恋愛挽歌

たき

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茨の猛毒

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 私が他人から悪く言われているのは知っている。
 茨の国の第二王女として生まれてから十七年間、私の意志で行動した事など無かった。私の意志は国の総意。下らない交渉事に出向いて頭を下げるのも、挑発して戦争をしかけさせるのも、全ては国王の意志だ。

「……あの、話、聞いてました…?」

「え? あぁ葡萄酒の話?」

「……」

「あ、えーっと…麦酒?」

「お酒から離れましょうよ」

「だって疲れには一番効くじゃない、アルコール」

「お願いなのでその顔は外では絶対にしないでくださいね?」

「で、何の話だっけ、求婚?」

「その話何回目ですか」

「あら、あなたは今までに空にしたお酒の瓶の本数を覚えているのかしら?」

「それ、普通パンの数とかで例えません?」

 一向に話が進まない。いや、進まないようにしている、と言った方が正しいのだろう。
 私の目の前で困ったような顔をしているのは、この茨の国が持つ負の面の実力者、正確に言うと王室お抱えの暗殺者集団の頭領である。彼は仕事の都合上、必要な事を伝える以外では顔を見る事はできない。だから、できるだけ長く話をするために、こうして時間を稼いでいるのだ。

「時間も多くないので、本題に移っても?」

「私を嫁に迎えるって話よね?」

「はい」

「………は?」

「いや、先日の任務でとても大きな手柄を立てましてね、その際に国王様より『大義であった、褒美を遣わす、望むもの申してみよ』とのお言葉をいただいたもので」

「いや、なんでその話から私の話に繋がるのよ」

「国王様に第二王女様をくださいと…」

「…それ…お父様はなんと?」

「あんなものでいいなら好きなだけ持って行けと」

「あんのクソジジイ…」

「あの…嫌、でしたか…?」

 彼の手が遠慮がちに私の爪先に触れる。
 私の爪先に触れた手を引っ張って、勢いで唇を奪った。

「……嫌だったらとっくに部屋から叩き出してるわよ」

 翌日、茨の国の第二王女が失踪したと大々的に通告があった。
 彼は存在が認知される事の無い人間であるため、こうする他無かったのだそうだ。こうして私も存在が無い物として扱われる人間になってしまったわけだが、残念だとか悲しいとかそういう気持ちは一切無かった。
 結婚記念に彼から貰った宝石を眺めながら、私は彼の帰りを待つ。
 あぁ、忘れてた、ナイフに毒を塗らないと。一番痛い毒が入った瓶はどれだったかしら。
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