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三章『竜の慟哭と壁の町』編
第十二話「忍び寄る影」-1
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恐らく、女性のもの。そして、その響きは聞いてすぐわかるほどに、尋常のものではなかった。
最初に動いたのはリタ。そして、その後をラティーンが続く。全身鎧を纏っているというのに、驚くほどに俊敏なものだ。
僕はその後に続きながら、すぐに家の外に出る。
日が傾き始めた【壁の街】。それは、先程までと変わらない喧騒が満ちているように見えたが――よく見れば違う。混乱の色が混じっているようだった。
「ちょっと、そこのあなた。一体、何があったの?」
リタが、逃げてくる住民の一人を呼び止める。
半ばパニックを起こしたその男――エプロンをしているあたり、普段は商店を営んでいるのだろう――は、必死にその手を振り払いながら、唾沫を撒き散らちつつ、叫ぶ。
「ま、魔物! 街ン中に魔物が出たんだよ! 今、女の子が捕まっちまってるんだ!」
そう言って走り去っていく男の背中を見ながら、僕にはどこか、嫌な予感がしていた。
女の子が、捕まってる――?
「……まさか!」僕よりも先に、リタが結論に至る。
彼女が弾かれたように駆け出すと同時、ラティーンも一直線に走り出す。どうやら、二人共考えは同じだったようだ。
僕はその後をどうにかついていきながら、酸素の足りない頭で、考える。
どうして、町中に魔物が。
まさか、あのバカでかい壁を超えてきたっていうの? それこそ考えづらい。
なら、一体どうやって、連中は侵入してきたのだろうか。
人混みをかき分け、僕らは大通りに出る。逃げてくる人々を掻き分けて進めば、すぐにそれを見つけることができた。
――そこにいたのは、骨だった。
成人男性一人分の、頭の天辺からつま先までの骨格。それが、直立を保ち、筋肉もないのに駆動している。
骸骨だ。
死霊術師としては馴染みの深い魔物ではあるが、こんな町中で発生しているのを見たのは初めてだ。
それが、一体や二体ではない。通りを一列に塞げるほど――おおよそ数十体が、ゆっくりと行進していた。
そして、そのうちの一体――少女を羽交い締めにし、先の尖った鉄の棒を突き付けている個体に、思わず目が奪われる。
「……マキナ……っ!?」
ラティーンが驚愕の声を上げる。捕まった少女とは、マキナのことだったのか。
「早く助けなきゃ、手遅れになるわね。ジェイ、あんた、死霊術師ならあいつらを無力化したりできないの?」
「無茶言うな、僕はできそこないだぜ。できるとして、どこから発生したのか、魂の残滓を追うことくらいだ」
「なら、それだけでもやって頂戴。自然発生だと厄介だけど、誰かがやったのなら話は別。本体を叩けば、一網打尽にできるでしょ」
なるほど、と僕は首元からロザリオを取り出し、力を込める。骸骨や動く死体が相手なら、霊視の延長線上で、魂を縛り付ける術式も判別ができるはず――。
――と、そこで僕は、言葉を失った。
「……なっ、これ……」
「どうしたの、何か――」
リタが訪ねてくると同時に、近くにいた骸骨の一体が、その鋭い爪を振り上げていた。
しかし、それが振り下ろされるよりも早く、リタの回し蹴りが閃き、骨格を粉砕する。
その向こうで、手に槍のような長物を持ったラティーンが、数体の骸骨を蹴散らしているのが見えた。
「おうい、リタ! こいつら、そんなに強くねえ! とっとと片付けちまったほうが早いぞ!」
叫ぶ声も、どこか遠い。僕の思考は、完全に別の所に飛んでしまっていた。
脳髄の大半を占めるのは、「何故」とか「ありえない」だとか、そんな言葉ばかりで、その奥から顔を覗かせた「ついに」が、僕の体を震わせる。
「……ジェイ!」リタが僕の肩を強く掴んだ。「あんた、急にどうしたのよ! こいつらの出処は、わかったの?」
その刺激に意識を引き戻された僕は、未だに能力を失った言語野をどうにか奮い立たせ、言葉を紡いだ。
最初に動いたのはリタ。そして、その後をラティーンが続く。全身鎧を纏っているというのに、驚くほどに俊敏なものだ。
僕はその後に続きながら、すぐに家の外に出る。
日が傾き始めた【壁の街】。それは、先程までと変わらない喧騒が満ちているように見えたが――よく見れば違う。混乱の色が混じっているようだった。
「ちょっと、そこのあなた。一体、何があったの?」
リタが、逃げてくる住民の一人を呼び止める。
半ばパニックを起こしたその男――エプロンをしているあたり、普段は商店を営んでいるのだろう――は、必死にその手を振り払いながら、唾沫を撒き散らちつつ、叫ぶ。
「ま、魔物! 街ン中に魔物が出たんだよ! 今、女の子が捕まっちまってるんだ!」
そう言って走り去っていく男の背中を見ながら、僕にはどこか、嫌な予感がしていた。
女の子が、捕まってる――?
「……まさか!」僕よりも先に、リタが結論に至る。
彼女が弾かれたように駆け出すと同時、ラティーンも一直線に走り出す。どうやら、二人共考えは同じだったようだ。
僕はその後をどうにかついていきながら、酸素の足りない頭で、考える。
どうして、町中に魔物が。
まさか、あのバカでかい壁を超えてきたっていうの? それこそ考えづらい。
なら、一体どうやって、連中は侵入してきたのだろうか。
人混みをかき分け、僕らは大通りに出る。逃げてくる人々を掻き分けて進めば、すぐにそれを見つけることができた。
――そこにいたのは、骨だった。
成人男性一人分の、頭の天辺からつま先までの骨格。それが、直立を保ち、筋肉もないのに駆動している。
骸骨だ。
死霊術師としては馴染みの深い魔物ではあるが、こんな町中で発生しているのを見たのは初めてだ。
それが、一体や二体ではない。通りを一列に塞げるほど――おおよそ数十体が、ゆっくりと行進していた。
そして、そのうちの一体――少女を羽交い締めにし、先の尖った鉄の棒を突き付けている個体に、思わず目が奪われる。
「……マキナ……っ!?」
ラティーンが驚愕の声を上げる。捕まった少女とは、マキナのことだったのか。
「早く助けなきゃ、手遅れになるわね。ジェイ、あんた、死霊術師ならあいつらを無力化したりできないの?」
「無茶言うな、僕はできそこないだぜ。できるとして、どこから発生したのか、魂の残滓を追うことくらいだ」
「なら、それだけでもやって頂戴。自然発生だと厄介だけど、誰かがやったのなら話は別。本体を叩けば、一網打尽にできるでしょ」
なるほど、と僕は首元からロザリオを取り出し、力を込める。骸骨や動く死体が相手なら、霊視の延長線上で、魂を縛り付ける術式も判別ができるはず――。
――と、そこで僕は、言葉を失った。
「……なっ、これ……」
「どうしたの、何か――」
リタが訪ねてくると同時に、近くにいた骸骨の一体が、その鋭い爪を振り上げていた。
しかし、それが振り下ろされるよりも早く、リタの回し蹴りが閃き、骨格を粉砕する。
その向こうで、手に槍のような長物を持ったラティーンが、数体の骸骨を蹴散らしているのが見えた。
「おうい、リタ! こいつら、そんなに強くねえ! とっとと片付けちまったほうが早いぞ!」
叫ぶ声も、どこか遠い。僕の思考は、完全に別の所に飛んでしまっていた。
脳髄の大半を占めるのは、「何故」とか「ありえない」だとか、そんな言葉ばかりで、その奥から顔を覗かせた「ついに」が、僕の体を震わせる。
「……ジェイ!」リタが僕の肩を強く掴んだ。「あんた、急にどうしたのよ! こいつらの出処は、わかったの?」
その刺激に意識を引き戻された僕は、未だに能力を失った言語野をどうにか奮い立たせ、言葉を紡いだ。
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