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ザクースカ
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この屋敷で働き始めて何年になったか、今は亡き屋敷の主の御息女様も大きくなられた。
私は貧しい子供だった。
毎日路地裏でゴミ箱を漁り、人通りが多い朝方には通りで靴を磨いて食費を稼いだ。
私は生きる術をそれしか知らなかった。
ある日の事だった。
私は誘拐された。
背後から頭に麻袋を被せられ、箱のようなものに詰められた。
私は気を失い、気がついたらこの屋敷の中庭に立っていた。
後から聞いた話によると、奴隷として売りに出されていた私を主様が買い取ったらしい。私はそれからずっとここで働いている。金銭的な稼ぎは無いが、暖かい寝床と食事、それと少しの休息があればそれで十分だった。
主様に可愛らしい花瓶と花をもらった。毎朝お嬢様の朝食を作るより先に水をやるのが私の日課だ。
「おはようございます、お嬢様。朝食の準備が整いました」
「今日もお部屋でお召しあがるのですか? そうですか…分かりました。では、準備すると致しましょうか」
白い皿に焼きたてのパンを、白い器に湯気香るスープを、澄んだグラスに新鮮なミルクを。
食後のケーキセットの準備も万全だ。抜かりはない。
「お食べにならないのですか…? とても美味しく出来ているの思うのですが…」
スプーンでスープを掬い、口元へと運ぶ。
お嬢様が何も口にしなくなってから、いや、何の反応もしなくなってからどれほどの時間が過ぎたのか…いや、私は本当にお嬢様の声を聞いたことがあったのか…?
お嬢様とは…あれ、名前、名前は…いや、そもそも私は…私は…誰だ…?
ここで何をしていたんだろう。
そうだ、お嬢様。お嬢様のお迎えにいかないと。そうだそうだ、忘れる所だった。また主様に怒られてしまう。
そういえば、主様はいつ帰ってくるのだろうか。もうずっと会っていない気がする。いや、思い出せない。なにも。あれ、おかシいな。あルじさま。私は誰を待ってイるのでしょウか。
花瓶が割れる音がした。
「今回のは早かったな」
「ええ、そうですわねお父様」
「何人目だ」
「7人目ですわ」
「そうか、楽しかったか?」
「ええ、とても」
「次のを買ってこよう」
「いいえ、まだいいですわ。だってまだまだ楽しめそうですもの」
誰かの声が響く。
頭が重い。
いや、全身が重い。動かせない。抜けきらない疲労感のような物が溜まっているのを感じる。
「あら、目が醒めたの。夢はどうだったかしら」
「………あなたは…」
「あぁ可哀想に、何も覚えていないのね? いいこと? あなたは私のお人形。私と一緒にワルツを踊る為のお人形なのよ」
「人形…わたしは…人形……」
頭がふわふわする。
もう何も考えられない。私は人形。ワルツを踊るための人形…。
どこかで、花瓶が割れる音がした。
私は貧しい子供だった。
毎日路地裏でゴミ箱を漁り、人通りが多い朝方には通りで靴を磨いて食費を稼いだ。
私は生きる術をそれしか知らなかった。
ある日の事だった。
私は誘拐された。
背後から頭に麻袋を被せられ、箱のようなものに詰められた。
私は気を失い、気がついたらこの屋敷の中庭に立っていた。
後から聞いた話によると、奴隷として売りに出されていた私を主様が買い取ったらしい。私はそれからずっとここで働いている。金銭的な稼ぎは無いが、暖かい寝床と食事、それと少しの休息があればそれで十分だった。
主様に可愛らしい花瓶と花をもらった。毎朝お嬢様の朝食を作るより先に水をやるのが私の日課だ。
「おはようございます、お嬢様。朝食の準備が整いました」
「今日もお部屋でお召しあがるのですか? そうですか…分かりました。では、準備すると致しましょうか」
白い皿に焼きたてのパンを、白い器に湯気香るスープを、澄んだグラスに新鮮なミルクを。
食後のケーキセットの準備も万全だ。抜かりはない。
「お食べにならないのですか…? とても美味しく出来ているの思うのですが…」
スプーンでスープを掬い、口元へと運ぶ。
お嬢様が何も口にしなくなってから、いや、何の反応もしなくなってからどれほどの時間が過ぎたのか…いや、私は本当にお嬢様の声を聞いたことがあったのか…?
お嬢様とは…あれ、名前、名前は…いや、そもそも私は…私は…誰だ…?
ここで何をしていたんだろう。
そうだ、お嬢様。お嬢様のお迎えにいかないと。そうだそうだ、忘れる所だった。また主様に怒られてしまう。
そういえば、主様はいつ帰ってくるのだろうか。もうずっと会っていない気がする。いや、思い出せない。なにも。あれ、おかシいな。あルじさま。私は誰を待ってイるのでしょウか。
花瓶が割れる音がした。
「今回のは早かったな」
「ええ、そうですわねお父様」
「何人目だ」
「7人目ですわ」
「そうか、楽しかったか?」
「ええ、とても」
「次のを買ってこよう」
「いいえ、まだいいですわ。だってまだまだ楽しめそうですもの」
誰かの声が響く。
頭が重い。
いや、全身が重い。動かせない。抜けきらない疲労感のような物が溜まっているのを感じる。
「あら、目が醒めたの。夢はどうだったかしら」
「………あなたは…」
「あぁ可哀想に、何も覚えていないのね? いいこと? あなたは私のお人形。私と一緒にワルツを踊る為のお人形なのよ」
「人形…わたしは…人形……」
頭がふわふわする。
もう何も考えられない。私は人形。ワルツを踊るための人形…。
どこかで、花瓶が割れる音がした。
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