1 / 16
1.寝たきりになった父親
しおりを挟む
父親が寝たきりになった。
もう、かなりの高齢だから仕方が無いか。
今は自宅のマンションで母がケアマネジャーの方と相談しながら介護にあたっている。
独立していた俺も仕事の合間に父親の様子を見に行った。
すっかりやせ細ってしまった父。
去年までは、一応、歩けたし会話も通じた。
「もうすっかり呆けちゃったよ」
そう言って笑っていた。
しかし、つい一か月前に熱を出して入院。
あっという間に寝たきりになってしまった。
入院したのだが、自分が自宅のマンションにいるのか病院にいるのかわからなくなったり、大小便を漏らすようになり成人用のおむつを付けるようになった。
その後、熱は冷めて退院となったが、家に介護用のベッドをレンタルして置いたり、歩く時の支えになる棒を家の中のあちこちにつけたりした。
そして、連日のようにくるケアマネジャーや介護士の方々。
去年まではごく静かに暮らしていたのに。
しかし、母が元気なのでまだ助かっている。
これで二人とも倒れたら大変だ。
独身の俺一人では何とも出来ないなあとおむつを変えている介護士の仕事を見ながら思った。
ベッドで寝ている父に話しかけるが、どうも会話が通じない。
俺の事を息子とは認識できているようだが。
父を抱えて立ち上がらせようとしたが無理だった。
足に力が入らないようだ。
椅子に座ることも出来ない。
父親はけっこうな大企業に勤めていたので貯金はかなりあるし、年金の方もけっこうな金額を貰っているので、お金の心配はない。
ただ、結局、人間は誰しもいつかは死ぬのだなあと思った。
自分が子供の頃、テレビで見て親しみを感じていた芸能人が亡くなっていくのを聞くと何とも寂しい感じがしてくる。
自分が死ぬのは子供の頃からわかっていた。
しかし、漠然としていたなあ。
かなり先の話のような感じがして、現実感が伴っていなかった。
でも、もう俺もかなり年を取った。
死が近づいてくるのがわかる。
自分の人生はうまくいかなかった。
父の人生は大企業で花形の部署で働いていたようだ。
でも、人生、うまくいこうが失敗しようがいつかは死ぬんだなと思った。
俺は何も成功せずに、そして、父と同じように寝たきりで死んでいくのか、それとも孤独死か、または車にでもはねられて突然死か。もう、どうにもならないなとも思った。
さて、ある日、父の様子を見に行くと驚いた。
ベッドの端っこに座っている。
俺を見て微笑んだ。
「自分で起きて座ったのよ」
母が説明してくれた。
さすがに座るだけで、立ち上がって歩くまでは出来ないようだが。
もしかして、また歩くことが出来るようになるのだろうか。
人生、最後の最後までわからないものだな。
俺の人生も今からでも何か出来ることがあるのだろうか。
先のことなんかわからないが。
しかし、ベッドの端で座って微笑む父を見て、少し気分が楽になった。
(終)
もう、かなりの高齢だから仕方が無いか。
今は自宅のマンションで母がケアマネジャーの方と相談しながら介護にあたっている。
独立していた俺も仕事の合間に父親の様子を見に行った。
すっかりやせ細ってしまった父。
去年までは、一応、歩けたし会話も通じた。
「もうすっかり呆けちゃったよ」
そう言って笑っていた。
しかし、つい一か月前に熱を出して入院。
あっという間に寝たきりになってしまった。
入院したのだが、自分が自宅のマンションにいるのか病院にいるのかわからなくなったり、大小便を漏らすようになり成人用のおむつを付けるようになった。
その後、熱は冷めて退院となったが、家に介護用のベッドをレンタルして置いたり、歩く時の支えになる棒を家の中のあちこちにつけたりした。
そして、連日のようにくるケアマネジャーや介護士の方々。
去年まではごく静かに暮らしていたのに。
しかし、母が元気なのでまだ助かっている。
これで二人とも倒れたら大変だ。
独身の俺一人では何とも出来ないなあとおむつを変えている介護士の仕事を見ながら思った。
ベッドで寝ている父に話しかけるが、どうも会話が通じない。
俺の事を息子とは認識できているようだが。
父を抱えて立ち上がらせようとしたが無理だった。
足に力が入らないようだ。
椅子に座ることも出来ない。
父親はけっこうな大企業に勤めていたので貯金はかなりあるし、年金の方もけっこうな金額を貰っているので、お金の心配はない。
ただ、結局、人間は誰しもいつかは死ぬのだなあと思った。
自分が子供の頃、テレビで見て親しみを感じていた芸能人が亡くなっていくのを聞くと何とも寂しい感じがしてくる。
自分が死ぬのは子供の頃からわかっていた。
しかし、漠然としていたなあ。
かなり先の話のような感じがして、現実感が伴っていなかった。
でも、もう俺もかなり年を取った。
死が近づいてくるのがわかる。
自分の人生はうまくいかなかった。
父の人生は大企業で花形の部署で働いていたようだ。
でも、人生、うまくいこうが失敗しようがいつかは死ぬんだなと思った。
俺は何も成功せずに、そして、父と同じように寝たきりで死んでいくのか、それとも孤独死か、または車にでもはねられて突然死か。もう、どうにもならないなとも思った。
さて、ある日、父の様子を見に行くと驚いた。
ベッドの端っこに座っている。
俺を見て微笑んだ。
「自分で起きて座ったのよ」
母が説明してくれた。
さすがに座るだけで、立ち上がって歩くまでは出来ないようだが。
もしかして、また歩くことが出来るようになるのだろうか。
人生、最後の最後までわからないものだな。
俺の人生も今からでも何か出来ることがあるのだろうか。
先のことなんかわからないが。
しかし、ベッドの端で座って微笑む父を見て、少し気分が楽になった。
(終)
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる