恋愛挽歌

たき

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クーマ

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あの日、あの日も確か今日のような日だった。
 容赦無く照りつけるお天道様、首をもたげる向日葵、そう、あの日も、イヤになるような夏空が広がっていたんだ。
 しゃくと氷菓を齧りながら、透き通る川波に想いを馳せていた。
 天気予報では雨だった。傘を持って出掛けるとよいでしょうと言った天気予報のお姉さんの声が、頭の片隅で響いている気がした。低くなる事が予想された気温も上昇を続け、どうやらここ数年でもっとも暑い日になりつつあるようだ。
 
「暑いね」

「うん、暑い」

「川、入る?」

「いや、水着無いから」

「裸じゃだめかな」

「だめだね」

 川辺に座って話し込む影が二つ。
 夏休み、おばあちゃんの家に行くといつもそこにいた「おねえちゃん」の本名を、私は未だに知らないでいる。
 こうやって、何をするでもなくおねえちゃんと一緒に時間を潰すのが好きだった。

「宿題、やったの?」

「いや」

「だめじゃない」

「おねえちゃんは?」

「いや」

「一緒じゃん」

 そう、おねえちゃんもだめな子なの。そう呟いてふわりと笑う。どこか物悲しそうであり、まるで夏が終わってしまうかのように錯覚する笑顔に何か意味が合ったのか、今となっては知る由もない。
 ただ一つ言えるのは、この世には子供の力ではどうにもできない事がいくらでもあるということだけだ。
 ぽつりと雨粒が頬を叩いた。傘を持って出掛けるとよいでしょうと言った天気予報のお姉さんの声が頭の片隅から聞こえる。だから言ったでしょう、そう言っている気がした。

「おねえちゃん、はやく帰らないと風邪引いちゃう」

 おねえちゃんは動かなかった。

「風邪引いたら会えなくなっちゃうかも」

 おねえちゃんは動かなかった。

「ねぇ、おねえちゃんってば」

「あのね」

 おねえちゃんは動かなかった。顔を上げずに口だけを動かす。

「おねえちゃん、もうここに来れないの」

 どこかで雷が鳴った気がした。そういえば天気予報のお姉さんが雷も鳴ると言っていたかもしれない。
 おねえちゃんは続ける。

「おねえちゃんね、知らない場所に行って知らない人と暮らすの」

 おねえちゃんが顔を上げる。
 顔がしっかりと見えない。バケツをひっくり返したような土砂降りのせいだろうか。滲んでしまって顔がよく見えない。

「行きたくない、行きたくないよ…おねえちゃん、君とずっと居たい…そっちの方がずっとずっと幸せなのに…」

 その後どうやっておねえちゃんの別れたのか、何一つ覚えていない。結局その後おねえちゃんと再会する事も無かったし、おねえちゃんの家ももう取り壊されてしまっていた。
 そう、あの日も今日のような日だった。
 イヤになるような晴天に、雨除けの傘を広げる。
 きっと今日も雨が降る。
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