愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「……ご報告が遅れ申し訳ありません。……噂は真実です」

 少しの沈黙の後にシエロがそう言った。僕は、シエロがこの人たちに今はっきりと答えると思っておらず、驚いた。

「……そうですか。……はぁ。やはりこの男は、何を考えているかわからない人ね。婚約した男に毒を盛るなんて……。きっと最初から陥れることが目的で殿下たちに近づいたのね……。怖い人……」
「……」
「それで、婚約はどうなるのでしょうか?」

 どうしてそんなことを聞いてくるんだろうと思ったが、この人の思考を考えたところで何にもならないし、どうしても先ほどから思考がまとまらなくて、僕は早々に考えることをやめた。

「もし、犯人がテオであるということが事実なのであれば、破棄せざるを得ないかと」

 ソラナ殿下が重たそうな声で言った。

「……そうですか」

 継母はそう呟くと、きっと笑みを浮かべているのだろうというような声色で言った。

「エミリアが見つけた証拠ですもの。犯人が他であるなんてことあるはずがないわ。それに、この男ならそれくらいのことをやりそうだもの」
「……そうだな。この男とは縁を切ります。もともと、家族とも思っていなかったのです。こちらとしても縁を切れて清々するってものです」
「……テオ・アナベルと縁を切る、ということでよろしいですか?」
「はい」
「……そうですか」

 その言葉を聞いたソラナ殿下は表情を変えず、どこからともなく一枚の紙を出し3人の前に差し出す。

「実は、この件に関してはこちらの国王と事前に話をさせていただいておりました。あなた方であればそう言うと思い、書類を預かってきましたので、内容を確認していただき、お間違いなければサインをお願いいたします」

 書類を読んでいるような間もなく、紙へペンを走らせる音が聞こえた。

「確かに、いただきました。……よし、後はテオだな」

 先ほどまでの重たそうな、くらい声はどこへ行ったのか、いつものように僕の名前をソラナ殿下が呼んだ。それでもこの空間に動かなくなった身体は重くて動かない。

「……テオ、おいで」

 ずっとどこか他人事のようにやり取りをただ聞いていただけの僕を呼ぶ声が聞こえて、ようやく意識がはっきりした気がする。その声は僕の重くなった身体にすっとしみ込んで、身体が軽くなる。
 僕はシエロの隣へ腰かけて、ペンを手に取り紙へ自分の名前を記入した。

 名前を書き終わって、その紙を見つめる。
 ずっと僕にまとわりついていた怖い存在が、いやな存在が、こんな一瞬でなくなるなんて。
 僕がつらい思いをした、頑張って耐えていた今までが消えるわけじゃないけれど、僕を縛る、まとわりつくものはなくなったんだ。それだけでも心が、身体が軽くなった気がして、気が付くと僕の頬に涙が伝う感覚がした。

「……テオ、どうしたの?どこか痛い?……大丈夫?」
「……っ、なんか……っこれ、で、終わったのかって……解放、されたって思ったら……っ」
「そっか……」

 もう隠しておく必要もなくなったためか、シエロは僕を慰めようと、固く握られた手をなでてほぐしてくれる。
 とんとんと肩を軽くたたかれて、振り向くとブライト先生がハンカチを差し出してくれていて、それを素直に受け取って涙を拭いた。
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