迷迭楼

月島 成生

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ACT.7

1.心霊現象

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 月曜日の朝。
 学校に行くため、瑠実と一緒に家を出る。
 ――と、当たり前のような顔をして、葛城が立っていた。

 ああ、やっぱり。
 瑠実と顔を見合わせて、肩を竦める。
 形としては「3人一緒に登校」なのだろうけど、葛城はあたしと瑠実の半歩後ろを黙って歩いている。

 これじゃあまるで、「お供」だ。

 特に話すこともないから、隣りにおいでよ、なんて声をかけるまでもなく。
 結局、正門に着くまで、2人が前、葛城がやや後ろの布陣のまま歩くことになった。
 正門、と言えば――
 前に目を向けて、口元に引きつった笑いが浮かぶのを感じる。

 またいたよ、例の落武者。

 いつもいるわけじゃない。むしろはっきり見るのは、これが2回目だ。
 けど、わずかな時間とはいえ、追われるっていうか追いつめられるような状況になったから、気にならないはずがない。
 あれ以来、正門を通るときにはどうしても、ちょっと身構えてしまう。

 ここ数日大丈夫だったけど……来ちゃったか。

 思わずガン見してしまう。あちらもこちらを見る。目が合う――当然の流れだった。
 あの時みたいに、追われたらどうしよう。
 幽霊のなにが怖いって、物理で対抗できないことだ。
 痴漢だの暴漢だのが相手なら、殴り倒せばいい。

 けどおばけは、それができない。触れないのだから、反撃のしようがなかった。
 それに超能力? じゃないけど、物理とは違う力で操られちゃったりしたら、どうしようもない。
 ただただ見えるだけって、本当に困る。

 全速力で走って逃げる、も考えたけど、瑠実も一緒にいるし、なにより、それこそ不可思議な力を使われるんじゃないかって、心配だった。
 緊張しながら、落武者の前を歩いて行く。

 ――結論を言えば、なにごともなかった。

 あのときのように声をかけられる事もなく、妙な攻撃もちょっかいもない。ただ恨めしげに、ずっとあたしを睨んでいたけど――それだけだった。
 落武者を横目にしながら、あたしたちは無事に通り抜ける。

「はあぁぁぁ……」

 通り過ぎて少し行った頃、思わずため息が出る。
 変な緊張の仕方をしたから、妙に疲れてしまったらしい。

「――どうかしたの?」

 連れが急に立ち止まって、肺が空っぽになるようなため息を吐いたら、びっくりもするだろう。つられて足を止めた瑠実が、首を傾げる。
 もちろん、正直に話すわけにはいかない。頭のいい子に多いみたいだけど、瑠実も「おばけ」とかはまるっきり信じてなかった。

 小学生の頃、一度だけそんな話をしたことがある。
 信じてもらえなかったけど、仕方がないとはわかっていた。「見える」と言って、嘘つき呼ばわりされたこともあるから、バカにしない、興味本位で騒がない瑠実の反応はきっと、優しいものだっただろう。

 その優しさのままに――心配されてしまった。

 当時から頭のよかった瑠実は、真っ先に「ストレス」を考えたらしい。
 疲れてる? とか、なにか悩みごと? とか――「見える」ことを否定しないで、「見えたと思いこんだ」原因を探ろうとした。
 あたしを信じながら、心霊現象は否定する。今にして思うと、ものすごい現実的で、大人な対応だと思う。

 けどあたしは――バカにされなくてよかった、とは思ったけど、ちょっと寂しく思ってしまったのも事実で。

 それ以来、瑠実には基本的になんでも話すけど、「おばけ」関係だけは口にしなくなった。
 一緒にいるときに、たとえば見えたとしても、極力スル―してきた。

 なのに今日は、思わず態度に出てしまった。
 ヤバイ。言い訳も思いつかない。

「えぇっと……」
「――テスト?」

 返事につまってしどろもどろしていると、横から訊いてきたのは葛城だった。

「延期になってたテスト、今日からだから?」
「ああ、しかも今日、数学ね!」

 淡々とした葛城の物言いに、瑠実が納得する。

 よかった、助かった!
 や、実際にテストだと思えば憂鬱ではあるんだけど! でもそれで納得されちゃうのがちょっと悲しい……!

 ――けど、偶然だろうか。

 助け舟を出してくれた葛城を、ちらりと見上げる。
 本当に、あたしがテストが嫌だから口ごもったと思ったのだろうか?
 それとも、答えにくい「モノ」を見たと気づいたから?

 だとしたらやっぱり、葛城にも見えてるんじゃないか……?

 見上げた先にある葛城の顔は、いたって冷静だった。「助けてやった」みたいなドヤ顔でもなく、「おばけを見た」って焦ってる表情でもない。
 視線も、涼しげなままあたしに向けられていて、落武者なんてまるっきり気にしているようには見えなかった。

「でも昨日、葛城くんにも教えてもらったし、大丈夫でしょ?」

 ぽんぽんと肩を叩いてくれる瑠実の笑顔に、「だといいけど」と苦笑を返すしかできなかった。
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