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学院編
第十四話 共同生活
しおりを挟む「容認できません!」
アレクセイの怒声が学院長室に響く。不満な顔をしているのは彼だけじゃない。学院長室に僕とアレクセイだけでなく、エルンやゲームの攻略対象が集められていた。学院長の座る長椅子の隣にはアルトリウスもいた。
「だが、アルトリウス殿下たっての希望でなあ。」
困っている様子なのは学院長だ。
こんな事態になっているのは、アルトリウスが転入してきて初めての休日。アレクセイは、アルトリウスが僕にべったりで毎日不機嫌だった。夜になれば毎日僕でストレス発散のために、生徒会と学業という忙しさからいつ準備したのか、手の込んだ料理の数々を僕を膝に乗せて手ずから食べさせるという行為を行なっていた。
アインズやエルン、ヴィンセントもレイムダルも、アルトリウスの行為が目に余っていたようで、いつも苦言を呈していた。
なんだか、もう一人の記憶にある、悪役令嬢が浮き名ばかりの主人公を叱っているみたいだ。とはいえ、アルトリウスの行動は確かに行き過ぎていると思う。
折角交流のために来ているのなら、僕以外にも声をかければいいのに。
そんなことを僕が言うと、なぜかみんなから、微妙な顔をされた。理由を聞いても、そうじゃないんだよ。セイン。と言われるだけだった。解せない。
そんな中で、学院長からの呼び出しがあった。
学院長室に伺えば、すでにアルトリウスが寛いでいた。
「セイン、待っていたよ。さあ、ここに座って。この紅茶美味しいよ。お菓子も美味しい。」
「なぜ貴様がここにいる。私たちは学院長に呼ばれたのだ。貴様ではない。」
「私が呼んだのはセインだけだ。お前はついでだ。ね、セイン。人の世界のお菓子は素敵だね。こんなに甘くて美味しい。幸せな気持ちになる。
セインと一緒ならもっともっと美味しいよ。」
やや強引なアルトリウスに引っ張られて、彼の膝に乗り、クッキーを差し出される。
お菓子は僕も好きだ。教会ではほとんど食べられなかった嗜好品。伯爵家の人間になって、贅沢や我儘なんて言わなくても、食後のおやつが出てくる。そうじゃなくてもアレクセイが毎日せっせと給餌するから、いつだかは僕を肥えさせて、嫌いになろうとしたのかと思ったこともある。
問いただしたら、ただ僕に異国の甘味を味わって欲しかっただけだった時は、ホッとしたような、そのままでもよかったような複雑な気持ちだった。
今は食事の計算も完璧なアレクセイが、全て管理してくれているから助かっている。
でも目の前のクッキーはとても美味しそうだ。焦げはなく、美しい黄金色。上にかかったチョコレートの模様は均一で一流パティシエがつくったんだろうことがすぐにわかる。
食べ物に罪はない。アルトリウスの手からクッキーを受け取り、口に入れる。思っていた以上に美味しい。口に入れた瞬間にホロッと砕ける生地。でも決してしつこくない。柔らかな甘味が口に広がる。
というか、アルトリウスのいる魔国には甘味がないんだ。
「アルトリウスのところには、甘いものがないんだ。」
「うん、食事を楽しむ文化が薄いんだ。家族で食卓を囲むこともないよ。」
「そう、なんだか寂しいね。」
「…私にとってはそれが普通だったから。でもセインがそういうなら、国の常識を変えていこう。君が寂しくないように。」
「…?うん。それがいいよ。」
僕のためというのはよくわからないけど頷いておいた。そういえば、夢で出会ったアルトリウスは、僕を花嫁と呼んでいたっけ。アレクセイもアルトリウスも男を娶りたいなんて変わってる。
「おーい、いつまでやってんだ。」
「アインズ?」
呆れた声にお菓子から目線を外せば、アインズがいた。気が付かなかった。
しかもアインズだけじゃなくて、エルンもレイムダルもヴィンセントもいる。
「いいなー、オレもセインを膝に乗せて一緒にお菓子食べたーい。」
「ふふ、クッキーを両手で持ってちょっとずつ食べるセイン様。…かわゆ。」
「…。」
みんなさまざまな反応だが、やはりあまりアルトリウスにはいい思いはないみたい。
あとレイムダル。最近なんかアレクセイと似た気持ち悪さがでてきてる。ヴィンセントは何を考えてるかよくわからないし。
収拾がつかなくなってきた。学院長もいないしどうしようか困っていたところ。
「すまないねえ、集まってくれてありがとう。」
やわらかで穏やかな声なのに、わちゃわちゃしていた雰囲気が、きゅっと締まる。
部屋の扉にその人がいた。
背は軽く曲がっていて、立派は髭を蓄えた、大きな杖をついている老人がいた。
彼が学院長だ。ゲームの記憶を持つ僕がこの見た目を覚えている。といっても顔はないシルエットだけだったけど。実際の学院長は優しそうなおじいちゃんって感じだ。
「学院長、我々を集めたというのはこの男の話ですか!?」
「まあまあそんなに焦らないで、みんな座って話そう。さあさあ。」
なんだかふわふわしていて、こっちの力が抜けてしまう。みんなも同じだったようで、おとなしくソファに座った。
ここで冒頭に戻る。
学院長はこう言った。
「アルトリウス殿下が、セイン・ゴースティくんと寮の部屋を共にしたいとご希望なのだよ。考えてもらっていいかい?」と。
うん、みんな大激怒。まあ僕としてはどうでもいい。
だってゲームでは僕はアレクセイから婚約破棄されるし。元々僕は一人部屋だったわけだし。
そうじゃなくてもいい結末にはならない。
今は関係としては良好だけど、宰相とか大臣とかからはよく思われていないことなんて百も承知だ。
王城に行きたくないのはそういう人たちと出会いたくないことも理由の一つ。
アルトリウスの存在はイレギュラーだ。ゲームの記憶を持つ僕も、彼の存在を知らない。
けどそんな不安材料を憂いていてもなにも始まらない。
僕は死なないように、ただ流されるだけ。ゲームのようにエルンもアインズもいじめていないし。どうにかなるだろう。むしろアルトリウスといた方が生存率が上がるかもなんて思ってしまう。
僕はただ自分が死にたくないだけだ。
けど、懸念点が一つ。
「セインくん。君の意見を聞いてもいいかな?」
困り果てた学院長が僕の助け舟を待っている。
まあ学院長は魔国の王子からの要望と、この国の王太子の婚約者を同じ部屋にすることは不義理になるという考えや、王からの圧力等々で板挟みになっているだろう。
僕としては、僕が生きていればいい。自分勝手だけど、僕の活動理由はこれに限る。
別にアルトリウスと同室なのはいいけど、アルトリウスって生活能力あるのかな。
「僕はどうでもいいよ。」
「…じゃあ!」
アルトリウスは嬉しそうにしてるけど、ちょっと待ってほしい。だから、アルトリウスの唇の指を当てて静かにさせる。
「…焦らない。」
「ん。」
「ねえ、アルトリウス。君、家事はできる?掃除は?料理は?洗濯は?」
「…やったことない。」
「なら、できないんだね。」
「…でも、セインと一緒になるから頑張るよ。」
「アルトリウス、家事はセンスが必要なの。
僕もね、一通り努力した。けどね、料理は卵粥しか作れない。掃除はあちこち水浸しにするし、洗濯はくちゃくちゃ。何度もアレクセイに教えてもらったけど、できなかった。」
「セインの卵粥は絶品だよ。誰にも負けない。私が保証する。」
横からアレクセイがちゃちゃを入れてくるけど無視だ、無視。
「…だからね、アルトリウスと寮部屋を一緒にしても、僕がずっと失敗していれば、アルトリウスは僕のこと嫌になると思うし二人ともイライラすると思う。」
「そんなことない。私がセインに怒ることなんて絶対にない!」
いやー、それはわからないよ。だって、流石のアレクセイも僕の洗濯失敗三回目で水浸しにして、お説教と家事禁止令をもらってしまったのだ。
心当たりのあるアレクセイが気まずそうに顔を逸らしているけど、別に僕が悪いんだからそんな顔しなくてもいいのに。確かにあの時初めてアレクセイに怒られたから、ちょっと泣いたけど。その後土下座してくるアレクセイに気にしないでって言ったし。
それにアルトリウスは王子様だし、いくら僕が伯爵家のものでも、生活水準の違いは、不破の源になってしまう。
「…でも、私はセインと一緒がいい。
セインと共もあることが、私の悲願だ。」
うーん、めげないなあ。
そんなに僕なんかと一緒がいい理由がいまいちわからない。強いていうなら、僕の自立式の魔法とアルトリウスの魔力の感覚がなんだか似ているくらいかな。
「では、アレクセイ殿下も同じ寮部屋にするのはどうだろう。」
優雅にお茶を飲む学院長が、そう言った。
なるほど、確かにそれも悪くないか。それならそれなりに体裁も保て…ないかも。
「えー、じゃあ僕たちも一緒がいいです!」
「そうだそうだ。入学前から俺とセインは同室だって根回ししたのに、オウジサマに横取りされて。また魔族のオウジサマに取られるとかやってらんねーよ。」
「おれは、セインのお手伝いがしたい。」
「…アレクセイとアルトリウス殿下をセインのそばに置いておくのは、貞操の危機と判断します。婚前交渉がないよう目を光らせる必要があるので、私も同室に立候補します。」
なんとみんなまで寮の同室を立候補してきた。確かにレイムダルの言い分も一理あるけど、今のところアルトリウスが僕に不埒なことをする様子はないし、手綱は握れていると思うけど。監視の目が多いのはいいことだ。
「ふうむ。でも全員となるとなあ。」
わざとらしく渋っている様子の学院長に、さらにレイムダルが続けた。
「何言っているんですか。夏季休暇中に学院内の森の奥で大規模な工事をしていたこと、私が知らないとでも?」
「…んふー。」
「おおかたアルトリウス殿下の身辺調査の際に色々あり、セイン様との寮部屋希望をすると確信した。けれど、殿下の婚約者を同室にするわけにいかないから、セインに親しい我々との共同生活にすれば解決する…と思ったのでは。」
「ははは。」
曖昧に笑って学院長は、それ以上何も言わない。
アルトリウスは僕とだけでないことに不満そうだけど、一つ屋根の下ということで納得してくれた。
アレクセイ以外も嬉しそうだったけど、まあ一人だけめちゃめちゃ嫌そうな顔してる。次期国王がポーカーフェイスも使えないと、他国に舐められるよ。
ということで、案内された僕らの共同生活用の寮は、寮というより普通に貴族の邸宅だったし、何故か使用人がいた。
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