52 / 161
三章『竜の慟哭と壁の町』編
第十二話「忍び寄る影」-2
しおりを挟む
「……おやじ」
「は? 今、なんて」
半ば、苛立ちが混ざった声で、僕はどうにか吐き出す。
「……親父の術式なんだよ、これ」
「な、でも、あなたのお父さんって……」
「ああ、もう死んでる。なら、この骸骨たちの主は、一人しか考えられない」
親父と同じ死霊術を使う者。
そして、僕たちを襲う理由がある者。
それは――。
「リトラ、神父……っ!!」
僕の、家族の仇。
まさか、今になって、ここで見つかってしまったというのか。
それも、僕たちは明日、怪物との決戦を控えているというのに。こんなところで消耗してしまうのは、可能であれば避けたいところだ。
「最悪のタイミングね。あんた、相手の場所はわかるの?」
「すまん、もう少し時間がかかる。死体の出処は追えるだろうが、親父の術式だと、残滓の視認は簡単にはいかない」
そもそもが、死霊術というのは死者の魂の力を借りる業。術者と術式との間に、魔術ほど強い繋がりは存在しない。
それでも、簡易契約の跡を追っていけば相手には辿り着けるはずだが――親父の術式は、それを困難にする仕掛けがいくつか仕込まれている。
まったく、大陸一の死霊術士だったか知らないが、余計なことをしてくれたものだ――。
「おい、リタ! 何してんだ、お前! とっととこいつら仕留めねえと、マキナが危ねえぞ!」
殆ど怒号のようなラティーンの声と同時に、激しく骨片が弾け飛んだ。槍が一度、二度と骸骨たちを薙ぎ払い、砕かれた骨たちは立ち上がることすら叶わず、そこに転がるばかりだ。
「……惜しいけど、追跡するための時間稼ぎはできなさそうね。ここはひとまず、倒し切るしかないわ」
リタはそう呟くと、翼を顕現させた。それはまるで小規模な竜巻の如く翻り、近付くものを吹き飛ばしていく。
僕はロザリオを離さぬようにしながら、軽く身を屈めた。巻き込みを避けるのもそうだが、骸骨たちは関節の可動域が狭い。そのため、身を低くすることによって、攻撃を避けやすくなるのだ。
――と、屈んだところで、僕はあることに気が付いた。
「……なんだ、これ?」
森のように並んだ、動く骨たちの群れ。その足元が、皆、泥のようなもので汚れていた。
しかし、この街の地面は舗装されており、泥濘など見当たらない。
ならば、一体どうして、こいつらの足は汚れているのだろうか?
「――待てよ、これなら!」
僕は地面に残った足跡を追う。思った通り、それはある一点から向かってきていた。
そして、目にする。骸骨たちを超えたその先――曲がり角の陰に、誰かがいるのが見えた。
「リタ! 術者は曲がり角の陰だ!」
僕が叫ぶのと、彼女が動き出すのはほとんど同時だった。
「『鉄の翼――羽弾』!」
鋼鉄の翼が閃いたかと思えば、そこから目にも止まらぬ速度で、数発の羽根が射出された。
それはレンガ造りの街を容易く抉り、目標地点に着弾する。
派手に舞い上がる砂埃。それが晴れた時――既に、そこに人影はいなくなっていた。
「……逃がしたわね、どうやら、素人じゃないみたい」
リタが苦々しげに呟くのと、ラティーンが最後の骸骨を吹き飛ばすのは、ほとんど同時だった。
彼は助け出したマキナを抱き上げながら、ゆっくりと、僕らの方に近付いてくる。
「よう、終わってみてえだな。マキナも無事だぜ、気を失っちまったみてえだけどよ」
そう言いながら、彼は周囲に視線を這わせる。遠巻きに見つめる人々、ざわめき、そして、辺りに散らばる白骨の残骸。
「……こりゃあ、どういうことなんだ? お前さん方、一体何に追われているんだよ」
問いかけてくる彼の視線には、困惑と、そしてそれ以上の警戒の色が浮かんでいた。
僕とリタは顔を見合わせる。誤魔化すためのカバーストーリーを、用意できないこともない。
しかし、今の彼には、下手に取り繕うのは逆効果になるように思えた。だから、僕も観念することにした。
「……話せば長くなる。よかったら、一度安全な所に戻らないか?」
かつん、爪先で蹴り上げた骨の欠片が、虚しげに転がっていくのだった。
「は? 今、なんて」
半ば、苛立ちが混ざった声で、僕はどうにか吐き出す。
「……親父の術式なんだよ、これ」
「な、でも、あなたのお父さんって……」
「ああ、もう死んでる。なら、この骸骨たちの主は、一人しか考えられない」
親父と同じ死霊術を使う者。
そして、僕たちを襲う理由がある者。
それは――。
「リトラ、神父……っ!!」
僕の、家族の仇。
まさか、今になって、ここで見つかってしまったというのか。
それも、僕たちは明日、怪物との決戦を控えているというのに。こんなところで消耗してしまうのは、可能であれば避けたいところだ。
「最悪のタイミングね。あんた、相手の場所はわかるの?」
「すまん、もう少し時間がかかる。死体の出処は追えるだろうが、親父の術式だと、残滓の視認は簡単にはいかない」
そもそもが、死霊術というのは死者の魂の力を借りる業。術者と術式との間に、魔術ほど強い繋がりは存在しない。
それでも、簡易契約の跡を追っていけば相手には辿り着けるはずだが――親父の術式は、それを困難にする仕掛けがいくつか仕込まれている。
まったく、大陸一の死霊術士だったか知らないが、余計なことをしてくれたものだ――。
「おい、リタ! 何してんだ、お前! とっととこいつら仕留めねえと、マキナが危ねえぞ!」
殆ど怒号のようなラティーンの声と同時に、激しく骨片が弾け飛んだ。槍が一度、二度と骸骨たちを薙ぎ払い、砕かれた骨たちは立ち上がることすら叶わず、そこに転がるばかりだ。
「……惜しいけど、追跡するための時間稼ぎはできなさそうね。ここはひとまず、倒し切るしかないわ」
リタはそう呟くと、翼を顕現させた。それはまるで小規模な竜巻の如く翻り、近付くものを吹き飛ばしていく。
僕はロザリオを離さぬようにしながら、軽く身を屈めた。巻き込みを避けるのもそうだが、骸骨たちは関節の可動域が狭い。そのため、身を低くすることによって、攻撃を避けやすくなるのだ。
――と、屈んだところで、僕はあることに気が付いた。
「……なんだ、これ?」
森のように並んだ、動く骨たちの群れ。その足元が、皆、泥のようなもので汚れていた。
しかし、この街の地面は舗装されており、泥濘など見当たらない。
ならば、一体どうして、こいつらの足は汚れているのだろうか?
「――待てよ、これなら!」
僕は地面に残った足跡を追う。思った通り、それはある一点から向かってきていた。
そして、目にする。骸骨たちを超えたその先――曲がり角の陰に、誰かがいるのが見えた。
「リタ! 術者は曲がり角の陰だ!」
僕が叫ぶのと、彼女が動き出すのはほとんど同時だった。
「『鉄の翼――羽弾』!」
鋼鉄の翼が閃いたかと思えば、そこから目にも止まらぬ速度で、数発の羽根が射出された。
それはレンガ造りの街を容易く抉り、目標地点に着弾する。
派手に舞い上がる砂埃。それが晴れた時――既に、そこに人影はいなくなっていた。
「……逃がしたわね、どうやら、素人じゃないみたい」
リタが苦々しげに呟くのと、ラティーンが最後の骸骨を吹き飛ばすのは、ほとんど同時だった。
彼は助け出したマキナを抱き上げながら、ゆっくりと、僕らの方に近付いてくる。
「よう、終わってみてえだな。マキナも無事だぜ、気を失っちまったみてえだけどよ」
そう言いながら、彼は周囲に視線を這わせる。遠巻きに見つめる人々、ざわめき、そして、辺りに散らばる白骨の残骸。
「……こりゃあ、どういうことなんだ? お前さん方、一体何に追われているんだよ」
問いかけてくる彼の視線には、困惑と、そしてそれ以上の警戒の色が浮かんでいた。
僕とリタは顔を見合わせる。誤魔化すためのカバーストーリーを、用意できないこともない。
しかし、今の彼には、下手に取り繕うのは逆効果になるように思えた。だから、僕も観念することにした。
「……話せば長くなる。よかったら、一度安全な所に戻らないか?」
かつん、爪先で蹴り上げた骨の欠片が、虚しげに転がっていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる