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第二話 ギルド本部編
2ー31 マスターは、時に非常識だったりする
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ロワメールはウマから降りると、セツの元に走り寄った。
セツはソウワ湖の畔に立ち、腕を組んで湖面に浮かんだ城をを睨んでいる。
ソウワ湖は、かなり大きな湖だ。その湖の真ん中に、黒い巨城がそびえ立っていた。城は五階建てほど、尖塔の高さは五十メトルはあろうか。黒い城は威容を誇り、見る者を威圧した。
「セツ!」
「来たか」
「どう? なにか動きはあった?」
静まり返った湖面を見ながら、ロワメールが確認した。
「いや」
カイの指示で散らばる騎士の物々しい足音を聞きながら、セツは短く答える。
朝、魔法使いが消えた他は、湖は静かだった。それがかえって不気味だ。
アイスブルーの目は、前を見たまま微動だにしない。
花緑青の支配するこのユフは、魔族の被害が極端に少ない島だった。花緑青の命令か、もしくは配下の魔者、魔獣が人間に友好的な魔主に忖度してかはわからないが、なにかしらの影響があるのは確かである。魔主の支配力は、それだけ絶大だ。
花緑青は最近も顔を出しては、ロワメールとセツの昔話に花を咲かせている。かわった様子もなく、花緑青の指示とは思えなかった。
なのに何故、魔者が動いているのか。
セツの表情が自然と険しさを増した。
「新しくわかったことはある?」
ロワメールはそのままセツの横に並んで、情報を求める。
「偵察に出した風使いによると、あの城に出入り口はない。窓から中の様子も見えないようだ。後、周辺の探索にあたらせている者からも、行方不明の魔法使いについての手がかりはなく、魔獣の被害もない」
「進展はなし、か」
やはり行方不明者の安否が気にかかる。悪い予感しかしなかった。三級では、魔者に手も足も出ないはずだ。
「これからどうするの?」
「そうだな。感知魔法をかけたが、あの城の外壁が結界になっていて、中の様子がわからん」
「それはつまり、城内に行方不明の魔法使いがいるかもしれないってのこと?」
「十中八九な」
でなければ、わざわざ攫う理由がわからない。相手は魔者だ。殺したければ、その場で息の根を止めれば済む。
「それがなければ、あの城ごと魔者を潰せばいいから簡単なんだが」
唸るように独りごちるマスターは、どうやら未だに、ロワメール達を連れて行くのを快く思っていないようだった。
「セツ、ぼくは慣れてるけど……」
セツが遠慮がちな声に顔を向ければ、周りの魔法使いが青い顔をしている。
「なんだ? どうした?」
「なんだ、じゃなくて。みんな引いてるよ。たぶん、セツの言ってることが桁違い過ぎて」
有り余る魔力を惜しみなく使うセツの魔法は、豪快だ。時として非常識なほどに。
「そうか?」
「そうだよ」
「行方不明者がいるかもしれないから、今はしないぞ?」
そういう問題ではない。
一級魔法使いが命懸けで戦う上級魔族を、城ごと潰す……。
マスターにとっては、あの威容を誇る城も折り紙細工程度の認識でしかなく、魔者すら小虫にすぎないのだと改めて思い知らされ、数名の魔法使いは心が折れかけている。
フレデリク一人が面白そうに笑っていた。
「マスターの強さは底なしですね」
「一応マスターだからな」
セツが平然と答えれば、また可笑しそうに笑う。次期土司候補は、いたくマスターをお気に召したようだった。
「配置、完了しました」
カイの報告に、セツは頷く。
今できることは、これ以上魔者の被害を出さないことだ。
「よし、行くぞ」
「ちょっとタンマ!」
出鼻を挫くように待ったがかかり、その場にいた全員が発言者に注目する。
レオが、学生のように挙手していた。
「なんだ?」
「どうやって行くンすか? 風使いと水使いはいいけど、オレらは船で? それに入り口もないし」
湖の真ん中に浮かぶ城までは距離がある。歩いて渡るには水深が深く、魔者との戦闘が控えているのに、泳いで体力を消耗したくない。
セツは湖に向けて、スッと手を伸ばした。
「レオ、覚えいろ。望むままに道を切り拓くのが、土使いだ」
言うと、湖畔の岸から土が盛り上がり、一直線に伸びていく。そして瞬く間に、城への道が出来上がったのだ。
レオが、同じ土使いであるフレデリクとリュカを振り返る。二人には、この魔法を使うことがわかっていたようだった。
当たり前だ。基本の土魔法のひとつである。戦闘職だから思い付かなかった、というのは幼稚な言い訳だった。
「ちなみに、攻撃にも応用可能だ。今度試してみろ」
「……うす!」
次からできればいい。そう言われた気がして、レオは力強く気合いを入れ直した。
魔者との戦闘を目前にして、落ち込んでいる暇はない。
歩き出したセツを追うフレデリクとリュカが、追い越しざま、後輩の背中をバシリと叩いていく。
フレデリクは黙ったまま、リュカはニヤリと笑って、颯爽とレオの前を歩いていった。
レオはその後ろ姿を憧れと共に見送る。
先輩の背は、果てしなく大きい。
けれど、いつかはその背に追いつかなければならない。
少しでも早く近付きたくて、レオは大きく一歩を踏み出しーーその足が、空を切る。
「え……?」
声を漏らしたのは、ジュールだった。
目の前で、友人になにが起こったのか、すぐには理解できない。
「ディア!」
次いで、リーズの悲鳴の先でディアが消えて。
事態を察した騎士達が抜刀するも、なす術なく一級魔法使いが次々と消えていく。
シモンにオドレイ、リュカやフレデリク、リーズもランスもジュールまでも忽然と、まるで地面にぽっかりと開いた穴に吸い込まれるように消えていき。そして。
「ロワメール!?」
セツが、咄嗟に手を伸ばす。
「セ……っ……」
ロワメールがその手に触れる、直前。
ロワメールも姿が掻き消された。
「ロワ様ぁぁぁっ!!!!!」
そしてカイの叫び声と共に、セツの姿も消え失せたのである。
セツはソウワ湖の畔に立ち、腕を組んで湖面に浮かんだ城をを睨んでいる。
ソウワ湖は、かなり大きな湖だ。その湖の真ん中に、黒い巨城がそびえ立っていた。城は五階建てほど、尖塔の高さは五十メトルはあろうか。黒い城は威容を誇り、見る者を威圧した。
「セツ!」
「来たか」
「どう? なにか動きはあった?」
静まり返った湖面を見ながら、ロワメールが確認した。
「いや」
カイの指示で散らばる騎士の物々しい足音を聞きながら、セツは短く答える。
朝、魔法使いが消えた他は、湖は静かだった。それがかえって不気味だ。
アイスブルーの目は、前を見たまま微動だにしない。
花緑青の支配するこのユフは、魔族の被害が極端に少ない島だった。花緑青の命令か、もしくは配下の魔者、魔獣が人間に友好的な魔主に忖度してかはわからないが、なにかしらの影響があるのは確かである。魔主の支配力は、それだけ絶大だ。
花緑青は最近も顔を出しては、ロワメールとセツの昔話に花を咲かせている。かわった様子もなく、花緑青の指示とは思えなかった。
なのに何故、魔者が動いているのか。
セツの表情が自然と険しさを増した。
「新しくわかったことはある?」
ロワメールはそのままセツの横に並んで、情報を求める。
「偵察に出した風使いによると、あの城に出入り口はない。窓から中の様子も見えないようだ。後、周辺の探索にあたらせている者からも、行方不明の魔法使いについての手がかりはなく、魔獣の被害もない」
「進展はなし、か」
やはり行方不明者の安否が気にかかる。悪い予感しかしなかった。三級では、魔者に手も足も出ないはずだ。
「これからどうするの?」
「そうだな。感知魔法をかけたが、あの城の外壁が結界になっていて、中の様子がわからん」
「それはつまり、城内に行方不明の魔法使いがいるかもしれないってのこと?」
「十中八九な」
でなければ、わざわざ攫う理由がわからない。相手は魔者だ。殺したければ、その場で息の根を止めれば済む。
「それがなければ、あの城ごと魔者を潰せばいいから簡単なんだが」
唸るように独りごちるマスターは、どうやら未だに、ロワメール達を連れて行くのを快く思っていないようだった。
「セツ、ぼくは慣れてるけど……」
セツが遠慮がちな声に顔を向ければ、周りの魔法使いが青い顔をしている。
「なんだ? どうした?」
「なんだ、じゃなくて。みんな引いてるよ。たぶん、セツの言ってることが桁違い過ぎて」
有り余る魔力を惜しみなく使うセツの魔法は、豪快だ。時として非常識なほどに。
「そうか?」
「そうだよ」
「行方不明者がいるかもしれないから、今はしないぞ?」
そういう問題ではない。
一級魔法使いが命懸けで戦う上級魔族を、城ごと潰す……。
マスターにとっては、あの威容を誇る城も折り紙細工程度の認識でしかなく、魔者すら小虫にすぎないのだと改めて思い知らされ、数名の魔法使いは心が折れかけている。
フレデリク一人が面白そうに笑っていた。
「マスターの強さは底なしですね」
「一応マスターだからな」
セツが平然と答えれば、また可笑しそうに笑う。次期土司候補は、いたくマスターをお気に召したようだった。
「配置、完了しました」
カイの報告に、セツは頷く。
今できることは、これ以上魔者の被害を出さないことだ。
「よし、行くぞ」
「ちょっとタンマ!」
出鼻を挫くように待ったがかかり、その場にいた全員が発言者に注目する。
レオが、学生のように挙手していた。
「なんだ?」
「どうやって行くンすか? 風使いと水使いはいいけど、オレらは船で? それに入り口もないし」
湖の真ん中に浮かぶ城までは距離がある。歩いて渡るには水深が深く、魔者との戦闘が控えているのに、泳いで体力を消耗したくない。
セツは湖に向けて、スッと手を伸ばした。
「レオ、覚えいろ。望むままに道を切り拓くのが、土使いだ」
言うと、湖畔の岸から土が盛り上がり、一直線に伸びていく。そして瞬く間に、城への道が出来上がったのだ。
レオが、同じ土使いであるフレデリクとリュカを振り返る。二人には、この魔法を使うことがわかっていたようだった。
当たり前だ。基本の土魔法のひとつである。戦闘職だから思い付かなかった、というのは幼稚な言い訳だった。
「ちなみに、攻撃にも応用可能だ。今度試してみろ」
「……うす!」
次からできればいい。そう言われた気がして、レオは力強く気合いを入れ直した。
魔者との戦闘を目前にして、落ち込んでいる暇はない。
歩き出したセツを追うフレデリクとリュカが、追い越しざま、後輩の背中をバシリと叩いていく。
フレデリクは黙ったまま、リュカはニヤリと笑って、颯爽とレオの前を歩いていった。
レオはその後ろ姿を憧れと共に見送る。
先輩の背は、果てしなく大きい。
けれど、いつかはその背に追いつかなければならない。
少しでも早く近付きたくて、レオは大きく一歩を踏み出しーーその足が、空を切る。
「え……?」
声を漏らしたのは、ジュールだった。
目の前で、友人になにが起こったのか、すぐには理解できない。
「ディア!」
次いで、リーズの悲鳴の先でディアが消えて。
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シモンにオドレイ、リュカやフレデリク、リーズもランスもジュールまでも忽然と、まるで地面にぽっかりと開いた穴に吸い込まれるように消えていき。そして。
「ロワメール!?」
セツが、咄嗟に手を伸ばす。
「セ……っ……」
ロワメールがその手に触れる、直前。
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