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それから、どのくらい時間がたっただろうか。僕たちはぽつぽつと話をしながら、身を寄せていた。すると、遠くの方から少し声が聞こえてきた。
「……~様、~様!」
「……ごめん。そろそろ行かないと」
「……っうん」
「そんな悲しそうな顔しないで」
ずっとこの時間が続くとは思っていなかった。でも、それはあっという間で、もう終わりの時間が来てしまった。
もう一回、あのぬくもりを感じたい。最後に、わがままを言ってもいいだろうか。
「ぅ、あの、も、もう一回、あ、たま」
しどろもどろになりながらも、伝える。これからも頑張るために。君が会いに来てくれるその時まで、頑張りたいから。
嫌われるかも、なんて考えはもう一ミリもなかった。ただ、離れたくなかった。もう1回、彼のぬくもりを感じたかった。
「……っ……またね」
「……っうん」
体ごと、彼の温度に包まれる。ぎゅうっとされて、ドキドキするけど、安心して。頭にも手の感触がした。でも、すぐ離れてしまう。もう、行ってしまう。次、いつ会えるのか。本当に会えるのか。助けに来てくれるって言ったけど、お互い、名前も知らない。もしかしたら、もう会えないかもしれない。いやだ。離れたくない。でも、そんなわがままは言ってはいけないし、言えない。
「これ、あげる」
そう言って、彼は僕の涙を拭いてくれたハンカチを僕に渡した。
「これ、お守り。絶対、絶対、また会いに行くから」
「うん。またね……っ」
それを最後に、彼のぬくもりがなくなる。
遠ざかっていく彼の背中を目で追い、手元にあるハンカチを握りしめた。
今日会ったばかりなのに、僕に安心をくれた。ぬくもりをくれた。彼の隣は心地が良かった。彼もそう感じてくれていたら、僕は嬉しい。
また会える確証なんてどこにもない。期待してかなわなかったとき、傷つくのは自分だ。なのに、期待せずにはいられなかった。
生きることをあきらめない。君とまた会える未来に期待して、この先も生きていこう。傷つくのは、僕が独りで死ぬ時だ。そう、心に誓った。
そろそろ、僕も戻らないと。いつまでもここにいるわけにはいかないと立ち上がる。
これからもきっと大丈夫。今日の出来事を胸に抱いていれば、きっと。
このハンカチも、今日の出来事も隠しておかないといけない、そう思い歩きながらポケットに隠した。
「……~様、~様!」
「……ごめん。そろそろ行かないと」
「……っうん」
「そんな悲しそうな顔しないで」
ずっとこの時間が続くとは思っていなかった。でも、それはあっという間で、もう終わりの時間が来てしまった。
もう一回、あのぬくもりを感じたい。最後に、わがままを言ってもいいだろうか。
「ぅ、あの、も、もう一回、あ、たま」
しどろもどろになりながらも、伝える。これからも頑張るために。君が会いに来てくれるその時まで、頑張りたいから。
嫌われるかも、なんて考えはもう一ミリもなかった。ただ、離れたくなかった。もう1回、彼のぬくもりを感じたかった。
「……っ……またね」
「……っうん」
体ごと、彼の温度に包まれる。ぎゅうっとされて、ドキドキするけど、安心して。頭にも手の感触がした。でも、すぐ離れてしまう。もう、行ってしまう。次、いつ会えるのか。本当に会えるのか。助けに来てくれるって言ったけど、お互い、名前も知らない。もしかしたら、もう会えないかもしれない。いやだ。離れたくない。でも、そんなわがままは言ってはいけないし、言えない。
「これ、あげる」
そう言って、彼は僕の涙を拭いてくれたハンカチを僕に渡した。
「これ、お守り。絶対、絶対、また会いに行くから」
「うん。またね……っ」
それを最後に、彼のぬくもりがなくなる。
遠ざかっていく彼の背中を目で追い、手元にあるハンカチを握りしめた。
今日会ったばかりなのに、僕に安心をくれた。ぬくもりをくれた。彼の隣は心地が良かった。彼もそう感じてくれていたら、僕は嬉しい。
また会える確証なんてどこにもない。期待してかなわなかったとき、傷つくのは自分だ。なのに、期待せずにはいられなかった。
生きることをあきらめない。君とまた会える未来に期待して、この先も生きていこう。傷つくのは、僕が独りで死ぬ時だ。そう、心に誓った。
そろそろ、僕も戻らないと。いつまでもここにいるわけにはいかないと立ち上がる。
これからもきっと大丈夫。今日の出来事を胸に抱いていれば、きっと。
このハンカチも、今日の出来事も隠しておかないといけない、そう思い歩きながらポケットに隠した。
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