RPG009

Virgin Read

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はじまり

プロローグ

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主人公 米原かずが最大ヒットポイント30の身の程で
最大ヒットポイント100万越えのエンシェントウルティメットドラゴンを倒す依頼を
受けて1週間、該当ドラゴンの出現する初心者の村の近くの僻地で、
金髪の美少女 竜騎士の露原いつきとダークなオーラを持つ依頼者の黒魔導士
英島とよと共に規格外の超弩級に強いドラゴンの通常攻撃を必死に避けていた。

 「ふざっけんな、ぼけぇ!」
 本日は本当に凶運だ。それは間違いないのなのだがその原因である彼女、
こちらが一撃死を避けるべく全身全霊で動き回っているのに、
素知らぬ顔でひょうひょうとドラゴンの攻撃をかわす黒魔導士の英島とよ
の平然とした横顔は今にも死にそうな気分の俺には正視に堪えなかった。
 「おい英島!話が違うじゃないか、全然、最大級全体氷魔法なんて撃ってこないぞ」
 俺は怒りと恐怖で渦巻く頭の混乱を抑えるべく、チームのリーダーである黒魔導士の
英島とよに罵声を浴びせていた。当の黒魔導士は冷静なもので俺をたしなめていた。
 「責任を擦り付けるのは良くないなー、君だってウルティメットドラゴンがどんな存在かは
知っていただろう?事前に説明責任は果たしているよ」
 俺だって知っていた。いわゆるレイドボスというやつで単独のパーティーではなく
複数のパーティーが協力して狩るボス。しかもこいつは初心者数百人がかりでも倒せず
こんなにも強い敵がいるんだぞ的なボスらしい。だがレイド戦はドロップの分配や
死亡時の補償などがややこしく、こんな初心者の村のすぐ近くにいて、
人間に迷惑をかけるでもなく、ひっそりと山脈の中腹に住む最強の雑魚を倒そうなどと
考えるプレイヤーはいまだに現れなかった。そう俺たちが来るまでは。
 「ちょっと、集中して走らないと一撃で死ぬよ。しっかし、このドラゴン動きが異常に
鈍いね。戦闘経験がないからなのかな?」
 英島にしてはなかなか鋭いことを言う。戦闘経験がスライム程度しかない俺でも
ここまで戦えるのだ。初心者の村の近くにいるだけあって初心者向けなのだろうか?
 「それにして無無責任だぞ。さっきから通常攻撃やブレスばっかりじゃないか。いつ
最大級全体氷魔法は来るんだ!すぐ撃ってくるといった口ぶりだったが?」
 通常攻撃、そういう表現は簡単だが、でかい岩を一撃で粉微塵にする太い尻尾を見て
冷静でいられる人間はそうはいないだろう。
ブレスといっても極太のレーザーみたいなもので遠くの山にどでかい大穴を開けている。
当たれば骨も残さず消滅するだろう。
 「まあ、撃ってこないものは撃ってこないものでしゃあない。最大級全体氷魔法を撃つときは
5分くらい詠唱時間あってドラゴンが硬直するから、その時にペットのカーバンクルたちを
出すといいと思うよ」
 俺も事前に実験してペットのカーバンクルたちが魔法反射するのは知っている。
 しかしちょうど1割以下にするというのは正直に言ってあまり自信はない。
 そんな俺の暗黒と絶望の思考とは裏腹に山脈の中腹には春らしくさわやかな風が流れ
桜が満開だ。
 ごつごつとした地面は逃げるのにあまり適してはおらず、ウルティメットドラゴンが
ノーコンピッチャー並みにあさっての方向にブレスを吐くので命だけはある状態だ。
もしかして遊ばれているのかもしれない、そう思わないこともない。
しかし、ドラゴンが餌としてみているのかはともかくとして、おもちゃにしている人間を
慈悲の心で逃がしてくれるとは思えない。おれたちはレベルが違いすぎて
物理攻撃も魔法攻撃も全くと言っていいほど効果が一切なく、
あまりにも攻撃手段がないため、英島とよが初級魔法を放ったり
俺が石を投げたりして24時間嫌がらせを続けている状態だ。
ドラゴンはそれほど怒ってはいないようだが俺たちに絡んでくるようになった。
 「なぁ、私は洞窟から石を投げればいいのか?何の役にも立っていない気がするぞ」
唐突に露原いつきが話しかけてきた。
 そんな俺の忠言にも耳を貸さず、突然露原いつきは夕食の完成を告げた。
「もうそろそろ夕方だ。夕食ができたよー。食材もいっぱい買いこんできたし
調理スキルも少しづつ上がってるから、結構おいしいと思うよー」
 露原が鍋の中のシチューをかき混ぜながらそう叫んできた。
「どらごんさ~ん、休憩しましょ、きゅけい。」
 露原がそう言うと意味が分かったのか、俺たちに興味を無くしたのか、
反対側の岩場に移動して、眠そうに座り込んでしまった。
「何なんだ?あのドラゴンは。公務員並みにきっちり時間を守るな。」
 おれは、本気を出したドラゴンに勝てるとは思っていないし、
俺たちが唯一、勝てる方法は最大級全体氷魔法をカーバンクル2体の反射魔法で
8人分反射して自滅させる方法だけだ。
「そっかー、別にいいんじゃね?こちらには好都合だよ。」
 こいつは、山脈にでかい穴をあけるほどの巨大なドラゴンの生息範囲で
なぜこんなにくつろげるのか不思議だ。
「いやぁ、最強の兵法って兵糧攻めでしょ、何食べてるのかなーと思ったら
肉食じゃなくて、草食なの」
「つまり、ティラノサウルスよりはブロントサウルスに近いからね。
そう考えれば怖くない。ライオンじゃなく羊さん。」
「強い羊もいたもんだな。踏みつぶされて死ぬのは嫌だぞ、
つまり、おれたちが魔法で火をつけたり、石を投げるせいで、
不愉快に思って、追い返そうとしているんじゃあないのか?」
「うん、僕もそう思うよ。」
 僕、こと英島 豊は答えた。1人称が僕で名前が豊でも女性だ。
ゆたか、ではなく、とよ、と読むのだ。
「おまえなぁ!」
「はいはい、ご飯の時間ですよ。ケンカは後でしてね、シチューが冷めちゃうよ」
「ねぇ、とよさん。夜中に石投げるのやめない。かなり鬱陶しそうだヨ」
「う~ん、かの名将軍ハンニバルを退けた、ローマの盾ファビアンも
推奨する、かもしれないさくせんだぞ。う~ん、やめるのか・・・」
「馬鹿かお前は、単なる嫌がらせ、ハラスメント行為じゃないか
小学生の考える作戦だ。今すぐやめろ」
「う~ん、わかったよー。でもなぜ最大級全体氷魔法を一発も
撃ってこないんだろう。実に不思議だね」
「ねぇねぇ、シチューの味付けどう?なかなかおいしいんじゃない?」
 そう言うと露原はどこで調達したのか、様々な野菜や鶏の肉の入った
香辛料たっぷりのシチューを差し出してきた。
 露原は調理のスキルでも上げたいのか、毎日2食3人分作っている。
「うまいな、これ。しかしどこにこんなに食材があったんだ?」
 おれは、市場にでも行ってるんじゃあないかと疑いたくなる素材に
首をかしげていると、英島が種を明かした。
「いま、戦闘で逃げてばっかりだし、装備品以外露原さんに預けているよ、
もちろん財布もね」
「なるほど、俺と、英島がウルティメットドラゴンから逃げ回ってる間、
お前は町の市場でショッピングをしていたわけか?」
「うん、英島さんかなりお金持ち、金貨500万枚くらいの所持金
あるよ」
「げえっ」
 俺は首を折られるときのガチョウのような声を上げて驚いた。
「おい、英島、なぜウルティメットドラゴンを倒そうとするんだ?
金銭は目当てじゃないだろう。経験値が欲しいのか?」
 おれは、出会った時からケチなうえに守銭奴な、英島のことだから
てっきりお金が目当てだと思っていたが、勘違いだったのか。
「いやあ、お金だよ。わたしは、金貨何百億と言うお金が欲しいんだ。
世界を根本から変えられるくらいのね」
「金貨1枚の100倍は金貨100枚じゃあないんだよ、97枚くらいかな。」
「金銭のたかで勝負するときは多く持っていたほうが勝つ、ゆえに今の私個人の
資産では勝負に出ることはできない」
 こいつがどこでどんな勝負をしようとしているのか、
なぜそこまで金銭を求めるのかはわからないが、守銭奴のこいつが
金貨500万枚を他人である露原に自由に使わせているということは
それなりに信用を得ていることがわかると同時に、
英島もこのウルティメットドラゴン討伐に生命と財産をすべて賭けていることが
うかがえた。
 俺はつかみどころのない英島の本心はわからなかったが、その姿勢は理解した。
「なぁ、露原、なぜ毎日同じ量を作るんだ。メニュー考えて、せめて
ローテーションにしてほしい」
「毎日同じメニューだと飽きませんか?英島さん?」
 自分で同じものを食べるのは飽きたので変えてくれと言いたかったが、
金主の英島さんに言ってもらったほうが良いだろうと考えて、
なんとなーく、話題を振ってみた。
「う~ん、確かに毎日シチューだと飽きては来るね。」
「そんな~、英島さん。」
 露原はがっかりしたように声を絞り出した。
「いやいや、それはそう悲観するところではないよ。
同じものを作っているからこそ日々の小さな成長が感じ取れて、
あじわいぶかいよ」
「米原はどういう意味で、毎日シチューで飽きてくるって思ったの?」
唐突な質問に俺はとっさに答えを返すことができずに、
「調理スキルとか上がらないのか?他のメニューでもいいと思うが?」
「それは私の料理が、ま、ず、い、と言う意味にとってもいいんだね」
 俺が返答するやいなや、俺の皿を取り上げてこう言った。
「私は戦闘職目指しているからね。調理スキルなんてとらないよ」
 そう言うと露原はそっぽを向いてしまった。
あ、そう、さっきスキル上げてるって言ってたからスキルチェックしてたし、
スキル見るとランク3とか出てるし、言外に俺が不味い、
と言ったと思っているのだろう。そこのところは訂正しておかなければならない。
「いや~、美味かったよ。ただ他の料理も食べたいなと思ってさ、
これは本心だよ。うまいと思っている」
 実際食べておいしかった。さんざん走りまくったあと、塩味の効いた
シチューは骨身に染みる。
「なあ、そのさらにお代わり入れてくれないか?」
しかし、今日の夕食はそれ以上食べさせてもらえそうになかった。
「露原さんがせっかく作ってくれたんだ、ドラゴンはお休み中だから、
早く寝て体力を回復させて、明日に備えよう」
 俺たちはランプを消すと、洞窟の底で眠りについた。
 当のウルティメットドラゴンは昼間は俺たちの相手をしつつ、
夜は安心しきってぐっすりと眠っていた。
 ウルティメットドラゴンは心身ともに健康そうに見受けられる。
 おれは毛布にくるまりながら、洞窟の上のほうに見える星空を
眺めながら、現在の状況を実にばかばかしいと思っていた。
 俺の最大ヒットポイントは 30、ウルティメットドラゴンの
最大ヒットポイントは 100万以上、この戦いがいかに無謀で
馬鹿げているかわかるだろう。
 ウルティメットドラゴンは分類的には 雑魚 になる。
 しかし、ウルティメットドラゴンの全長は100メートル以上
重さは数十トン、象さん何十匹分だろう。
 生きているジャンボジェット機だ。
俺の錯覚であろうが、よだれを垂らし俺たちにおいしそうな視線を
投げかけているような気がして、とても怖い。
 雑魚と言っても戦闘力はラスボスと同じくらいのレイドボス、
単にリポップするから雑魚と呼ばれているだけだ。
 このドラゴン今までかなり暇だったらしく、俺たちのような
初心者でも無視したり、瞬殺したりせず、手を抜かず丁寧に相手を
してくれている。
 朝起きて昨日の残りのシチューと白パンを食べた俺と英島は
洞窟を出るとすぐに、ちょっとした油断があったのだが、
頭の上を強力なレーザーのようなブレスが通り過ぎる。
『ドォォオオーンッ!」
 すさまじい轟音とともに近くの山が消滅した。
さすがの英島も驚いたらしく、
「ぅうぅあぁーっ」
 俺たちは攻撃する意志など持てずにひたすら攻撃をする意思などなく、
逃げ惑った。
 瞬間的に思ったのは、なぜこんなことになったのか、欲をかいた
自分を恨みたいし、こんなところに初心者を連れてきた英島を恨みたい。
「この世界に蘇生手段なんてないんだぞ、死んだら終わりなんだ」
俺は泣きそうになりながら必死に走っている。
「こっちをタゲってる気がするんだけれど、やばい、やばい」
俺は死にそうな声を上げると、恨んでいたはずの黒魔導士に
助けを求めて縋っていた。
 隣を走っていた黒魔導士は『暗闇魔法』を放ち、
その魔法はありえない確率のウルティメットドラゴンの状態異常耐性を
乗り越えてうまくドラゴンに暗闇を付与した。
 一時的に目の見えなくなったウルティメットドラゴンは、
その場で尻尾を振り回し、周囲の木々を四方八方に叩きつけており、
すさまじい音を立てて地面を踏み鳴らしていた。
「ぉおぉおぉ」
 俺はちびりそうになるのをこらえて、人生で二度目の「ああ、もうすぐで死ぬ」
と言う感覚を持った。地面に足を踏ん張っていないとその場で倒れてしまう
レベルだ。
 こちらから攻撃しても大したダメージは与えられないし、できることもないので
3人でウルティメットドラゴンが暴れまわるのを見物している状態だ。
攻撃してこないのを不思議に思ったのか、ウルティメットドラゴンは
動きを止めて、唐突に話しかけてきた。
「我は竜王、名は無いがウルティメットドラゴンである。弱きものよ
何故、我に勝負を挑む?」
 意外なことに会話をする知能はあるらしく、俺たちに話しかけてきた。
 もしかして、俺たちの会話全部、聞いていて理解していたのですか?
 いままで、攻撃がノーコンピッチャーだったのもわざと外していたのですか!
 どうやら遊び程度のものだったとおれは察しつつ、この場を収めるための
言葉を紡ごうとしていたその時。
「ぷっ!ぷぷぷ、竜王!!!吾輩は竜である、名前はまだないみたいな!
あんた雑魚じゃん!」
 空気や実力差を理解できないのか、いや理解して挑発しているのだろう、
しかして、黒魔導士はおそらく、可笑しくて我慢できなかったのだろう、
噴き出しながらこう続けた。
「ねぇ、あんた、ポップするってわかる?ボスモンスターは
ポップしないけど、あんたの変わりはいくらでも湧いて出てきて、
使い捨てにされるんだよ」
 このとんでもなく相手を侮辱し、存在意義すら否定するありえない発言に、
あぁ、これは逃がしてくれたり、許してくれる反応は期待できないなーと、
思いつつ状況を見ているしかなかった。
 ウルティメットドラゴンはいたく自尊心を傷つけられたのであろう、
猛り、怒り狂っていた。このウルティメットドラゴンは相手の力量も
簡単に量れるらしく、俺たちを睥睨するようにこう吼えた。
「貴様たちこそ、ちんけな低レベルパーティーではないか?」
 俺はウルティメットドラゴンの御意見に激しく同意していた。
そうです、そのとおりです。
 だから、はじめっから黒魔導士の英島の 雑魚 という見解には
賛同できなかった。
 そりゃそうだろう、人間に迷惑をかけているわけでもないドラゴンに
勇者が討伐しに来るはずもなく、そもそも、レイドボスだ。
どんな勇者や賢者のいるパーティーでも単独では戦いを避けるだろう。
この状況はやばすぎます。黒魔導士の英島さん。
 この状況を理解できないほどあほだったのか、
露原がとんでもないことを言い出した。
「なぁ、まいばらぁ。テイムした場合、経験値とか入るの?」
ばっかじゃねえのこいつは、と本音が飛び出しそうになりながら、
何とかこの状況で発狂せずに平静を保ちながら俺は答えた。
「入るよ。ドロップも金貨も経験値も倒した時と同じ」
それを聞いた露原は物欲しそうにこう言った。
「それならさ、テイムしない?モンスターで会話できるのって
あんまりいないでしょ。私は初めて見るし。次ポップする奴が
会話できるかわからないでしょ」
 黒魔導士の英島も興味を示した。
「なるほど、レアっぽいね」と同意した。
今ここにいるパーティーは3人、おれ、こと 調教師『米原 和』、
金にはこだわる守銭奴の黒魔導士『英島 豊』、
そしてシチューを作っていた自称、竜騎士
実際には、槍戦士の『露原 樹』だ。
 調教師なのでペットをケージにしまって持ち歩いている。
それが戦力のすべてだ。
しかし、レアなのは理解できるが、最大火力で倒しきるのではなく、
ヒットポイントを1割以下に調整してテイムするのは、
倒すよりはるかに難しい。
 俺としては普通に倒してレベルアップしてから比較的安全に、
テイムしたかったのだが、言葉の話せるウルティメットドラゴンが
次もポップするかなど俺にはわかるはずもなく、
命の恩人と金銭面の支援者に逆らえるはずもなく受け入れるしかなかった。
 俺はゆっくりと深呼吸をすると怒り狂っているウルティメットドラゴンに
なけなしの勇気を絞って大声で話しかけた。
「まずは、私の仲間の暴言をお許し願いたい、偉大なるドラゴン殿」
「無理、無理無理無理無理、いくらでも湧いてくる雑魚と言ったの
であるぞ」
 内心はこの場から即刻立ち去りたかったが、露原の乗り物で、
英島の資金源だ。逃げたらたった2本の人脈を失ってしまう。
「ここに偉大なるドラゴンが存在すると聞きました。特に
氷魔法では並ぶ者のいない絶対者であると!この黒魔導士もまた
氷魔法で並ぶ者はいないと自負しております」
 この黒魔導士 英島 とよ はぜひ勝負をお願いいたしたいとのことです。
「うむ、うむ」
 英島は誇らしげにうなづいている。
「そして、もし私たちが勝利した暁には仲間としてパーティーに加わって
頂きたい」
「遊びのつもりだったのだがな・・・」
 そう小さくつぶやいたウルティメットドラゴンではあったが、
「よかろう、高みを目指すその心意気は大切だ。だが、我が弱者に
従うことはない。その傲慢、死を持って償うがよい」
 ウルティメットドラゴンはそう吼えるとまぶたを閉じたまま、
 ゆっくりと動きを止め魔法の詠唱を始めた。
 はっきり言って詠唱中は無防備で逃げられそうではあるが、
英島と露原に逃げる気が無いようなので、諦めることにした。
 以前に英島から聞いた通りの最大級全体氷魔法だ。
ウルティメットドラゴンが詠唱を始めると、周囲の半径10キロメートルに
巨大な球形の魔法陣が浮かび上がり、その力が具現化していくのが分かった。
 ウルティメットドラゴンは万が一にもこちらに勝機があるとは
思ってはいないだろう。彼我の圧倒的戦力差は明白であり、
こちらの挑発に乗った、というよりはただの暇つぶしだろう。
実に愚かな勝負だ。常識では半径10キロメートル以内にいれば、
確実に死亡する予定だろう。
 俺はゲイジから、カーバンクル2匹とスライム3匹を呼び出すと、
その時をじっと待っていた。
 ウルティメットドラゴンが即死せず、ヒットポイント1割以下の
瀕死のダメージを与えるために。
 俺が準備を終えて3分後、ウルティメットドラゴンは信じられないものを見た
と言うように呆然としていた。
 ウルティメットドラゴンの最大級全体氷魔法は周囲10キロメートルを
氷漬けにしたが、俺たちのパーティーに反射され、9割以上のヒットポイント
を持っていかれ、自身が氷の彫像と成り果てていた。
「なあ、英島、氷の彫刻になっているんだがどうすればいい?」
 俺がよくわからずに聞くと、
「とりあえずテイムしてみたらどう?ゲイジに入れれば回復するでしょ?」
「う~ん、よくわからないけど。ウルティメットドラゴン、
勝負の前の言葉に偽りがないのなら仲間にならないとな」
「もとより覚悟の上、というか一人でこんなところに放置されて
寂しかったでござる」
「今日から私の乗り物だよ。私は竜騎士 露原 樹 よろしくね」
「よろしくでござる」
「テイムスキル発動」
そうコマンドを発すると、ドラゴンの氷は解け、目の前に鎮座していた。
「よろしくお願いいたしまするでござる。」
 それと名前がいるな。
 私が決める。竜の持ち主は竜騎士に決まってる。
「あんた、ドラキチね。よろしく」
「あ、うん、それでいいんじゃない」
 何とも形容しがたいが、これが俺たちの人生の転機となった。




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