悪役の僕 何故か愛される

いもち

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学院編

第三話 攻略者達

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「本当に、セインとフェアリーズにはなんの関係性もないんだね。」
「だからさっきからそうだって言ってるじゃないか。」
見つけてもらった、僕らだけど、アレクセイがしつこい。ずっとエルンのことを知らないのかと聞いてくる。知らないと言ってるのに……。
「アレクセイ、うざい。しつこい。嫌いになる。」
つい、言葉がもう一人の性格によって、砕けたものになってしまう。ふいとアレクセイの顔を見ないように、エルンの方に顔を向ける。
「……っ!すまない。セインのことになると、どうしていいかわからなくて。」
「あーあ、嫌われたな。オウジサマ。」
アレクセイの声から、慌てているのがわかる。しばらくは、これで大人しくしてもらえないかな。無理かな。

僕とエルンは、入学の集会に結局参加できず、教職員室でお説教をされてしまった。ゲームでは主人公が入学早々遅刻して怒られる、なんてなかったから、これも僕のせいで変わったことなんだろう。
お説教と言っても、僕はこの国の王子様の婚約者で、エルンは特例での入学生だから、やんわりだったと思う。しかも、僕の後ろでアレクセイが放つ威嚇の魔力に、逆に先生が萎縮していた気がする。

そんなこんなで、教室に向かっている僕らだがまばらに廊下にいる生徒から向けられる視線が痛い。目立っている。
僕は目立たずにこの学院生活を謳歌したいんだ。多分無理だけど。
いつのまにかエルンも一緒に二人がいつもの言い合いを始めたので、無視して教室に向かうことにする。

確か、高位貴族や成績優秀者がいる-アリス-が僕らのクラス。
……あった。きっと僕らで最後だから、そっと入ろう。と思ったのに、僕の手では扉が固くて、前にグッと押した。そして勢いよく開いた扉に、僕の全体重を乗せたので、杖で支えきれずに盛大に前のめりに転んだ。

びたんっ、と大きい音をたてて教室に入ってきた白い物体に、教室中が釘付けになるのがわかる。痛いぐらいに視線が刺さる。
それよりも、強かに打ちつけた鼻が痛い。
低い鼻が、もっと低く、醜い顔が、より醜くなってしまう。
でも、いくら顔が醜くなっても、今のアレクセイもアインズも態度は変わらなさそうだ。

「ん、いたい。」
痛みでじわりと涙が出てしまう。一人ならあの子が助けてくれるけど、今は人がいっぱいで出てこない。起き上がりたいけど、痛みと恥ずかしさで動けない。流石にこの音で廊下にいた三人も気がついたのか、早足でこちらにくる足音が聞こえる。

もう恥を偲んで待っていればいいかなと思っていたら、身体がふわっと持ち上がる。
「ぅわ。なに?」
目の前にはネクタイがあった。つまりは、相当背が大きい人だ。アインズよりも逞しい胸板に驚いて、持ち上げてくれた人を仰ぎ見る。
「…怪我は。」
やっぱり攻略対象だった。彼はヴィンセント・フォン・ナイトレイン。騎士の家系に生まれながら、剣を握り、害することを嫌う心優しき人。

「その顔。」
「!」
眼帯をしていても、髪で隠していても、近くにいれば火傷の痕がわかってしまう。すぐに俯いて、礼だけ伝える。
「だいじょうぶ。鼻を打っただけだから。」
「…見せて。」
顎を持たれて顔を見られる。というか、僕片手で持たれているのか。いくらヴィンセントがでかいとはいえ、僕小さすぎないか。
それにしても、隅から隅まで顔を観察される。
あまり、見ないでほしい。
「骨は折れていない。鼻血も出ていない。よかった。」
「大丈夫だってば。」
「……可愛い顔だから。」
「ん、なんて?」
こんな至近距離なのになにを言っているのか声が小さくて聞き取れなかった。もう一度聞こうと思ったら、喧騒にかき消された。

「貴様!私のセインに何をしている!」
アレクセイだ。いつもの勘違いで大暴走してる。すごい形相で、ヴィンセントを睨んでいる。王子様がする顔じゃない。ゲームでも見たことないよ。
アインズも、何故かエルンも不機嫌そうにしている。
「ナイトレイン。セインはこいつの婚約者だが、俺のお兄様でもあるんだ。不用意な接触は避けるべきなんじゃねーか。」
「…セインが、倒れてたから。」
あ、それ言わないでほしかった。
「なにい!セイン、どうして転んだんだい!?誰かに転ばされたの?誰だ!私の婚約者に狼藉を働いたのは!」
「ほーん、伯爵家に喧嘩売るとはいい度胸じゃねえの。」
「セイン、大丈夫!?今、魔法で治療するね。」
二人とも勘違いしちゃってる。しかもエルンは貴重な聖属性の治療魔法まで使うし。ヴィンセントもあわあわしてる。

そういえば、この教室の扉で転んでヴィンセントに助けられるのは、元々は主人公のイベントだった。入学式の後に緊張して力強く扉を開けた主人公は転んでしまい、ヴィンセントに助けられるんだ。
またも僕がゲームのシナリオを変えてしまっている。
でも今は勘違い大暴走中の二人をなんとかしないと。
僕が声をかけようとする前に、手を叩き、割り込む人が現れた。

「落ち着いてください。お二人とも。
セイン様は、お一人で転ばれていました。小さなお身体にその杖。一人でこの教室の扉を開けるのに、力を使ったのでしょう。勢い余って、転ばれた、と私は証言します。」
涼やかで、凛とした声色。彼も攻略対象者、レイムダル・バレスだ。
現宰相の息子で、大きな期待がかけられていて、それを強いプレッシャーに感じて苦悩するクールキャラ。
それから、僕の恥ずかしい自爆場面を冷静に語らないでほしい。羞恥で真っ赤になった僕は、下を向いてみんなの視線から逃げた。幸い僕のその姿に全員生唾を飲んだのは知らなかった。

「セイン、ほんとうかい?誰かに害されたわけじゃないのかい。正直に言っておくれ。」
アレクセイが抱えられている僕の顔を覗き込む。相変わらず、こういう時の目が怖い。
「…うん。一人で転んだ。……迷惑かけて、ごめんなさい。」
「迷惑なんかじゃないよ。そうか、それなら、入学から、誰も縛り首にせずにすむね。」
怖い。本当にヤル気だった。周りの生徒達もさっきまで赤かったのに今は青ざめて、激しく首肯している。
アインズもエルンもほっとした顔をしているし、レイムダルには、助けられた。お礼を言わないと。それからヴィンセントにも。
ヴィンセントは、アレクセイの様子に驚愕していて、こっちに気がついていないので、ネクタイを少し引っ張って、主張する。

「ね、ヴィンセント。」
「ん。」
「助けてくれて、ありがとう。」
「…うん。どういたしまして。」
そういって頭を撫でてくれる。その行為は姉を思い出して、僕は甘えてしまう。
「レイムダルも、三人を落ち着かせてくれて、ありがとう。本当は僕が言えばよかったんだけど。」
「いいえ、アレクセイとは知己ですし、ゴースティ兄弟の仲の良さは知っていますから。貴方が自身に非はないといっても犯人探しをしそうでしたから。客観的な意見が必要だと思っただけです。
それからヴィンス。いい加減セイン様をおろしなさい。アレクセイに本気で怒られますよ。」
「……しょうがない。」
そっとヴィンセントにおろしてもらう。床に立つと、ヴィンセントとの身長差が余計に目立つ。僕ってそんなに小さかったんだ。

よし、今日から毎日牛乳を飲もう。そう決意したのに、一杯飲んでお腹が痛くなる僕なのだった。

学院で、目立たないよう過ごせるといいな。
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