愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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 休日の昼下がり。僕たちはシエロの部屋でのんびりと過ごしていた。
 隣にいるシエロにすり寄ると、返事をするかのように頭をなでてくれる。それが心地よくて、このまま時が止まってしまえばいいのに、とさえ思う。

 ふと、シエロが立つ気配がして、隣を見る。

「お菓子でも食べようか」

 そうしてキッチンへ向かうシエロの背中を追いかけて、準備を手伝った。
 シエロが取り出したお菓子の箱はとても立派で、でも、いつもの物とは違うから疑問に思っていると、貰ったんだ、とシエロが言った。
 シエロの部屋に貰い物のお菓子があることなんて初めてだったけれど、こんな立派なお菓子をくれるなんて、ソラナ殿下かな、なんて一人で考えて聞き流した。

 僕が紅茶を用意して、二人でいつもの席に座って、おいしそう、なんて言って。僕がお菓子に手を伸ばしたところで、シエロが僕の手をやんわりと握った。

「……テオは、家族のこと、好き?」

 突然の問いに、一瞬固まる。どうして急にそんなことを、と思ったが、シエロがあまりに真剣な顔をしているから、僕も真剣に考えた。

「大好きだよ」
「……そっか。そう、だよね。……何があっても、何をされても一応、親、だし、いもうー」
「?違うよ。僕の家族は、シエロでしょ?」
「……え?」

 “家族”とは何だろう。血のつながり、とか、親、とか、兄弟、とか。そういう血のつながりが、”家族”になるのだろうか。同じ家に住んでいれば”家族”と言うのだろうか。そうだとしたら、あの人たちはあまりにも僕の想像の“家族”からはかけ離れている。そもそも、僕は一度もあの人たちをそうだと思ったことはない。
 “家族”とは、自分の大切な人のこと。何にも代えがたくて、唯一無二の存在で。あったかくて、何が何でも守りたいし、何かあれば支えたいと思う。そんな存在のことだと、僕は思うから。だから、僕にとっての”家族”は、一人しかいない。シエロ、しかいない。

「――っ、そっか。そうだね。僕も大好き」
「うん」

 シエロは嬉しいのに、泣きそうな顔をしていて、どうしたんだろうと疑問を持った。シエロの顔をまじまじと見ていると、シエロと目が合う。その瞬間、シエロはまるで気合を入れたような、そんな顔をして、僕はそれに何故か嫌な予感がして、心臓が嫌な音を立てた。
 シエロは一口紅茶を飲むと、話を始めた。

「……テオ、僕と出会ってくれてありがとう。何度も言ってるけど、何度でも伝えたいくらい、テオと出会えたことは、僕の人生の中で一番の幸福と言えるほど嬉しいことなんだ」
「……うん。こちらこそ、ありがとう」
「テオが泣いているのは僕も悲しい。テオにはたくさん笑っていて欲しい」
「うん」
「テオが僕の隣にいてくれて、笑ってくれることが、何より幸せで、嬉しいことなんだ……いつも、ありがとう」
「僕も、シエロの隣にいられてすごく嬉しいよ。こちらこそ、ありがとう」
「僕、テオと結婚して、同じ家に暮らして、一緒に仕事してって考えると、これからがすごく楽しみなんだ」
「うん、僕もだよ?」

 そう話すシエロに、どんどんと不安が大きくなる。心臓の嫌な音が止まる気配はまるでない。

「……ピクニックで行ったところ、また行こうね。春になったら、また違ったかわいい花が咲くんだ。それを見に、また一緒に行こう」
「うん。……約束、だよ?」
「もちろん。約束」

 なんだろう、この漠然とした不安は。嫌な感じは。シエロはどうして急にそんなことを話し始めたんだ。すべてが杞憂で終わってくれと願わずにはいられなかった。

 でも、その願いは叶わなかった。

「テオ、愛してるよ」
「ぼ、僕も、愛してる」

 シエロはそう言うと、目の前のお菓子に手を伸ばして、クッキーを一つ、口に入れて、咀嚼して、飲み込んだ。

「ね、シエロ、どうしーー」
「テオはこのお菓子、食べちゃダメだよ」

 その言葉を最後に、シエロの身体は傾いて、大きな音を立てて、床に転がった。
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