人類アンチ種族神

緑茶

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第一章.はじまり

人類アンチ種族神Ⅴ《対決① 防衛大臣》

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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません
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神災から10日目、都心の地下シェルターで政府の対策会議が行われていた。

このシェルターは都内5か所にある、他のシェルターや他県のシェルターと光ケーブルで接続されていた。

◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆

その日、防衛省の大臣である真田 権蔵さなだ ごんぞうが国民に向けてメッセージを発信していた。

既にスカイツリーが機能していないため、放送は神奈川や大阪といった電波塔を持つ地域を中継して全国民へ発信している。


真田は淡々と呼びかける。

「みなさん、落ち着いて行動してください。現在東京は謎の怪物。えー。我々はこれを“未確認飛来生物(UFB)”と呼んでおりますが、えー。現在情報を収集しており、対策を検討する準備の話し合いを始めようとしております。えー。東京都全域にUFBが確認されており、えー。都民の皆様におきましては、えー。お住いの地方自治体からの指示に従い、えー。最善の行動をとっていただきますよう、お願いいたします」

この放送はインターネットにもアップされ、SNSを中心に実質ゼロ回答と非難を浴びた。半日後に再度放送が行われ真田大臣から釈明はあったものの、その内容が「未曽有の状況であり、各人の判断が最良と言わざるを得ない」というもので、その発言が無責任すぎるとの批判をあおり、翌日には辞任に追い込まれた。

この有事に、担当大臣の辞任は政府にとって大きな打撃となり、総理は元自衛官という異色の経歴をもつ大仲 晴彦おおなか はるひこを急遽後任に抜擢した。

議員としては、まだ若い48歳の大臣の誕生である。

大仲大臣は翌日には就任会見を開いた。

「昨日より防衛省の大臣に任命されました、大仲 晴彦おおなか はるひこです。現在、我が国は危機的な状況にあります。昨日の就任から、つい先ほどまで夜を徹して事務方と優先すべき事項を話してきました」

「結論を申し上げますと、まずは国民。とくに被害の大きい首都圏で、今、この瞬間も救助を必要としている人を迅速に助けることが必要です!」

「経験のない国難に対し、軽率に動くべきではないという意見もあると思います。しかし私は大臣としてスピード感をもって対応することが大切だと思います」

「そこで、国の所有するシェルターを解放します。シェルターは2か所、神奈川県側と千葉県側にあります。詳しい場所は防衛省のホームページに、このあと、1時間後には掲載できる見込みです」

「シェルターの解放時期ですが、これも自衛隊のみなさんと、一部民間の皆様のお力でなんとか12時間後には、第一陣としてケガ人や高齢者、妊婦など緊急性がある方を各シェルターで10,000名ずつ受け入れられる見込みです」

「また、第一陣受け入れ後、6時間程度の準備を経て第二陣として、女性と子供を各シェルターで10,000名ずつ受け入れます」

「男性の皆様には大変申し訳ないのですが、まずは体力の少ない人々を優先することにしました。この件については私が大臣としての権限と責任をもって決断いたしました」

「男性の皆様には、少し遠いのですが埼玉県側に現在急ピッチで使用されていなかったシェルターの再整備を進めております。こちらは、地元の建設業者さまのご協力で、すでに作業が始まっており24時間後には解放できる見込みです」

「埼玉県側のシェルターの広さは十分にありますので性別、年齢問わず無制限に受け入れる準備を進めております。家族が離れ離れになるのがどうしてもつらい方は、ご家族でこちらのシェルターに避難してください」

「次に避難方法です。都内の地上部はUFB・・・みなさんの間ではガーゴイルと呼ばれる怪物が、数多く目撃されております。そのため、比較的安全な地下鉄に自衛隊を展開し、地下鉄網を避難ルートにできるよう昨晩から、地下鉄内のガーゴイルの排除を行いました。すでに幾つかのルートで安全が確保されましたので、まずは最寄りの地下鉄へ行き、自衛隊の指示に従っていただければ地上よりも数倍安全にシェルターまで移動できるように調整いたしました」

「医療体制や、食糧問題、抜本的なUFBへの対応などの課題はありますが、まずは緊急を要する方へスピード感を持った避難を優先したいと思います」

「以上を持ちまして就任会見といたします。今、私がお伝えした内容はこの後すぐに文字に起こして、防衛省のホームページおよび、私のSNSでも発信いたしますので、聞き取れない部分などございましたらご確認ください。」

◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆

一礼して、大臣が壇上を下りようとすると、リモート参加の記者の一人が声を上げた。

「ヨウツベ新聞の田中と申します。大臣、避難優先順位についてですが、“女性と子供”を第二陣に含め、“健康な男性”を後回しにするとの方針は、性別による明確な線引きと受け取れます。これは現代の価値観において不適切ではないですか?」

会場が一瞬ざわつく。

だが、大仲は間髪入れずに返答した。

「不適切かもしれません。けれど、私は“助けられる命”を先に助ける決断をしました。議論している時間で、誰かが死亡するかもしれない。それが今の東京です」

「しかし、その線引きに納得できない男性もいます。命の価値に差をつけたと批判される可能性もありますが?」

「批判は承知の上です。命の価値に差をつけたわけではありません。体力、移動力、環境耐性を総合して、現時点で危険度が最も高い層を優先した。それだけです。全員を守れるよう尽力します。が、段階的対応が必要です」

別の記者がマイクをONにする。

「エックス新聞の今村です。地下鉄網の避難ルートは画期的ですが、すでに停電している路線もあります。通気や照明などインフラの確保はできているのでしょうか?」

「限界はあります。ただ、自衛隊が先行してポータブル電源と投光器、空調ファンを展開しています。完璧ではありませんが、屋外よりは遥かに安全です」

その直後、会見場の隅に控えていた防衛省事務次官が静かに近寄り、声を低くして耳打ちした。

「大臣、よろしいでしょうか」

「……ああ、何か?」

「このまま細かいシェルターの話に及ぶと、まだ調整中で実現性の乏しい部分に関しても言質を取られてしまいます」

「……わかってる。けれど、もう言った。やるしかない」

「大臣、それは政治的には無謀かと」

大仲は、しばし無言で次官の目を見つめて、少しだけ語気を強めた。

「“政治的に正しい”だけじゃ、子供は守れない。君も、それくらいはわかってるだろ?」

事務次官は目を伏せ、何も言わなかった。

この会見は国内に賛否を巻き起こした。

「政府は都民しかみていない」「地下鉄の駅に行けたら苦労はしない」といった否定的なものから「国有シェルターの稼働には前大臣が6か月かかると言っていたのにすごい」「地下鉄に戦車がいた。心強い」など肯定的なものまでさまざまな意見が飛び交ったが、この発言の時間よりも早く、実際には各シェルターに多くの人々が本当に避難ができる状態になり、大仲大臣は一定の評価を得るに至った。

◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆

一方、シェルターの会議室では、野党関係者や他省庁から派遣された幹部たちがざわついていた。

「……勝手に決めすぎじゃないか?」

「確かに早いが、我々の確認もなく隠し玉の埼玉シェルターを公表するとは」

「そもそも“無制限に受け入れる”など、政治的なアピールにしても言い過ぎだ」

◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆

だがその夜──

大仲のSNSには、地下鉄から避難した家族の感謝が次々に投稿された。

「赤ちゃんと一緒に地下鉄へ向かったら、自衛隊の人が助けてくれました」
「息子がケガをしていたのですが、担架でシェルターまで連れて行ってくれました」

その一つひとつの投稿が、大仲の表情を引き締める。

「──責任は取る。全部、俺が引き受ける」

誰にも聞かれないように、彼はもう一度自分にそう言い聞かせた。

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