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恋愛厨への素朴な疑問
拒否する友より男を選ぶ恋愛厨
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ある日の山本くんのライブのことである。
その日、葵は友達から借りた録音機能のある小型のカセットデッキを持っていた。当時の音楽の記録メディアというとカセットテープである。それに山本くんのライブを録音したいと言うのだ。もちろん録音禁止だが、葵は敢えてそれをやろうとしていた。
ところが、葵は肝心要のカセットテープを忘れてきたのだ。これでは録音ができない。買いに行くといってもライブ開始の時間は迫っている。
どうしよう、となっている時、葵は私がウォークマン(いわゆる小型のカセットテーププレイヤー)を持っていることに気付いた。その中には当然カセットテープが入っている。
「ウォークマンの中にあるカセットに録音しようよ!」
と、葵は私のウォークマンをふんだくった。
そのカセットテープには、FMから録音したロバート・プラントのBig Logという曲が入っていた。
当時、新しい音楽をいち早く聴けるのはFM、AMラジオだった。私はラジオから洋楽を逐一カセットテープに録音して楽しんでいたのだが、FMで偶然流れていたこのロバート・プラントのBig Logという曲が大変気に入って、その日もその曲を聴いていたところだったのだ。
カセットテープは新しく録音したら、以前録音したものを上書きしてしまう。つまり、この山本くんのライブを録音したら、ロバート・プラントの曲は消えてしまうのだ。
冗談じゃない、どこの馬の骨かわからない下手くそな素人バンドの演奏で大御所ロバート・プラントの曲を消してたまるか。私は必死で拒否した。
「好きな曲が入ってるからダメ!!」
「山本くんのライブの方が大事でしょ!!」
私と葵はウォークマンを引っ張り合い、揉めに揉めた。
ここではっきりしたのが
私→好きな曲 > 男
葵→男 > 拒否する友達
ということである。
この構図が頭に浮かんだ途端、私は猛烈に腹が立った。男の為に必死になりやがって!誰がロバート・プラントの曲を潰させるか!と、私も必死にウォークマンを取り返そうとした。
何も解決しないまま、ライブは始まってしまった。
ところが、葵がライブ中に泣き出したのである。
録音したかった、それをライブが終わっても葵は繰り返して呟いていた。
ライブが終わってから葵と私は無言だった。
お互いがお互いに腹を立てていたのだ。
今でこそ私は、自分がAセクシャルという特異な性質があると認識しているので、男にあと先考えず夢中になる女性の心理を分かろうと努力するが
当時の私はそれを認識していなかったが故に、まったく相手にされていない男の為に何かを犠牲にしてまで夢中になる葵の心理がまったく理解できなかった。だからこそ泣いている葵に同情もできず、ただただ腹を立てた。
葵とは仲が良かったので、その後も一緒にライブに行ったが、当の山本くんは誰がどう見ても普通の高校生の私たち二人には興味を持っておらず、一応自分のファンなので嬉しそうな素振りを見せてはいたが、目は完全に死んでいた。
ライブに通うようになって数ヶ月過ぎた頃、ライブ終わりに山本くんを待っていたら、色気むんむんのきれいなお姉さんと山本くんが手を繋いでいるのを目撃してしまい、葵も私もなんとなく山本くんのライブに行かなくなり、そこでライブ通いは終焉を迎えたのだった。
その日、葵は友達から借りた録音機能のある小型のカセットデッキを持っていた。当時の音楽の記録メディアというとカセットテープである。それに山本くんのライブを録音したいと言うのだ。もちろん録音禁止だが、葵は敢えてそれをやろうとしていた。
ところが、葵は肝心要のカセットテープを忘れてきたのだ。これでは録音ができない。買いに行くといってもライブ開始の時間は迫っている。
どうしよう、となっている時、葵は私がウォークマン(いわゆる小型のカセットテーププレイヤー)を持っていることに気付いた。その中には当然カセットテープが入っている。
「ウォークマンの中にあるカセットに録音しようよ!」
と、葵は私のウォークマンをふんだくった。
そのカセットテープには、FMから録音したロバート・プラントのBig Logという曲が入っていた。
当時、新しい音楽をいち早く聴けるのはFM、AMラジオだった。私はラジオから洋楽を逐一カセットテープに録音して楽しんでいたのだが、FMで偶然流れていたこのロバート・プラントのBig Logという曲が大変気に入って、その日もその曲を聴いていたところだったのだ。
カセットテープは新しく録音したら、以前録音したものを上書きしてしまう。つまり、この山本くんのライブを録音したら、ロバート・プラントの曲は消えてしまうのだ。
冗談じゃない、どこの馬の骨かわからない下手くそな素人バンドの演奏で大御所ロバート・プラントの曲を消してたまるか。私は必死で拒否した。
「好きな曲が入ってるからダメ!!」
「山本くんのライブの方が大事でしょ!!」
私と葵はウォークマンを引っ張り合い、揉めに揉めた。
ここではっきりしたのが
私→好きな曲 > 男
葵→男 > 拒否する友達
ということである。
この構図が頭に浮かんだ途端、私は猛烈に腹が立った。男の為に必死になりやがって!誰がロバート・プラントの曲を潰させるか!と、私も必死にウォークマンを取り返そうとした。
何も解決しないまま、ライブは始まってしまった。
ところが、葵がライブ中に泣き出したのである。
録音したかった、それをライブが終わっても葵は繰り返して呟いていた。
ライブが終わってから葵と私は無言だった。
お互いがお互いに腹を立てていたのだ。
今でこそ私は、自分がAセクシャルという特異な性質があると認識しているので、男にあと先考えず夢中になる女性の心理を分かろうと努力するが
当時の私はそれを認識していなかったが故に、まったく相手にされていない男の為に何かを犠牲にしてまで夢中になる葵の心理がまったく理解できなかった。だからこそ泣いている葵に同情もできず、ただただ腹を立てた。
葵とは仲が良かったので、その後も一緒にライブに行ったが、当の山本くんは誰がどう見ても普通の高校生の私たち二人には興味を持っておらず、一応自分のファンなので嬉しそうな素振りを見せてはいたが、目は完全に死んでいた。
ライブに通うようになって数ヶ月過ぎた頃、ライブ終わりに山本くんを待っていたら、色気むんむんのきれいなお姉さんと山本くんが手を繋いでいるのを目撃してしまい、葵も私もなんとなく山本くんのライブに行かなくなり、そこでライブ通いは終焉を迎えたのだった。
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