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16.知らぬ間に
しおりを挟む唇が重なるその手前、二人の間で、携帯が鳴った。
「あ、」
祐樹の胸ポケットに入れていたものだった。振動が、さっきまでの甘い雰囲気を霧散させる。
三田は急に自分の行動が恥ずかしくなって、凭れ掛かっていた身体を祐樹から離した。
自然と、祐樹の手も、三田のズボンの中から抜ける。
「だれから?」
三田が苛立ちを隠しながらきくと、祐樹は一拍置いてスマホの画面に視線を落とした。
「藤岡だ」
祐樹が通話のボタンをスライドしようとしたその一瞬、電話は切れた。
「なんだったんだろ」
祐樹はどこか名残り惜しそうにスマホの画面を見つめていたので、三田はムッとした。
「藤岡と……なんか最近仲いいな」
「え、……そうかなぁ」
祐樹はかけ直そうかとも思ったが、明日顔を合わすしいいか、と携帯をしまった。
すっかり暗くなった空。三田の頬に、ぬるい風が流れた。彼は複雑な想いを抱えたまま、祐樹の横顔をじっと見つめた。
部屋のベッドで横になりながら、三田はスマホの画面をじっと見ていた。
……男同士って、こんな感じなんだ
はじめて見るその光景に、圧倒された。組み敷かれている側が、相手に腰を動かされるたびに、低い声で喘ぐ。
それを見ていると、次第と三田の尻もじんじんと疼きだした。
俺、どうなっちゃうんだろう……。
三田ははじめての感情に困惑していた。
今まではただ、祐樹の反応が見たくて、遊んでいる感覚が強かった。しかし今は、それ以上の何かが、確実に彼の中にあった。
三田は手をズボンに入れ、お尻のほうに回した。
パンツの上から、すっと肛門の周りをなぞってみる。
さっきまでの感覚、あの時の祐樹の横顔を思い出し、三田は胸が締め付けられた。
三田は知らぬ間に、祐樹のことを求めていた。
その気持ちの名前を、彼はまだ知らない。
× × ×
祐樹もまた、同じようにベッドで横になっていた。
天井を見つめ、最近の出来事に頭を巡らせる。
三田のお尻が気になり始めたこと。そのことが、三田にバレてしまったこと。もっと見ろよと、俺に尻を向けてきたこと。
夜の部室で、実際に触れることができたこと……。
そして今日、急に自分の名前を呼ばれて、祐樹は完全にキャパオーバーを起こした。まるで現実感のない出来事が連続で起こり、そのことをうまく吞み込めない……。
ブーブー、と机の上に置いてあったスマホが、短く震えた。
俺は瞬時に飛び起きて、画面を確認する。
画面に表示された『藤岡』という文字に、ちょっと落胆している自分がいた。
……三田じゃないのか
そう思った矢先、すぐに自責の念にかられた。野球部の後輩である藤岡だって、俺にとっては大事な人間なのに。
《なんで電話でないんですかー(๑•́ - •̀๑)シュン…》
藤岡からのLINEを見て、悪く思った俺はすぐに電話をかけた。数コールも待たずして、電話が繋がる。
「もしもし」
『あ、先輩。やっと声きけた!』
嬉しそうにそんなことを言われ、祐樹も満更でもなく嬉しくなった。
「ごめん。電話でられなくて」
電話口だが、頭を下げてしまうのは、祐樹の性格からなのだろうか。藤岡は別に、怒っているといった様子でもない。
『ダイジョブです! 別に急ぎの用ってことでもなかったんで』
「用事って、なんだった?」
『えっと……、実は顧問の東先生に、明日の朝部室の掃除するようにって言われちゃって。だからその……先輩に手伝ってほしいなって』
「掃除? そんなの、みんなですればいいのに」
『僕がこないだ練習遅刻した罰だって。あと、みんなでやると絶対ふざける奴が出るからって……』
「はは、たしかに。わかった、俺も手伝うよ」
『やった! じゃあ、明日、7時半に部室の前来てください!』
「おお、わかったよ。おやすみ」
『……おやすみ』
どこか後を残すような声音に、祐樹は引っかかったが、しばらくして電話は切れた。
ふと感じた違和感は、眠気のなかでどこかへ消えていった。
不穏な影が忍び寄っているのにも気づかぬまま、祐樹はベッドで横になると、すっと眠りに落ちていった。
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