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第四話 王都次代編
4ー24 仲間との別れ
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第二王子の専属魔法使いとなる。
ジュールのその言葉に待ったをかけたのはディアだった。
「国王陛下でも王太子殿下でもなく、第二王子の魔法使いにって、不自然だよ。政治がらみってこと?」
ディアの質問は鋭い。
ターコイズブルーの瞳は、全てを見透かすようだった。
ディアは自身の過去をあまり語らない。父を病気で、母を火事で亡くした孤児だと言うが、彼女の思考回路は、時として平民のものと異なる。政略や謀略を間近で見てきた人間のそれだった。たぶん訳ありなのだと、ジュールは薄々気付いている。
「このタイミングで魔法使いをそばに置くなんて、第二王子殿下が、魔法使いを法の下で裁く法案を言い出したことと関係あるんじゃない?」
ディアは控えめに、だが眉を寄せて不信を表す。ジュールが利用され、政略に巻き込まれることを心配してくれていた。
「違うよ。このタイミングを利用したのは、ボクの方。ボクから殿下のお側にお仕えさせてほしいってお願いしたんだ」
ロワメール陣営にも、なにか思惑があるのかもしれない。兄もその可能性は示唆していた。
しかし、それはジュールも一緒である。
「ご両親はなんて?」
「あの人たちが、反対するわけないよ。知ってるでしょう?」
「……ごめん」
冷笑するジュールに、ディアは素直に謝った。
ジュールの父、レオール伯爵は子どもたちに無関心、母である伯爵夫人にとって、三兄弟はアクセサリーでしかなかった。
父はジュールがなにをしようと興味はなく、母は子どもが出世すればするだけ喜んだ。
「このこと、ギルドは認めてくれてるの?」
「ううん。でも兄さんが、ギルドはなんとかしてくれるって」
一番厄介なギルドの説得は、ジスランが勝手出てくれている。
「そっか。じゃあ、もう決まったも同然だね」
ディアは、寂しげに微笑んだ。
「……それで、オレらのパーティー抜けるってことか?」
「うん。ごめん」
レオの声は、微かに震えている。
ジュールは、わずかに罪悪感を覚えた。
「なんで!? ワタシたち、ずっと上手くやってきたじゃん! 魔法学校と時からずっと四人で! そりゃあ、たまにはケンカだってしたけど、でもずっと仲良く……!」
「うん」
目に涙をためて、リーズの唇がわななく。
「ワタシたちより、王子様がいいってこと!?」
「違うよ。そうじゃないんだ。リーズもディアもレオも、ぼくの大事な友達で、仲間であることにかわりはない」
「ならなんでよ!?」
リーズが反対するのはわかっていた。
人見知りで、口が悪くて、少しワガママで。けど、本当は人一倍繊細で、寂しがり屋だ。
「もう二度と、会えないわけじゃない。キキは隣の島だし、なんならキヨウは、リーズの実家のあるダイトの隣だよ」
泣くほど別れを寂しがってくれるのは、純粋に嬉しかった。
「ジュールは、本当にやりたいことを見つけたんだよ」
リーズの隣に座り、背中を擦りながらディアが慰める。
ディアには反対されないと思っていた。
いつも笑顔で明るくて、優しいディア。でも、どこか一線を引いたところがある。両親を亡くしているからか、深入りしないように用心している。失う恐怖を知っているから、こちらに踏み込んでは来なかった。
そんなディアだから、ジュールがパーティーを抜けたいと言えば、賛成してくれると思っていた。
「なンだ、そっか……。そーかよ」
俯き、レオがガシガシと赤毛の髪を乱暴に掻く。
「あー、そうか。あー」
唸るように独りごちる、レオの表情は見えない。両手で後頭部を押さえ、深く首を折っている。
「レオ……」
正直、レオの反応だけはわからなかった。
やっぱり、反対される……?
「なンだ! そーかよ! やったじゃないか、大出世!」
勢いよく顔を上げたレオに、ジュールが一瞬ビクッとする。
「レ、レオ?」
「やったな! おめでとー!」
バンバンとジュールの両肩を叩き、レオは白い歯を見せて喜んだ。
「……うん。ありがとう」
「リーズも喜べよ! 仲間の出世だぜ? 王族に仕えるなンて、出世も出世、大出世だ!」
戸惑うジュールを置いて、レオは喜色満面に親友の門出を祝ってくれた。
ジュールからの夕食の誘いを断り、レオ、リーズ、ディアの三人は、シノンの夜の街を歩いていた。
「今日は朝まで遊ぶぞー!」
「おいおい、マジかよ」
ズビズビと鼻を鳴らしながらも、意気軒昂なリーズにレオが顔を引き攣らせる。
「なによ! 失恋したアンタを慰めてあげようって言ってるんじゃない!」
「だーかーらー、その設定いい加減やめて!?」
「ホントのことでしょ? レオがジュールにフラレて、王子様に取られたんじゃない。だいたいアンタは、なんでそんな涼しい顔してられんのよ? ここは滂沱の涙を流すところでしょーが。情緒がないわね、まったく」
酔ってもないのに、もはや言ってることがめちゃくちゃである。
「まあ、なンとなく、こうなる気はしてたンだよなー」
頭の後ろで指を組み、レオが夜空を見上げる。地上の明かりで星はあまり見えず、暗い夜空にぽっかりと空が区切られていた。
「あいつはさ、オレらとは違うンだよ。次元が違うっつーか。もっともっと、上に行くべき奴なンだよ。だからさ、オレらが引き留めて、足引っ張っちゃダメだろ」
これまで漠然と胸のうちにあったジュールへの羨望と不安と期待を、訥々と言葉にする。
「自慢してやろーぜ。王子の魔法使いはオレらの仲間なンだって……あれ?」
そこで、レオは慌てて言葉を途切る。
「なンで、涙なンか……あれ? オレ、おかしくない?」
そんなつもりはないのに、涙が滲む。
「あーもー、しょうがないなぁ」
「ほら、見なさい! レオも寂しいんじゃない!」
ディアは苦笑しながら優しくレオの背を撫で、リーズは容赦なく腕を叩く。
「ほら、気が済むまで付き合ってあげるから。今日は朝まで騒ぐぞー!」
鼻のグズグズさせた眼鏡の少女とゴシゴシと目元をこする背の高い青年を引き連れ、ディアはまるで引率の先生のように夜の街に繰り出すのだった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうこざいます!
4ー25 北辰伯 は、9/10(水)21時頃に投稿を予定しています。
ジュールのその言葉に待ったをかけたのはディアだった。
「国王陛下でも王太子殿下でもなく、第二王子の魔法使いにって、不自然だよ。政治がらみってこと?」
ディアの質問は鋭い。
ターコイズブルーの瞳は、全てを見透かすようだった。
ディアは自身の過去をあまり語らない。父を病気で、母を火事で亡くした孤児だと言うが、彼女の思考回路は、時として平民のものと異なる。政略や謀略を間近で見てきた人間のそれだった。たぶん訳ありなのだと、ジュールは薄々気付いている。
「このタイミングで魔法使いをそばに置くなんて、第二王子殿下が、魔法使いを法の下で裁く法案を言い出したことと関係あるんじゃない?」
ディアは控えめに、だが眉を寄せて不信を表す。ジュールが利用され、政略に巻き込まれることを心配してくれていた。
「違うよ。このタイミングを利用したのは、ボクの方。ボクから殿下のお側にお仕えさせてほしいってお願いしたんだ」
ロワメール陣営にも、なにか思惑があるのかもしれない。兄もその可能性は示唆していた。
しかし、それはジュールも一緒である。
「ご両親はなんて?」
「あの人たちが、反対するわけないよ。知ってるでしょう?」
「……ごめん」
冷笑するジュールに、ディアは素直に謝った。
ジュールの父、レオール伯爵は子どもたちに無関心、母である伯爵夫人にとって、三兄弟はアクセサリーでしかなかった。
父はジュールがなにをしようと興味はなく、母は子どもが出世すればするだけ喜んだ。
「このこと、ギルドは認めてくれてるの?」
「ううん。でも兄さんが、ギルドはなんとかしてくれるって」
一番厄介なギルドの説得は、ジスランが勝手出てくれている。
「そっか。じゃあ、もう決まったも同然だね」
ディアは、寂しげに微笑んだ。
「……それで、オレらのパーティー抜けるってことか?」
「うん。ごめん」
レオの声は、微かに震えている。
ジュールは、わずかに罪悪感を覚えた。
「なんで!? ワタシたち、ずっと上手くやってきたじゃん! 魔法学校と時からずっと四人で! そりゃあ、たまにはケンカだってしたけど、でもずっと仲良く……!」
「うん」
目に涙をためて、リーズの唇がわななく。
「ワタシたちより、王子様がいいってこと!?」
「違うよ。そうじゃないんだ。リーズもディアもレオも、ぼくの大事な友達で、仲間であることにかわりはない」
「ならなんでよ!?」
リーズが反対するのはわかっていた。
人見知りで、口が悪くて、少しワガママで。けど、本当は人一倍繊細で、寂しがり屋だ。
「もう二度と、会えないわけじゃない。キキは隣の島だし、なんならキヨウは、リーズの実家のあるダイトの隣だよ」
泣くほど別れを寂しがってくれるのは、純粋に嬉しかった。
「ジュールは、本当にやりたいことを見つけたんだよ」
リーズの隣に座り、背中を擦りながらディアが慰める。
ディアには反対されないと思っていた。
いつも笑顔で明るくて、優しいディア。でも、どこか一線を引いたところがある。両親を亡くしているからか、深入りしないように用心している。失う恐怖を知っているから、こちらに踏み込んでは来なかった。
そんなディアだから、ジュールがパーティーを抜けたいと言えば、賛成してくれると思っていた。
「なンだ、そっか……。そーかよ」
俯き、レオがガシガシと赤毛の髪を乱暴に掻く。
「あー、そうか。あー」
唸るように独りごちる、レオの表情は見えない。両手で後頭部を押さえ、深く首を折っている。
「レオ……」
正直、レオの反応だけはわからなかった。
やっぱり、反対される……?
「なンだ! そーかよ! やったじゃないか、大出世!」
勢いよく顔を上げたレオに、ジュールが一瞬ビクッとする。
「レ、レオ?」
「やったな! おめでとー!」
バンバンとジュールの両肩を叩き、レオは白い歯を見せて喜んだ。
「……うん。ありがとう」
「リーズも喜べよ! 仲間の出世だぜ? 王族に仕えるなンて、出世も出世、大出世だ!」
戸惑うジュールを置いて、レオは喜色満面に親友の門出を祝ってくれた。
ジュールからの夕食の誘いを断り、レオ、リーズ、ディアの三人は、シノンの夜の街を歩いていた。
「今日は朝まで遊ぶぞー!」
「おいおい、マジかよ」
ズビズビと鼻を鳴らしながらも、意気軒昂なリーズにレオが顔を引き攣らせる。
「なによ! 失恋したアンタを慰めてあげようって言ってるんじゃない!」
「だーかーらー、その設定いい加減やめて!?」
「ホントのことでしょ? レオがジュールにフラレて、王子様に取られたんじゃない。だいたいアンタは、なんでそんな涼しい顔してられんのよ? ここは滂沱の涙を流すところでしょーが。情緒がないわね、まったく」
酔ってもないのに、もはや言ってることがめちゃくちゃである。
「まあ、なンとなく、こうなる気はしてたンだよなー」
頭の後ろで指を組み、レオが夜空を見上げる。地上の明かりで星はあまり見えず、暗い夜空にぽっかりと空が区切られていた。
「あいつはさ、オレらとは違うンだよ。次元が違うっつーか。もっともっと、上に行くべき奴なンだよ。だからさ、オレらが引き留めて、足引っ張っちゃダメだろ」
これまで漠然と胸のうちにあったジュールへの羨望と不安と期待を、訥々と言葉にする。
「自慢してやろーぜ。王子の魔法使いはオレらの仲間なンだって……あれ?」
そこで、レオは慌てて言葉を途切る。
「なンで、涙なンか……あれ? オレ、おかしくない?」
そんなつもりはないのに、涙が滲む。
「あーもー、しょうがないなぁ」
「ほら、見なさい! レオも寂しいんじゃない!」
ディアは苦笑しながら優しくレオの背を撫で、リーズは容赦なく腕を叩く。
「ほら、気が済むまで付き合ってあげるから。今日は朝まで騒ぐぞー!」
鼻のグズグズさせた眼鏡の少女とゴシゴシと目元をこする背の高い青年を引き連れ、ディアはまるで引率の先生のように夜の街に繰り出すのだった。
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