人類アンチ種族神

緑茶

文字の大きさ
39 / 46
第一章.はじまり

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑤》

しおりを挟む
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
-----
リーク大佐が太平洋上の空母『クシャルボコス』へ帰還した翌日、埼玉県内の地下会議室で「会食」が開かれた。

出席者は大仲大臣、津田議員をはじめとする各省庁の大臣と与野党の大物政治家。そしてR連隊の隊長足立、副隊長仲原、さらにリモート参加としてUFB研究所室長の篠原である。

リーク大佐を除く、タラメアの使節団が国会に滞在している。

そのため、本会議で議論できない「対タラメア外交」について話し合うためにセッティングされた会食であった。

冒頭、大仲大臣が料理も待たずに状況を説明する。

「みなさま、急な招集にご賛同いただき、ありがとうございます。舞岡議員や同盟国使節団の耳に入らないよう、情報漏洩のリスクを最低限に抑える必要がありました。」

「さて、重要な情報です。先日、タラメアの最新鋭戦車YA-24および装甲車DD-24が、池袋周辺でUFBと交戦いたしました。結果はタラメア兵器の完敗です。YA-24は自爆、DD-24は炎上。搭乗員全員が死亡しました」

僅か1分程度の情報共有だったが、議員たちのざわめきは低く不安の渦を巻いているようだった。その状況で一人の議員が挙手をして質問を投げかけた。

「なぜ、タラメアの最新鋭戦車や装甲車が我が国に?R連隊の車両ですか?」

大仲は想定通りといった面持ちで返す。

「いえ、これは民間。大荻山氏所有とみられる兵器です。真実を聞こうにも、大荻山氏もこの戦闘で命を落とされております」

ここまで黙っていた津田議員は大荻山というキーワードで大筋の因果関係を読み取ると、議論を混沌から対策へと導き始める。

「大仲大臣。だとすれば、これは明らかに我が国へのタラメア側の内政干渉ですな。いや、権力を持った一個人に兵器を供与した。これはテロのほう助と言ってもいいでしょう。このカードをどう扱うおつもりか」

津田の一言で、議論の方向はカードの有効な使い道へ流れ始める。議員が乱雑に我先にと案を出し始める。

「このカードでタラメアに食料品を提供させましょう!」
「そんな安いカードではない!YA-24にDD-24を5台ずつ、無償供与を受けるべきです!」
「R連隊をタラメアの兵器と混成するのは危険です!ここは、この災害で住まいや家族を失った人々への支援金を要求すべきです!」
「いやいや、タラメアに東京のUFBを排除させましょう!それくらいは当然だ!」

そんな中、津田議員は大仲に意見を求めた。その眼光は鋭く大仲の防衛大臣としての資質を問うような深い探求にみちた眼差しだった。

「防衛大臣の立場としては、何かを要求すればタラメア国内での説明責任が発生します。つまり不問にすることを前提に何かを要求すれば矛盾が発生するのです。ですから私は、使節団の退去。および舞岡議員のタラメア訪問を要求したいと思います」

「がはははは」

場にそぐわない大きな笑い声の主は意外にも津田議員本人だった。

「使節団の退去。まぁそれが筋。というかこのカードの最良の使い方でしょう。私も同意見です。だが扱いが難しい「内通者」になっている舞岡議員を訪問という言葉で、国外に追放してしまうなんて、これは予想外だ。大仲大臣も人が悪い。がははは」

他の議員が恐る恐る質問をした。

「しかし、舞岡議員がタラメアで国家機密を売ったりしませんかね?」

その質問には大仲が答える。

「すでにタラメアを埼玉の臨時内閣本部に武装したまま滞在させています。彼が知る情報は全てタラメアに知られているとみていいでしょう。それに彼は例のマスコミへの情報流出以来、機密情報にはアクセスできません。彼の脳の価値はゼロだと見積もっています」

ご機嫌の津田が補足する。

「そうそう。今の舞岡議員の価値は我が国の内情を引き出すパイプ役。追放されてしまえばその機能も失うだろう。役にも立たない、成功実績もない、そんな議員を来賓として国費でもてなすタラメアのにがり顔が目に浮かぶようだ!がははは!」

騒然とした食事会だったが、料理が運ばれてくると次第に和やかになってくる。議員たちは大仲の考案した「使節団退去」と「舞岡追放」の話題で盛り上がった。この国は得はしないが、損もしない。だがタラメアは内通者を失い、無期限で内通者を自国で保護しなければならない。この皮肉が、緊張続きで疲弊していた議員の胸を撃ち抜いたのだ。

数分の間、会食の名にふさわしい楽し気な時間が流れた。

だが、その空気を断ち切ったのは、意外にもR連隊の隊長足立だった。

「議員の皆様、これはそういう問題ではないと思います。意見をよろしいでしょうか」

そう切り出すと、彼は自衛官としての視点から持論を語りだした。その内容は、自国の最新鋭兵器が他国で破壊された。これは戦略的にもっとも憂慮すべき事態であり。タラメアとしては残骸が自衛隊に回収されることを恐れるはず。といった内容だった。

だが議員たちには、真意は伝わらず軽くあしらわれてしまう。

「では、使節団の退去、舞岡の追放に加えて、怪物に破壊された自国の廃品回収もお願いしますかなぁ」

こんな具合で、議論にも発展しない。そこへ壁に投影されたプロジェクタから突然AI篠原が現れた。

マイクのハウリング音が「キィィィン」と鳴り響き、楽観ムードに水を差された議員の視線がAI篠原に集まる。

「篠原です。こちらの表をご覧ください。これは自衛隊の兵器の情報です」

そういうと、「耐衝撃性」「耐熱性」「耐貫通性」「重量」「薬剤耐性」など30項目もの詳細な情報が提示された。議員たちは突然細かい文字の羅列を提示され頭の数項目だけ読むと、面倒そうに篠原に意味を問う。

「これは自衛隊の戦車に使われている装甲「5cm角」の破片から導き出せる情報です。最新鋭機「2台分」の残骸となれば情報量は百倍を超えるでしょう」

この言葉に、津田が反論する。

「だが篠原君。外交とは信頼の積み重ねだ。リスクがあるからと言って対話を閉ざせば、それこそ戦端の口実を与えることになる。我々が誠意を見せれば、タラメアも引かざるを得ない。それが国際社会のルールではないかね?」

政治家として歴戦の猛者である津田の言葉に、数人の議員が無言でうなずき同意する。

「その理論には条件があります。それは自国に大きな損害がでなければ、という前提です。今回は違います。最新鋭機2台分の情報と国際社会のルールを天秤にかけているのです」

そういった、前提付きの政治交渉は数多く経験してきた。津田は慣れた表情で反論を重ねる。

「言いたいことは分かる。残骸は情報。タラメアに正しく返さなければ交渉は成立しない。そういいたいのだろう」

「違います。正しくも返してはなりません。兵器の価値は二つに分かれます。一つは純粋な性能。もう一つは秘匿性です。特に最新鋭兵器は「性能が分からない」ことにとても意味があるのです。1つの兵器が10の力なのか1000の力なのか曖昧にすることで、他国へのけん制になるのです」

「だから、正しく返せば秘匿性は守られる。よかろう?」

「いえ、秘匿性は守られません。正確には守られたことを証明できません。渡した残骸は本当に全部なのか?渡す前に解析したのでは?とタラメアに疑問を持たれた時点で秘匿性は下がり、兵器の価値が下がります。これは、タラメアの国家防衛にかかわる事態なのです。まだ分かりませんか?もし、正直に残骸を全て解析せずに渡したとしても、タラメアは信じない。秘匿性を守るために、関係した人物、施設は全て破壊してもおかしくはないのです。そこに例外はなく議員の皆様も標的になり得るのです」

この発言に言葉を返す議員は誰も居なかった。大仲だけは自身が自衛官出身でありながら永田町の思想に染まっていたことを認識し奥歯に力がこもる、そして即座に対抗策を考え始めていた。

だが、篠原の冷静な言葉は思考に大きな打撃を与えた。

「皆さん。99%タラメア軍が来ます。おそらく一週間以内でしょう」

凍り付いた空気が、事態の深刻さを物語っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

処理中です...