若くして病気で亡くなったそうだ。かわいそう。そういう家系なのかな。いや、家系とか言っちゃいけないのかな。
二階に移るとき、色白で、端正な顔立ちをした長身のマルセルさんに偶然廊下で会った。ちょうど病院から戻って来たのか、御者の人も一緒だ。あたしが挨拶をしたら、「今日から二階の部屋に引っ越しだね。同じ部屋の子とは仲良くしあげてね」と穏やかな笑顔で、やさしく言い聞かせるようにおっしゃった。もしかして、マルセルさんはあたしの今までの悪行を全て承知の上で釘をさしたのかもしれないな。
ちなみにマリア先生はベテラン。シャルロッテ先生は最近ここに就職したまだ若い女性。子供の扱いに慣れていないのか、あたしのような暴れん坊たちに手を焼いていて、フィリップ爺さんによく愚痴を言っている。エベレス先生は雇われ院長だ。ちなみに、マルセルさん以外は一階の部屋にそれぞれ個室に住んでいる。
この孤児院は木造二階建てで、地下には小さい清掃道具用の倉庫がある。二階建てだけど、かなり天井が高くて建物全体はなかなか立派で風格のある外観だ。それぞれの部屋もかなり広々としている。玄関の上には魔よけかなんか知らんけど、モンスターの彫像が飾ってあるのだが、なぜか壊れていて、胴体と翼くらいしかない。ドラゴンの像だったのだろうか。直さないのは修理代が無いのか、節約のためか、それとも単に面倒くさいからかな。
その玄関から入るとロビーがあり、来客用のソファなどが置いてあるのだが、壁に妙な大きい抽象画が飾ってある。変なモンスターの鉤爪のような模様が何枚も重なっていて、全体としてはウネウネしたデザインで、ヘンテコな絵だなあと見るたびに思う。マルセルさんが趣味で描いた作品のようなんだけど、正直に言うとどこがいいのか、あたしにはさっぱりわからないけどね。
この絵に似たような作品が他になぜか二枚地下に飾ってある。階段で地下室に下りると小さいスペースがあって、右に清掃道具用の地下倉庫の扉があるんだけど、それ以外に、正面の壁に一枚、左の壁に一枚と、普段は用務員のフィリップ爺さんしか来ない場所に、そのヘンテコな絵が飾ってある。飾っているのではなく、置き場所がないので地下に置いてあるのかな。
一階のロビーを通り過ぎると、廊下があって右側に児童用の大部屋が二部屋と食堂があり、左側には事務室や先生方の部屋、応接室、炊事場、風呂場、トイレ、事務用倉庫などがある。立派な建物と言っても、築四十年経っているので、それなりに建物が傷んできたのか子供のあたしでも廊下を歩くとギシギシと音がする。
二階にはマルセルさんの個室以外に、授業室、それから、年長者の児童用の部屋が五室あり、それぞれ、二人部屋。一階の真ん中くらいに、二階へ上る階段があるが、踊り場はなく、けっこう急勾配だ。降りる時に階段を踏みはずしたら転げ落ちて大ケガしそうなのでこの階段を怖がる人もけっこういる。
けど、あたしはその階段の手すりにお尻を乗せて、滑り台のように滑って遊ぶのを楽しんだ。あたしはそれを、「階段手すり滑り台遊び」と名付けた。そのまんまの名前だね。あたしにはセンスがない。サーっと勢いよく二階から降りて、一階の手すりの最後の平らに伸びている部分を使って、一気に飛び上がってカッコよく着地する。
友達と競い合って、「階段手すり滑り台」を降りて、着地する距離を競い合った。面白くて何度もやっていたら他の児童たちにも流行ってしまい、結局、それを真似した子が手すりの途中で一階に落っこちてしまった。その子は、ちょっとしたケガをして、またまた、あたしはマリア先生に怒られてしまい、「階段手すり滑り台遊び」は禁止となってしまった。あたしが残念がっていたら、用務員のフィリップ爺さんが運動場に滑り台を作ってやろうと言い出したんだけどね。
さて、二階の部屋に引っ越すことになったのだが、あたしは一歳年上のストレートの金髪で、色白のすごいきれいな女の子と同部屋になった。前から知ってはいたけど、あらためて見ると目が大きくて、まつ毛が長く、鼻がスッキリと高い。背もスラリとして、まるでどこぞのお嬢様みたいだ。あたしみたいに浅黒い顔して、何かというとギャーギャーわめき声をあげる生意気で茶色い髪の毛がボサボサの可愛げのない子とは全然違うなあ。羨ましい。
部屋に入ると、その子は読んでいた難しそうな本を閉じて、あたしを見て何だかおどおどしている。一応、向こうは年上なんで、あらためて挨拶することにした。
「あたしはエイミーです。今日からこの部屋に移りました。よろしくお願いします」
「こ、こんにちは、ユリアーナです。よろしく」
何だか、その子は声も小さいし、その後もおどおどしている。あたしは、この子と話したことはないけど虐めたこともないので、なんでおどおどしているのかと不思議だった。単に気が弱い子なのかなあ、それとも大部屋で暴れていたあたしの悪い噂でも聞いて、怖がっているだけなのかとその時は思ったんだけどね。
あと、あたしは他の子を虐めたことはないぞ。ケンカは相手が年上だろうが先生だろうが、散々やったけどさ。他には用務員のフィリップ爺さんに馬の糞を投げつけたことがあるけど。何でそんな事をしたのかというと、それはフィリップ爺さんが、「階段手すり滑り台」の代わりに、孤児院の前の運動場に作った木製の滑り台をあたしたちがその日のうちに壊しちゃったのに怒って、爺さんがあたしらの尻を蹴りまくったのが原因だ。
あたしに馬の糞を投げつけられて、爺さんはますます怒ったけどアナベルおばさんが仲裁に入ってなんとか爺さんの怒りはおさまったようだ。おっと、いい忘れてたけど、ちなみにフィリップ爺さんとアナベルおばさんは夫婦。それにしても、フィリップ爺さん、簡単に潰れて壊れるような滑り台を作らんでほしい、危ないじゃないか。
それはともかく、引っ越したその夜、二階の部屋のベッドで寝ていると、雷が鳴って雨がザーザーと降ってきた。あたしは雷が好きだ。遠い方から、ゴロゴロと音がしてくる。雷が落ちて光る。それがどんどん、こっちへ近づいてくる。なんだかワクワクしてくると、稲妻がピカッ! と光って部屋を照らし、少し経つと、ドーン! と音と振動が響き渡るのが面白い。
大部屋の他の子には、雷が大嫌いな子もいたけど、「雷というものは、金属とかよりも、背の高いものに落ちるのよ」とマリア先生が授業で教えてくれた。そうすると、あたしたちは子供で背が低いから、全然大丈夫じゃん。平気、平気!
そんな事を考えていたら、雷鳴が響き渡る中、廊下をこっそりと歩く音が聞こえてきた。ギシギシと音がする。あたしたちの部屋の前に止まる。夜中に誰かが、そっと扉を開けて中に入って来た。あたしは毎日、夜中まで騒いでいるのが習慣だったので、なかなか眠れないようになっていたから気づいてしまったんだ。
けど、マリア先生が見回りに来たのかなと思い寝たふりをしていると、その人物は扉を閉めて、しばしの間じっとしていて何だか怪しい雰囲気をかもしだしている。どうやら、あたしが眠っているかどうか確認しているようだ。
おかしいな、この人、マリア先生じゃないぞと考えていると、ユリアーナのベッド方に近づいていく。何かゴソゴソしているなと思ってたら、ユリアーナが、かすかに泣いているようだ。しばらくして、その人物は出て行った。扉を開けた瞬間に、稲妻の光で顔が見えた。院長のエベレス先生じゃないか。院長は夜中に見回りなんぞしないのだけど。
翌朝、パジャマから孤児院の制服であるワンピースに着替えているユリアーナに、「昨日の夜、エベレス院長が来たけど、何しに来たの」って聞いてみた。そしたら、彼女はびっくりして、あたしの顔を見て、体を震わすだけで何も答えない。「あれ、院長だよね」って、再度聞いても、うつむくだけで答えようとしない。「しょうがないや、院長本人に聞いてくる」と、あたしが部屋を出ようとしたら、「やめて!」と止められてやっと話してくれた。
だいぶ前から、毎晩のように院長がやって来てイタズラされるそうで、嫌で嫌で仕方がないとベッドにユリアーナが座って泣いている。「マルセル事務長かマリア先生、またはシャルロッテ先生に相談すればいいんじゃないの」とあたしが勧めたが、「恥ずかしくてそんな事言えない、誰にも言わないで」とますます泣いている。「もっと勇気を持って」と励ましたけど、ユリアーナは、もっともっと泣く始末。「あたしの前にいた子はどうしてたの」と聞いたら、彼女が言うにはいつも熟睡していて気づいていなかったそうだ。本当かなあ、見て見ぬふりをしてたんじゃないの。それとも、その子が脱走したのは、変態ロリコン院長の毒牙から逃げるためだったのだろうか。
まったく、あたしは院長みたいなこそこそした変態野郎が一番嫌いだ。もちろん、堂々とした変態がいいってわけじゃないけどさ。まあ、あたしには見て見ぬふりなんてできないね。とにかく、ハゲの変態ロリコン院長には制裁をくわえてやらねばならん。あたし一人でやってやる。
ヒーローは一人で戦うもんよ!
笑顔でね。
この孤児院の先生は、ハゲで偉そうな口ヒゲを生やしているエベレス院長と、背が高くて眼鏡をかけているマリア先生、小柄でおとなしそうなシャルロッテ先生の三人。あと、先生じゃないけど、あたしたちに食事を用意してくれる給食担当の陽気なアナベルおばさん。ただし、アナベルおばさんは、最近、腰が痛いようで心配だ。たまに、あたしがみんなに呼びかけて、かわりばんこで腰を揉んでやっているのだが、子供の力じゃ弱いのかあんまり効果が無いみたい。
それから、この孤児院で男性は院長と用務員の白髪頭のフィリップ爺さん、そして、この孤児院の代表者のマルセル事務長だけ。なんでマルセル孤児院と言うと、マルセルさんのお爺さんが四十年前に創設したからで、孫の名前も同じマルセルだ。この孤児院の経営はマルセルさんのお爺さんの遺産で成り立っているみたい。
マルセルさんは、本来は医者なんだけど、ここでは事務長という職名なんだ。体が弱いようで二階の一人部屋で療養中。実はほとんど何にもしていない。ごくたまに児童の養子縁組に立ち会ったりとかはしているようだけど。普段は部屋で本を読んだり、趣味の絵を描いたりしているだけのようで、たまに調子の良いときは孤児院の周りとかを散歩するだけのようだ。
病気の治療のため、いつも同じ馬車会社の御者の人を雇って馬車を走らせて外国まで行くことがあるようで、数日、孤児院を留守にする時がよくある。ご両親は若くして病気で亡くなったそうだ。かわいそう。そういう家系なのかな。いや、家系とか言っちゃいけないのかな。
二階に移るとき、色白で、端正な顔立ちをした長身のマルセルさんに偶然廊下で会った。ちょうど病院から戻って来たのか、御者の人も一緒だ。あたしが挨拶をしたら、「今日から二階の部屋に引っ越しだね。同じ部屋の子とは仲良くしあげてね」と穏やかな笑顔で、やさしく言い聞かせるようにおっしゃった。もしかして、マルセルさんはあたしの今までの悪行を全て承知の上で釘をさしたのかもしれないな。
ちなみにマリア先生はベテラン。シャルロッテ先生は最近ここに就職したまだ若い女性。子供の扱いに慣れていないのか、あたしのような暴れん坊たちに手を焼いていて、フィリップ爺さんによく愚痴を言っている。エベレス先生は雇われ院長だ。ちなみに、マルセルさん以外は一階の部屋にそれぞれ個室に住んでいる。
この孤児院は木造二階建てで、地下には小さい清掃道具用の倉庫がある。二階建てだけど、かなり天井が高くて建物全体はなかなか立派で風格のある外観だ。それぞれの部屋もかなり広々としている。玄関の上には魔よけかなんか知らんけど、モンスターの彫像が飾ってあるのだが、なぜか壊れていて、胴体と翼くらいしかない。ドラゴンの像だったのだろうか。直さないのは修理代が無いのか、節約のためか、それとも単に面倒くさいからかな。
その玄関から入るとロビーがあり、来客用のソファなどが置いてあるのだが、壁に妙な大きい抽象画が飾ってある。変なモンスターの鉤爪のような模様が何枚も重なっていて、全体としてはウネウネしたデザインで、ヘンテコな絵だなあと見るたびに思う。マルセルさんが趣味で描いた作品のようなんだけど、正直に言うとどこがいいのか、あたしにはさっぱりわからないけどね。
この絵に似たような作品が他になぜか二枚地下に飾ってある。階段で地下室に下りると小さいスペースがあって、右に清掃道具用の地下倉庫の扉があるんだけど、それ以外に、正面の壁に一枚、左の壁に一枚と、普段は用務員のフィリップ爺さんしか来ない場所に、そのヘンテコな絵が飾ってある。飾っているのではなく、置き場所がないので地下に置いてあるのかな。
一階のロビーを通り過ぎると、廊下があって右側に児童用の大部屋が二部屋と食堂があり、左側には事務室や先生方の部屋、応接室、炊事場、風呂場、トイレ、事務用倉庫などがある。立派な建物と言っても、築四十年経っているので、それなりに建物が傷んできたのか子供のあたしでも廊下を歩くとギシギシと音がする。
二階にはマルセルさんの個室以外に、授業室、それから、年長者の児童用の部屋が五室あり、それぞれ、二人部屋。一階の真ん中くらいに、二階へ上る階段があるが、踊り場はなく、けっこう急勾配だ。降りる時に階段を踏みはずしたら転げ落ちて大ケガしそうなのでこの階段を怖がる人もけっこういる。
けど、あたしはその階段の手すりにお尻を乗せて、滑り台のように滑って遊ぶのを楽しんだ。あたしはそれを、「階段手すり滑り台遊び」と名付けた。そのまんまの名前だね。あたしにはセンスがない。サーっと勢いよく二階から降りて、一階の手すりの最後の平らに伸びている部分を使って、一気に飛び上がってカッコよく着地する。
友達と競い合って、「階段手すり滑り台」を降りて、着地する距離を競い合った。面白くて何度もやっていたら他の児童たちにも流行ってしまい、結局、それを真似した子が手すりの途中で一階に落っこちてしまった。その子は、ちょっとしたケガをして、またまた、あたしはマリア先生に怒られてしまい、「階段手すり滑り台遊び」は禁止となってしまった。あたしが残念がっていたら、用務員のフィリップ爺さんが運動場に滑り台を作ってやろうと言い出したんだけどね。
さて、二階の部屋に引っ越すことになったのだが、あたしは一歳年上のストレートの金髪で、色白のすごいきれいな女の子と同部屋になった。前から知ってはいたけど、あらためて見ると目が大きくて、まつ毛が長く、鼻がスッキリと高い。背もスラリとして、まるでどこぞのお嬢様みたいだ。あたしみたいに浅黒い顔して、何かというとギャーギャーわめき声をあげる生意気で茶色い髪の毛がボサボサの可愛げのない子とは全然違うなあ。羨ましい。
部屋に入ると、その子は読んでいた難しそうな本を閉じて、あたしを見て何だかおどおどしている。一応、向こうは年上なんで、あらためて挨拶することにした。
「あたしはエイミーです。今日からこの部屋に移りました。よろしくお願いします」
「こ、こんにちは、ユリアーナです。よろしく」
何だか、その子は声も小さいし、その後もおどおどしている。あたしは、この子と話したことはないけど虐めたこともないので、なんでおどおどしているのかと不思議だった。単に気が弱い子なのかなあ、それとも大部屋で暴れていたあたしの悪い噂でも聞いて、怖がっているだけなのかとその時は思ったんだけどね。
あと、あたしは他の子を虐めたことはないぞ。ケンカは相手が年上だろうが先生だろうが、散々やったけどさ。他には用務員のフィリップ爺さんに馬の糞を投げつけたことがあるけど。何でそんな事をしたのかというと、それはフィリップ爺さんが、「階段手すり滑り台」の代わりに、孤児院の前の運動場に作った木製の滑り台をあたしたちがその日のうちに壊しちゃったのに怒って、爺さんがあたしらの尻を蹴りまくったのが原因だ。
あたしに馬の糞を投げつけられて、爺さんはますます怒ったけどアナベルおばさんが仲裁に入ってなんとか爺さんの怒りはおさまったようだ。おっと、いい忘れてたけど、ちなみにフィリップ爺さんとアナベルおばさんは夫婦。それにしても、フィリップ爺さん、簡単に潰れて壊れるような滑り台を作らんでほしい、危ないじゃないか。
それはともかく、引っ越したその夜、二階の部屋のベッドで寝ていると、雷が鳴って雨がザーザーと降ってきた。あたしは雷が好きだ。遠い方から、ゴロゴロと音がしてくる。雷が落ちて光る。それがどんどん、こっちへ近づいてくる。なんだかワクワクしてくると、稲妻がピカッ! と光って部屋を照らし、少し経つと、ドーン! と音と振動が響き渡るのが面白い。
大部屋の他の子には、雷が大嫌いな子もいたけど、「雷というものは、金属とかよりも、背の高いものに落ちるのよ」とマリア先生が授業で教えてくれた。そうすると、あたしたちは子供で背が低いから、全然大丈夫じゃん。平気、平気!
そんな事を考えていたら、雷鳴が響き渡る中、廊下をこっそりと歩く音が聞こえてきた。ギシギシと音がする。あたしたちの部屋の前に止まる。夜中に誰かが、そっと扉を開けて中に入って来た。あたしは毎日、夜中まで騒いでいるのが習慣だったので、なかなか眠れないようになっていたから気づいてしまったんだ。
けど、マリア先生が見回りに来たのかなと思い寝たふりをしていると、その人物は扉を閉めて、しばしの間じっとしていて何だか怪しい雰囲気をかもしだしている。どうやら、あたしが眠っているかどうか確認しているようだ。
おかしいな、この人、マリア先生じゃないぞと考えていると、ユリアーナのベッド方に近づいていく。何かゴソゴソしているなと思ってたら、ユリアーナが、かすかに泣いているようだ。しばらくして、その人物は出て行った。扉を開けた瞬間に、稲妻の光で顔が見えた。院長のエベレス先生じゃないか。院長は夜中に見回りなんぞしないのだけど。
翌朝、パジャマから孤児院の制服であるワンピースに着替えているユリアーナに、「昨日の夜、エベレス院長が来たけど、何しに来たの」って聞いてみた。そしたら、彼女はびっくりして、あたしの顔を見て、体を震わすだけで何も答えない。「あれ、院長だよね」って、再度聞いても、うつむくだけで答えようとしない。「しょうがないや、院長本人に聞いてくる」と、あたしが部屋を出ようとしたら、「やめて!」と止められてやっと話してくれた。
だいぶ前から、毎晩のように院長がやって来てイタズラされるそうで、嫌で嫌で仕方がないとベッドにユリアーナが座って泣いている。「マルセル事務長かマリア先生、またはシャルロッテ先生に相談すればいいんじゃないの」とあたしが勧めたが、「恥ずかしくてそんな事言えない、誰にも言わないで」とますます泣いている。「もっと勇気を持って」と励ましたけど、ユリアーナは、もっともっと泣く始末。「あたしの前にいた子はどうしてたの」と聞いたら、彼女が言うにはいつも熟睡していて気づいていなかったそうだ。本当かなあ、見て見ぬふりをしてたんじゃないの。それとも、その子が脱走したのは、変態ロリコン院長の毒牙から逃げるためだったのだろうか。
まったく、あたしは院長みたいなこそこそした変態野郎が一番嫌いだ。もちろん、堂々とした変態がいいってわけじゃないけどさ。まあ、あたしには見て見ぬふりなんてできないね。とにかく、ハゲの変態ロリコン院長には制裁をくわえてやらねばならん。あたし一人でやってやる。
ヒーローは一人で戦うもんよ!
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