上海ハニー

フランク太宰

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tokyo

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 マイアミから帰ってきてからしばらくのことは、書く必要もないのだろう。しかし、この物語を完結させるためには、必要な作業でもある。
 結局Iと付き合うとか、そういうことには成らなかった。
悲しいことなのだろう、今考えれば彼女が側にいる人生は素晴らしく平凡で何か足りなくとも、気がつかなかったと思う。 人生は映画ではないのだから、トピックスに溢れていても、狭い部屋に閉じ込められている気分なのだ。
 その点を考えれば、父と母はうまいことやっていたのだろう。
 この頃になってから私は自分がSEXという行為があまり好きでないことに気づき始めた。
友人の紹介やクラブ(JAZZを流さない)で知り合った娘に、ナンパなんて意気地がなくて出来なかった。しかし、何というか、流れ続ける滝が放つ水飛沫のようにSEXは私の前に比較的頻繁やって来た。体は当然の働きをするがゆえに、無駄に愛いの欠片もない行為に何度か及んだ。相手が愛情を持っているのなら、悪いことをしたと思えるけれど、そんなこともなかったと思う。
 気まぐれで東京タワー(赤い)
にIと行ったことがある。彼女は地方出身であったし、特に身のこなしや、服装に、そう言った面があったわけではないけれど、心の中に故郷を持っているような感じだった。Gipsy in My Soul  そんな感じだったよ。
当時、東京タワーは青いほうの
タワーに話題や人を惹き付けられてしまっていたし、電波塔としての役目も終わってしまって久しかった。
都民としては、此方が本物という気持ちでいた。
新しい方は私の実家から近い所にあったし、中の良い友人はタワーの目の前に住んでいたけれど、正直にいって押上なんか昔は何もなかったし、無駄に観光地化されてしまったことに好感が持てなかった。
今でも時々、あの辺りに行くと何だか誰かがPC上で造り出した架空のモニュメントではないかと錯覚する。
しかし、あの辺りにいる若者たちを見ると、何というか彼らにとってはリアルな場所などだと痛感する。今の私にはリアルなものなんて何もない。つまり、リアルさの中にある刺激をつかさどる、心の一部が破損しているのだろう。
 その時、Iは蝋人形館に行きたかったらしい。でも、そんなものはとうの昔に無くなっていると私が言うと
「そう、残念だよ、昔家族で行った時に観たんだけどね」
「俺も相当、昔に観たね」
展望台までのエレベーターは混みもせず、すんなりと僕らは太陽が暮れかかる、オレンジ色の東京の景色を観ることができた。
明るい町、建ち並ぶビル
何だか上海とたいして違わない気がした。
 私は展望台から降り、暫く歩いたところで赤いタワーを見上げる彼女に話しかけた。
「どうだった?」
「何というか東京って感じよね、やっぱり」
「違いない」
 「貴方はつまらなかったでしょ?」
 「いや、そんなことない。確認したいことも有ったしね」
 「確認したいこと?」
 「おもしろい話を聴いたんだよ、東京で死んだ人間は東京タワーを登ってあの世に行くらしい」
「怖い話?」
 「確かにね、眉唾物の怪談に違いないけど」
 「へぇー、何だか不気味、私霊感がないからなにも感じなかった」
 「俺もないよ。ただこの辺りの土地柄が元々良くはないのは本当だよ」
「どうして?」
 「爺さんが色々と言ってた」
 彼女はもう一度、タワーに振り返った。
 「でもさ、どうせ高いところに登らないと天国に行けないんなら、スカイツリーの方、使えばいいのにね」
私は彼女の意見に妙に納得した。
「そうだね....でも、東京タワーの方が東京らしいからかも」
はっきりした回答など、必要なかった、どうせうそ話なのだ。
それに、死んでしまった人間、そして、去ってしまった人間
彼らには何も出来ないし、なにもしてくれはしない。時々、彼らの思い出が胸をいたたましいく、握りつぶしてくるだけ。
 Iは言った
「貴方の言いたいことわかるわ」
  私は話題を変えた
「いつか、君の故郷に俺も行きたいな」
彼女は私の方を見ながら言った
「あんな田舎、貴方は嫌がると思うけど」
 彼女がそう言うと、初夏の風が吹いた。
風は彼女の春の服を揺らめかせた。 
 
 
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