愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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間章12

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 テオがこっちに来る日。ようやくこの日がやってきた。まだこの時間に着いていることはないだろうが、早く会いに行きたい。本当は出迎えてやりたいがそれはできない。きっと最初は学園側からこれからのことについて説明があるだろうし、その時間を奪うわけにはいかない。でも、その後であれば会いに行っていいだろうか。どうしても行きたい。最初になんと声をかけようか。僕のことは覚えているだろうか。僕とわかってくれるだろうか。僕はそんな落ち着かない時間をしばらく過ごした。

 そろそろいいだろうか、会いに行っても。そもそも寮のどこの部屋に入るのかわからないから探すところから始めないといけない。順当にいけばこちらから留学へ行った生徒が使っていた部屋に入っているかもしれないが、その生徒の部屋をそもそも知らないのだ。見当がつかない。でも、早く会いたくて、落ち着かなくて。とにかく部屋を出ようと扉に手をかけたとき。

 ―コツンッ

 部屋の窓から控えめな音がして振り返ると、窓辺には一羽の鳥がちょこんと座っている。その鳥は家でも見たことがある。急ぎの用事があるときに手紙を届けてくれる鳥だった。
 不思議に思って近づくと、やはり足に紙がくくられておりそれを慎重に取り外した。届けてくれた鳥にお礼を言うと、満足したように飛び立っていった。

 なぜかする胸騒ぎに気づかないふりをして手紙を開いて目を通した。
 そこには見慣れたリアムの字でこう書かれていた。

 “取り急ぎ伝えたいことがあります。アナベル伯爵家の娘もそちらに留学に行くようです。何が目的かまではつかめていません。出発は今日。テオ君が出発してからかなりの時間が経過してからの出発でした。個人的な留学かと思います。テオ君はおそらくこのことについては知りません。どうか、お気をつけて”

 手紙を放り出して部屋から飛び出した。心はまだ落ち着いていない。でも、テオが大丈夫か、娘と遭遇して何か問題に巻き込まれていたらと思うと体が勝手に動いた。

「シエロ?珍しいな、休日にここにいるのは。そんなに急いでどこへ行くんだ?」
「ソラナっ、テオ見てない?」
「あぁ、そういえば今日こちらに来るのか。そんなことを聞かれても私は顔を知らないからわからんが…。何があったか知らないが、とにかくいったん落ち着け。久しぶりに会う男がそんなに焦って、怖い顔だったら怖いだけだぞ」
「…っ、でもっ」
「とにかく、落ち着くんだ。何があったか話せ。一旦お前の部屋に戻るぞ」
「…っ」

 ソラナに手を引かれて部屋に戻ることになる。
 なんでこんなことになった。ようやくテオをあの家族のもとから離せることができたのに。何がしたいんだ。テオは大丈夫だろうか。
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