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第三章
第三話 辟易
しおりを挟む月龍と蓮が結ばれた。
仮に同意の上でも、亮としては腹が立つ。まして、想い人が無理強いで体を奪われたと聞いて、平気なはずがなかった。それこそ月龍を殴ってやりたく思う。
もっとも、月龍の頑丈な体を殴ったところで、痛手を受けるのは亮の拳の方だろう。また、暴走するきっかけが亮のせいだったこともある。
怒気を抑えるために、一つ深呼吸をした。
「それで?」
「それで、とは」
「だから。今回はおれにも責任があるから、相談に乗ってやると言っている。蓮はお前に何と言った? こんなことするなんて酷い、とでも泣かれたか」
だとすると望みは薄いな、諦めろ。
皮肉の一つくらいは許されるはずだ。意地悪く言い放つ。
月龍の眉間に刻まれた皺が、さらに深くなった。亮もつられて渋面になる。
「なんだ。本当にそう言われたのか」
「否――今日はまだ、会っていない」
「昨夜はお前の所に泊まったのだろうが。当然、送り届けてきたのだろう?」
「それが、その――逃げてきた」
「逃げた?」
決まり悪げな呟きに、亮は目を吊り上げる。憤りに気づいたのか、月龍は慌てたように目の前で両手を振った。
「無論、車は手配した。邸へお連れするように命じてあるから、無事に帰られるはずだ」
「莫迦が、そのような問題ではない」
もはや、溜め息も出ない。怒気も隠さず、まくし立てる。
「考えてもみろ。自分を抱いた男が、一言もなく姿を消している。一人でぽつんと寝かされていたなどと、心細い以上に惨めにもなろうが」
はっと息を飲んだ月龍の顔が、見る見る蒼白に染まって行く。指摘されて初めて気がついたのか。
亮は、がしがしと自らの頭をかきむしる。
「ああもう、これだから無骨者は嫌いだ!」
「どうしたらいい、亮」
「どうもこうもない! 今すぐ――は仕事だから無理か。ともかくすぐに、できるだけ早く蓮に会いに行け。夜のことも、置き去りにしたことも謝るのだな。蓮のことだ、率直に気持ちを伝えれば、許してくれる」
「率直になど――亮、お前とは違う。おれには無理だ」
「無理ならば仕方がない。なに、大丈夫だ。できなければ蓮に嫌われて、別れることになるだけだ」
亮が発した突き放す物言いに、月龍の顔が歪む。怒っているように見えるが、そうではない。これが月龍の、泣きそうな顔なのだ。
つくづく情けない男だと、亮は辟易する。
「今ならばまだ間に合う。だからそのような顔をするな」
慰めながら、情けないのは自分かと思い直す。なにが悲しくて、惚れた女を奪って行った男からの恋愛相談に付き合ってやらなければならないのか。
このような立ち位置を続けざるを得ない自らの身上に、亮はふと同情した。
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