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第一話 見知らぬ美少女
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視界に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
状況がまるっきり把握できない。
そもそも、「目を開けてください」そう促してきたのが誰なのかすらわかっていなかった。
聞いたこともない女の声。丁寧ではあるが、親しみめいたものは欠片もなく、冷淡なものだった。
悲しいことに、女に冷たくされることには慣れていた。特に上流階級に属する女は、オレステスを見て眉をひそめることが多い。
職業柄、仕方のないことだから別段気にもならない。
流れの傭兵と言えばいいのか。
国の傭兵部隊に属していたこともある。けれど厳しい規律が向かず、すぐに脱退した。
依頼を受けて貴族の護衛をしたこともある。だがそれは旅の供のようなものだったから、単発だ。
気に入られて専属の護衛にならないかと誘われたこともあるが、おそらく性に合わないと断った。
もっとも、そういった依頼はかなり偶発的な要因で発生する。基本は、いわゆる冒険者ギルドに立ち寄ってはモンスター退治などを請け負うことが多かった。
ならば出発点はともかく、今は冒険者と名乗る方が正解に近いかもしれない。
今いるのは、そんなオレステスにはどう考えても似つかわしくない部屋だった。
知識のないオレステスでもわかる豪華な家具。
天蓋付きのベッドには、見るからに柔らかそうな、ふかふかな布団が敷かれている。安宿の常連、なんなら野宿すら頻繁なオレステスとは、到底縁遠いものだった。
なぜ、こんなところに座らされているのだろう。
そもそもここはどこだ。
なにより――こちらを真っ直ぐ見つめてくるこの少女は誰だ。
年は16、7だろうか。
驚くほどに肌の色が白い。白皙の肌、などとの言い回しを聞いたことはあるが、まさにそれなのだろう。
生まれてこの方一度も日を浴びたことがないのではないかと疑いたくなるほどだった。
顔立ちは、全体的に小作りだが目はぱっちりと大きい。
その目元を縁取る睫毛は濃く、長かった。
特筆すべきは、その鮮やかな緑色。
瞳は翠玉、艶やかな長い髪は見事なマラカイトグリーンだった。
色合い自体は珍しくはあっても見慣れたものだ。なにせオレステスも同じなのだから。
けれど彼女の方がより鮮やかに見えるのは、肌の白さとほんのり朱ののった唇との対比なのかもしれない。
あとは髪の長さも関係しているだろうか。短髪と長髪では物量が変わる。物量が増せばそれだけ目立つのは必至だ。
椅子に腰を下ろしているから身長ははっきりとしないが、細い肩幅、腕を見れば華奢なのがわかる。
絶世を冠するほどではないが、見る者の十中八九は見惚れる美少女だった。
そんな美少女が、大きな目を見開いて自分を見つめている――それも穴が開くほど、まじまじと。
どちらかといえば年上好み、自分よりも十ほども下の少女には興味のないオレステスではあっても、この状況ではさすがにテンションが上がる。
――いや、本来ならば上がるはずだ、という方がいいのだろうか。
困惑を隠せず、美少女を見つめる。
美少女の目にも、オレステスと同じ困惑が見えた。
そんな少女の戸惑いにも気づいていないのか。彼女の後ろに立つ女が、美少女の長い髪を手に取り、梳かし始める。
同時に、オレステスも軽く髪を引かれる感触があった。
見知らぬ男の前で身支度するなんて、無防備な上に恥ずかしいと思わないのか。
いや、それともオレステスが覚えていないだけで、この美少女とは親しい仲なのかもしれない。
もしそうであれば、やはり喜ぶべきだろうとは思う。
けれどひとつ、問題があった。――正直に言えばひとつどころではないが。
目下として大きな問題は、これだ。
オレステスの目前に美少女が座っているのではない。
目の前にあるのは――
――大きな鏡、だった。
状況がまるっきり把握できない。
そもそも、「目を開けてください」そう促してきたのが誰なのかすらわかっていなかった。
聞いたこともない女の声。丁寧ではあるが、親しみめいたものは欠片もなく、冷淡なものだった。
悲しいことに、女に冷たくされることには慣れていた。特に上流階級に属する女は、オレステスを見て眉をひそめることが多い。
職業柄、仕方のないことだから別段気にもならない。
流れの傭兵と言えばいいのか。
国の傭兵部隊に属していたこともある。けれど厳しい規律が向かず、すぐに脱退した。
依頼を受けて貴族の護衛をしたこともある。だがそれは旅の供のようなものだったから、単発だ。
気に入られて専属の護衛にならないかと誘われたこともあるが、おそらく性に合わないと断った。
もっとも、そういった依頼はかなり偶発的な要因で発生する。基本は、いわゆる冒険者ギルドに立ち寄ってはモンスター退治などを請け負うことが多かった。
ならば出発点はともかく、今は冒険者と名乗る方が正解に近いかもしれない。
今いるのは、そんなオレステスにはどう考えても似つかわしくない部屋だった。
知識のないオレステスでもわかる豪華な家具。
天蓋付きのベッドには、見るからに柔らかそうな、ふかふかな布団が敷かれている。安宿の常連、なんなら野宿すら頻繁なオレステスとは、到底縁遠いものだった。
なぜ、こんなところに座らされているのだろう。
そもそもここはどこだ。
なにより――こちらを真っ直ぐ見つめてくるこの少女は誰だ。
年は16、7だろうか。
驚くほどに肌の色が白い。白皙の肌、などとの言い回しを聞いたことはあるが、まさにそれなのだろう。
生まれてこの方一度も日を浴びたことがないのではないかと疑いたくなるほどだった。
顔立ちは、全体的に小作りだが目はぱっちりと大きい。
その目元を縁取る睫毛は濃く、長かった。
特筆すべきは、その鮮やかな緑色。
瞳は翠玉、艶やかな長い髪は見事なマラカイトグリーンだった。
色合い自体は珍しくはあっても見慣れたものだ。なにせオレステスも同じなのだから。
けれど彼女の方がより鮮やかに見えるのは、肌の白さとほんのり朱ののった唇との対比なのかもしれない。
あとは髪の長さも関係しているだろうか。短髪と長髪では物量が変わる。物量が増せばそれだけ目立つのは必至だ。
椅子に腰を下ろしているから身長ははっきりとしないが、細い肩幅、腕を見れば華奢なのがわかる。
絶世を冠するほどではないが、見る者の十中八九は見惚れる美少女だった。
そんな美少女が、大きな目を見開いて自分を見つめている――それも穴が開くほど、まじまじと。
どちらかといえば年上好み、自分よりも十ほども下の少女には興味のないオレステスではあっても、この状況ではさすがにテンションが上がる。
――いや、本来ならば上がるはずだ、という方がいいのだろうか。
困惑を隠せず、美少女を見つめる。
美少女の目にも、オレステスと同じ困惑が見えた。
そんな少女の戸惑いにも気づいていないのか。彼女の後ろに立つ女が、美少女の長い髪を手に取り、梳かし始める。
同時に、オレステスも軽く髪を引かれる感触があった。
見知らぬ男の前で身支度するなんて、無防備な上に恥ずかしいと思わないのか。
いや、それともオレステスが覚えていないだけで、この美少女とは親しい仲なのかもしれない。
もしそうであれば、やはり喜ぶべきだろうとは思う。
けれどひとつ、問題があった。――正直に言えばひとつどころではないが。
目下として大きな問題は、これだ。
オレステスの目前に美少女が座っているのではない。
目の前にあるのは――
――大きな鏡、だった。
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