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4.罠にかかって
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もっと徹底的に避けなくてはいけない。
そう思った俺は、休み時間には校内を散歩し、移動教室も早々と一人で済ませた。
部活中も別のやつとペアを組んだ。
三田は、いつものように俺と組むものだと思って近づいてきていたが、それを遮るように後輩の藤岡を誘った。
藤岡は一瞬戸惑ったが、
「……僕でいいんですか! 嬉しいです!」
と、後輩然として無垢な笑顔を見せていた。
三田はそれを見て、何も言わず、俺のほうから離れていった。
さすがに悪いかと思いつつも、俺が三田に関わることのほうがよっぽど罪なのだと、自分で自分を納得させた。
陽が暮れかけ、今日の練習は終わった。
俺はだれよりも早く帰るつもりでいた。
とにかく三田と顔を合わせないように、一番に帰るつもりだった。
だが、今日に限って俺は、トンボ当番だった。
トンボとは、グラウンドの砂をならす道具だ。
野球部では練習後、持ち回りでこのトンボがけを行っていて、今日は俺の番だった。
みんながグラウンドを後にするのを確認しつつ、俺はトンボを引き摺ってグラウンドを端から歩いた。
去年まで2台あったトンボは1台壊れてしまい、トンボ当番の負担は大きい。おそらく15分弱はかかるだろう。
練習後、お腹の空きもピークに達しているので、みんな俺を残してそそくさと帰っていった。
複数人の「お疲れ様でーす」という声に、返事をする元気もない。
トンボ掛けを終わらせ、疲れた足を引きずりどうにか部室に戻った。
いつもは騒がしい部室は静まり返っていた。
誰もいないだろうと思って、ドアを開ける。
しかし、そこには三田が立っていた。
「お疲れ」
ちょっとトーンの落とした声で、三田は俺に声をかけた。
部室には俺と三田の2人。さすがに、無視をするわけにはいかない。
「お、お疲れ」
俺は下を向いて返事をすると、三田の横を通り抜け、部室奥のロッカーに向かった。
「先に帰っていいよ」
すでに着替えを済ませている三田にそう告げる。
「いいよ、待つから」
窓の外はすでに暗い。木のロッカーの古い匂いが、やけに鼻についた。
スパイクを脱ごうと、部室中央にあるベンチに腰を掛けた。
ガチャッ。
三田が内鍵を回した。
俺と三田の間に、一気に緊張が走る。
「……なんで、俺のこと、避けんの?」
三田にそう言われても、俺は真正面からその問いに答えることができなかった。
「別に……避けてないけど」
苦し紛れの言い訳なのは、自分でもわかっていた。
けれど、その問いの答えを正直に言うことは、どうしても出来ない。
俺はすぐにこの場を離れようと、手早く着替えを進めた。
靴を履き、Yシャツのボタンを雑にとめてから、ベルトに手をかけ、ズボンを下ろす。
もちろん、三田に背を向ける形で。
「こっち見ろよ」
三田の怒気を含んだ声を、初めて聞いた。
俺は反射的に顔を向ける。
三田がケツをこちらに向けて、突き出すように立っていた。
「ここ、だろ? お前がよく見てんの?」
そう思った俺は、休み時間には校内を散歩し、移動教室も早々と一人で済ませた。
部活中も別のやつとペアを組んだ。
三田は、いつものように俺と組むものだと思って近づいてきていたが、それを遮るように後輩の藤岡を誘った。
藤岡は一瞬戸惑ったが、
「……僕でいいんですか! 嬉しいです!」
と、後輩然として無垢な笑顔を見せていた。
三田はそれを見て、何も言わず、俺のほうから離れていった。
さすがに悪いかと思いつつも、俺が三田に関わることのほうがよっぽど罪なのだと、自分で自分を納得させた。
陽が暮れかけ、今日の練習は終わった。
俺はだれよりも早く帰るつもりでいた。
とにかく三田と顔を合わせないように、一番に帰るつもりだった。
だが、今日に限って俺は、トンボ当番だった。
トンボとは、グラウンドの砂をならす道具だ。
野球部では練習後、持ち回りでこのトンボがけを行っていて、今日は俺の番だった。
みんながグラウンドを後にするのを確認しつつ、俺はトンボを引き摺ってグラウンドを端から歩いた。
去年まで2台あったトンボは1台壊れてしまい、トンボ当番の負担は大きい。おそらく15分弱はかかるだろう。
練習後、お腹の空きもピークに達しているので、みんな俺を残してそそくさと帰っていった。
複数人の「お疲れ様でーす」という声に、返事をする元気もない。
トンボ掛けを終わらせ、疲れた足を引きずりどうにか部室に戻った。
いつもは騒がしい部室は静まり返っていた。
誰もいないだろうと思って、ドアを開ける。
しかし、そこには三田が立っていた。
「お疲れ」
ちょっとトーンの落とした声で、三田は俺に声をかけた。
部室には俺と三田の2人。さすがに、無視をするわけにはいかない。
「お、お疲れ」
俺は下を向いて返事をすると、三田の横を通り抜け、部室奥のロッカーに向かった。
「先に帰っていいよ」
すでに着替えを済ませている三田にそう告げる。
「いいよ、待つから」
窓の外はすでに暗い。木のロッカーの古い匂いが、やけに鼻についた。
スパイクを脱ごうと、部室中央にあるベンチに腰を掛けた。
ガチャッ。
三田が内鍵を回した。
俺と三田の間に、一気に緊張が走る。
「……なんで、俺のこと、避けんの?」
三田にそう言われても、俺は真正面からその問いに答えることができなかった。
「別に……避けてないけど」
苦し紛れの言い訳なのは、自分でもわかっていた。
けれど、その問いの答えを正直に言うことは、どうしても出来ない。
俺はすぐにこの場を離れようと、手早く着替えを進めた。
靴を履き、Yシャツのボタンを雑にとめてから、ベルトに手をかけ、ズボンを下ろす。
もちろん、三田に背を向ける形で。
「こっち見ろよ」
三田の怒気を含んだ声を、初めて聞いた。
俺は反射的に顔を向ける。
三田がケツをこちらに向けて、突き出すように立っていた。
「ここ、だろ? お前がよく見てんの?」
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