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第一章.はじまり
人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑥_神の兵_後編》
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この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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大荻山が、裏返った声で絶叫した。
「全速で逃げろ!! 一般車両は私の盾になれ!! 生き残ったら何でもくれてやる! 死んでも家族に金を出す! とにかく守れ!!」
装甲車(DD-24)は、最高速度こそ戦車を上回るが、唯一の欠点はその初速の鈍さにあった。
重量級の装甲車がトップスピードに乗るまでには、相応の助走距離を要するのだ。
YA-24に自爆コマンドを確実に送るために減速していたことが、ここに来て致命的な仇となる。再加速には、絶対的な時間が足りない。
さらに、追い打ちをかけるような事態が発生した。
大荻山の命令に反し、装甲車が急ブレーキをかけて停車してしまったのだ。
「な、な、何をやっている! 速度を上げろ、死にたいのか!! 一般車両も早く盾になれ!! もたもたするな! 私が死ねば恩賞もないのだぞ!」
だが、装甲車はピクリとも動かない。操縦兵が悲鳴に近い報告を上げる。
「先生! い、一般車両が……前方に停車して進路を塞いでいます……」
「ばかな! 何をやっている!!!」
バス、トラック、乗用車。それらが示し合わせたように、装甲車の進路を塞ぐ形でバリケードを作っていた。人々は次々と車両を放棄し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
大荻山は慌ててバスの運転手に無線を飛ばした。
「何事だ! 邪魔だ! バスをどかせ!」
無線から、冷え切った、それでいて怒りに震える返答が返る。
『先生! もううんざりだ! 盾になれだと? あんたは、これまで何人殺した! 盾になって死ぬくらいなら、先生を盾にして俺たちは逃げさせてもらう!』
「なっ……きさまら!!」
それを聞いた装甲車の操縦兵が叫ぶ。
「ダメです先生! DD-24はあくまで後続車、戦車ほどのトルクはありません! バスやトラックを無理やり押しのけるには時間がかかります!」
その間にも、怪物の王は確実に距離を詰めてくる。
距離はすでに5mを切っていた。
「いやぁぁ、たすけてぇええ!」
愛人の女がパニックを起こし、その恐怖は同乗する他の要人にも伝播する。
「先生! 何とかしたまえ!」
「これはどういうことですか! ミスター大荻山!」
装甲車はバスの側面に直角に接触すると、エンジンを唸らせて全力で押しのけようとした。焦った操縦兵が、アクセルを床まで踏み込む。
怪物が目前に迫る極限の恐怖。
だが、その状況でも大荻山は、アクセルをベタ踏みする操縦兵のミスを見逃さなかった。
ーー空転するエンジン音
大荻山は操縦兵に具体的な指示をまくし立てた。
「馬鹿者! コイツはタラメア式オートギア制御だぞ! アクセルを一気に踏むな! 回転数に合わせてゆっくり踏み込め! 空転して動かんぞ!!」
その不毛なやり取りの間に、怪物はDD-24へとたどり着いた。
大荻山は、震える声で虚勢を張った。
「狼狽えるな! この装甲車はYA-24の主砲すら弾き返す! 耐衝撃、耐熱、最強のシェルターだ。落ち着いてバスをどかせばいい!」
その言葉が終わるか終わらないかの時だった。
装甲車の後方ハッチ、そのロック部分が赤熱し、まるで水飴のようにドロリと溶解し始めた。
「きゃあああああああ!」
愛人の悲鳴が鼓膜を裂く。
直後、溶けた装甲の隙間から怪物の手がねじ込まれた。
「グギィ」
嫌な金属音が響き、分厚いハッチが紙屑のようにこじ開けられる。
大荻山、愛人、要人、そして私兵たちが凍りつく中、怪物は不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。
驚くことに、怪物は流暢な日本語で問いかけた。
「……お前らが指揮官か。俺をここまで無様に追い詰めた人間の顔を拝むために、丁寧におもちゃを壊してみたんだが……どいつが大将だ?」
「この人よ!!」
愛人が即座に叫び、大荻山の背後へ飛び退く。
「この、バカ女ぁぁぁ!!!」
大荻山が激昂するが、他の乗客もこれに乗じた。
こともあろうか、彼が金で雇った私兵たちまでもが、大荻山の背中を怪物の前へと押し出していく。
「やめろ! おまえら!! 私を誰だと思っている! 大荻山だぞ! お前らごときとは命の重さが違うのだ! なぜわからん!!」
「やめろ!! 押すな! こんなことをしてタラメアが黙っていると思うか! おい、お前の今の地位は私があってこそだろう!」
「頼む、やめろ!! なぁ、愛し合った仲だろう! やめてくれ、ああ、おい! 誰か、金ならやる! 助けろぉぉぉ!」
大荻山の必死の訴えに耳を貸す者は、誰一人としていなかった。
怪物の鼻先へ突き出された大荻山は、引きつった顔で怪物にすがった。
「に、日本語が分かるのか! 私は大荻山。この国でもっとも尊い人間だ! 私を殺さずに上手く使えば、この国、いや大国タラメアさえも簡単に占領できる! どうだ! 私を助けてもらえないか!」
怪物は、氷のように冷たい目で大荻山を見下ろした。
「どんな切れ者かと思えば。はぁ。……時間の無駄だったな」
吐き捨てるように言うと、怪物は装甲車の車内へ向けて、深紅のブレスを解き放った。
超高温の吐息は一瞬ですべての酸素を奪い、肺を焼き、車内の人間は全員、断末魔の一言も発することなく灰となった。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
ベルガンは自分の無能さを悔いていた。
気高い敵の指揮官に押されていたと思っていたが、顔を拝んでみれば保身しか能のないクズだった。
そんなものに後れを取った自分が、情けなくてたまらない。
だが、感傷に浸る時間はない。神の命令は絶対だ。
『一人でも逃がせば負け』——その勝利条件を満たさねばならない。
ベルガンは冷徹な思考に切り替えると、サーチの追跡能力を借り、散り散りに逃げた人々を一人残らず捕捉し、始末していく。
慈悲も、愉悦もない。ただの作業として、すべての命を刈り取った。
静寂が戻ると、ベルガンはサーチの元へ戻った。
「サーチ、お前大丈夫か?」
サーチは少しだけ勝気な笑みを浮かべる。
「何? 私がこれくらいで、どうにかなると思ったわけ? ふっ。おやさしいこと!」
ベルガンは元気そうなサーチに安堵を覚えつつ、ヴァロンに報告した。
「任務完了。逃亡者なし。……おかげで完全勝利だ。帰還する」
だが、その一部始終をじっと見つめる「目」があった。
超高性能赤外線カメラを搭載した、一機の自衛隊偵察ドローン。
その眼差しの主は、天才——篠原涼音であった。
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大荻山が、裏返った声で絶叫した。
「全速で逃げろ!! 一般車両は私の盾になれ!! 生き残ったら何でもくれてやる! 死んでも家族に金を出す! とにかく守れ!!」
装甲車(DD-24)は、最高速度こそ戦車を上回るが、唯一の欠点はその初速の鈍さにあった。
重量級の装甲車がトップスピードに乗るまでには、相応の助走距離を要するのだ。
YA-24に自爆コマンドを確実に送るために減速していたことが、ここに来て致命的な仇となる。再加速には、絶対的な時間が足りない。
さらに、追い打ちをかけるような事態が発生した。
大荻山の命令に反し、装甲車が急ブレーキをかけて停車してしまったのだ。
「な、な、何をやっている! 速度を上げろ、死にたいのか!! 一般車両も早く盾になれ!! もたもたするな! 私が死ねば恩賞もないのだぞ!」
だが、装甲車はピクリとも動かない。操縦兵が悲鳴に近い報告を上げる。
「先生! い、一般車両が……前方に停車して進路を塞いでいます……」
「ばかな! 何をやっている!!!」
バス、トラック、乗用車。それらが示し合わせたように、装甲車の進路を塞ぐ形でバリケードを作っていた。人々は次々と車両を放棄し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
大荻山は慌ててバスの運転手に無線を飛ばした。
「何事だ! 邪魔だ! バスをどかせ!」
無線から、冷え切った、それでいて怒りに震える返答が返る。
『先生! もううんざりだ! 盾になれだと? あんたは、これまで何人殺した! 盾になって死ぬくらいなら、先生を盾にして俺たちは逃げさせてもらう!』
「なっ……きさまら!!」
それを聞いた装甲車の操縦兵が叫ぶ。
「ダメです先生! DD-24はあくまで後続車、戦車ほどのトルクはありません! バスやトラックを無理やり押しのけるには時間がかかります!」
その間にも、怪物の王は確実に距離を詰めてくる。
距離はすでに5mを切っていた。
「いやぁぁ、たすけてぇええ!」
愛人の女がパニックを起こし、その恐怖は同乗する他の要人にも伝播する。
「先生! 何とかしたまえ!」
「これはどういうことですか! ミスター大荻山!」
装甲車はバスの側面に直角に接触すると、エンジンを唸らせて全力で押しのけようとした。焦った操縦兵が、アクセルを床まで踏み込む。
怪物が目前に迫る極限の恐怖。
だが、その状況でも大荻山は、アクセルをベタ踏みする操縦兵のミスを見逃さなかった。
ーー空転するエンジン音
大荻山は操縦兵に具体的な指示をまくし立てた。
「馬鹿者! コイツはタラメア式オートギア制御だぞ! アクセルを一気に踏むな! 回転数に合わせてゆっくり踏み込め! 空転して動かんぞ!!」
その不毛なやり取りの間に、怪物はDD-24へとたどり着いた。
大荻山は、震える声で虚勢を張った。
「狼狽えるな! この装甲車はYA-24の主砲すら弾き返す! 耐衝撃、耐熱、最強のシェルターだ。落ち着いてバスをどかせばいい!」
その言葉が終わるか終わらないかの時だった。
装甲車の後方ハッチ、そのロック部分が赤熱し、まるで水飴のようにドロリと溶解し始めた。
「きゃあああああああ!」
愛人の悲鳴が鼓膜を裂く。
直後、溶けた装甲の隙間から怪物の手がねじ込まれた。
「グギィ」
嫌な金属音が響き、分厚いハッチが紙屑のようにこじ開けられる。
大荻山、愛人、要人、そして私兵たちが凍りつく中、怪物は不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。
驚くことに、怪物は流暢な日本語で問いかけた。
「……お前らが指揮官か。俺をここまで無様に追い詰めた人間の顔を拝むために、丁寧におもちゃを壊してみたんだが……どいつが大将だ?」
「この人よ!!」
愛人が即座に叫び、大荻山の背後へ飛び退く。
「この、バカ女ぁぁぁ!!!」
大荻山が激昂するが、他の乗客もこれに乗じた。
こともあろうか、彼が金で雇った私兵たちまでもが、大荻山の背中を怪物の前へと押し出していく。
「やめろ! おまえら!! 私を誰だと思っている! 大荻山だぞ! お前らごときとは命の重さが違うのだ! なぜわからん!!」
「やめろ!! 押すな! こんなことをしてタラメアが黙っていると思うか! おい、お前の今の地位は私があってこそだろう!」
「頼む、やめろ!! なぁ、愛し合った仲だろう! やめてくれ、ああ、おい! 誰か、金ならやる! 助けろぉぉぉ!」
大荻山の必死の訴えに耳を貸す者は、誰一人としていなかった。
怪物の鼻先へ突き出された大荻山は、引きつった顔で怪物にすがった。
「に、日本語が分かるのか! 私は大荻山。この国でもっとも尊い人間だ! 私を殺さずに上手く使えば、この国、いや大国タラメアさえも簡単に占領できる! どうだ! 私を助けてもらえないか!」
怪物は、氷のように冷たい目で大荻山を見下ろした。
「どんな切れ者かと思えば。はぁ。……時間の無駄だったな」
吐き捨てるように言うと、怪物は装甲車の車内へ向けて、深紅のブレスを解き放った。
超高温の吐息は一瞬ですべての酸素を奪い、肺を焼き、車内の人間は全員、断末魔の一言も発することなく灰となった。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
ベルガンは自分の無能さを悔いていた。
気高い敵の指揮官に押されていたと思っていたが、顔を拝んでみれば保身しか能のないクズだった。
そんなものに後れを取った自分が、情けなくてたまらない。
だが、感傷に浸る時間はない。神の命令は絶対だ。
『一人でも逃がせば負け』——その勝利条件を満たさねばならない。
ベルガンは冷徹な思考に切り替えると、サーチの追跡能力を借り、散り散りに逃げた人々を一人残らず捕捉し、始末していく。
慈悲も、愉悦もない。ただの作業として、すべての命を刈り取った。
静寂が戻ると、ベルガンはサーチの元へ戻った。
「サーチ、お前大丈夫か?」
サーチは少しだけ勝気な笑みを浮かべる。
「何? 私がこれくらいで、どうにかなると思ったわけ? ふっ。おやさしいこと!」
ベルガンは元気そうなサーチに安堵を覚えつつ、ヴァロンに報告した。
「任務完了。逃亡者なし。……おかげで完全勝利だ。帰還する」
だが、その一部始終をじっと見つめる「目」があった。
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