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第四話 王都次代編
4ー16 近衛騎士隊『陽炎』
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秋の長雨がようやく上がった翌日、ロワメールは執務机に頬杖をつき、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
秋晴れの空が高い。
左手には目を通していたはずの書類がそのまま、待ちぼうけを食らっている。
「ロワ様、少し休憩しましょうか?」
「セツさまのご紹介がてら、近衛の隊舎にでも顔を出してきてはいかがでしょう?」
「えっ、いいの?」
カイとオーレリアンが見かねて、休憩を促した。シノンから戻ってきてからろくに休みもなく、働きづめである。
忙しさに加え、セツにいい格好をしたくて、いつも以上に精力的に仕事をこなしていたのだ。しかしそろそろ、集中力が切れてきた。
「適度な休憩は、仕事の効率化にも効果的です」
「時間の調整はしておきますので」
「ありがとう!」
ロワメールの顔が輝いた。
セツの家でもできる政務はしていたし、兄も片付けてくれていたが、ロワメールでなければ判断できない書類もあった。結果として留守中に溜まった仕事と日々の業務が重なって、現在王子宮の抱える仕事量はとんでもないことになっている。
ロワメールだけでなく、側近たちも文句ひとつ言わずに仕事をこなしていたが、集中力を維持するためにも気分転換は必要だった。
「セツも本ばっかり読んでないで、散歩行こ!」
セツは執務室のソファで、山積みにした魔法関連書籍と外の国の料理本と歴史書を読み耽っていた。
「んー」
生返事を返す名付け親の腕を、ロワメールは引っ張る。放っておいたら、セツは一日中本ばかり読んでいた。
今は熱心にプリンの作り方を勉強している。時折掌の上で水蒸気が発生しているのは、蒸す温度の調整だろう。これは近いうちに美味しい物が食べられそうだ。
「セーツ、ほら、行こうよ」
「うーん……」
続きが気になるらしいセツを、無理矢理引っ張り上げる。読書三昧もいいが、たまには体も動かさなければ。
「まだ仕事は山積みなんですから、とっとと帰ってきてください」
「リアムも行く?」
不満顔の侍従見習いだったが、ロワメールに誘われると態度を一変させた。
「しょ、しょうがないですね。ロワメール殿下がどうしてもって言うなら、ついて行ってあげます。ほら、早く行きますよ」
ツンと澄ましているのは台詞だけで、いそいそと扉に向かった。ロワメールに誘われウキウキ、ルンルンである。
「ミエル、おいで!」
ロワメールが呼ぶと、ソファで毛繕いしていた子ネコは、ピョンとジャンプして腕の中に収まる。
「いってきまーす!」
セツ、リアム、ミエル、そして護衛のヒューイを連れ、ロワメールは笑顔で執務室をあとにした。
近衛騎士隊の隊舎は、王宮敷地内の一角にあった。
隊舎と隣り合った訓練場では、今日も近衛騎士が鍛錬に励んでいる。
「敵がお行儀よく攻撃してくると思うな!」
乱戦形式で、敵味方に分かれ騎士たちが剣を打ち合っていた。いったいどれだけ続けているのか、滝のような汗を流している。
「手を緩めるな! 実戦なら殺されてるぞ!」
息を吐く間も許されなかった。
彼らが倒されれば、彼らの守る王族が凶刃に晒されるのだ。
容赦のない激が飛ぶ。
「休むな! 体力が底をついても戦え!」
激しい打ち合いは、実戦さながらだ。
厳しい訓練は、それだけ彼らが重要な役目に就いている証拠でもある。
「そこまで!」
隊長の掛け声と共に、騎士たちがバタバタと地面に倒れ込んだ。ハードな訓練に、体力自慢のはずの騎士たちがヘタレ込んでいる。
「アラン隊長ー」
「殿下、お久しぶりですね」
頃合いを見計らってロワメールが声をかければ、隊長のアランは笑顔で王子を出迎えた。
「剣の鍛錬は欠かさず、続けていましたか?」
「もちろん!」
近衛騎士隊長は四十代半ば、クルミ色の髪に抹茶色の瞳を持つ、誠実な人柄を面に表した男性である。
そして、現在のロワメールの剣の師でもあった。
「ロワじゃん!」
「やっと来たか!」
ロワメールの来訪にへばっていた近衛騎士たちも起き上がり、二人の騎士が真っ先に駆けつける。
スタイルの良い長身に、赤い隊服が良く似合っていた。
春の夕焼けを溶かしたような朱金の髪に、青い目は『海の眼』だ。パッと目を引く美形である。
ロワメールよりいくつか年上で、ヒショー王太子よりは年下、二十二、三歳に見える。
左右から肩に腕を回す双子に、ロワメールも笑顔を向けた。
「ノア、ノエ、ただいま」
「来るの遅いっつーの」
「つか、キヨウに帰って来んのが遅い! 名付け親んとこに行ったっきり、帰って来ねーのかと思ったわ」
二人は遠慮なくロワメールの頬をつついたり、背中をバシバシ叩いたりする。
双子以外の騎士たちもロワメールを囲み、口々におかえりなさいと帰還を喜んだ。
「これでも予定より、だいぶん早く帰ってきたんだよ」
「噓つけ」
「ホントだってば。予定では後一ヶ月か二ヶ月は向こうに居れたんだってば」
帰ってきたくなかったのが丸わかりな返答だったが、これが双子は気に入らなかった。
「うーわ、本音でたよ! 居れたってなにさ!」
「ポロッとそんなこと言うなよ。寂しいじゃんか!」
ノアとノエは腹いせとばかりに、左右から銀の髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。
「ごめんってば」
ロワメールは、手荒い歓迎もされるがままだった。そこに親しさが見て取れる。
けれど三人がじゃれ合う様子を看過できない者がいた。
一歩後ろで控えていたリアムが、我慢しきれず前に出る。
『海の眼』を吊り上げ、ズンズンと三人の間に割って入った。
「離れろ!」
「うおっ!? なになに?」
「リアム、まーたお前か」
リアムはロワメールと双子を引き離そうと試みるが、成長途中の小柄な侍従見習いと近衛騎士では体格差がありすぎて、ビクともしない。
それでもリアムは自身の体を使って、引き剥がそうと奮闘した。
「は、な、れ、ろ、このッ!」
グイグイと双子を押し退けたリアムは顔を真っ赤にして、双子を睨め上げる。
「ロワメール殿下に触るな、双子! マルスの『災厄』め!」
リアムは忌々しげに吐き捨てた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうこざいます!
4ー17 マルスの『災厄』 は、7/23(水)21時頃に投稿を予定しています。
秋晴れの空が高い。
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「えっ、いいの?」
カイとオーレリアンが見かねて、休憩を促した。シノンから戻ってきてからろくに休みもなく、働きづめである。
忙しさに加え、セツにいい格好をしたくて、いつも以上に精力的に仕事をこなしていたのだ。しかしそろそろ、集中力が切れてきた。
「適度な休憩は、仕事の効率化にも効果的です」
「時間の調整はしておきますので」
「ありがとう!」
ロワメールの顔が輝いた。
セツの家でもできる政務はしていたし、兄も片付けてくれていたが、ロワメールでなければ判断できない書類もあった。結果として留守中に溜まった仕事と日々の業務が重なって、現在王子宮の抱える仕事量はとんでもないことになっている。
ロワメールだけでなく、側近たちも文句ひとつ言わずに仕事をこなしていたが、集中力を維持するためにも気分転換は必要だった。
「セツも本ばっかり読んでないで、散歩行こ!」
セツは執務室のソファで、山積みにした魔法関連書籍と外の国の料理本と歴史書を読み耽っていた。
「んー」
生返事を返す名付け親の腕を、ロワメールは引っ張る。放っておいたら、セツは一日中本ばかり読んでいた。
今は熱心にプリンの作り方を勉強している。時折掌の上で水蒸気が発生しているのは、蒸す温度の調整だろう。これは近いうちに美味しい物が食べられそうだ。
「セーツ、ほら、行こうよ」
「うーん……」
続きが気になるらしいセツを、無理矢理引っ張り上げる。読書三昧もいいが、たまには体も動かさなければ。
「まだ仕事は山積みなんですから、とっとと帰ってきてください」
「リアムも行く?」
不満顔の侍従見習いだったが、ロワメールに誘われると態度を一変させた。
「しょ、しょうがないですね。ロワメール殿下がどうしてもって言うなら、ついて行ってあげます。ほら、早く行きますよ」
ツンと澄ましているのは台詞だけで、いそいそと扉に向かった。ロワメールに誘われウキウキ、ルンルンである。
「ミエル、おいで!」
ロワメールが呼ぶと、ソファで毛繕いしていた子ネコは、ピョンとジャンプして腕の中に収まる。
「いってきまーす!」
セツ、リアム、ミエル、そして護衛のヒューイを連れ、ロワメールは笑顔で執務室をあとにした。
近衛騎士隊の隊舎は、王宮敷地内の一角にあった。
隊舎と隣り合った訓練場では、今日も近衛騎士が鍛錬に励んでいる。
「敵がお行儀よく攻撃してくると思うな!」
乱戦形式で、敵味方に分かれ騎士たちが剣を打ち合っていた。いったいどれだけ続けているのか、滝のような汗を流している。
「手を緩めるな! 実戦なら殺されてるぞ!」
息を吐く間も許されなかった。
彼らが倒されれば、彼らの守る王族が凶刃に晒されるのだ。
容赦のない激が飛ぶ。
「休むな! 体力が底をついても戦え!」
激しい打ち合いは、実戦さながらだ。
厳しい訓練は、それだけ彼らが重要な役目に就いている証拠でもある。
「そこまで!」
隊長の掛け声と共に、騎士たちがバタバタと地面に倒れ込んだ。ハードな訓練に、体力自慢のはずの騎士たちがヘタレ込んでいる。
「アラン隊長ー」
「殿下、お久しぶりですね」
頃合いを見計らってロワメールが声をかければ、隊長のアランは笑顔で王子を出迎えた。
「剣の鍛錬は欠かさず、続けていましたか?」
「もちろん!」
近衛騎士隊長は四十代半ば、クルミ色の髪に抹茶色の瞳を持つ、誠実な人柄を面に表した男性である。
そして、現在のロワメールの剣の師でもあった。
「ロワじゃん!」
「やっと来たか!」
ロワメールの来訪にへばっていた近衛騎士たちも起き上がり、二人の騎士が真っ先に駆けつける。
スタイルの良い長身に、赤い隊服が良く似合っていた。
春の夕焼けを溶かしたような朱金の髪に、青い目は『海の眼』だ。パッと目を引く美形である。
ロワメールよりいくつか年上で、ヒショー王太子よりは年下、二十二、三歳に見える。
左右から肩に腕を回す双子に、ロワメールも笑顔を向けた。
「ノア、ノエ、ただいま」
「来るの遅いっつーの」
「つか、キヨウに帰って来んのが遅い! 名付け親んとこに行ったっきり、帰って来ねーのかと思ったわ」
二人は遠慮なくロワメールの頬をつついたり、背中をバシバシ叩いたりする。
双子以外の騎士たちもロワメールを囲み、口々におかえりなさいと帰還を喜んだ。
「これでも予定より、だいぶん早く帰ってきたんだよ」
「噓つけ」
「ホントだってば。予定では後一ヶ月か二ヶ月は向こうに居れたんだってば」
帰ってきたくなかったのが丸わかりな返答だったが、これが双子は気に入らなかった。
「うーわ、本音でたよ! 居れたってなにさ!」
「ポロッとそんなこと言うなよ。寂しいじゃんか!」
ノアとノエは腹いせとばかりに、左右から銀の髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。
「ごめんってば」
ロワメールは、手荒い歓迎もされるがままだった。そこに親しさが見て取れる。
けれど三人がじゃれ合う様子を看過できない者がいた。
一歩後ろで控えていたリアムが、我慢しきれず前に出る。
『海の眼』を吊り上げ、ズンズンと三人の間に割って入った。
「離れろ!」
「うおっ!? なになに?」
「リアム、まーたお前か」
リアムはロワメールと双子を引き離そうと試みるが、成長途中の小柄な侍従見習いと近衛騎士では体格差がありすぎて、ビクともしない。
それでもリアムは自身の体を使って、引き剥がそうと奮闘した。
「は、な、れ、ろ、このッ!」
グイグイと双子を押し退けたリアムは顔を真っ赤にして、双子を睨め上げる。
「ロワメール殿下に触るな、双子! マルスの『災厄』め!」
リアムは忌々しげに吐き捨てた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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