5 / 87
第五話 婚約者とは
しおりを挟む
どうやら、オレスティアには婚約者がいるらしい。
オレスティアは女だ。と、いうことは――
「えぇっと、婚約者の方は男性、で、間違いない……?」
口元を引きつらせた問いかけに、侍女からは今までよりもさらに冷たい眼差しが返ってきた。
なに当然のこと言ってんだ、こいつは。心の声が駄々洩れている。
事情を知らなければ、オレステスとて同じ反応だっただろう。「ですよね」と乾いた笑いを貼りつけながら、必死で頭を巡らせる。
婚約者に会うためのドレスを作ると言うなら、今すぐの結婚ということはなさそうだ。
むしろ新調するのなら、初顔合わせもまだなのではないか。
ということは、初めて会った場で傍若無人に振る舞い、相手から断ってもらう手もある。
――いや、そうもいかないか。まだ会っていない状況にもかかわらず、婚約者候補ではなく婚約者と呼ばれていた。本人同士の意思など関係ない、政略結婚なのだろう。
ならば回避は不可。オレスティアは見知らぬその男に嫁ぐことになる。
冗談じゃねぇ。
咄嗟に胸の内で毒づく。
これだから貴族だのの上流階級の繋がりは嫌なんだ。女を政治の道具みたいに扱いやがって。
義憤めいた感情は嘘ではない。だがそれ以上に、「男に嫁ぐ自分」を想像するだけで怖気が走る。
夫婦となれば当然、同衾もするだろう。男に組み敷かれるなんて、どう考えても耐えられない。
逃げ出すなら結婚より前にしなければ。
だが、おそらく切羽詰まってはいないはずだ。顔合わせ前というなら、長ければ数カ月から年単位、短くても一カ月くらいは猶予があるだろう。
ならばまずは、情報を収集することが肝要だった。
この侍女に根掘り葉掘り聞いても、大した情報は引き出せないだろう。オレスティアへの冷たい態度もさることながら、下働きの者がお家事情まで把握しているとも思えない。
ならば家族から話を聞くのが妥当だけれど、オレスティアが知っているはずのことを逐一訊ねては変に思われる。
かといって異変に勘付かれないように探るには時間がかかるし、そもそもオレステスが貴族令嬢を装って周囲を騙し通す自信もない。
――一芝居、打つか。
「とりあえず、出かけるのよね。支度、ありがとう。では、行きましょうか」
できる限りの女言葉を使って言ってみる。胡散臭げな眼で侍女が見ているから、「オレスティア」の口調とは違うのだろう。
とはいえ、知らないものを似せることはできないのだから仕方ない。
そして今からとる策こそ、それらすべてを打開させる方法だった。
振り向いてにこっと笑いかけ、おもむろに立ち上がる。
「――あぁっ!」
立ち上がった瞬間、大げさによろけて見せた。
結果、ばったーんと勢い良く、盛大に倒れる。
咄嗟に受け身をとろうとする本能を押さえるのが、思っていたよりも大変だった。
そして、痛い。
これほど無防備に倒れたのは、生まれて初めてだった。
オレスティアは女だ。と、いうことは――
「えぇっと、婚約者の方は男性、で、間違いない……?」
口元を引きつらせた問いかけに、侍女からは今までよりもさらに冷たい眼差しが返ってきた。
なに当然のこと言ってんだ、こいつは。心の声が駄々洩れている。
事情を知らなければ、オレステスとて同じ反応だっただろう。「ですよね」と乾いた笑いを貼りつけながら、必死で頭を巡らせる。
婚約者に会うためのドレスを作ると言うなら、今すぐの結婚ということはなさそうだ。
むしろ新調するのなら、初顔合わせもまだなのではないか。
ということは、初めて会った場で傍若無人に振る舞い、相手から断ってもらう手もある。
――いや、そうもいかないか。まだ会っていない状況にもかかわらず、婚約者候補ではなく婚約者と呼ばれていた。本人同士の意思など関係ない、政略結婚なのだろう。
ならば回避は不可。オレスティアは見知らぬその男に嫁ぐことになる。
冗談じゃねぇ。
咄嗟に胸の内で毒づく。
これだから貴族だのの上流階級の繋がりは嫌なんだ。女を政治の道具みたいに扱いやがって。
義憤めいた感情は嘘ではない。だがそれ以上に、「男に嫁ぐ自分」を想像するだけで怖気が走る。
夫婦となれば当然、同衾もするだろう。男に組み敷かれるなんて、どう考えても耐えられない。
逃げ出すなら結婚より前にしなければ。
だが、おそらく切羽詰まってはいないはずだ。顔合わせ前というなら、長ければ数カ月から年単位、短くても一カ月くらいは猶予があるだろう。
ならばまずは、情報を収集することが肝要だった。
この侍女に根掘り葉掘り聞いても、大した情報は引き出せないだろう。オレスティアへの冷たい態度もさることながら、下働きの者がお家事情まで把握しているとも思えない。
ならば家族から話を聞くのが妥当だけれど、オレスティアが知っているはずのことを逐一訊ねては変に思われる。
かといって異変に勘付かれないように探るには時間がかかるし、そもそもオレステスが貴族令嬢を装って周囲を騙し通す自信もない。
――一芝居、打つか。
「とりあえず、出かけるのよね。支度、ありがとう。では、行きましょうか」
できる限りの女言葉を使って言ってみる。胡散臭げな眼で侍女が見ているから、「オレスティア」の口調とは違うのだろう。
とはいえ、知らないものを似せることはできないのだから仕方ない。
そして今からとる策こそ、それらすべてを打開させる方法だった。
振り向いてにこっと笑いかけ、おもむろに立ち上がる。
「――あぁっ!」
立ち上がった瞬間、大げさによろけて見せた。
結果、ばったーんと勢い良く、盛大に倒れる。
咄嗟に受け身をとろうとする本能を押さえるのが、思っていたよりも大変だった。
そして、痛い。
これほど無防備に倒れたのは、生まれて初めてだった。
2
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
最強すぎて無職になりましたが、隣国の姫が勝手に嫁入りしてきました
eringi
ファンタジー
平凡なサラリーマン・佐藤亮は、満員電車で謎の光に包まれ異世界へ転移する。神様から「世界最強の力」を授かったはずが、本人はただの無職ニートとしか思っていない。冒険者ギルドで雑用を請け負う日々。そんな亮の周囲に、冷徹な騎士姫、天才魔導士、元盗賊の少女、竜人族の戦士など個性豊かな美少女たちが自然と集まってくる。一方、彼を「ただの運のいい凡人」と侮る貴族や悪徳商人たちは次々と痛快なざまぁ展開に。亮は「俺なんて大したことないのに」と呟きながら、気づけば国を揺るがす陰謀を解決し、世界を救うことに――。無自覚最強主人公による、爽快ハーレムファンタジー開幕!
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした
たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。
だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。
自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。
勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!
最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】
てんてんどんどん
ファンタジー
ベビーベッドの上からこんにちは。
私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。
私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。
何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。
闇の女神の力も、転生した記憶も。
本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。
--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ!
※他Webサイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる