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第四話 王都次代編
4ー21 やっぱりマスターは非常識だったりする
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「ところで、マスター・セツ、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」
咳払いをし、アランがセツに向き直った。王家直属の近衛騎士隊長だけあり、アランは真面目で誠実、きっちりと整えられたクルミ色の髪からは几帳面な繊細さが窺える。
「不勉強で申し訳ないが、その、最強の魔法使いとは、どのくらいお強いのか? いや、貴殿の強さは先程の一戦で実感したが、あれは本気ではないでしょう? 貴殿の本気は如何ほどのものかと思いまして」
アランは、皇八島一の騎士と言われる。やはり最強の騎士として、セツの強さが気になるようだった。
「なんだ」
「やっぱり隊長も気になるんじゃん」
双子が茶々を入れるが、誰しも興味があるのか、セツに視線が集まる。
「……そうだな」
セツは腕を組み、軽く考えた。
「魔法使いの強さと言っても色々ある。魔力量だったり、どれだけ多くの魔法を使いこなせるか、とか。でも、お前たちが知りたいのは戦闘力だろ?」
セツがアイスブルーの目に少し笑みを浮かべる。アラン隊長の内心などお見通しのようだった。
「王宮とか一撃じゃね?」
「最強だぞ? そんなわけないじゃん」
「じゃ、キヨウとか一瞬で灰になったりして」
「まさか。そんなわけないよ」
面白半分な双子を、ロワメールが笑って否定する。
「キヨウと、ダイトもリヨウも軽いよね?」
「そうだな」
キヨウを一瞬で、は双子もふざけて言ったのだ。
冗談が通じないらしい王子様と最強の魔法使いに、双子以下近衛騎士たちが口をつぐむ。
「ミオやキイもいける?」
「うーん、物心ついてから全力なんて出したことないから、あくまで俺の感覚だが、たぶん島ひとつだな」
どうも控えめに言ってるらしいが、これにはロワメール以外の全員が絶句した。
「島ひとつ? セツすごいなー」
ロワメールだけが呑気に笑っているが、島ひとつを一瞬で灰にできると言われて、何故笑っていられるのか。
マスターは強すぎて、もはや非常識である。
「測定とかしたことないの?」
「測定なぁ」
事の重大さをわかっていないロワメールが無邪気に問いかければ、セツは困り顔で唸る。
「魔法使いの強さを測る方法で一般的なのは、『魔力検査』だ。貴族でも、聞いたことくらいあるだろ?」
『魔力検査』は毎年十二歳の子どもを対象に、魔法使いギルドが全国で行っているものだ。この検査で魔力があると判明すれば、魔法学校入学の資格を得る。
「『魔力検査』は魔力の有無、併せて魔力量も測れるが、明確な数値は出せないんだ」
魔力量の数値化は未だに実現不可能で、その測定方法もない。多い少ないといった、漠然とした判定ができるくらいだ
った。なのでセツの魔力量が桁違いなのはわかるが、どれほど普通の魔法使いと違うのか、正確には証明できない。
あとはセツの魔力量が多すぎて、百倍多いのか千倍多いのかもわからないそうだ。
「千倍……」
アラン隊長が、ゴクンと喉を鳴らした。
マスターの深淵を覗き、アラン隊長は迂闊に聞いてしまった己の好奇心を恨んだ。
やはり魔法使いは人知を超えた存在であり、その中でもマスターは計り知れない強さを持つ。
もしこの人物が敵になればどうなるか。
無防備に抱いたその仮定にゾッとした。
たとえ最強の騎士と言われるアランでも、対抗できないだろう。
若い騎士たちはアランの危惧など知らず、ロワメールとともにマスターの話を傾聴している。
「風使いならどれだけ速く飛べるかや、どこまで上空まで飛べるか、なんて方法で互いの魔力量を競ったりするな。水使いならどれだけの水——海水を操れるかとか。このあたりなら目視で確認できるし、ノンカドーにも分かりやすいな」
ちなみにセツは誰よりも速く飛べるし、空気のない上空まで飛んでいってしまうので測定不能、海水に至っても範囲が広すぎて航行中の船へ影響がでるため測定不能である。
「じゃあさ、土魔法なら、どれだけ高い柱を作れるかとか?」
「そうだな。どれだけ圧縮できるか、とかでも比べられるが、この魔法は難しいから、三級は無理だな」
飽きもせずに質問を続けるロワメールに、セツは嫌な顔もせずに答えていた。
穏やかな語り口からは安定した人格が見て取れ、王子に注ぐ眼差しからは深い愛情が読み取れる。
その姿を見ながら、この魔法使いは絶対、ロワメール王子を傷付けるような真似はしないだろうと、アランは確信した。
(我々人類を守る、最強の魔法使い、か)
マスターの役割は、近衛騎士隊長であるアランも聞いている。
(たとえ最強であろうと、三百年も生きてきて、全力を出したこともないとは、なんと息苦しい生き方か)
アラン隊長は、セツに憐憫の目を向ける。
不憫な。
そう思わずにはいられなかった。
セツは顎に指を当て、神妙な面持ちで双子を眺める。そして今更ながらの疑問を投げかけた。
「ところで、どっちがノアで、どっちがノエだ?」
「オレがノア。お兄ちゃんだ」
「オレがノエ。弟だ」
双子はそう名乗ったのだが。
同じ顔、同じ髪型、同じ服。おまけに声までそっくりだ。なんなら仕草まで同じである。
「見分けがつかん」
「お気になさらず。この二人が区別できないのはわざとです」
困るセツに、アラン隊長が口添えした。
「この二人は自分たちがそっくりなのをいいことに、イタズラし放題で」
額を押さえて、苦々しくうめく。
――こら、ノア! お前さっきはよくも……!
――え? オレ、ノエだけど?
とか。
――待てー! ええと、ノア、ノエ、どっちだ!?
――オレはノアであってノエでなく、ノアではなくてノエでもある!
――いや、どっちだよ!?
なんてやり取りは日常茶飯事だ。
見分けがつかない人間には、真相は闇の中である。
「この場でも、二人を間違えずに区別できるのはロワ殿下だけです」
アラン隊長は、溜め息混じりだった。
「この場ってか」
「家族を除けば、『月光銀糸』だけだよ、オレらを見分けられるの」
「これぞ『月光銀糸』の七不思議」
双子は肩を竦めて、顔を見合わせた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうこざいます!
4ー22『月光銀糸』の七不思議 は、8/20(水)21時頃に投稿を予定しています。
咳払いをし、アランがセツに向き直った。王家直属の近衛騎士隊長だけあり、アランは真面目で誠実、きっちりと整えられたクルミ色の髪からは几帳面な繊細さが窺える。
「不勉強で申し訳ないが、その、最強の魔法使いとは、どのくらいお強いのか? いや、貴殿の強さは先程の一戦で実感したが、あれは本気ではないでしょう? 貴殿の本気は如何ほどのものかと思いまして」
アランは、皇八島一の騎士と言われる。やはり最強の騎士として、セツの強さが気になるようだった。
「なんだ」
「やっぱり隊長も気になるんじゃん」
双子が茶々を入れるが、誰しも興味があるのか、セツに視線が集まる。
「……そうだな」
セツは腕を組み、軽く考えた。
「魔法使いの強さと言っても色々ある。魔力量だったり、どれだけ多くの魔法を使いこなせるか、とか。でも、お前たちが知りたいのは戦闘力だろ?」
セツがアイスブルーの目に少し笑みを浮かべる。アラン隊長の内心などお見通しのようだった。
「王宮とか一撃じゃね?」
「最強だぞ? そんなわけないじゃん」
「じゃ、キヨウとか一瞬で灰になったりして」
「まさか。そんなわけないよ」
面白半分な双子を、ロワメールが笑って否定する。
「キヨウと、ダイトもリヨウも軽いよね?」
「そうだな」
キヨウを一瞬で、は双子もふざけて言ったのだ。
冗談が通じないらしい王子様と最強の魔法使いに、双子以下近衛騎士たちが口をつぐむ。
「ミオやキイもいける?」
「うーん、物心ついてから全力なんて出したことないから、あくまで俺の感覚だが、たぶん島ひとつだな」
どうも控えめに言ってるらしいが、これにはロワメール以外の全員が絶句した。
「島ひとつ? セツすごいなー」
ロワメールだけが呑気に笑っているが、島ひとつを一瞬で灰にできると言われて、何故笑っていられるのか。
マスターは強すぎて、もはや非常識である。
「測定とかしたことないの?」
「測定なぁ」
事の重大さをわかっていないロワメールが無邪気に問いかければ、セツは困り顔で唸る。
「魔法使いの強さを測る方法で一般的なのは、『魔力検査』だ。貴族でも、聞いたことくらいあるだろ?」
『魔力検査』は毎年十二歳の子どもを対象に、魔法使いギルドが全国で行っているものだ。この検査で魔力があると判明すれば、魔法学校入学の資格を得る。
「『魔力検査』は魔力の有無、併せて魔力量も測れるが、明確な数値は出せないんだ」
魔力量の数値化は未だに実現不可能で、その測定方法もない。多い少ないといった、漠然とした判定ができるくらいだ
った。なのでセツの魔力量が桁違いなのはわかるが、どれほど普通の魔法使いと違うのか、正確には証明できない。
あとはセツの魔力量が多すぎて、百倍多いのか千倍多いのかもわからないそうだ。
「千倍……」
アラン隊長が、ゴクンと喉を鳴らした。
マスターの深淵を覗き、アラン隊長は迂闊に聞いてしまった己の好奇心を恨んだ。
やはり魔法使いは人知を超えた存在であり、その中でもマスターは計り知れない強さを持つ。
もしこの人物が敵になればどうなるか。
無防備に抱いたその仮定にゾッとした。
たとえ最強の騎士と言われるアランでも、対抗できないだろう。
若い騎士たちはアランの危惧など知らず、ロワメールとともにマスターの話を傾聴している。
「風使いならどれだけ速く飛べるかや、どこまで上空まで飛べるか、なんて方法で互いの魔力量を競ったりするな。水使いならどれだけの水——海水を操れるかとか。このあたりなら目視で確認できるし、ノンカドーにも分かりやすいな」
ちなみにセツは誰よりも速く飛べるし、空気のない上空まで飛んでいってしまうので測定不能、海水に至っても範囲が広すぎて航行中の船へ影響がでるため測定不能である。
「じゃあさ、土魔法なら、どれだけ高い柱を作れるかとか?」
「そうだな。どれだけ圧縮できるか、とかでも比べられるが、この魔法は難しいから、三級は無理だな」
飽きもせずに質問を続けるロワメールに、セツは嫌な顔もせずに答えていた。
穏やかな語り口からは安定した人格が見て取れ、王子に注ぐ眼差しからは深い愛情が読み取れる。
その姿を見ながら、この魔法使いは絶対、ロワメール王子を傷付けるような真似はしないだろうと、アランは確信した。
(我々人類を守る、最強の魔法使い、か)
マスターの役割は、近衛騎士隊長であるアランも聞いている。
(たとえ最強であろうと、三百年も生きてきて、全力を出したこともないとは、なんと息苦しい生き方か)
アラン隊長は、セツに憐憫の目を向ける。
不憫な。
そう思わずにはいられなかった。
セツは顎に指を当て、神妙な面持ちで双子を眺める。そして今更ながらの疑問を投げかけた。
「ところで、どっちがノアで、どっちがノエだ?」
「オレがノア。お兄ちゃんだ」
「オレがノエ。弟だ」
双子はそう名乗ったのだが。
同じ顔、同じ髪型、同じ服。おまけに声までそっくりだ。なんなら仕草まで同じである。
「見分けがつかん」
「お気になさらず。この二人が区別できないのはわざとです」
困るセツに、アラン隊長が口添えした。
「この二人は自分たちがそっくりなのをいいことに、イタズラし放題で」
額を押さえて、苦々しくうめく。
――こら、ノア! お前さっきはよくも……!
――え? オレ、ノエだけど?
とか。
――待てー! ええと、ノア、ノエ、どっちだ!?
――オレはノアであってノエでなく、ノアではなくてノエでもある!
――いや、どっちだよ!?
なんてやり取りは日常茶飯事だ。
見分けがつかない人間には、真相は闇の中である。
「この場でも、二人を間違えずに区別できるのはロワ殿下だけです」
アラン隊長は、溜め息混じりだった。
「この場ってか」
「家族を除けば、『月光銀糸』だけだよ、オレらを見分けられるの」
「これぞ『月光銀糸』の七不思議」
双子は肩を竦めて、顔を見合わせた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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