愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

文字の大きさ
上 下
81 / 139

65

しおりを挟む
「…ん、ふぁぁ」
「…ん…テオ?…おはよう」
「ぅん……はよう」

 あれ以来、シエロの部屋にいる時間が増えた、というより、自分の部屋にいる時間がほとんどなくなった。
 もう一切怖い夢を見ないわけではない。今でも見ることはあるけれど、起きて、隣にシエロがいるとわかると心が落ち着く。それに、不安で仕方なくても、シエロが僕を安心で包んでくれる。背中をなでられるとすごく安心して、心がポカポカして。シエロの体温と、心臓の音が心地よくて、気が付くと僕も眠りについている。
 そんなわけで僕の寝不足は解消されたけれど、それからもこの生活が変わることはなかった。僕もこのままがよかったし、シエロも何も言わなくて、それに甘えている。
 朝、シエロの隣で目が覚めて、顔を合わせて朝の挨拶をする。そして一緒に朝の支度をして、一緒にご飯を食べて。学校が終わったら同じ部屋に帰って夕飯を食べて一緒に寝る。そんな生活が幸せでないわけがない。そんな毎日が過ごせて嬉しくないわけがない。
 
 僕はシエロの寝起きの姿を見るのが好きだ。なんだか、僕だけの特権なんだって思うから。シエロの寝起きはふわふわしていて可愛い。本人に言ったら納得いっていないみたいだったけれど。

「今日は学園も休みだし、外に買い物に行こう」
「僕も一緒に行っていいの?」
「当たり前だよ。テオはどこか寄りたいところある?」

 外に買い物をしに行ったことがない僕は、そう言われてもすぐに思いつかなかった。どんなお店があるのかも想像するしかなくて、頭を悩ませる。

「テオ?」
「あ、えっと…」
「どこでもいいよ」

 そこでふと思い出す。こっちに来てから何かとバタバタしていたり、僕の寝不足のこととかもあったりして、ブライト先生に手紙をまだ出せていない。そもそも、書くための便箋が手元にないことに。

「あの、ブライト先生に手紙を書きたいんだけど、便箋を持っていなくて」
「それなら便箋を置いているお店に行ってみようか」
「うん」

 朝ごはんを食べ終わって、それぞれ外出の支度をする。
 僕は支度をするために自分の部屋に戻ることにした。シエロは少し時間がかかるかも、というので、支度が終わったら僕の部屋に来てくれることになった。

 一着しかない私服に着替える。いつも制服を着ているから、それに比べるとこの服はボロボロに見えた。シエロの隣を歩くんだから、もう少しましなものを着たかったが、この服しか持っていないから、仕方がない。
 楽しみな気持ちと、初めてのお出かけに少し緊張する。僕はそわそわしながら、シエロを待っていた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

次期当主に激重執着される俺

柴原 狂
BL
「いいかジーク、何度も言うが──今夜も絶対に街へ降りるな。兄ちゃんとの約束だ」 主人公ジークは、兄にいつもそう教えられてきた。そんなある日、兄の忘れ物を見つけたジークは、届けなければと思い、迷ったのち外へ出てみることにした。そこで、ある男とぶつかってしまう。 「コイツを王宮へ連れて帰れ。今すぐに」 次期当主に捕まったジーク。果たして彼はどうなるのか。 溺愛ヤンデレ攻め×ツンデレ受けです ぜひ読んで見てください…!

処理中です...