愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「シエロ、そろそろ時間だよ。起きて」

 気持ちよさそうに寝ているシエロを起こすのは気が引けたが、その気持ちを抑えてシエロに声をかける。
 最近、仕事が立て込んでいるうえにテストが重なって、シエロは大変そうだ。効率よく仕事を進めるために少し仮眠をとると言って先ほどベッドに入り、時間が経ったら起こしてほしいとお願いされたのだ。僕としては、疲れているのであればきちんと休んでいてほしいが、お願いされたことを無視することはできなかった。

「……ん…」

 いつも寝起きはいいのに、今日はなかなか起きない。きっとそれだけ疲れているんだ。もう少し、僕にも手伝えることがあればいいが、一応他国の人間である僕に手伝えることなんて少ないだろう。

「シエロ、時間だよ?…って、うわっ」

 そう言って手をシエロの方へ伸ばした時だった。手を引っ張られ、シエロの腕の中に引きずり込まれた。

 その動作にシエロが起きたのかと僕は思って、顔を上げてシエロの顔を見る。でも、シエロの目はつむったままだった。どうしようかと頭を悩ませたが、シエロの腕の中はあったかくて、安心する場所。このままでは僕も眠ってしまいそうだった。それはいけないと、もう一度声をかけようと息を吸った。

「…ォ、テオ……すき…だょ」
「……へ……」

 聞こえてきた言葉に一瞬思考が固まる。
 今、僕は、シエロに何を言われたんだ。シエロは、今、好きといったのか。誰に?僕に、言ったのか?でも、シエロは今、寝てて、だから、本当に僕に言ったのか、本当に好きって言ったのかわからないけれど、でも、それでも。聞こえてきた言葉は確かに、僕に好きと言っているように聞こえた。
 そんなこと、言われるのは初めてで。誰かに、そんなことを言われるなんて思ってもなくて。恥ずかしいけど、嬉しくて、体が、顔が熱くなってきて。胸が嬉しいでいっぱいになって、心がきゅうって苦しくなる。でも、それは嫌な苦しいではなくて、嬉しい苦しいで、この気持ちをどうしたらいいかわからなくて、シエロに無性に抱きつきたくなった。
 僕もだよって、僕もシエロのこと好きだよって言いたい。なのに、それはすごく恥ずかしくて、心臓がどきどきして、緊張する。その一言を言いたいだけなのに。
 
 その気持ちは、こんなのは、まるで物語の中の恋をしている子みたいじゃないかと、そこまで考えて、思考が止まる。

 ―僕は、シエロに恋をしている、ってことなのか。

 そう思うと、それがすごくしっくりくる。僕は、シエロに恋をしていて、僕はシエロのことがすごく、すごく好き。

 それをシエロに伝えたかった。きっとシエロは喜んでくれる、はず。シエロが寝言で言っていたことが、僕の聞き間違いでなければ、シエロも少なくとも僕のことを、好きだと思ってくれているということだ。きっと。そう。


 でも、それは、本当に?
 僕は、今まで、人に好意なんて向けられたことがない。シエロは本当に僕を好きだって思ってくれている?本当に聞き間違いじゃない?好きだって、僕の気持ちを伝えて、否定されたら?それに、シエロはこの国の第二王子。もしかしたら聞いたことがないだけで、婚約者、だっているかもしれない。それに、他国の人からそんなことを言われても迷惑なのではないだろうか。
 シエロに限って、僕を否定するなんてこと、迷惑だって思うことなんて絶対にないってわかっているけれど、長い間、人から悪意しか感じられなかった僕は悪い方向に考えてしまって、そうなる未来を想像したら、だめだった。

 いやだ、と怖いで頭の中がいっぱいになって、涙が出てきた。

「……ふっ、ぅう……っ」

 落ち着かないと。泣いていることがシエロに知られたら、心配をかけてしまう。止まれ、止まれと暗示をかける。それでも止まらなくて焦っていたら、シエロに抱き寄せられた。

「……テオ?どうしたの?」
「……っく、うぁあ……」

 シエロの腕の中は暖かくて、ぎゅっと抱きしめられると安心して。シエロの声も優しくて。全部、全部、好きで。

「テオ、ね、大丈夫」
「……っシ、エロ……シエロっ」
「うん。ここにいるよ。大丈夫。怖いことなんて、ないよ」

 そう言って僕の背中をなでる手が嬉しくて、たまらなくて。さっきまであった後ろ向きの気持ちなんてどこかへ行ってしまった。
 一度シエロへの気持ちを自覚してしまったら、もう僕は止まることなんてできなかった。どうしてもあふれる気持ちが、こぼれてしまった。

「……っき…っ」
「なに?」
「ぼく……シエロが……すきっ」
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