愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

文字の大きさ
上 下
121 / 139

105

しおりを挟む
 その後、僕たちは教室に戻って、授業を受けた。
 周りからの視線は痛いし、怖いけれど、僕はこの学園に勉強をしに来ているので、何があってもおろそかにするわけにいかない。それでも、どうしても集中はできなくて、座って話を聞くだけで精一杯だった。

 そんな時間を過ごして、寮へ帰る。
 帰り道でも、どこに行っても視線は変わらないし、ひそひそと話している声が聞こえてくることも変わらない。
 
 僕は、時折聞こえてくるかすかな声で、どんな噂が流れているのか理解した。
 僕がシエロをだましていること。僕がこの国を貶めるために留学して、シエロたちに近づいたこと。僕がシエロに毒を盛って、殺害しようとしたこと。そんな噂のようだ。
 ありもしない噂を流されるのは初めてではないけれど、こんなひどい内容だと、どうしても否定したくなってしまう。僕はそんなことはしていないし、そんなことをするためにここに来たんじゃない。
 ここに来てから、幸せなことが、嬉しいことがたくさんあった。友達もできて、大好きな、大切な人と再会できて、未来を約束することができて。そんな毎日がこんな噂で否定されているようで、胸が苦しい。
 でも、今それを僕が話しても、伝えても、誰も信じないなんてことはわかっている。余計に疑われるかもしれない。だから、何も言えない。それも悔しくて、このどうしようもならない気持ちに唇をかむことしかできなかった。
 
 この噂が流れていることをシエロたちは知っているんだろうか。もし、この噂のせいでシエロとの未来の約束がなくなってしまったら。叶わなくなってしまったらどうしよう。シエロの隣にいられなくなったらどうしよう。きっとそんなこと起こるはずがないのに、漠然とした不安が僕の中で渦巻いて、動けなくなりそうだ。

「なぁ、あそこ、テオの部屋の前」

 ルイは僕の部屋がある階より、下の階に部屋があるが、心配だからと僕の部屋があるところまでついてきてくれていた。
 そんなルイの指さす先に目線を動かすと、そこにはエミリアが立っていた。

「……ルイ、ここまでで大丈夫。今日はありがとう」
「……本当にいいのか、ここで」
「うん、大丈夫。また明日ね」
「……おう。また明日」

 この後、何があるか、何となくわかってしまった。この噂の出どころも、この件の犯人も、何となく。やっぱり、シエロがこんな目にあったのは僕のせいだったんだ。それなら、誰かが僕に言ったあの言葉も、噂ではなくて、本当のことだったのかもしれない。
 この人たちは、どこまでも僕を追い込みたいみたいだ。でも、それなら僕だけを狙えばいいのに、どうして他の人も巻き込むのだろう、なんて考えても仕方のないことだけれど。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林
BL
「やっと見つけたましたよ。私の姫」  暗闇でよく見えない中、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。    この至近距離。  え?俺、今こいつにキスされてるの? 「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」  太陽(男)はドンと思いきり相手(男)を突き飛ばした。 「うわぁぁぁー!落ちるー!」 「姫!私の手を掴んで!」 「誰が掴むかよ!この変態!」  このままだと死んじゃう!誰か助けて! ***  男とはぐれて辿り着いた場所は瘴気が蔓延し滅びに向かっている異世界だった。しかも女神の怒りを買って女性が激減した世界。  俺、男なのに…。姫なんて…。  人違いが過ぎるよ!  元の世界に帰る為、謎の男を探す太陽。その中で少年は自分の運命に巡り合うー。 《全七章構成》最終話まで執筆済。投稿ペースはまったりです。 ※注意※固定CPですが、それ以外のキャラとの絡みも出て来ます。 ※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。第四章からこちらが先行公開になります。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

処理中です...