孤児院育ちのエイミー

守 秀斗

文字の大きさ
21 / 27

第21話:アレックスとクリスのグライダー再挑戦

しおりを挟む
 この前、トムさんが行ったグライダー飛行やグライダー競争大会がナロードリア王国の中でけっこう話題になったらしい。トムさんのところに、グライダー体験の申し込みやら新聞社の取材が殺到した。

 そこで、トムさんは本格的にアタラ街に店を開くことにし、年長組のカロリーンが雇われて、店番をすることになった。扱うのは基本的にトムさんが乗っているような折りたたみのできるグライダーだけど、希望があればカクムール王国に発注して大型のも買える。カロリーンは頭が良くて、特に算数が得意だったから商売とか金勘定も得意かもしれない。けど、大丈夫かなあ、ちょっといいかげんで、おっちょこちょいの子だけど。

 孤児院ではトムさんがグライダー講習会を開いた。教室で簡単な講習を受けて平地の広場で基本操作の実施訓練、その後、すぐ近くの坂道で初心者の訓練してうまくなったら本格的に山の上のほうから飛ぶことにしたようだ。

 この前のホーグ山のクエスト成功でお金が余っているので、トムさんの店に行ってグライダーを一機買った。トムさんが使っているのと同じで折りたたみが出来るグライダーだ。スザンナが大喜びしている。彼女はすっかりグライダーで飛ぶことが気に入ったらしい。店はかなり繁盛しているようだ。

 クリスが店番のカロリーンに聞いている。

「耐寒帽子付きの防風眼鏡はないのかよ」
「あっと、まだ取り扱ってないんだ。今度、カクムール王国から取り寄せるから、待っててね」
「早くしくれよ」

 クリスが急かしている。どうやら、あたしが首にぶら下げているこの耐寒帽子付きの防風眼鏡と同じものが欲しくて仕方がないようだ。

 さて、アレックスとクリスの自作グライダーだけど、ようやく坂道でも、それなりに飛ぶようになった。と言うわけで、山の崖の上から挑戦ということになった。アレックスもクリスも張り切っている。操縦席にはクリスが乗る。あたしとユリアーナが見てる中、ユリウスが羽ばたいてやって来た。「俺たちもユリウスのように飛ぶぞ!」とクリスが張り切っている。実は、ユリウスが見物に来たのは、もし墜落しそうになったときはクリスを助けてくれるよう、あたしからこっそりと頼んでおいたからなんだけどね。

 さて、翼の端っこをあたしとアレックスが掴んで走って、崖から離陸。おお、きれいに飛んでいる。これは成功だ! と思ったら、すぐに動きがおかしくなった。急降下をはじめた。遠くから見ても、クリスが操縦席で焦っているのが見える。ついには翼が折れて空中分解。クリスが転落していく。見ていたユリアーナが悲鳴をあげた。クリスが落ちていくのを危うくユリウスが助けたが、グライダーはそのまま地上に激突して大破した。

 アレックスとクリスはすっかりしょげている。クリスは、「また作る!」と言い張っているが、アレックスは、「もう自分たちで作るのはやめて、グライダーはトムさんの店で買うよ」と意気消沈している。しょんぼりと孤児院に帰ると広場にこの前買ったグライダーで颯爽とスザンナが着陸した。どうやら、クリスが乗ったグライダーが空中分解したのを見ていたらしい。「お前らはニワトリどころかアホウドリだな」なんて言うもんだから、激怒したクリスとスザンナがついに殴り合いなった。あたしとアレックスが止めに入るが、それをすり抜けて、なおケンカが続く。ついにはユリウスまで入ってなんとか二人を引き離した。

 さて、困ったな。一応、あたしはパーティのリーダーなんだから、メンバーであるスザンナとクリスを仲直りさせなければいけない。スザンナがフィリップ爺さんと森へ材木を取りに行ってしまったので、とりあえず山を少し下ってアレックスとクリスがいる川岸の小屋に行ってみた。

 クリスは二段ベッドの上段で機嫌悪そうに寝ている。ふて腐れている感じ。黒猫のニャーゴも怖がっているのかクリスに近づかない。あたしはベッドの梯子を登り、顔をのぞかせて、「仲間なんだからスザンナと仲直りしてよ」と言ったけど、「二度とあの女の顔は見たくない」と、かなりお怒りのご様子。アレックスがなだめても全然ダメ。やれやれと仕方がなく、また山を登り孤児院に戻ると、スザンナが森から帰ってきて自分のベッドに寝転がっているので、そこに行って、「あんたが、最初にバカにしたんだから、まずクリスに謝ってくれないか」と頼んだら、「あのクリスって奴が、あたいのことを丸太のように太っている女だって言いやがったんだ、失礼な奴だ」と怒っている。それはひどいなあ。そんな事があったのか。

 うーん、これは、クリスが悪いんじゃないかと思ったあたしは、また山を下ってクリスのとこへ行って、「スザンナが言うには最初に悪口を言ったのはクリスってことみたいなんだけど。あんたから謝ってくれない」とお願いしたら、「そんなことは言ってねーよ。女なのに太い丸太を斧で切っているのですごいとスザンナに声をかけたことはある。バカにしていないよ、褒めたんだよ」と言った。そうなんだ、これはどうやら二人に行き違いがあったようだな。

 あたしはクリスに、「誤解を解くため、ルーカス孤児院に来てよ」と頼んだんだけど、「あの女がこっちに来ればいい」とベッドの上であたしに背を向けてつれない返事。仕方がなく、また山を登ってスザンナのとこへ行って事情を話し、「一緒にクリスのとこへ行ってくれないか」とまた頼んだのだが、「あいつがこっちに来ればいい」と、これまたつれない返事。頑固な二人だなあ。やれやれだね。

 クリスの小屋と孤児院を上ったり下ったりと二往復したうえに事態は全然進んでいないので、「もう疲れたあ!」と自分のベッドで横になってへばっていると、ユリアーナが、「エイミー、どうしたの」と聞いて来た。事情を話すと、「私がクリスを連れてくる」と言って、出て行った。しばらく待つと、しぶしぶといった表情でクリスが孤児院にやって来た。とにかく、誤解だったので、仲良くしようよと両者をなんとかなだめる。目を合わせない二人の両手を掴んで、無理矢理握手させる。

 仲間は大切にしなくてはいかんけど、ああ、リーダーというものは疲れるなあと、あたしは思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...