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18.白状
しおりを挟む反応している自分に気づき、祐樹は咄嗟に身を引いた。
「ごめん……用事あるから……」
そう言い放って、祐樹は部室から出て行った。
残された藤岡は、ベンチに放置された雑巾を見つつ、唇を舐めた。
(あとちょっと、だったのに……)
そうして、ちょっと笑ってみせた。
× × ×
今日一日、祐樹は朝のことが頭から離れず、まるで空をかいていた。授業も休み時間も、何も手に付かないまま、放課後になった。
帰り支度をしていると、携帯が震えた。
『今日、俺んちでテスト勉強しねえ??』
三田からだった。俺の心はさっきまでの空虚がなかったように、バラ色になった。
『行く!』
すぐに返信をして、浮足だったまま学校を後にした。一度帰り、シャワーを浴びて着替えてから、祐樹は三田の家に向かった。
祐樹にとって、三田の家に入るのはこれが初めてだった。
郊外にある一軒家のチャイムを押す。親が出ないかと心配だったが、智也が出たので安心した。
出迎えていた智也も、部屋着を着ていた。緩いスウェットパンツとTシャツ姿は新鮮だった。
「お邪魔します」
「親、夕方までいないから」
玄関から入って、階段を上がり、右手側が智也の部屋だった。
ちなみに左手側は弟、公希の部屋である。
智也の部屋は、いたってシンプルだった。勉強机とベッドと小さめのテーブルがあるだけ、それと壁際には三段ボックスがあった。
じっと中を見ると、野球の指南書や野球選手の著書など、野球関連のものがほとんどだった。
「あんま見んなよ」
「いいじゃん」
俺はローテーブル、三田は勉強机に座って、お互い勉強を始めた。2学期末のテストのため、野球部の練習はしばらく休みとなっていた。
赤点を取れば、夏休みに補習がある。そうなれば、野球部の練習にも支障が出るだろう。いつもは寝てばかりの三田も、今回ばかりは真剣だった。
1時間ほど集中し、ちょっと陽が陰ったところで、三田が俺のほうへやって来た。後ろから手を回され、ぎゅっと身体を密着させた。
「飽きた~」
ふだん勉強しない三田にとって、1時間の勉強だけでもかなりの努力だった。祐樹はその腕をさすって「よしよし」といった。
「あー、そういえば」
三田がふと思い出したように、口を開いた。
「帰り、校門のところで藤岡に会ったぞ。なんか、祐樹のこと探してるみたいだったけど」
「えっ? ……でも俺、校門で会ってないよ」
「あぁ、『祐樹先輩見ませんでしたかー?』って訊かれたから、『もう帰ったよ』って言っといた」
「えぇっ!? なんで?」
「だって、祐樹が藤岡と喋ってたら、俺の家来るの遅くなるじゃん」
「・・・・・・なんだよー、それ」
祐樹は背中から感じる三田の熱が、急に恥ずかしくなって、その腕をほどいた。
所在なさそうに三田は、俺の横にヤンキー座りで座った。
「藤岡となんかあった?」
突然の質問に、祐樹は内心慌てた。
「え、なんでそんなこと訊くの」
「なんか、なんとなく」
俺はもちろん朝の出来事を思い出したが、それを三田に言うのは、何とも憚られた。
「別に……なんもないよ」
「ホントに?」
祐樹が小さく目を逸らすのを、三田は見逃さなかった。
「俺の目、見て」
祐樹はその視線に思わず顔を背けそうになるが、そのたびに、三田は両手で顔を前に戻した。
「ホントに、なんもなかった?」
もう嘘なんて付けない。その目に射抜かれては、祐樹は正直に話すしかなかった。
「なんか、ちょっと、……冗談で、なんとなく、……した」
「ん? ごめん、もっかい」
俺の声が小さすぎたせいで、聞き取れなかったようだ。俺はさっきより少し大きな声で、言った。
「……………………………キスした」
三田は目を見開いた。
祐樹が恥ずかしそうにするのを見て、これは本当なんだ、と三田は悟るほかなかった。
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