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第三話 魔者の花嫁編
3ー52 ロワメール対リュカ
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(なんでいるんだろう?)
ギルド本部は、にわかに賑わいを見せていた。四属性対抗試合の予選が始まり、全国から名を挙げたい戦闘職の魔法使いが続々と集まって来たからだ。
また予選に合わせてギルド祭の準備も本格化し、戦闘職以外の魔法使いも慌ただしい。
つまり、魔法使いはみんな忙しいのだ。
なのに何故か、居間のソファにはフレデリクが居座り、ちゃっかりセツに土魔法の講義を受けている。
「フレデリク、予選はいいのか?」
次期土司候補にセツがそんな質問をしたのは、なにもロワメールの心を読んだからではないだろう。けれど王子様は、仕事に集中するフリをしながら、しっかり聞き耳を立てていた。
(そうだよ。戦闘職なんだから、予選に行けばいいのに)
ジュールは対抗試合にずいぶん真剣に向き合っているようで、修行に明け暮れ、朝に泉で合う他は家にも来ない。伝え聞くところによると、順当に予選を勝ち進んでいるようだ。
ジュールはあれほど忙しくしているのに、どうしてフレデリクは毎日来るのか。暇なのか。
「おれ、去年も本戦出場してるんで、シード枠なんです」
土使い最強は、嘘ではないようだった。
ロワメールが、むぅと一人不機嫌顔だ。
「ロワ様、次が最後です」
カイが差し出す書類に目を通し、サインをする。
「お疲れ様でした。今日はちょっと多かったですね」
「本当だよ。あー、疲れた」
言うなり、べしゃりとテーブルに突っ伏した。真面目に仕事は熟すが、ずっと座りっぱなしだと体を動かしたくなってくる。
「こんちはー! フレデリクさん回収に来ましたー」
するとそこに、リュカが師匠を迎えにやってきた。
「リュカ! ちょうどいいタイミング!」
「うわ、イヤな予感……」
ガタリと椅子を鳴らして立ち上がる王子様に、リュカは身構える。
「リュカ、時間あるよね? 組手付き合って」
「ええ!? 今からですか!?」
ロワメールはどういうわけか、リュカには懐いている。
「イヤですよ、暑いのに」
「そう言わないで、ちょっとだけ。今日書類多かったから、体動かしたいんだ」
「オレ、予選終わらせたとこっすよ」
リュカは渋い顔だ。ロワメールからこの手のお誘いは、なにも今日に始まったことではない。
「ね、お願い」
可愛らしく頼まれ、リュカはこれ見よがしに溜め息を吐いた。
この王子様に「お願い」なんて言われて、断れる奴がいようか。
「もー、しょうがないっすね。ほんとにちょっとだけですよ」
弟のワガママを聞く兄貴のように、よっこいしょと重い腰を上げる。
「暑っつ!」
居間からテラスに外出た途端、ロワメールから漏れた一言にリュカは声を上げて笑った。
「ほらぁ、暑いでしょ? やめときます?」
「やる」
「やれやれ。マスターの家で、涼んでばっかの殿下には負けませんよ」
嘯き、リュカは拳を固めた。
ロワメールも型を取る。そして二人は、泉の畔で無言で拳を交わし始めた。
身体能力の高さを活かした変則的な攻撃のリュカと、流れるような動きから、鋭い突きや蹴りを繰り出すロワメールは、リュカの方が強い。
「お、今の躱しますか?」
余裕を見せるリュカに、ロワメールも負けじと笑ってみせる。
「とーぜん! このくらいできなきゃ、翡翠に泣かれる」
「ああ、ルゥークー武術使いの専属護衛」
ルゥークー武術とは、ココノエ島の更に南にあるルゥークー島発祥の武術で、今や皇八島全土に広がっている武術である。
ルゥークー島出身のロワメールの専属護衛は、ルゥークー武術の使い手だった。
「……って、またそうやって我流の打ち込んでくる!」
みぞおちを狙った強かな蹴りを両腕で受け止め、顔をしかめる。
「予測しづれぇ!」
「お互い様だよ!」
路上のケンカで技を磨いたリュカに、型などなかった。予測不能もいいとこだ。だが、逆にそれがロワメールには新鮮で面白い。
パシッ、ザッ、ダンッと激しい打ち合いが続き、間合いを取る。一瞬の静寂の後、悲鳴が上がった。
「……暑っつい!」
「もう無理!」
二人して、涼しい居間になだれ込む。
「暑っつー」
「ひゃあー、家の中涼しー」
短い時間だったが、二人共汗だくだ。
「風邪引かないでくださいよ」
カイがすかさず、ロワメールにタオルを渡す。
「ロワ様のお相手、ありがとうございます」
リュカも受け取ったタオルで顔を拭きながら、ハハッと笑った。
「殿下の相手は楽しいんすけど、暑いっす」
「悪いな、リュカ。スイカ食うか?」
「食います!」
マスターからも労われる。
セツ家でのリュカの扱いが、子どもの相手をしてくれる近所の兄ちゃんであった。
「にしても、殿下。剣士なのに素手も強いとか、勘弁してほしいっすよ」
「あはは」
男五人でテーブルを囲んでスイカを食べながら、リュカが大袈裟に嘆く。
「それにルゥークー武術だけならともかく、なんであんな、急所狙いのケンカ殺法みたいなのまでできるんです?」
シャクシャクとスイカにかぶりつきながら、リュカが呆れる。泉で冷やされたスイカは、冷たくて甘い。
「あれは、セツに教えてもらったやつ」
剣を持っていない時用に、セツが護身術として教えたのだ。
「王子様になに教えてんすか!? つか、マスターがケンカ?」
セツとケンカが結びつかず、リュカがスイカを食べるのも忘れて目を白黒させる。
「師匠はケンカっ早くてな、俺もいざって時のために教わった。まあ、教わっただけで、実践したことはないが」
実践してないと聞いてホッとしたのも束の間、更なる疑問が湧き上がる。
「マスターの師匠って、先代マスターっすよね?」
リュカが疑問符を並べるが、まあ、その反応が普通だった。
ロワメールが好奇心を巡らせる。
『くそったれ師匠』で、ケンカが強くて、芸術にも明るい、セツの『父親』。
どれだけ話を聞いても、どんな人だったのか想像もつかない。
「会ってみたかったな、オジ師匠」
「馬鹿言うな!」
ロワメールが言えば、セツが血相をかえる。
「例え師匠が生きていようと、ロワメールには絶対会わせん」
「なんで?」
「教育上良くない」
言い切るセツに、ロワメールはますます興味を掻き立てられるのだった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー53 難攻不落 は1/3(金)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
2025/01/16、加筆修正しました。
ギルド本部は、にわかに賑わいを見せていた。四属性対抗試合の予選が始まり、全国から名を挙げたい戦闘職の魔法使いが続々と集まって来たからだ。
また予選に合わせてギルド祭の準備も本格化し、戦闘職以外の魔法使いも慌ただしい。
つまり、魔法使いはみんな忙しいのだ。
なのに何故か、居間のソファにはフレデリクが居座り、ちゃっかりセツに土魔法の講義を受けている。
「フレデリク、予選はいいのか?」
次期土司候補にセツがそんな質問をしたのは、なにもロワメールの心を読んだからではないだろう。けれど王子様は、仕事に集中するフリをしながら、しっかり聞き耳を立てていた。
(そうだよ。戦闘職なんだから、予選に行けばいいのに)
ジュールは対抗試合にずいぶん真剣に向き合っているようで、修行に明け暮れ、朝に泉で合う他は家にも来ない。伝え聞くところによると、順当に予選を勝ち進んでいるようだ。
ジュールはあれほど忙しくしているのに、どうしてフレデリクは毎日来るのか。暇なのか。
「おれ、去年も本戦出場してるんで、シード枠なんです」
土使い最強は、嘘ではないようだった。
ロワメールが、むぅと一人不機嫌顔だ。
「ロワ様、次が最後です」
カイが差し出す書類に目を通し、サインをする。
「お疲れ様でした。今日はちょっと多かったですね」
「本当だよ。あー、疲れた」
言うなり、べしゃりとテーブルに突っ伏した。真面目に仕事は熟すが、ずっと座りっぱなしだと体を動かしたくなってくる。
「こんちはー! フレデリクさん回収に来ましたー」
するとそこに、リュカが師匠を迎えにやってきた。
「リュカ! ちょうどいいタイミング!」
「うわ、イヤな予感……」
ガタリと椅子を鳴らして立ち上がる王子様に、リュカは身構える。
「リュカ、時間あるよね? 組手付き合って」
「ええ!? 今からですか!?」
ロワメールはどういうわけか、リュカには懐いている。
「イヤですよ、暑いのに」
「そう言わないで、ちょっとだけ。今日書類多かったから、体動かしたいんだ」
「オレ、予選終わらせたとこっすよ」
リュカは渋い顔だ。ロワメールからこの手のお誘いは、なにも今日に始まったことではない。
「ね、お願い」
可愛らしく頼まれ、リュカはこれ見よがしに溜め息を吐いた。
この王子様に「お願い」なんて言われて、断れる奴がいようか。
「もー、しょうがないっすね。ほんとにちょっとだけですよ」
弟のワガママを聞く兄貴のように、よっこいしょと重い腰を上げる。
「暑っつ!」
居間からテラスに外出た途端、ロワメールから漏れた一言にリュカは声を上げて笑った。
「ほらぁ、暑いでしょ? やめときます?」
「やる」
「やれやれ。マスターの家で、涼んでばっかの殿下には負けませんよ」
嘯き、リュカは拳を固めた。
ロワメールも型を取る。そして二人は、泉の畔で無言で拳を交わし始めた。
身体能力の高さを活かした変則的な攻撃のリュカと、流れるような動きから、鋭い突きや蹴りを繰り出すロワメールは、リュカの方が強い。
「お、今の躱しますか?」
余裕を見せるリュカに、ロワメールも負けじと笑ってみせる。
「とーぜん! このくらいできなきゃ、翡翠に泣かれる」
「ああ、ルゥークー武術使いの専属護衛」
ルゥークー武術とは、ココノエ島の更に南にあるルゥークー島発祥の武術で、今や皇八島全土に広がっている武術である。
ルゥークー島出身のロワメールの専属護衛は、ルゥークー武術の使い手だった。
「……って、またそうやって我流の打ち込んでくる!」
みぞおちを狙った強かな蹴りを両腕で受け止め、顔をしかめる。
「予測しづれぇ!」
「お互い様だよ!」
路上のケンカで技を磨いたリュカに、型などなかった。予測不能もいいとこだ。だが、逆にそれがロワメールには新鮮で面白い。
パシッ、ザッ、ダンッと激しい打ち合いが続き、間合いを取る。一瞬の静寂の後、悲鳴が上がった。
「……暑っつい!」
「もう無理!」
二人して、涼しい居間になだれ込む。
「暑っつー」
「ひゃあー、家の中涼しー」
短い時間だったが、二人共汗だくだ。
「風邪引かないでくださいよ」
カイがすかさず、ロワメールにタオルを渡す。
「ロワ様のお相手、ありがとうございます」
リュカも受け取ったタオルで顔を拭きながら、ハハッと笑った。
「殿下の相手は楽しいんすけど、暑いっす」
「悪いな、リュカ。スイカ食うか?」
「食います!」
マスターからも労われる。
セツ家でのリュカの扱いが、子どもの相手をしてくれる近所の兄ちゃんであった。
「にしても、殿下。剣士なのに素手も強いとか、勘弁してほしいっすよ」
「あはは」
男五人でテーブルを囲んでスイカを食べながら、リュカが大袈裟に嘆く。
「それにルゥークー武術だけならともかく、なんであんな、急所狙いのケンカ殺法みたいなのまでできるんです?」
シャクシャクとスイカにかぶりつきながら、リュカが呆れる。泉で冷やされたスイカは、冷たくて甘い。
「あれは、セツに教えてもらったやつ」
剣を持っていない時用に、セツが護身術として教えたのだ。
「王子様になに教えてんすか!? つか、マスターがケンカ?」
セツとケンカが結びつかず、リュカがスイカを食べるのも忘れて目を白黒させる。
「師匠はケンカっ早くてな、俺もいざって時のために教わった。まあ、教わっただけで、実践したことはないが」
実践してないと聞いてホッとしたのも束の間、更なる疑問が湧き上がる。
「マスターの師匠って、先代マスターっすよね?」
リュカが疑問符を並べるが、まあ、その反応が普通だった。
ロワメールが好奇心を巡らせる。
『くそったれ師匠』で、ケンカが強くて、芸術にも明るい、セツの『父親』。
どれだけ話を聞いても、どんな人だったのか想像もつかない。
「会ってみたかったな、オジ師匠」
「馬鹿言うな!」
ロワメールが言えば、セツが血相をかえる。
「例え師匠が生きていようと、ロワメールには絶対会わせん」
「なんで?」
「教育上良くない」
言い切るセツに、ロワメールはますます興味を掻き立てられるのだった。
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