やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

文字の大きさ
105 / 218
第三話 魔者の花嫁編

3ー8 スイーツの罠

しおりを挟む
 リュカが仕事の依頼を受けてギルドから帰る途中、バッタリと二人組の少女に出会った。
「あ、リュカさん、こんにちはー」
 ディアが、気軽に声をかけてくれる。

「よう、ディア、リーズ」
「お仕事ですか?」
 書類から目を上げたリュカに、ディアが小首を傾げた。ポニーテールが揺れる。快活な少女に、その髪型はよく似合っていた。

「そ。オレのお得意さん。毎年この時期に、オレをご指名で契約してくれんの」
「すごい! リュカさんくらいになると、指名での契約とかあるんですね!」
 魔法使いへの対価は高額で、一級魔法使いとの契約は庶民には手が出ない。その上名指しとなると、指名料で対価が跳ね上がる。裕福な貴族や大商人でなければできない贅沢であり、また彼らにとっても、一級魔法使いとの契約はある意味ステータスだった。

「フフン、スゴいだろ?」
 素直に尊敬してくれるディアに、リュカも冗談めかして胸を張る。
 実績を積み、名を揚げ、人気の高い魔法使いだけが指名を受けられる。繰り返し指名されるのは、依頼人から信頼されている証拠だった。
 お世辞ではなく、リュカはやはり一流の魔法使いである。
  
「ところで二人共、ちょっと聞きたいことあるんだけど、今暇か?」
「………」
 眼鏡の奥からリュカを見つめるリーズの眼差しは、全く友好的ではなかった。
 その瞳の冷たさに、未だお怒り中であることをリュカは悟る。
 けれどこんな時に有効な一言を、リュカは心得ていた。

「なんでも好きな物、奢ってやるから!」
「……なんでも?」
 その声のトーンに若干ビビるが、芽生えたばかりであろうフレデリクへの恋心を、不用意に暴いていしまった償いはせねばなるまい。
「なんでも!」
 リーズの目がキラリと輝いたのは、気のせいだと思いたかった。

「……『風花堂』のスイーツ食べ放題がいいです」
「スイーツって、外の国のお菓子のことだろ? そんなんでいいのか?」
 恐れていた高級料理ではなく、可愛らしいリクエストにリュカが拍子抜けした。

「『風花堂』って、確か、外の国の料理の専門店だったか。なに、そこ美味いの?」
 王都ほどではないが、ここシノンにも魔法使いや貴族目当ての洒落た店が多い。外の国の料理を提供する店は、最先端の人気店だった。

「美味しいって評判」
 リーズがコクンと頷く。
「でも、高くって行ったことないから」
 リュカにも覚えがある。一級とはいえ新人の頃は、懐具合は二級、三級と大差なかった。
 この子達が一級として一丁前に稼げるようになるのは、もう少し時間が経ってからである。

「よっしゃ、任せろ!」
「いいんですか!? やった~!! リュカさん太っ腹!」
「お菓子くらいで大袈裟だなぁ」
 諸手を上げて大喜びするディアに、リュカが苦笑する。だがこの後すぐ、リュカはお菓子の世界の恐ろしさを思い知るのであった。





『風花堂』は、シノンでも高級店が立ち並ぶ通りに店舗を構えていた。周囲にはセツ御用達の呉服店『桔梗屋』や、高級化粧品ペリュシュ社の本店が軒を連ねている。
 店内に一歩足を踏み入れれば甘い香りが鼻腔を満たし、大きなシャンデリアが目に入る。高級店らしく内装は上品な色調でまとめられていた。
 客層は貴族のご夫人やご令嬢、魔法使い、裕福な商家の子女といったところか。恋人や妻と訪れたらしい男性客もチラホラいて、リュカも場違い感はない。場違い感はないが。
 
「一人6000ファラン……」
 放心状態で呟く。予想を遥かに超える値段だった。
 道理でディアが大喜びするはずである。こんなの、新人でなくともおいそれと払える金額ではなかった。

(6000ファランあれば、酒飲んで、腹いっぱい飯食っても、お釣りがくるぞ……)
 少なくとも、リュカが普段通っている店ではそうだ。
(まんじゅうとか、一個100ファランじゃん……)
 思わず皇八島のお手軽甘味と比べてしまう。しかし、リュカが知らないだけで、まんじゅうだって高いものは高いのである。

 スイーツを単なる菓子だと高を括り、安請け合いした自分が恨めしい。
「は、ははは、は、……はあぁ~」
 リュカの乾いた笑いが、悲しい溜め息にかわった。

「美味いかぁ?」
「美味しいですー!」
 もはや諦めの境地で尋ねれば、少女達は美味しさに感激している。これほど喜んでくれるなら、奢り甲斐はあるというものだ。

 店の一角には色とりどりのスイーツがたくさん並べられ、そこから好きなものを好きなだけ選べる形式である。赤、白、黄色、ピンク、緑、茶色と、スイーツはカラフルな色合いだった。どれも上品なサイズで、キラキラと宝石のように輝き、食べるのがもったいないほどだ。

 少女達の皿にも、何種類ものスイーツが盛られている。ケーキにタルトにパイに、マカロンにシュークリームに……リュカにはとても覚えきれない。もはや呪文である。
「スイーツって、高いんだなぁ……」
 少女達は、ご満悦で甘いお菓子を頬張っていた。 

 対してリュカはケーキと格闘中である。
 なんとか攻略してやろうと奮闘するが、いかんせんスイーツは強敵だった。
 難攻不落のモンブラン要塞か、はたまた人類未踏峰の峻険なるショートケーキ岳か。
 果敢にフォークで挑むが苦戦を強いられている。
(甘い! 甘すぎる!)

『風花堂』のスイーツは果物をふんだんに使って甘さ控えめだが、根っからの辛党であるリュカにはハードルが高かった。
 甘いケーキに四苦八苦で、もはや苦行である。
(イチゴはいい。けど、このクリームが甘いんだよ)
 思わず本来の目的を忘れて元を取ることに勤しんでいたリュカだったが、リーズはちゃんと覚えていた。

「それで、ワタシ達に聞きたいことってなんですか?」
 リュカが、慌てて木苺のムースを飲み込む。甘酸っぱい香りが鼻を抜け、少し咳き込んだ。
「いや、そんな改まったことじゃないんだ」
 苦いコーヒーに人心地つき、リュカは改めてディアとリーズに向き合う。

「ランスのことなんだがな」
 思いもかけぬ人物の名前に、少女達は食べる手を止めてキョトンとした。
 

 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 

 ❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうございます!

 3ー9 甘いケーキと優しい先輩 は8/2(金)の夜に投稿を予定しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」

きりざく
ファンタジー
ブラック企業で過労死した男は、異世界に転生し《真理の鑑定眼》を授かった。 それは人や物の“本当の価値”、隠された才能、そして未来の到達点までを見抜く能力だった。 雑用係として軽視され、ついには追放された主人公。 だが鑑定眼で見えたのは、落ちこぼれ扱いされていた者たちの“本物の才能”だった。 初見の方は第1話からどうぞ(ブックマークで続きが追いやすくなります)。 評価されなかった剣士、魔力制御に欠陥を抱えた魔法使い、使い道なしとされた職業―― 主人公は次々と隠れた逸材を見抜き、仲間に迎え入れていく。 やがて集ったのは、誰もが見逃していた“未来の最強候補”たち。 鑑定で真価を示し、結果で証明する成り上がりの冒険が始まる。 これは、見る目のなかった世界を置き去りに、 真の才能を集めて最強パーティへと成り上がる物語。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

処理中です...