やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

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第四話 王都次代編

4ー45 四色の魔力

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 ガタゴトと、馬車の車輪の音が響く。
 セツはずっと窓枠に頬杖をつき、景色を眺めながら口を閉ざしていた。

 どんより重い雲が垂れ込める空は荒天を予感させ、落ち着かない気持ちにさせる。

(なにを、考えているんだろう)
 
 感情の読めないアイスブルーの瞳に、ロワメールも黙ったまま、声をかけようとはしなかった。
 セツは一人ずっと、物思いに沈んでいる。

 馬車は王都から一路、キイ領キノカの街へと向かっていた。車内にはロワメールとセツの他に、侍従見習いのリアムも同席している。今回は侍従長とミエルが王子宮で留守番だ。
 専属護衛のヒューイと、近衛騎士隊は騎馬で同行していた。

 リアムは手持ち無沙汰なようだが、主に倣い口を閉ざしている。重い空気を少年も察しているようだった。

 カイが夜会で聞いた『セール伯爵家の呪い』。
 ルネ・キャトル・セールの葬儀から続いた一連の怪異――それは魔力の暴走ではないかと、ロワメールとカイは考えた。
 セツの子どもの頃の話と、あまりに一致しているからだ。
 
 葬儀場が揺れたのは土の魔力、屋敷の窓ガラスが割れたのは風の魔力、カーテンが燃えたのは火の魔力で、井戸から水が溢れたのは水の魔力。庭の木が枯れたのは、土と水の魔力のせいか。
 
 そう、火、水、風、土の四色の魔力だ。
 次代のみが持つ、全属性。

 話を聞いた時、肌が粟立った。
 
(ついに次代が生まれた——!)
 
 まだ、断言はできない。
 四人の魔力が暴走したのかもしれないし、複数属性持ちが二人、同じ場所に居合わせた可能性も捨てきれない。

 けれど、それでも。

 話の内容から、魔力の暴走を起こしているのはセール家の人間であると推察できる。
 伯爵亡きあと、使用人は次々辞め、現在セール家に残っているのは年老いたメイドと、片足の悪い執事、そして当主家族であるセール伯爵夫人エヴァと、令嬢のルーだけだった。

 だが次代候補として、平民出身のメイドと執事は除外される。皇八島の子どもは十二歳の時に任意で、魔力の有無を調べる『魔力検査』を受けるからだ。

 魔法使いは食いっぱぐれなく、また魔法使いを出すことは家の誉れであるため、ほとんど子どもは『魔力検査』を受ける。しかし、例外はいた。貴族である。
 不名誉な噂(平民の子に魔力があったのに、我が子にはなかった)や家名に傷がつく(資金繰りが厳しいと思われる)ことを嫌がって、貴族は『魔力検査』を受けないことが多い。レオール伯爵家やペリュシュ子爵令嬢の風司は少数派である。

 そして調べたところ、エヴァ夫人の生家はダイト領の中流貴族。家計に困ってもいなった。そんな貴族家の令嬢は、魔力検査を受けないと思われる。

 なので、魔力の暴走をさせたかもしれない該当者は二名。
 セール伯爵夫人エヴァと、令嬢のルーである。

 噂の真偽を確かめるために、カイは一人先行してキイに向かってもらった。
 そして調査の結果、カイは『呪い』を魔力の暴走だと結論づけた。

 ロワメールは、セツを盗み見る。相変わらず、表情は読めない。硬い氷に覆われたように、セツの感情は窺い知れない。

 次代が見つかって、喜んでくれる、そう思っていたのに。

 セツは三百年、この時を待ち続けていた。
 たった一人のマスターだからこそ、セツは長きに渡り、氷室での冷凍睡眠を繰り返してきたのだ。

(もし、次代が見つかったなら――)

 セツは、生き続ける必要がなくなる。

 ぼくの願いは、セツから重荷をひとつでも取り除くこと。
 セツを自由にすること。

 次代が生まれたら、セツはマスターの役目から解放され、自由になれる。
 ぼくも、それを望んでいたはずなのに。

(なんでだろう、嬉しいはずなのに)

 ぼくは――

(本当に、それを望んでいるのかな……)




 
 キイ領、キノカの街にあるセール伯爵家の応接室で、ロワメールとセツは伯爵夫人エヴァを待っていた。
 本来なら王族を待たせるなど言語道断だが、エヴァに非はない。伯爵夫人は、側近筆頭から嘘の訪問時間を伝えられていたからだ。
 今頃は慌てて、身支度を整えているだろう。

(悪いことしたな)
 ロワメールは夫人に申し訳なく思ったが、カイから「最終確認をしたいので」と頼まれたのだ。
 なにを確認するのかは知らない。当のカイは姿を消している。
 後で報告があるだろう。

(大方、評判の悪い伯爵夫人を探ってるんだろうけど)
 継子を虐待していると噂されるエヴァ。
 例えルーが次代でなかったとしても、その噂が本当なら、看過できない。
 幸い養い親に、名乗りを上げている人物もいるらしい。

(けど、なにより、魔力を暴走させた人間を探さないと)
 ロワメールが意識を切り替えたタイミングで、カイがしれっと戻って来る。ロワメールとセツはソファに並んで座り、カイは澄ました顔で二人の背後、リアムの隣に立った。専属護衛のヒューイは扉近くで、近衛騎士たちは屋敷の周囲で警護にあたる。

 程なくして、応接室の扉が開いた。
 この屋敷の女主人、エヴァ・キャトル・セールである。





「お待たし、申し訳ございません」
「お気になさらず。ぼくたちが早く着きすぎただけです」
 カイに頼まれていた通りに、口裏を合わせる。

 簡素な黒い着物は、略式の喪服だろう。枯れ色の髪はシンプルに結い上げられ、緑がかった榛色の瞳は切れ長だ。そのキツい目元は、どことなく名付け親に似ている。
 表情は暗く、口角がお世辞にも上がることはない。
 顔色が悪く、痩せているのが気になった。体調が悪そうだ。

 夫人の周りには目に見えない壁があり、他者を寄せ付けない空気がある。
 社交が欠かせぬ貴族の夫人にしては、めずらしいタイプだった。

 ロワメールが王子だからと、媚びへつらおうとしない。
 ロワメール的には媚を売られるよりよほどいいが、これでは周囲の人間と打ち解けられず、軋轢が生まれるのも無理はなかった。

 二十六歳でセール伯爵の後妻となり、結婚して一年足らずで夫を喪い、二十七の身空で未亡人となる。
 普通なら同情されて然るべき立場だが、無愛想さが原因か、娘を虐待する継母との悪評が立つ。

 けれど人の上に立つ立場として、ロワメールは噂を鵜呑みにはしなかった。

 伯爵亡きあと、使用人が次々に辞めたのも、使用人自らの意思ではなく、家計繰りが厳しくなることを見越して、経費削減のための人員整理なら英断だと、カイは言っていた。

(悪女か、才女か)
 ロワメールは二色の瞳で、セール伯爵夫人を眺めた。 





 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうこざいます!

 4ー46 はじめまして、君がルーだね は、1/28(水)21時頃に投稿を予定しています。


 




 
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