やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

文字の大きさ
196 / 218
第四話 王都次代編

4ー26 侍従見習いと子ネコの愉快な日常

しおりを挟む
 月は日に日に丸みを帯び、輝きを増していく。
 月待月、下旬――。

 ラギ王家の始祖、ジン・ラギは月神の末裔と言われ、月神は王家の守護神として大切に祭られてきた。

「で、その月神の祭りが明日だと?」
「うん。ぼく、初めて参加するんだー」

 成人した『月光銀糸』のみが参列する神事、それが月神大祭である。
 月神に感謝を捧げる神事は、王宮内の月神神殿で行なわれるそうだ。
 王家が大事にしている行事のひとつである。

「それで最近、バタバタしてたんだな」
「衣装の打ち合わせとか、予行練習みたいな。ぼくは兄上の後ろ歩くだけだけど」

 おやつの時間。近頃少々お疲れ気味なロワメールに、料理長のジャン=ジャックは甘い物を欠かさない。今も幸せそうに、ナシのコンポートを頬張っていた。

 月待月になり朝晩は幾分涼しさを感じられるが、昼日中はまだ暑い。冷たい甘味は美味しかった。
 夕食もきっと、ロワメールの好きな肉料理だろう。

「神事は見学できませんが、束帯姿のロワ様は、セツ様もご覧いただけますよ」
 カイに誘われ、セツが梨を飲み込んだ。

 執務室のソファには、ロワメールとセツの他に、カイ以下側近が揃って休憩をしている。
 オーレリアンは主たちの話に静かに耳を傾け、ヒューイは我関せずにナシにかぶりつき、リアムは興味津々な顔を向けていた。

「束帯? ずいぶん昔の衣装を着るんだな」
 束帯は、昔の男性貴族の正装である。現在、普段に着ている者はいなかった。

 セツがいったんフォークを置き、お茶の入ったグラスに手を伸ばす。今日は暑いので、アッサムのアイスティーだ。王宮ゆえ、魔法使いが作った高価な氷もふんだんに使われる。

「由緒正しい神事です。伝統に則って執り行われます」
「なるほどな」
「どうです? 見に来られませんか?」
 ロワメールは可愛くとも、セツは衣服に興味はない。なにを着ようと、ロワメールはロワメールであった。

「実は陛下が、是非セツ様にもロワ様の束帯姿を見てほしいと仰っているんです。『なんと凛々しい姿か! この姿を皆に披露できぬのは、真に、真に惜しい!』と仰って」
 なんとも親バカである。
 要は着飾った息子を見せびらかしたいだけだった。

「まあ、ヒショー様が成人なさって、初めて月神大祭に参加された時も同じこと仰ってましたけどね」
 言いそうである。

「いかがですか、セツ様?」
「いかがと言われてもなぁ」
 ロワメールに見に来てほしいと言われたわけではないので、セツの腰は重かった。

「成人して初めて着る束帯です。成長の証としてご覧なられてはいかがでしょう?」
 セツの反応が芳しくなく、困ったように眉を下げるカイに、オーレリアンが助け舟を出す。
 それが響いたのか、セツはふむ、と頷いた。

「見に行くくらいは構わんが」
「そうですか! 陛下もお喜びになられます!」
 カイが胸を撫で下ろす。どうやら厳命されていたらしい。

 ロワメールが肩を竦める。
(束帯着た肖像画も描いてるんだから、見せびらかす必要性がわからないなー)
 完成後、どうせその絵は月天宮に飾られ、大臣やらどこかの貴族やらにお披露目するのだ。
  
 しかもテンションの上がった国王は、兄弟二人の肖像画も欲しいと言い出して、急遽もう一枚増えたのである。違うポーズでさらにもう一枚、と言い出したのは宰相により阻止された。

 ここのところロワメールがお疲れなのは、この肖像画のためである。宮廷画家の前で長時間同じポーズを取るのは、ロワメールには苦痛でしかなかった。

 月神の末裔とされる王族の肖像画を人目に晒すことは不敬とされているが、家族の絵として陽天宮以外の各自の宮には飾られている。
 特に月天宮にはシャルル王妃と、ヒショー、ロワメールの肖像画が数多く飾られており、それらは年々増えている。

 このままではそう遠くない未来、月天宮の壁は肖像画で埋まりそうだった。





 翌日、セツはカイに案内され、王宮敷地内に建立されている月神神殿に出向くことになった。ロワメールはオーレリアンと先に出ている。ミエルは新緑宮でリアムとお留守番となった。

 リアムのネコ嫌いが治り、ミエルと仲良くなった……と言うことはなく、未だ両者の間は緊張状態が続いている。厳密に言うと、緊張しているのはリアムだけだった。

 ロワメールがオーレリアンに聞いたところによると、リアムが子どもの頃、野良ネコを抱こうとして引っ掻かれたのが原因らしい。

 ミエルは子ネコらしくイタズラっ子で、物陰に隠れて近くを通った人間の足にちょんと触って驚かしたりするのだが、これにリアムは「ふぎゃー!」と悲鳴をあげて飛び退った。もちろん爪なんて出ておらず、肉球のソフトタッチだが、リアムは大騒ぎだ。

 他にもソファに座って、リアムがうっかり手を置いた先にミエルが眠っており、もふっとした手触りに「ふにゃー!」と叫んで飛び上がる、などなどを繰り返す。

 そのうち、リアムが通りかかると、ミエルは高いところからいきなり飛び降りてリアムを驚かせたり、リアムのあとをわざとトコトコ追いかけたり。

 かと思えば、ミエルはロワメールの膝を占領して、撫でられながら自慢げにしっぽを振って愛されアピールをする。

 ぼくのほうが愛されてるもんね、と自慢している、というのがリアムの主張だった。

 子ネコが勝ち誇っているのはネコ嫌いにも伝わるのか、
「今に見ていろ! 絶対、抱っこしてみせるからな!」
 とリアムは息巻いている。

 傍から見ていると、とても面白い事態になっていた。

「ペットは飼い主に似ると言いますが、ああいうイタズラ好きなところはロワ様に似ていますね」
「お互い刺激しあって、成長できるといいですね」
 カイがやれやれと溜め息をつき、オーレリアンは温かく見守る。

 ミエルにとってリアムはちょうどいい遊び相手であり、リアムにとっても賢く小さなミエルは、ネコ嫌いを克服するのにちょうどいい相手……のはずである。






 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうこざいます!

 4ー27 月神大祭 は、9/24(水)21時頃に投稿を予定しています。






 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」

きりざく
ファンタジー
ブラック企業で過労死した男は、異世界に転生し《真理の鑑定眼》を授かった。 それは人や物の“本当の価値”、隠された才能、そして未来の到達点までを見抜く能力だった。 雑用係として軽視され、ついには追放された主人公。 だが鑑定眼で見えたのは、落ちこぼれ扱いされていた者たちの“本物の才能”だった。 初見の方は第1話からどうぞ(ブックマークで続きが追いやすくなります)。 評価されなかった剣士、魔力制御に欠陥を抱えた魔法使い、使い道なしとされた職業―― 主人公は次々と隠れた逸材を見抜き、仲間に迎え入れていく。 やがて集ったのは、誰もが見逃していた“未来の最強候補”たち。 鑑定で真価を示し、結果で証明する成り上がりの冒険が始まる。 これは、見る目のなかった世界を置き去りに、 真の才能を集めて最強パーティへと成り上がる物語。

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。

処理中です...