箱庭系譜

たき

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ラトレイア

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 そこはとある廃墟。
 かつて教会と呼ばれた聖域。
 私は「あの人」にまた会う為にそこに立っていた。
 物音一つしない静まり返った建物の中、形容しがたい恐怖感のような物が背筋を撫でる。床に散らばった鏡の中、無数の目がこちらを見ているのが見えた。
 鏡の破片を一つ拾い上げ、指先を裂く。血を一滴床に垂らす。一瞬にして影が盛り上がり形を作った。お気に召したらしい。
 全体としては見えるのに、ピントを合わせようとするとぼやける。認識ができない。昔からそうだった。「あの人」は私に姿を見せようとはしない。
 子供を浚ってきて捧げた時も、姿は見えなかった。
 もやもやとしたよく分からない灰色、それが私にとっての「あの人」の全てだった。
 私は願う。
 人間を壊してくださいと願う。
 それが願いだった。
 これ以上誰かがどこかで苦しむならば、いっそ全部無くなってしまった方が幸せだ。それこそが辿り着くべきハッピーエンドだと。
 ただそう本気で思っていた。
 私はかつて、この教会で人が壊れるのを見た。「あの人」を見た人達は全員意味の分からない言葉を口走り、いなくなった。
 この世は道化。
 全てに意味はなく、世界はただ、生まれて潰える泡の如く。
 夢が覚めたら霧の向こうへ。
 薄れて消えるは理想郷。
 意味を求めるな。
 我は救済。
 舞えや踊れやただ無意味を求め。
 諦めこそが辿り付く先。
 全ては我の内に…。
 「あの人」を見ていると頭の中に唄が響く。
 包み込むような灰色が鳴っている。
 行かなくちゃ、あの人が待ってる。鳴ってる。手を伸ばせばそこに。救いは。

 誰も居なくなった教会に鳴るは無音。
 救いを求めた狂える信徒へ捧ぐ哀れみの唄。
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