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第三十二話 混乱と不安と困惑と(オレスティア視点)
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「あー……」
ぽつんぽつんと語って反応を待つオレスティアに、少女は呆れたような声を上げたあと黙る。
疑っているというよりは、なに言ってんだこいつ、みたいな視線がただただ痛い。
身を縮め、上目遣いに少女を見上げる。
「その、初めに申し上げました通り、信じがたい話だとは思うのですが……」
「当たり前でしょ!」
沈黙に耐えきれず、意味もない言葉を重ねると、少女がバン! と両手でテーブルを叩いて立ち上がる。
オレスティアは彼女の反応を待っていたのだが、彼女としても反応に困っていたのかもしれない。
「侯爵令嬢? あなたが? そんな図体で? しかも間違いなく男なのに?」
一文ずつ疑問形で区切りながら、さらにずいっと詰め寄ってくる。
表情を見る限り、幸いにも怒ってはいないようだった。けれど充分に混乱しているのがわかるし、困惑するのも理解できる。
「申し訳ありません、あの、えっと、落ち着いてくださいませ、えっと――」
「ルシア、よ」
とりあえず一旦落ち着いてもらおうと呼びかけようとして、名前もまだ聞いていなかったことに気づく。
名を呼ぶこともできず、さらに困ってしまったオレスティアの様子を察したらしく、彼女が名乗ってくれる。
失礼な話だと思うのに、それでも怒った顔などは見せない。
「申し訳ありません、ルシアさん」
賢く、優しい彼女――ルシアへの申し訳なさがさらに強まり、しゅんと俯いてしまう。
「その顔でしおらしくされるの、気持ち悪いんだけど」
「――申し訳ありません」
「謝れって言ってるわけじゃないのよ」
怒鳴るわけではなく、声に怒気が含まれているわけでもない。
表情も、眉間にしわは寄っているけれど、怖いと感じるような威圧感もない。
ただ、事態がわからないこの状況で上機嫌なはずもなかった。
機嫌を損ねてしまった――不快な思いをさせてしまっている。
この少女は不機嫌になったからといって、義母のようにオレスティアを殴ったりはしないようだ。
けれどその分、もしかしたら内に秘めた怒りが強いのではないか。
不安に駆られ、再度「申し訳ありません」と口にしかけて、慌てて止める。
謝れって言ってるわけじゃない、とルシアは言った。オレスティアが事情を話し始める前にも「謝るの禁止ね」とも言われていた。
ならば謝罪は口にできない。そして話せることと言えばこの訳のわからない状況の説明以外はなかった。
怒らせることを恐れ、不安のために口を噤む。もう様子を窺うことすら怖くて、膝の上に置いた両の握り拳が震えているのを、ただただ見つめていた。
「――はぁ……」
沈黙は、どれくらい続いたのだろうか。頭上から、ため息が降ってくる。
おそるおそる目を上げると、完全に呆れ顔のルシアが両手を腰に当てていた。
「ちょっと待ってて」
目が合ったのは、短い時間だった。そう言い置くと、ルシアはくるりと踵を返す。
呼び止める暇もなかった。あっさりと部屋を出て行くルシアを、ただ呆然と見送る。
その小さな背中が扉の向こう側に消えていく様子が、まるで見捨てられるようにしか思えなかった。
ぽつんぽつんと語って反応を待つオレスティアに、少女は呆れたような声を上げたあと黙る。
疑っているというよりは、なに言ってんだこいつ、みたいな視線がただただ痛い。
身を縮め、上目遣いに少女を見上げる。
「その、初めに申し上げました通り、信じがたい話だとは思うのですが……」
「当たり前でしょ!」
沈黙に耐えきれず、意味もない言葉を重ねると、少女がバン! と両手でテーブルを叩いて立ち上がる。
オレスティアは彼女の反応を待っていたのだが、彼女としても反応に困っていたのかもしれない。
「侯爵令嬢? あなたが? そんな図体で? しかも間違いなく男なのに?」
一文ずつ疑問形で区切りながら、さらにずいっと詰め寄ってくる。
表情を見る限り、幸いにも怒ってはいないようだった。けれど充分に混乱しているのがわかるし、困惑するのも理解できる。
「申し訳ありません、あの、えっと、落ち着いてくださいませ、えっと――」
「ルシア、よ」
とりあえず一旦落ち着いてもらおうと呼びかけようとして、名前もまだ聞いていなかったことに気づく。
名を呼ぶこともできず、さらに困ってしまったオレスティアの様子を察したらしく、彼女が名乗ってくれる。
失礼な話だと思うのに、それでも怒った顔などは見せない。
「申し訳ありません、ルシアさん」
賢く、優しい彼女――ルシアへの申し訳なさがさらに強まり、しゅんと俯いてしまう。
「その顔でしおらしくされるの、気持ち悪いんだけど」
「――申し訳ありません」
「謝れって言ってるわけじゃないのよ」
怒鳴るわけではなく、声に怒気が含まれているわけでもない。
表情も、眉間にしわは寄っているけれど、怖いと感じるような威圧感もない。
ただ、事態がわからないこの状況で上機嫌なはずもなかった。
機嫌を損ねてしまった――不快な思いをさせてしまっている。
この少女は不機嫌になったからといって、義母のようにオレスティアを殴ったりはしないようだ。
けれどその分、もしかしたら内に秘めた怒りが強いのではないか。
不安に駆られ、再度「申し訳ありません」と口にしかけて、慌てて止める。
謝れって言ってるわけじゃない、とルシアは言った。オレスティアが事情を話し始める前にも「謝るの禁止ね」とも言われていた。
ならば謝罪は口にできない。そして話せることと言えばこの訳のわからない状況の説明以外はなかった。
怒らせることを恐れ、不安のために口を噤む。もう様子を窺うことすら怖くて、膝の上に置いた両の握り拳が震えているのを、ただただ見つめていた。
「――はぁ……」
沈黙は、どれくらい続いたのだろうか。頭上から、ため息が降ってくる。
おそるおそる目を上げると、完全に呆れ顔のルシアが両手を腰に当てていた。
「ちょっと待ってて」
目が合ったのは、短い時間だった。そう言い置くと、ルシアはくるりと踵を返す。
呼び止める暇もなかった。あっさりと部屋を出て行くルシアを、ただ呆然と見送る。
その小さな背中が扉の向こう側に消えていく様子が、まるで見捨てられるようにしか思えなかった。
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