愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「……泣いてるの?どうしたの?」

 突然話しかけられて驚く。誰もいないと思っていたが、最初からいたのだろうか。会場からついてきて僕のことを見張っていたのだろうか。なんで僕に話しかけてきたのだろう。泣いているところを見られた。この人も怖いことをするのだろうか。怖い目を、僕に向けるのだろうか。怖くてその人の方を見ることができない。

「大丈夫?どうして、ここに1人でいるの?」

 そう言葉をかけられる。これは、本当に僕に話しかけているのだろうか。こんな言葉、こんな声色で話しかけられたことなんて、ない。本当に、僕のことを心配しているように話しかけられたことなんてない。疑問ばかりが浮かんできて頭が回らない。

「もしかして、迷っちゃった?」
「……っちが、ごめ、なさい。勝手に……ひっく」

 泣いているせいでうまく話せない。もともと話すことは得意ではないが。気分を悪くさせてしまう。どうしたらいい、返事をしない方がよかっただろうか。

「そっか、それならいいんだ。どこか痛いの?」

 そう言いながら、近づいてくる音がする。怖くて顔を上げることができない。

「顔を、あげてくれない?」

 そう言われたら上げるしかない。相手に言われたことをしないわけにはいかない。そうしないと、痛いことをされると知っているから。嫌われるなら、早い方がいい。覚悟を決めて、その人の方を向く。

「……き、れい」
「え?」

 思わず、そう口から出てしまった。きれいな金色の髪に、左右で少し色の違う青色の目。なんだか、その目は優しくて、ほっとする。

「……っうぇ、ひっく、うわぁぁ」
「え、え、ちょっと待って、ごめん、怖かった、かな?」

 きっと、困らせている。それが、何となくわかる。でも、こんな優しい目は初めてで。心配されるのも初めてで。僕を見ても、嫌わずにいてくれるのも初めてで。こんな気持ち初めてで、胸がいっぱいで勝手に涙が出てくる。

「っん、うわぁぁ、うぇ」
「そんなに泣いたら、そのかわいい目が溶けちゃうよ?」
「……っんえ、ひっく…っん」

 その言葉に驚いて、涙が止まる。
 彼は僕の涙をハンカチで拭いてくれた。なんだか触れ方も優しくて。もしかして、さっき消えちゃいたいって思ったことが叶って、天使が迎えに来てくれたのかな、なんて考える。

「……天使、ですか?」
「あはは、違うよ。もしかして、僕のこと知らない?」
「ごめん、なさい」

 もしかして、お茶会に参加していた方なのだろうか。それであれば、失礼を言ってしまった。いつもなら、痛いことをされると身構えるが、なんとなく、この人はそんなことはしないと、そう思う。

「いいんだ。でも、ごめん。訳があって、名前は言えないんだ。だから、君も名前は言わなくていい。それと、敬語は使わなくてもいいよ」
「……うん」

 彼は、優しい笑顔でそう言ってくれた。その言葉に安堵する。きっと、ここにいるということは、この子もそれなりの地位の方だろう。もしかしたら、僕の家のことを知っているかもしれない。僕の噂を知っているかもしれない。僕の名前を言ったら、嫌われるかもしれないから。だったら、このままがいい。

「それで、どうしてこんなところで泣いていたの?君は、王族ではないだろう?」
「……ここで、今日お茶会があって、それに参加していて」
「でも、会場は確か、反対側だろう?」
「……っ」

 これを言ったら、嫌われるかもしれない。会場を追い出されることになった原因を作ったのは僕だ。あれは、ぶつかった僕が悪い。謝ったけれど、受け入れてもらえなかったのは僕が悪いから。そのことを知ったら、僕が常識はずれで、悪い奴だと思われるかもしれない。今は普通に話してくれているけれど、ここから離れて行ってしまうかもしれない。なんだか、それがすごく怖いことに感じる。

「ごめん、言いたくなければ言わなくてもいいんだ。でも、そのことは、君のそのけがと関係がある?」
「……え」

 彼の視線を追うと、ぼくの腕を見ているようだった。
 袖から少しあざが見えていたようだ。おそらく、自分の体を腕で守ったときにできたものだろう。けがを気にしたことなんてなかったから、気づきもしなかった。

「あの、えっと」
「うん」

 心配してくれている。だからこそ、話したい、と思った。
 確かに嫌われるかもしれない。でも、彼の顔を、目を見たら、そんな思いは吹き飛んでしまった。この人は、きっと僕の話を聞いてくれる、信じてくれる。さっき初めて会ったばかりで何を根拠に、と自分でも思うが、なんとなくそう思う。

「あの、ね」
「……うん」

 それから僕は、さっきの出来事、それ以前の出来事。家族のこと、僕のこと。この子は「うん、うん」と静かに相槌を打ちながら、静かに話を聞いてくれた。こんなに自分のことを話すのは初めてで、支離滅裂になっているところもきっとあった。でも、ずっと静かに話を聞いてくれた。それがとっても嬉しくて、話さなくてもいいことまで話してしまったのではないか、と急に心配になる。今日は、なんだか初めてのことばかりだなと、話終わって少し疲れた頭で考える。

「……体に、触れてもいい?」
「……うん」

 触られることなんて、痛いことをされるときくらいなので、自然と体がこわばる。

「よく、今まで耐えたね。すごい。君は、本当にすごいよ」
「……っ」

 頭に手が乗せられる。それが気持ちよくて、あたたかくて、心地いい。じわじわと心にまでそれが浸透してくるみたいで、涙はさっき止まったというのに、なんだか無性に泣きたくなる。人に触られてこんな気持ちになることもあるんだと、この時僕は知った。

「あり、がとう」
「……っ」

 褒められるのも、あたたかい手も嬉しくて。言葉が自然と口から出てくる。

「……君は、泣き顔よりも笑顔の方が何倍もかわいいね」
「んぇ」
「君のこと、つらいことばかりなのに話してくれてありがとう。君のことを知れて僕はうれしい。……お返しに、僕の国のことを教えてあげる」
「この国の子じゃないの?」
「うん、実はそうなんだ」

 そう言って、その子の国のことを教えてくれた。空がきれいなこと、海がきれいなこと、街は賑やかで、楽しいこと。家族のこと、僕より1歳年上なこと。たくさん、たくさん教えてくれた。

「世界は、広いんだ。だから、君も、生きることをあきらめないで。……僕が大人になって、君のことを守れるようになったら、君をお迎えに行くから。それまで、待っててくれる?」
「ほんとう?」
「うん、約束。」
「……うん。待ってる、ね」

 そんなことを言ってくれるなんて思ってもいなくて驚く。もし、本当に迎えに来てくれて、それから彼とずっと一緒に居られる未来があったら、なんて幸せなんだろうと思った。
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