愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「……うっ」

 微かな音に目が覚めた。
 いつの間にか寝てしまっていたようだ。
 その音をたどると、その先はシエロで、僕はすぐに声をかけた。

「シエロ?」
「……はっ、はっ……うっ」

 その異常な呼吸と真っ赤な顔、汗をかいているシエロを見て、すぐにおでこに手を当てた。

「……あっつい」

 熱がでているんだと気が付いて、ちょっと待っててね、と聞こえてないかもしれないが、そう声をかけて部屋を出た。
 お医者さんに話を、と思ったが、どこにいるのかわからない。どうしようかと思考を巡らせながら歩いていると、ある部屋から使用人の方たちの声がしたため、声をかけた。

「失礼します……あ、あの、シエロ、殿下が……」
「テオ様。どうされました?」
「シエロ殿下、熱、あるみたいで。どうしたら、いいですか?」

 そう言うとすぐに冷たい水と布を用意してくれた。

「シエロ殿下、早く目が覚めるといいですね」
「……はい」
「きっと、シエロ殿下も近くにテオ様がいてくれて、安心なさってるはずですよ」
「早くいつものお二人が見たいです!」
「お医者様にも伝えしておきますね」

 きっと、僕がシエロのことを心配して、落ち込んでいることに気が付いて、元気づけようとしてくれているんだと思う。その気持ちが嬉しくて、感謝の言葉に、用意してくれたことへの感謝と一緒にその気持ちへを乗せた。



 その後、部屋にやってきた医者がシエロを診てくれた。発熱しているのは、身体で毒が分解出来ている証拠で、後は熱が下がるのを待つだけだと言っていた。

「……早く良くなりますように」

 再び二人きりになった部屋でそう呟き、顔が真っ赤になっているシエロのおでこに冷水で濡れた布を乗せる。
 そうすると少しシエロの表情が楽なものに変わった気がして一時の安堵を得た。

 良くなりますようにと願って、また手を握った時だった。

「……ぉ……て、お……」
「……っ!」

 僕の名前を呼ぶ声がして、シエロの方に顔を向ける。
 でも、やっぱり目は固く閉じられていて。また悲しくなった。

「てお……てお……」

 僕の名前を呼ぶシエロに、意識が戻るのもきっともうすぐだと思うと嬉しくなるが、その声は、なんだが悲しい音に聞こえて、胸が締め付けられる。

「……シエロ……シエロっ」

 名前を呼んだけれど、その音は変わらなくて。まだずっと僕のことを呼んでいて、悲しく顔をゆがめていて。

「シエロ……大丈夫。大丈夫だよ……僕は、ここにいるよ」

 僕は、シエロの側にいるよって伝わってほしくて。シエロの手を握って、口で、心で、シエロの名前を何度も呼んで、何度も伝えた。
 そうすると、だんだんシエロの声は聞こえなくなって、表情も元に戻って。そのことにほっとした。僕の気持ちが伝わったんだって、そんな気がして。
 それでも、シエロの手は離せなくて、それからもずっと僕はシエロの手を握り続けた。
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