孤独な王位継承者は押しかけ従者に絆される

淡海のえ

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第2章 従者の苦悩

14 譲歩

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 きっとクリースにとっては迷惑だろうと思っても、同じ失敗はしたくないと思ってしまう。クライスが大変なことになっていた夜、セラスは隣の従者用の部屋で眠ってしまっていた。

 鍵の閉まった部屋に、危険などないと思っていた。コールの前例があるからこそ、今のクリースはとても危うい。

 城内では、もう次の王をマクスにするために動き出している。クリースが王位継承権を失う日は近い。

 もしここでクライスの時と同じような事件が起きれば、今度はクリースが贈り物にされる。そしてウェスラはそのことがわかっている。

 この城の中でクリースが守られていたのは、唯一王位継承権を持っているからだ。セラスが気づいているのだから、もうクリースはとっくに気づいているだろう。

 食事を済ませたクリースはもう眠そうで、早々に寝る準備をしてやる。

「……何をしている」

 ベッドに入れてブランケットをかけた後に、椅子をドアまで運んでいると嫌そうな声が聞こえる。

「一人じゃ寝られないだろう」

 ドアの前に椅子を置いて座りながら答えると、暗がりの中でクリースが体を少し起こしたのがわかる。

「必要ない」

「しっかり寝ないと体調を崩す」

「そんなにひ弱だと?」

「……何かあっても動けないだろう。今夜は我慢しろ」

 見えなくても、苦虫を噛み潰したような顔をしているのが想像できる。

「自分はどうなんだ? 昨日も寝ないで、今日も寝ないのか?」

「オレはクリースが執務室にいる間に寝られる」

 執務室であれば、宰相が一緒にいる。

「やめろ。オレにそんなことまでする必要ない」

 暗いせいで表情が読めない。仕方なくそばによると、うっすらとだが感情が見える気がする。

 クライスに対して後ろめたい気持ちになるのはわかる。けれどクリースはなぜか、セラスに対しても同じような気持ちがあるようだ。

「理由は?」

 問いかけると、クリースが首を傾げるのが見える。

「そんなことまでしてはいけない理由に、納得したら部屋に戻る」

「何を……」

「理由が説明できないなら、大人しく寝てろ」

「っ……」

 起き上がっていた体を横にさせる。手を離すとまた起き上がろうとするから、手を離せなくなる。

「本当に強情だな」

「そう思うなら、手を離せ」

「ダメだ。ほら、冷えるんだからちゃんとブランケットをかけろ」

「人に風邪をひくと言うなら、自分のことも考えろ」

「従者が主人を優先するのは当たり前だろう」

「オレには必要ないと言っている」

 子供の言い合いのようになってきている。クリースも気づいたのか、何とも言えない顔をしているのがわかる。

「……ともかく大人しく寝ろ」

 手を離してもう一度、ブランケットをかけ直してやる。すると腕を掴まれる。

 また同じような押し問答を再開する気かと思ったら、クリースが黙ってしまう。何を求められているのか、必死に考えるが思いつくことがない。

 クリースを知るには時間が足りていない。長く一緒にいた分、クライスが望むことなら簡単に理解できる。

「クリース?」

 いつまでも腕を掴んだまま、微妙な表情をしている。

「今夜は冷えるんだろう。セラスが風邪をひく」

「オレは平気だから、気にせず寝ろって」

「……部屋にいるなら、ここにいろ」

 一瞬、誘われているのかと勘違いしそうになる。言葉の選び方も、説明も下手すぎる。

「風邪をひいたと言われても迷惑だ」

 ブランケットの半分を投げるように渡される。けれどどう考えても、主人と一緒にベッドに入る従者はいない。

「ここにいないなら、部屋にいるのは認めない」

 クリースの人との距離感はどこかおかしい。入って来ないように威嚇していたかと思えば、簡単に懐に入れてしまうとろこがある。

「わかった」

 あるまじき行為ではあるが、反対してもまた同じことになるのが目に見えている。座ったまま、足にブランケットをかける。

 納得したのか、クリースは背を向けて寝る体勢に入る。しばらく緊張しているのが伝わってくるが、しばらくすると力が抜けて呼吸が安定する。

 眠かったのは間違いないようで、穏やかな寝息が聞こえる。安心してもらえていると思うと、嬉しい気持ちになるのと同時に何とも言えない微妙な気持ちにもなる。

 寝返りを打ったクリースが、寒そうに身を縮めるのが見える。セラスが座っているせいで、変にブランケットに隙間ができてしまっているせいだろう。

 暖を求めてか、少しずつ距離が近づいている。二人で使っても十分に広いベッドなのに、これでは半分も使っていない。

 普段は神経を尖らせているくせに、無防備すぎる。ぎゅっと腰に腕を回らせて、頭が痛くなってくる。

 これで目が覚めたら、またひどい顔をされるだろう。ひどい顔をされるよりは、怒った顔の方がましかと考える。

 腰に回った腕を外して、横になってクリースを腕の中に閉じ込める。どこか安堵したようにすり寄ってくる姿に、頬が緩みそうになる。

 起きている時には微かにしかなかった面影が、今は目の前にある。最初に距離を取ったのは、間違いなくセラスではなかったはずだ。

 クリースに何があったのかを、知ることができたらと思った。
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