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警部に誘われ、颯は屋上へとたどり着いた。
「うぉ……さむ……」
屋上には冷たい空気が漂っていた。しかし、朝感じた寒さより、一段と寒く感じる。
何か違うのだろうか……その答えは未だに出なかった。
颯がふと視線を落とすと、そこには線で死体のあった場所などがわかるように書かれていた。
そこは今はもはや血の海だった。それ以外の何物でもない。遠くまで広がり、どす黒いような赤色は、床に滲むようにこびり付いていた。
「ここが事件現場だ。ほれ、解けるもんなら解いてみろ」
警部は、煽るようにそういうとタバコを咥え火をつけた。が、しかし、なかなか火がつかず、イライラしていた。
「警部、ここは禁煙ですよ。正門近くの喫煙所で吸ってください」
「ん? おぉ、悪いな。風が強いのかね……」
颯が言うと、警部は階段を降りていった。
その背中を見送ると、颯はまず、死体のあったところに近づいた。
「触ってもいいですか?」
颯は鑑識たちに許可を取り、地面に触れた。
手袋がついていると分からないものもあるので、手袋はつけず。
すると、違和感があるのを感じた。なにかが……違う。
しかし、その違和感の正体は分からなかった。
これだけの情報じゃまだ分からない。そう思い、颯は立ち上がって下に降りようとした。警部に話を聞くのが一番早いと判断したためだ。
しかし、屋上を出ようとした時、目に入ったものが、そうさせなかった。
それは──壊れた屋上のドアの鍵だった。
周りを見たところ、鍵を壊せる道具なんてない。いや、それ以前に、この鍵は叩いて壊されたものではなかった。
──棒状のものでこじ開けられていたのだ。
ピッキング……だろうか。どちらにせよ、道具がない時点で、それは無理な話だ。
「……よし」
颯は振り返り、歩いて鑑識さんのそばまで行った。
「あの……被害者が持ってた持ち物って、見せてもらえますか?」
「え? あぁ、いいですが……」
そう言って鑑識さんは、その場に色々なものを広げた。
それは、大体で、だが三つの区切りをされていた。
恐らく、どれが誰のものかをわかりやすくするためだろう。
颯はまず、室長の持ち物を見た。
一番最初に手に取ったものは、スマホ。
起動ボタンを押し、スワイプすると、ロックがかかっていなかったのか、すぐにホーム画面が表示された。
そしてアプリを開けた。アプリと言っていいのかは分からないが……。
「……ふむ。なるほど」
颯はそれを見ただけで、少し理解をした。
そして、充分な情報が入ったと判断したのかスマホを置いた時、一つ、不思議なものが目に入った。
「それ……なんでこんな所に?」
そこに置いてあったのは、少し大きめのクーラーボックスだった。
「いや、分からないんだがね。死体より1mは離れたところに、ぽつんと置いてあったよ。中になにか入ってるのかと思って開けてみたんだが、何も入ってなくてね。不思議で仕方ないよ」
鑑識は言った。
続けて颯が聞く。
「クーラーボックスを開けた時、なにか違和感とかありませんでしたか?」
「違和感? ──そいやぁ、やけに冷たかったな。氷で濡れてたわけでもないのに」
冬だから冷やされていたわけでもない、ということだろうか。そうでなければわざわざ違和感として言うことでもない。
と、なると、考えうるものは一つに絞られた。
だが、その時点で颯にはわからない点がいくつかあった。
まずは三人の動機。これがわからなければ証明にならない。
そして誰がやったか。これをやるのは、誰だって可能だ。誰がやったかを当てなければ、意味がない。
そして最後に、──何故、颯達を犯人と疑わせたのか。
鑑識さんが広げる証拠品の中に、針金と思しきものがいくつかあった。恐らくこれで鍵をこじ開けたのだろう。
誰が開けたのか。それは一応わかってはいるが、それはただの推理であり、推論だ。だが、警察の人に調べてもらうことは可能だろう。となるとあとは──
「──あー、颯くんよ。報告であり、朗報だ」
その時突然、後ろから話しかけられた。さっきタバコを吸いに行った警部だった。
「朗報? 自首した人でもいたんですか?」
「いいや、違う。だが、君の言っていたものが見つかった」
「言っていたもの……?」
何かを探してほしいと言っていただろうか……。
すると警部は、呆れたように言った。
「例の、指紋だよ。作ってるやつがいやがった。それで君の無罪はほぼ確定、かな。まぁ、不可解なこともあるが」
そうだった。指紋を探すように言っていたのを、まるっきり忘れていた。
しかし不可解なこととはなんだろう。と思っていると、警部は言った。
「実は、指紋がいくら探しても二つしか見つからないんだ。最後の一つはどこにあるのやら」
そう言って警部は頬をかいた。
あー、と颯が言うと、警部は続けて聞いてきた。
「それで、君の方はどうだい? なにか見つかったかい?」
「あっ、えっと、殺害方法? は分かりました。それで、警部に頼みたいことがあるのですが……」
「……? なんだ?」
颯は頼み事を二つ言った。
そのうち一つは、少し難しいことではあるが、もう片方は簡単だ。警部も、快く承諾してくれた。
「今連絡してもらった。もうすぐ三人とも来るらしい。しっかし、アリバイどころか、ここに入ってやる意味のない三人の事情聴取とは……なにがしたい?」
「それはまだ秘密ですよ。ただ、これが事件を解く鍵となるはずです」
そう言って颯は、不敵に微笑んだ。
数分後、学校に三人の来客が来た。
被害者である、室長・桃園と、副室長・来栖、書記の宮田の三人の親である。
「ようこそお越しくださいました。早速ですが、一人一人事情聴取をさせてもらっても構わないでしょうか?」
颯は、三人を出迎えてそう言った。
もちろん事情聴取と言っても、颯のような一般人だけではいけないので、警察も一緒に聞くことになっている。ただ、メインは颯である。
「構いませんが……意味があるでしょうか?そもそも、あなたもうちの子と同じ高校生ですよね? 遊びに付き合うために呼ばれたのであれば帰りますが……」
桃園の母が言った。なるほど、正論ではある。だが、こちらとしても、ハイわかりましたと帰すわけにはいかない。
「ご安心ください。これは本気の操作です。警察の方もついていますので、意味がある事情聴取というのはお分かりいただけると思います」
颯は必死になってそう言った。すると、三人は互いに見合って、頷いた。
「分かりました。事情聴取を受けます」
その言葉で、凡人の颯による事情聴取が始まった。
①室長・桃園寛太の母、桃園京子の証言
「──ではまず、殺害されたと思われる時間帯、どこで何をされていたかわかりますか?」
「……え? それは、私が、ということですよね?」
颯が一番にした質問は、『誰が』という言葉が抜けていたため、桃園母は戸惑ってしまった。
それを颯は必死で取り繕う──フリをする。
「あぁいえ、僕が聞きたいのは、その時間帯に、息子さんは何をされていたのかを聞きたいのです」
この質問は、実に悪意が強いものだった。
普通ならば、答えられるはずがない。普通なら、だが。
「その時は確か、寝てたと思います。ちょうど喉が渇いて、見に行っていたので」
「……そうですか。ありがとうございます。では次に、あなたの家庭は金銭的に苦しかったと聞きますが、それはどうでしたか?」
「ええ、金銭的に苦しい、という状態が続いていました。夫もいないので、誰かが働く必要があるのですが……私もバイトをしていますが、それでもなかなか苦しいものがあります」
彼女はそう言って、少し俯いた。おそらくこの質問によって、ほとんど答えがわかってしまうかもしれない、と颯は思った。だが、質問をやめるわけにはいかない。
「では、最後の質問です」
颯は一度目を閉じ、また開いてから、言った。
「息子さんは、生命保険に入っていましたか?」
「ありがとうございました。では、来栖さんお願いします」
最初の事情聴取でだいたい分かったが、しかし念のため、ほかのふたりにも聞くことにした。
最後の質問を除き──これはほかの人が知る必要も無いことだから──、セリフでお送りすることにする。
②来栖翔人の母・来栖藤子の証言
「では、まずは息子さんが殺された時間帯、いえ、もう少し前の時間帯、息子さんは何をされていましたか?」
「さぁ……私は見てないですね。それがなにか?」
「いえ……では次の質問へ行きます。来栖さんのお宅は金銭的に厳しいと聞きましたが、本当ですか?」
「えぇ、まぁ。一体なんです? この質問は」
「気にしないでください」
③宮田和也の母・宮田敦子の証言
「早速ですが、息子さんが殺される少し前の時間帯、息子さんが何をされていたかご存知ですか?」
「えぇ! 勉強してましたよ! 必死にね!」
「そうですか。では次に、あなたのご家庭は金銭的に色々と脅かされていると聞きましたが……」
「えぇー、まぁ、貧乏ですわね! でもなんの問題もありませんわ!」
「あ、ありがとうございます……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
なかなか個性的な人たちだった、と思った。桃園さんは中学生ぐらいに見えて、めちゃくちゃ愛くるしい可愛さがあったし、来栖さんは疑り深い性格、宮田さんは『ですわ調』の話し方をする人だった。最後だけなんだよ……。
しかし、これで動機もわかった。あとは誰がやったかと、颯達を犯人に仕立てあげた理由が分かれば、謎解きショーができる。
すると、教室に走ってくる足音が聞こえた。
そして急に扉が開かれたと思うと……
「白森警部! 見つかりました! それと、誰の指紋かも特定終わりました!」
「本当か!? 誰が──」
「──それってもしかしてですが……」
颯は警部の言葉を遮り、走ってきた刑事に聞いた。
すると、思っていた通りの返答が来た。
これで、ほとんどのパーツが出来上がった。あとは、最後のパーツだけだ。
その時、ふと思い出したことがあった。
「……警部。今回の殺害、女子には無理なんですよね?」
「ん? あぁ、そうだが……それがどうかしたか?」
「となると、男子三人組でいつもつるんでる奴が犯人って分かるんですよね?」
「……? そうだな」
なるほど、と颯は思った。
それならば、颯達を犯人に仕立てあげた理由がわかった。
「パーツが整いました。チェックメイト……です」
謎を解き終わった颯は不敵に微笑みそう言った。
「おい聞いたかよ、もう分かったんだってよ!」
「まじかよ、あいつそんな才能あったのかよ」
「凄いよねー、こんな謎を解けるなんてー!」
「妃くん……頑張れ」
体育館に戻ると、想像していた通りにざわざわとしていた。
しかし颯が入った瞬間、その喧騒もピタリとやんだ。
颯はその重い空気の中、ステージへと歩いた。
ステージの真ん中に立つと、颯はマイクを持って、言った。
「みんな……犯人がわかった」
颯がそう言うと、再びざわざわとざわめきたつ。
「結論から言おう。この事件の犯人。それは──」
この、全校生徒を巻き込んだ事件の。
凡人でありながら、凄い観察力と推理力を持つ少年を巻き込んだ、少年初の大事件を巻き起こした犯人とは。
「──犯人は、いない」
この結論に至った。
そして思った通り、一瞬の沈黙が生まれた。
そして皆いっせいに、叫んだ。
「「──っはぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」
予想通りの反応だった。沈黙の間に、颯は既に耳を塞いでいた。
「予想通りの反応ありがとう。そしてもう一度言おう。この事件、犯人はいない。強いて言うのであれば……」
「……あれば……?」
「──被害者の、三人かな?」
またもや沈黙。みんな驚いたような表情を作っている。ただ一人、奥にいる、桃園京子を除いては。
──やはり知っていたか……
「ちょっ、待てよ! 被害者が犯人って、どういうことだよ!」
クラスメイトのひとりが、反論する。こいつは確か……そうだ、クラスで朝、こっちを見てニヤニヤ笑っていたやつだ。濱部だったかな?
──白々しい……!
「簡単な話だよ。この事件の真相、それは殺人なんかじゃないんだ」
「……は?」
「殺人以外にあるかよ! 後ろから刺されてんだぞ!?」
そう反論するのは同じくニヤついていた、新井と片西だ。
墓穴を掘ってくれてありがとう、二人共。
「……ほう? じゃあ聞くが、本当に殺人以外にないと?」
「……ないだろ」
「いいや。実はあるんだよ、これが」
颯がそう言って手を上げると、ステージのスクリーンが降りた。
そこに映し出されるのは、黒い人の形をした画像。
「簡単に言うと、三人は自殺した。その方法も簡単だ。まず、現場には不思議なものが置いてあった」
そう言うと同時に、スクリーンが切り替わり、そこにはクーラーボックスが映し出された。
「普通屋上にこんなもん持ってかないだろ。そして、やけに屋上だけ寒い空気、どんだけ頑張っても着かない火。これから導き出せる結論は一つだ」
颯が人差し指を突き出し、『一』を表す。
そして、続けていう。
「使ったのは、ドライアイスだ。現場は濡れていなかったし、クーラーボックスも濡れていなかったから、氷は無い。それに、ドライアイスは二酸化炭素の個体。そこから出る気体ももちろん二酸化炭素。だから、火がつかないのも当然。そうとしか考えられない。自殺方法はこうだ」
そう言うと、また画面が切り替わる。
元の、人間の画像が映し出された画面だ。
「まず、ドライアイスには少し、包丁の柄の部分が刺さるように穴を開けて保存しておく。そして、屋上にある三人を呼び出しておく。その三人は、指示を公衆電話で聞いていた」
「ちょっと待てよ。なんで公衆電話なんだ? 普通の電話じゃダメなのか?」
そこで、違う生徒からの指摘が入る。
いけないいけない忘れていた。
「実は、被害者のスマホを見たんだが、着信履歴の一番上、つまり最近のものは、非通知だったんだ。つまり、公衆電話からの電話となる。もちろん、警察の人には散々探し回ってもらったが、見つかったみたいでね。指紋も採取して、誰が電話をとったかを確認してある」
「誰だよ?」
「それはまだだよ。では、続けていいかな?」
そうみんなに聞くと、みんなは無言で頷いた。
「では続きだ。電話で呼び出した後、すぐにピッキングをして屋上でドライアイスをセットする。ピッキングはあらかじめ練習してたのか、屋上の鍵は普通に開けられていた。無理矢理ではなかったね。そしてドライアイスに包丁を刺す。これで準備OKだ」
スクリーンには、その通りのものが映されていた。ドライアイスに、包丁が刺さった写真が。
あとはみんなでも謎は解けるだろう。颯はそう思った。颯は、みんなを代表して言うだけだ。
「こうなりゃもう分かるだろうけどね。その場所に、後ろ向きで倒れたんだ。それで後ろから刺された風になる」
それがこの、殺人に見せかけた自殺だ。しかもそれだけじゃない。
「さて、まだ電話の相手は言わないよ。指示の内容もね。まず先に動機だ」
颯はそう言って、被害者の親三人を見る。
「なんで自殺したか。その理由は、生命保険金だよ」
「生命保険金??」
「そう。三人とも、家庭の金銭事情が、あまり良くなかっただろ? バイトもやって、学校にも来て。三人ともものすごく疲れてた。親に楽させたかった。それで思いついたのが、生命保険なんだよ」
保護者三人に聞いたのは、その為だった。三人が三人とも『入っている』と言った時点で、その動機に確信がいった。
「それで……桃園さん、それと、宮田さん……おふたりは、この事件を聞いた時、自殺とすぐに分かっていましたね?」
颯はふたりを見て言った。
すると、桃園京子は、ステージへと歩き出した。
ステージに登壇し、颯の隣に行くと、腕を差し出した。
どうやらマイクを渡せということらしい。
「どうぞ」
そう言って颯はマイクを差し出した。
京子はマイクを握り、みんなの方を向いて、言った。
「その通りです、妃颯くん。私は気づいていました。でも、ほかの人が殺人の疑惑を投げかけられているのに、そう言ったら、ある意味かわいそうだと思って黙っていました。すいませんでした。うちの息子が……迷惑をかけて……!」
「迷惑だなんて思ってませんよ。いずれにせよ、解かなければいけない謎でした。寛太くんはきっかけを与えてくれたんです」
そう微笑んで言うが、しかしそれは後付けの理由、本当は何故こんなことに、と迷惑被っていた。
「そう言っていただけると幸いです」
そう言って彼女は、颯にマイクを渡した。
颯は気を取り直し、続けて言った。
「さて、それじゃあ電話は何故したのか、教えよう。今までの推理で出てきてない重要なことがあるのをお忘れかな?」
そう聞くと、みんなは何のことだ?と首をひねる。
無理もない、さっきのインパクトが強すぎたのだ。
「俺達が疑われた理由だよ。指紋、そして俺達の私物。電話の相手は、これを置くための指示を聞いた」
その証拠品を、誰のにするかってなった時に颯たちの名前が出たんだろう。
「そしてその後、死没したみんなの指示を実行した。簡単に言えば、作った指紋で俺達の私物を置いた。だが、失敗したみたいでな。そのうち二つ見つかった。んで、ここで本題の、誰が指示を聞いたか、だ」
そう言って颯はある一点を見る。
そこは、颯のクラスの、3-2のメンバーが並ぶ場所だ。
そして、そのまま告げる。
「新井、片西、濱部。お前達だろ」
「──っ! はぁ? んなわけねぇだろ!」
「とりあえずお前ら、前来てくんない……?」
困ったように颯が言うと、三人は少し怒りながらも前に出てきた。
そして、新井がいう。
「俺らがやったって証拠でもあんのかよ」
「いくつもあるよ。まず、さっきも言った通り、指紋が電話や指紋のやつから出た。流石に二重で指紋を付けるのは無理があるからな」
「ぅ……ぬっ……! で、でもよ! それだけじゃ証拠にならねぇだろ!」
確実なる証拠を突きつけたにも関わらず、しかし新井は食い下がってきた。
「ほぉ? じゃあお前らが自白したっていえばどうかな?」
「……は?」
三人が、固まる。いや、三人だけではない。ほかの人たちも固まっていた。
いつそんなこと言った、と言わんばかりに。
「俺達が」実際、新井は言う。「いつそんなこと言ったんだよ!」
「お前は自分で墓穴を掘ったことを忘れているのか。教えてやるよ。お前は俺が、被害者が自殺をした、と言った時なんて言った?」
颯は、意地悪をするように笑いながら言う。全く、意地の悪いやつで、しかし敵に回すのは嫌な奴だな、と改めて思った。
新井は、思い出しながら言った。
「殺人以外あるかよ……って」
「その後に言った言葉は?」
「……なんだった?」
これは決してとぼけているようではなかった。本心から忘れているようだ。
──仕方ない、教えてやるか。
颯はまたもや意地悪そうに、言った。
「教えてやろう。お前は『後ろから刺されてんだぞ』と言ったんだよ」
「……それのどこがおかしいんだ?」
「明らかにおかしいだろう?だって警察は──刺された、としか言ってないんだからなぁ?」
「そ、それは……」
「この程度の推理ができないやつが、そんなこと分かるはずもないんだよ。まぁ俺は、二パターンのうちそっちと断定していたが。んで、それ以外に知る方法と言ったら……」
「──もういい! うるさい!」
颯が言い終わる前に、濱部が遮った。
「……それは罪を認めるってことでいいのか?」
「俺達はなんの罪も犯してないだろ。ふざけるな!」
「そうだ! それに、本当に三人の指紋が見つかったのかよ!」
濱部に続き、片西まで反論してくる。
その反乱には、少し困った。なぜなら、出てきた指紋はひとつだけだったからだ。
もう一つはどこに行ったのか……しかし颯には、それすらも分かっていたようだった。
「確かに二つしか見つかってねぇなぁ。残り一つは見つかるわけねぇもんな」
「じゃあ──」
「──最後の一個は片西、お前が持ってんだろ」
片西の言葉を遮って颯が言うと、片西はそこで固まってしまう。
そこに颯は追い打ちをかけるように言った。
「その右ポケットからチラって見える透明のもん、なんだ?」
もちろん嘘である。そんなものは一切見えていない。だが、片西はそのブラフすら見抜けず、まんまと策にはまってしまった。
「そんなバカな……!」
そう言ってポケットを探り、奥の方にあるのを確認して、安堵した。そしてその安堵が、命取りだった。
片西がポケットから手を出すと、ポケットから何かものが落ちた。
「おい、なんか落ちたぞ。拾わなくていいのか?」
あくまでも何もわかっていない様子を颯は装っていたが、しかし実際はわかっていた。
片西はそれに気づかず、大人しく拾おうとした。
「あぁ、すまん。拾わせてもら──っ!?」
その落ちたものは、少し黄ばんだ、指紋を象ったものだった。それに気づいた片西は、拾う姿勢で静止する。
「どうした? 拾わないのか? その──指紋のやつ」
その顔は、はっきり言って悪魔の顔だった。ハメられてしまった片西は、その場で崩れ落ちる。
「──そうだよ。俺達が……指示を受けてやったんだよ。でもよ、頼まれてやったことだし、俺達が殺したわけでもないから、なんも捕まらねぇだろ!? 俺達が咎められる理由なんて無いはずだ!」
「そうでもないんだよ、片西」
片西の叫びに、颯は諭すように言う。
「残念だが、それは現場荒らしとして犯罪になる。お前達は……捕まるんだよ」
颯は本当に残念そうに言った。だが、その反面、安堵の気持ちもあった。
片西はその場で動かなくなってしまった。何やらブツブツと喋っているようだが、よく聞き取れない。だが、本当に終わった、という顔をしていた。
「これが……事件の真相だ。Q.E.D.(証明終了)」
こうして、高校中を騒がせた事件の幕は閉じた。
それ以降、妃颯の、探偵としての名も、広がっていった。
「颯くん。事件解決お疲れ様」
「いえ。現場を見せていただき、ありがとうございます、白森警部」
颯と白森の挨拶も終わり、颯はそのまま体育館から消えた。
颯が向かった先は、特別棟の空き室の『古書室』とプレートが書かれた部屋だった。
「これで満足ですか? 全く、人で弄んで」
颯がそう言った。
何も無い影、ではなく、実体のある影に対し。
「うんうん、上出来だよ、颯くん。ずっと見てたけど、なかなかの推理だったね。簡単だったけど」
「わかってたんなら教えてくださいよ。ところで、誰が意地の悪く敵に回したくない奴なんですか?」
颯はそう笑って言った。
それに対し影──私が答える。
「君だよ、君。さぁ、次も事件を頑張って解いてね。ずぅっと見てるから」
私はそう言い奥へと向かった。
颯はそのまま──より一歩下がって、言った。
「次事件が起きても、解くだけですよ。ただの凡人の俺が」
颯は、凡人を強調してそう言ってから、踵を返して出ていった。
「──楽しみにしてるよ、〇〇〇〇・〇〇〇〇──」
誰もいなくなった部屋で一人、私は呟いた──。
「うぉ……さむ……」
屋上には冷たい空気が漂っていた。しかし、朝感じた寒さより、一段と寒く感じる。
何か違うのだろうか……その答えは未だに出なかった。
颯がふと視線を落とすと、そこには線で死体のあった場所などがわかるように書かれていた。
そこは今はもはや血の海だった。それ以外の何物でもない。遠くまで広がり、どす黒いような赤色は、床に滲むようにこびり付いていた。
「ここが事件現場だ。ほれ、解けるもんなら解いてみろ」
警部は、煽るようにそういうとタバコを咥え火をつけた。が、しかし、なかなか火がつかず、イライラしていた。
「警部、ここは禁煙ですよ。正門近くの喫煙所で吸ってください」
「ん? おぉ、悪いな。風が強いのかね……」
颯が言うと、警部は階段を降りていった。
その背中を見送ると、颯はまず、死体のあったところに近づいた。
「触ってもいいですか?」
颯は鑑識たちに許可を取り、地面に触れた。
手袋がついていると分からないものもあるので、手袋はつけず。
すると、違和感があるのを感じた。なにかが……違う。
しかし、その違和感の正体は分からなかった。
これだけの情報じゃまだ分からない。そう思い、颯は立ち上がって下に降りようとした。警部に話を聞くのが一番早いと判断したためだ。
しかし、屋上を出ようとした時、目に入ったものが、そうさせなかった。
それは──壊れた屋上のドアの鍵だった。
周りを見たところ、鍵を壊せる道具なんてない。いや、それ以前に、この鍵は叩いて壊されたものではなかった。
──棒状のものでこじ開けられていたのだ。
ピッキング……だろうか。どちらにせよ、道具がない時点で、それは無理な話だ。
「……よし」
颯は振り返り、歩いて鑑識さんのそばまで行った。
「あの……被害者が持ってた持ち物って、見せてもらえますか?」
「え? あぁ、いいですが……」
そう言って鑑識さんは、その場に色々なものを広げた。
それは、大体で、だが三つの区切りをされていた。
恐らく、どれが誰のものかをわかりやすくするためだろう。
颯はまず、室長の持ち物を見た。
一番最初に手に取ったものは、スマホ。
起動ボタンを押し、スワイプすると、ロックがかかっていなかったのか、すぐにホーム画面が表示された。
そしてアプリを開けた。アプリと言っていいのかは分からないが……。
「……ふむ。なるほど」
颯はそれを見ただけで、少し理解をした。
そして、充分な情報が入ったと判断したのかスマホを置いた時、一つ、不思議なものが目に入った。
「それ……なんでこんな所に?」
そこに置いてあったのは、少し大きめのクーラーボックスだった。
「いや、分からないんだがね。死体より1mは離れたところに、ぽつんと置いてあったよ。中になにか入ってるのかと思って開けてみたんだが、何も入ってなくてね。不思議で仕方ないよ」
鑑識は言った。
続けて颯が聞く。
「クーラーボックスを開けた時、なにか違和感とかありませんでしたか?」
「違和感? ──そいやぁ、やけに冷たかったな。氷で濡れてたわけでもないのに」
冬だから冷やされていたわけでもない、ということだろうか。そうでなければわざわざ違和感として言うことでもない。
と、なると、考えうるものは一つに絞られた。
だが、その時点で颯にはわからない点がいくつかあった。
まずは三人の動機。これがわからなければ証明にならない。
そして誰がやったか。これをやるのは、誰だって可能だ。誰がやったかを当てなければ、意味がない。
そして最後に、──何故、颯達を犯人と疑わせたのか。
鑑識さんが広げる証拠品の中に、針金と思しきものがいくつかあった。恐らくこれで鍵をこじ開けたのだろう。
誰が開けたのか。それは一応わかってはいるが、それはただの推理であり、推論だ。だが、警察の人に調べてもらうことは可能だろう。となるとあとは──
「──あー、颯くんよ。報告であり、朗報だ」
その時突然、後ろから話しかけられた。さっきタバコを吸いに行った警部だった。
「朗報? 自首した人でもいたんですか?」
「いいや、違う。だが、君の言っていたものが見つかった」
「言っていたもの……?」
何かを探してほしいと言っていただろうか……。
すると警部は、呆れたように言った。
「例の、指紋だよ。作ってるやつがいやがった。それで君の無罪はほぼ確定、かな。まぁ、不可解なこともあるが」
そうだった。指紋を探すように言っていたのを、まるっきり忘れていた。
しかし不可解なこととはなんだろう。と思っていると、警部は言った。
「実は、指紋がいくら探しても二つしか見つからないんだ。最後の一つはどこにあるのやら」
そう言って警部は頬をかいた。
あー、と颯が言うと、警部は続けて聞いてきた。
「それで、君の方はどうだい? なにか見つかったかい?」
「あっ、えっと、殺害方法? は分かりました。それで、警部に頼みたいことがあるのですが……」
「……? なんだ?」
颯は頼み事を二つ言った。
そのうち一つは、少し難しいことではあるが、もう片方は簡単だ。警部も、快く承諾してくれた。
「今連絡してもらった。もうすぐ三人とも来るらしい。しっかし、アリバイどころか、ここに入ってやる意味のない三人の事情聴取とは……なにがしたい?」
「それはまだ秘密ですよ。ただ、これが事件を解く鍵となるはずです」
そう言って颯は、不敵に微笑んだ。
数分後、学校に三人の来客が来た。
被害者である、室長・桃園と、副室長・来栖、書記の宮田の三人の親である。
「ようこそお越しくださいました。早速ですが、一人一人事情聴取をさせてもらっても構わないでしょうか?」
颯は、三人を出迎えてそう言った。
もちろん事情聴取と言っても、颯のような一般人だけではいけないので、警察も一緒に聞くことになっている。ただ、メインは颯である。
「構いませんが……意味があるでしょうか?そもそも、あなたもうちの子と同じ高校生ですよね? 遊びに付き合うために呼ばれたのであれば帰りますが……」
桃園の母が言った。なるほど、正論ではある。だが、こちらとしても、ハイわかりましたと帰すわけにはいかない。
「ご安心ください。これは本気の操作です。警察の方もついていますので、意味がある事情聴取というのはお分かりいただけると思います」
颯は必死になってそう言った。すると、三人は互いに見合って、頷いた。
「分かりました。事情聴取を受けます」
その言葉で、凡人の颯による事情聴取が始まった。
①室長・桃園寛太の母、桃園京子の証言
「──ではまず、殺害されたと思われる時間帯、どこで何をされていたかわかりますか?」
「……え? それは、私が、ということですよね?」
颯が一番にした質問は、『誰が』という言葉が抜けていたため、桃園母は戸惑ってしまった。
それを颯は必死で取り繕う──フリをする。
「あぁいえ、僕が聞きたいのは、その時間帯に、息子さんは何をされていたのかを聞きたいのです」
この質問は、実に悪意が強いものだった。
普通ならば、答えられるはずがない。普通なら、だが。
「その時は確か、寝てたと思います。ちょうど喉が渇いて、見に行っていたので」
「……そうですか。ありがとうございます。では次に、あなたの家庭は金銭的に苦しかったと聞きますが、それはどうでしたか?」
「ええ、金銭的に苦しい、という状態が続いていました。夫もいないので、誰かが働く必要があるのですが……私もバイトをしていますが、それでもなかなか苦しいものがあります」
彼女はそう言って、少し俯いた。おそらくこの質問によって、ほとんど答えがわかってしまうかもしれない、と颯は思った。だが、質問をやめるわけにはいかない。
「では、最後の質問です」
颯は一度目を閉じ、また開いてから、言った。
「息子さんは、生命保険に入っていましたか?」
「ありがとうございました。では、来栖さんお願いします」
最初の事情聴取でだいたい分かったが、しかし念のため、ほかのふたりにも聞くことにした。
最後の質問を除き──これはほかの人が知る必要も無いことだから──、セリフでお送りすることにする。
②来栖翔人の母・来栖藤子の証言
「では、まずは息子さんが殺された時間帯、いえ、もう少し前の時間帯、息子さんは何をされていましたか?」
「さぁ……私は見てないですね。それがなにか?」
「いえ……では次の質問へ行きます。来栖さんのお宅は金銭的に厳しいと聞きましたが、本当ですか?」
「えぇ、まぁ。一体なんです? この質問は」
「気にしないでください」
③宮田和也の母・宮田敦子の証言
「早速ですが、息子さんが殺される少し前の時間帯、息子さんが何をされていたかご存知ですか?」
「えぇ! 勉強してましたよ! 必死にね!」
「そうですか。では次に、あなたのご家庭は金銭的に色々と脅かされていると聞きましたが……」
「えぇー、まぁ、貧乏ですわね! でもなんの問題もありませんわ!」
「あ、ありがとうございます……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
なかなか個性的な人たちだった、と思った。桃園さんは中学生ぐらいに見えて、めちゃくちゃ愛くるしい可愛さがあったし、来栖さんは疑り深い性格、宮田さんは『ですわ調』の話し方をする人だった。最後だけなんだよ……。
しかし、これで動機もわかった。あとは誰がやったかと、颯達を犯人に仕立てあげた理由が分かれば、謎解きショーができる。
すると、教室に走ってくる足音が聞こえた。
そして急に扉が開かれたと思うと……
「白森警部! 見つかりました! それと、誰の指紋かも特定終わりました!」
「本当か!? 誰が──」
「──それってもしかしてですが……」
颯は警部の言葉を遮り、走ってきた刑事に聞いた。
すると、思っていた通りの返答が来た。
これで、ほとんどのパーツが出来上がった。あとは、最後のパーツだけだ。
その時、ふと思い出したことがあった。
「……警部。今回の殺害、女子には無理なんですよね?」
「ん? あぁ、そうだが……それがどうかしたか?」
「となると、男子三人組でいつもつるんでる奴が犯人って分かるんですよね?」
「……? そうだな」
なるほど、と颯は思った。
それならば、颯達を犯人に仕立てあげた理由がわかった。
「パーツが整いました。チェックメイト……です」
謎を解き終わった颯は不敵に微笑みそう言った。
「おい聞いたかよ、もう分かったんだってよ!」
「まじかよ、あいつそんな才能あったのかよ」
「凄いよねー、こんな謎を解けるなんてー!」
「妃くん……頑張れ」
体育館に戻ると、想像していた通りにざわざわとしていた。
しかし颯が入った瞬間、その喧騒もピタリとやんだ。
颯はその重い空気の中、ステージへと歩いた。
ステージの真ん中に立つと、颯はマイクを持って、言った。
「みんな……犯人がわかった」
颯がそう言うと、再びざわざわとざわめきたつ。
「結論から言おう。この事件の犯人。それは──」
この、全校生徒を巻き込んだ事件の。
凡人でありながら、凄い観察力と推理力を持つ少年を巻き込んだ、少年初の大事件を巻き起こした犯人とは。
「──犯人は、いない」
この結論に至った。
そして思った通り、一瞬の沈黙が生まれた。
そして皆いっせいに、叫んだ。
「「──っはぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」
予想通りの反応だった。沈黙の間に、颯は既に耳を塞いでいた。
「予想通りの反応ありがとう。そしてもう一度言おう。この事件、犯人はいない。強いて言うのであれば……」
「……あれば……?」
「──被害者の、三人かな?」
またもや沈黙。みんな驚いたような表情を作っている。ただ一人、奥にいる、桃園京子を除いては。
──やはり知っていたか……
「ちょっ、待てよ! 被害者が犯人って、どういうことだよ!」
クラスメイトのひとりが、反論する。こいつは確か……そうだ、クラスで朝、こっちを見てニヤニヤ笑っていたやつだ。濱部だったかな?
──白々しい……!
「簡単な話だよ。この事件の真相、それは殺人なんかじゃないんだ」
「……は?」
「殺人以外にあるかよ! 後ろから刺されてんだぞ!?」
そう反論するのは同じくニヤついていた、新井と片西だ。
墓穴を掘ってくれてありがとう、二人共。
「……ほう? じゃあ聞くが、本当に殺人以外にないと?」
「……ないだろ」
「いいや。実はあるんだよ、これが」
颯がそう言って手を上げると、ステージのスクリーンが降りた。
そこに映し出されるのは、黒い人の形をした画像。
「簡単に言うと、三人は自殺した。その方法も簡単だ。まず、現場には不思議なものが置いてあった」
そう言うと同時に、スクリーンが切り替わり、そこにはクーラーボックスが映し出された。
「普通屋上にこんなもん持ってかないだろ。そして、やけに屋上だけ寒い空気、どんだけ頑張っても着かない火。これから導き出せる結論は一つだ」
颯が人差し指を突き出し、『一』を表す。
そして、続けていう。
「使ったのは、ドライアイスだ。現場は濡れていなかったし、クーラーボックスも濡れていなかったから、氷は無い。それに、ドライアイスは二酸化炭素の個体。そこから出る気体ももちろん二酸化炭素。だから、火がつかないのも当然。そうとしか考えられない。自殺方法はこうだ」
そう言うと、また画面が切り替わる。
元の、人間の画像が映し出された画面だ。
「まず、ドライアイスには少し、包丁の柄の部分が刺さるように穴を開けて保存しておく。そして、屋上にある三人を呼び出しておく。その三人は、指示を公衆電話で聞いていた」
「ちょっと待てよ。なんで公衆電話なんだ? 普通の電話じゃダメなのか?」
そこで、違う生徒からの指摘が入る。
いけないいけない忘れていた。
「実は、被害者のスマホを見たんだが、着信履歴の一番上、つまり最近のものは、非通知だったんだ。つまり、公衆電話からの電話となる。もちろん、警察の人には散々探し回ってもらったが、見つかったみたいでね。指紋も採取して、誰が電話をとったかを確認してある」
「誰だよ?」
「それはまだだよ。では、続けていいかな?」
そうみんなに聞くと、みんなは無言で頷いた。
「では続きだ。電話で呼び出した後、すぐにピッキングをして屋上でドライアイスをセットする。ピッキングはあらかじめ練習してたのか、屋上の鍵は普通に開けられていた。無理矢理ではなかったね。そしてドライアイスに包丁を刺す。これで準備OKだ」
スクリーンには、その通りのものが映されていた。ドライアイスに、包丁が刺さった写真が。
あとはみんなでも謎は解けるだろう。颯はそう思った。颯は、みんなを代表して言うだけだ。
「こうなりゃもう分かるだろうけどね。その場所に、後ろ向きで倒れたんだ。それで後ろから刺された風になる」
それがこの、殺人に見せかけた自殺だ。しかもそれだけじゃない。
「さて、まだ電話の相手は言わないよ。指示の内容もね。まず先に動機だ」
颯はそう言って、被害者の親三人を見る。
「なんで自殺したか。その理由は、生命保険金だよ」
「生命保険金??」
「そう。三人とも、家庭の金銭事情が、あまり良くなかっただろ? バイトもやって、学校にも来て。三人ともものすごく疲れてた。親に楽させたかった。それで思いついたのが、生命保険なんだよ」
保護者三人に聞いたのは、その為だった。三人が三人とも『入っている』と言った時点で、その動機に確信がいった。
「それで……桃園さん、それと、宮田さん……おふたりは、この事件を聞いた時、自殺とすぐに分かっていましたね?」
颯はふたりを見て言った。
すると、桃園京子は、ステージへと歩き出した。
ステージに登壇し、颯の隣に行くと、腕を差し出した。
どうやらマイクを渡せということらしい。
「どうぞ」
そう言って颯はマイクを差し出した。
京子はマイクを握り、みんなの方を向いて、言った。
「その通りです、妃颯くん。私は気づいていました。でも、ほかの人が殺人の疑惑を投げかけられているのに、そう言ったら、ある意味かわいそうだと思って黙っていました。すいませんでした。うちの息子が……迷惑をかけて……!」
「迷惑だなんて思ってませんよ。いずれにせよ、解かなければいけない謎でした。寛太くんはきっかけを与えてくれたんです」
そう微笑んで言うが、しかしそれは後付けの理由、本当は何故こんなことに、と迷惑被っていた。
「そう言っていただけると幸いです」
そう言って彼女は、颯にマイクを渡した。
颯は気を取り直し、続けて言った。
「さて、それじゃあ電話は何故したのか、教えよう。今までの推理で出てきてない重要なことがあるのをお忘れかな?」
そう聞くと、みんなは何のことだ?と首をひねる。
無理もない、さっきのインパクトが強すぎたのだ。
「俺達が疑われた理由だよ。指紋、そして俺達の私物。電話の相手は、これを置くための指示を聞いた」
その証拠品を、誰のにするかってなった時に颯たちの名前が出たんだろう。
「そしてその後、死没したみんなの指示を実行した。簡単に言えば、作った指紋で俺達の私物を置いた。だが、失敗したみたいでな。そのうち二つ見つかった。んで、ここで本題の、誰が指示を聞いたか、だ」
そう言って颯はある一点を見る。
そこは、颯のクラスの、3-2のメンバーが並ぶ場所だ。
そして、そのまま告げる。
「新井、片西、濱部。お前達だろ」
「──っ! はぁ? んなわけねぇだろ!」
「とりあえずお前ら、前来てくんない……?」
困ったように颯が言うと、三人は少し怒りながらも前に出てきた。
そして、新井がいう。
「俺らがやったって証拠でもあんのかよ」
「いくつもあるよ。まず、さっきも言った通り、指紋が電話や指紋のやつから出た。流石に二重で指紋を付けるのは無理があるからな」
「ぅ……ぬっ……! で、でもよ! それだけじゃ証拠にならねぇだろ!」
確実なる証拠を突きつけたにも関わらず、しかし新井は食い下がってきた。
「ほぉ? じゃあお前らが自白したっていえばどうかな?」
「……は?」
三人が、固まる。いや、三人だけではない。ほかの人たちも固まっていた。
いつそんなこと言った、と言わんばかりに。
「俺達が」実際、新井は言う。「いつそんなこと言ったんだよ!」
「お前は自分で墓穴を掘ったことを忘れているのか。教えてやるよ。お前は俺が、被害者が自殺をした、と言った時なんて言った?」
颯は、意地悪をするように笑いながら言う。全く、意地の悪いやつで、しかし敵に回すのは嫌な奴だな、と改めて思った。
新井は、思い出しながら言った。
「殺人以外あるかよ……って」
「その後に言った言葉は?」
「……なんだった?」
これは決してとぼけているようではなかった。本心から忘れているようだ。
──仕方ない、教えてやるか。
颯はまたもや意地悪そうに、言った。
「教えてやろう。お前は『後ろから刺されてんだぞ』と言ったんだよ」
「……それのどこがおかしいんだ?」
「明らかにおかしいだろう?だって警察は──刺された、としか言ってないんだからなぁ?」
「そ、それは……」
「この程度の推理ができないやつが、そんなこと分かるはずもないんだよ。まぁ俺は、二パターンのうちそっちと断定していたが。んで、それ以外に知る方法と言ったら……」
「──もういい! うるさい!」
颯が言い終わる前に、濱部が遮った。
「……それは罪を認めるってことでいいのか?」
「俺達はなんの罪も犯してないだろ。ふざけるな!」
「そうだ! それに、本当に三人の指紋が見つかったのかよ!」
濱部に続き、片西まで反論してくる。
その反乱には、少し困った。なぜなら、出てきた指紋はひとつだけだったからだ。
もう一つはどこに行ったのか……しかし颯には、それすらも分かっていたようだった。
「確かに二つしか見つかってねぇなぁ。残り一つは見つかるわけねぇもんな」
「じゃあ──」
「──最後の一個は片西、お前が持ってんだろ」
片西の言葉を遮って颯が言うと、片西はそこで固まってしまう。
そこに颯は追い打ちをかけるように言った。
「その右ポケットからチラって見える透明のもん、なんだ?」
もちろん嘘である。そんなものは一切見えていない。だが、片西はそのブラフすら見抜けず、まんまと策にはまってしまった。
「そんなバカな……!」
そう言ってポケットを探り、奥の方にあるのを確認して、安堵した。そしてその安堵が、命取りだった。
片西がポケットから手を出すと、ポケットから何かものが落ちた。
「おい、なんか落ちたぞ。拾わなくていいのか?」
あくまでも何もわかっていない様子を颯は装っていたが、しかし実際はわかっていた。
片西はそれに気づかず、大人しく拾おうとした。
「あぁ、すまん。拾わせてもら──っ!?」
その落ちたものは、少し黄ばんだ、指紋を象ったものだった。それに気づいた片西は、拾う姿勢で静止する。
「どうした? 拾わないのか? その──指紋のやつ」
その顔は、はっきり言って悪魔の顔だった。ハメられてしまった片西は、その場で崩れ落ちる。
「──そうだよ。俺達が……指示を受けてやったんだよ。でもよ、頼まれてやったことだし、俺達が殺したわけでもないから、なんも捕まらねぇだろ!? 俺達が咎められる理由なんて無いはずだ!」
「そうでもないんだよ、片西」
片西の叫びに、颯は諭すように言う。
「残念だが、それは現場荒らしとして犯罪になる。お前達は……捕まるんだよ」
颯は本当に残念そうに言った。だが、その反面、安堵の気持ちもあった。
片西はその場で動かなくなってしまった。何やらブツブツと喋っているようだが、よく聞き取れない。だが、本当に終わった、という顔をしていた。
「これが……事件の真相だ。Q.E.D.(証明終了)」
こうして、高校中を騒がせた事件の幕は閉じた。
それ以降、妃颯の、探偵としての名も、広がっていった。
「颯くん。事件解決お疲れ様」
「いえ。現場を見せていただき、ありがとうございます、白森警部」
颯と白森の挨拶も終わり、颯はそのまま体育館から消えた。
颯が向かった先は、特別棟の空き室の『古書室』とプレートが書かれた部屋だった。
「これで満足ですか? 全く、人で弄んで」
颯がそう言った。
何も無い影、ではなく、実体のある影に対し。
「うんうん、上出来だよ、颯くん。ずっと見てたけど、なかなかの推理だったね。簡単だったけど」
「わかってたんなら教えてくださいよ。ところで、誰が意地の悪く敵に回したくない奴なんですか?」
颯はそう笑って言った。
それに対し影──私が答える。
「君だよ、君。さぁ、次も事件を頑張って解いてね。ずぅっと見てるから」
私はそう言い奥へと向かった。
颯はそのまま──より一歩下がって、言った。
「次事件が起きても、解くだけですよ。ただの凡人の俺が」
颯は、凡人を強調してそう言ってから、踵を返して出ていった。
「──楽しみにしてるよ、〇〇〇〇・〇〇〇〇──」
誰もいなくなった部屋で一人、私は呟いた──。
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さて、もう一つの気になったところですが、file2で主人公の「普通屋上にこんなもの持ってかないだろ。そして、やけに屋上だけ寒い空気、どんだけ頑張っても着かない火。これから導き出せる答えは一つだ」というセリフ。
この〝どんだけ頑張っても着かない火〟という言葉が〝警部さんがタバコを吸おうとして中々火が着かなかった〟ということの説明なのはわかるのですが、それは読者だからわかるのであって屋上に一緒に行かなかった推理のみを聞いている他の生徒達には、急に火の話が出てきてもなんのことだかさっぱりわかりません。
主人公が推理を披露しているのは読者に対してもそうですが、メインは目の前で聞いている生徒達なわけですから、「警部が着けようとして中々着かなかったタバコの火」と説明した方がいいでしょう。警部の面子丸潰れですが。
あと、ドライアイスは確かに二酸化炭素の塊ですが超低温なため素手で触れるのは火傷するため厳禁です。
しかし、話の中で手を覆う物(手袋や軍手といったもの)が書かれていませんでした。これでは、死体より1m離れたところに置かれたクーラーボックスからどうやってドライアイスを運んだのかという謎が産まれてしまいます。
ドライアイスでないと他殺に見せかけられないわけですから、〝証拠を偽装した3人が協力者としてドライアイスの設置をした〟とか〝3人が軍手を持っていくように電話で頼んでいた〟とかそういった方向に持っていってもよかったのではないかなと思いました。
それから、少しなぜそうしたのかという説明が足らない部分が目立っていたように思います。その最たるものが、なぜドライアイスでの他殺に見せかけた自殺にしたのか、です。保険金目当ての他殺に見せかけた自殺でも、他にも色々と方法があったはずです。例えば、誰かに屋上から落とされたようにするとか挙げれば色々とあります。ですが、今回死んだ3人はドライアイスでの他殺に見せかけた自殺をした。となると、そこには明確な理由があるはずです。物的証拠を作りやすかったとかそう言った理由が。
次に書かれるときは、こういった点を考慮していただければ幸いです。
偉そうに語っていますが、ドラマの相棒やらアニメのロードエルメロイ二世の事件簿やらを見た視聴者のただの〝知ったか〟です。
前の感想に書いた通り、軽い意見程度に受け止めていただければ幸いです。
長文失礼しました。
難しい推理物をよくここまでの完成度に仕上げたなと感服しました。
ただ、気になるところがあって。
file1でクラスに入ってきた警部さんが「指紋が出たのだよ。しかも、後ろから刺されているのに、仰向けになっていた。不思議に思うとね、彼らの服からも指紋が出たんだ」と言っていることから、file2の推理で言った「警察は──刺された、としか言ってないんだからなぁ?」というカマかけは通用しないと思います。
警部に言われた場所が教室ではない別の場所ということなら納得できるのですが、主人公が「ここは教室、変な噂が出る前に弁護しないと……」と思っているため、警部さんが教室で言ったことになります。
なので、警部さんのセリフを「機密事項だから詳しくは言えないが、刺されていた包丁からは指紋が出たのだよ。それと、被害者の服からもね」といったようなものに替えた方が、より主人公のカマかけに真実味が増すと思います。
もう一つあるのですが、それは次の感想で挙げることにします。長すぎて読みづらくなってもいけないので。(^_^;)
こまごまと申しますが、とても推理物らしい素晴らしい作品だと思ってのことなので、軽い意見程度に受け止めていただければ幸いです。
長文失礼しました。