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恋愛厨への素朴な疑問
男の為に働く恋愛厨
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私は女子高に進学した。
高校時代は非常に楽しかった。
男女の恋愛の揉め事が一切なかったからだ。
男のいない学校に通う女子は、皆各々の趣味に没頭する。アニメ好きはアニメに、アイドル好きはアイドルに、今思うとそれぞれコアなファンが多かった気がする。オタクみたいな子がたくさんいて、いわゆるリア充はごく僅かだった。
私はというと、洋楽邦楽関係なく、バンドにはまっていた。自分の好きな海外のミュージシャンが来日すれば必ず観に行ったし、ライブハウスにもよく行った。また、私と同じ趣味の子もたくさんいたのだ。これは男女の恋愛がすべてのような中学校の同級生とは雲泥の差。楽しくて仕方なかった。
私と同じでバンドが好きな葵という友達がいた。彼女とはよくライブハウスに行き、学校の友達の中でも一番仲が良かった。
葵とライブハウスに行っているうち、お気に入りのバンドができた。そのバンドのギターの山本くんが(推定22才)恐ろしく美形のイケメンで、葵はすっかりその山本くんに心を奪われてしまったのだ。私も葵と一緒になってキャーキャー騒いではいたのだが、私たち二人の間にはかなりの温度差があった。
私は山本くんは時々見るだけで良かった。私は男女問わず美しい人はとても好きだからだ。ところが、葵の山本くんに対する気持ちは私に反して燃え上がっていた。見るだけでは済まない、ライブの後もご一緒したい、あわよくば付き合いたい、という欲求が渦巻いていたのだ。
「山本くんのライブ、絶対全部行こうね!」
と、葵は興奮気味に私に言った。
え?ぜ、ぜ、全部?
当時高校生である。言わずもがな小遣い制だ。毎回ライブに行っていたら金がもたない。それ以前に、そこまでして山本くんのライブに行く気もなかった。
お金かかるから、せめて月イチくらいにしておこう、と私は葵に提案した。葵は一旦同意してくれたがすぐに
「じゃ、バイトしようよ!」
と言い出した。
彼氏でもない、ましてや付き合う可能性が限りなくゼロに近い男の人にそこまでするのか!と、私は興奮する葵を目の前にして絶望した。
バイトするのは嫌ではない。ただ、男の為だけに金を稼ぐというのが私は納得がいかなかったのだ。
それから、葵とパン工場でバイトした。
週末だけで微々たるバイト代だったが、インディーズバンドのライブに通うには充分な額ではあった。しかし、あーあ、このバイト代でレコードも買えるし服も買えるよな~、ライブ代で消えるのか・・・と私は何度も苦々しい思いに駆られた。
葵はライブの時、必ず最前列の山本くんの前に立った。毎回である。この最前列、山本前の場所を取るのに葵は命を懸けていた。ライブが始まるかなり前に会場入り、他の山本ファンに負けじと周りに睨みをきかせ、トイレに行く時には荷物と私をしっかりとその場所に置いていくという周到さを見せた。
最前列、山本前。
葵はこれにこだわっていたが、私にはこれはどうにも逆効果のような気がしていた。もし自分がミュージシャンで、ライブのたびに同じ女の子が目の前にいたらどうだろう。
絶対に嫌だ。気持ち悪い。
彼女でもないどうでもいい女の子が毎回毎回、うっとりした顔で目の前にいるのだ。いや、たとえ彼女だとしても鬱陶しいと思うだろう。
しかし、葵の情熱の前に、私はこれが言えないでいたのだ。
高校時代は非常に楽しかった。
男女の恋愛の揉め事が一切なかったからだ。
男のいない学校に通う女子は、皆各々の趣味に没頭する。アニメ好きはアニメに、アイドル好きはアイドルに、今思うとそれぞれコアなファンが多かった気がする。オタクみたいな子がたくさんいて、いわゆるリア充はごく僅かだった。
私はというと、洋楽邦楽関係なく、バンドにはまっていた。自分の好きな海外のミュージシャンが来日すれば必ず観に行ったし、ライブハウスにもよく行った。また、私と同じ趣味の子もたくさんいたのだ。これは男女の恋愛がすべてのような中学校の同級生とは雲泥の差。楽しくて仕方なかった。
私と同じでバンドが好きな葵という友達がいた。彼女とはよくライブハウスに行き、学校の友達の中でも一番仲が良かった。
葵とライブハウスに行っているうち、お気に入りのバンドができた。そのバンドのギターの山本くんが(推定22才)恐ろしく美形のイケメンで、葵はすっかりその山本くんに心を奪われてしまったのだ。私も葵と一緒になってキャーキャー騒いではいたのだが、私たち二人の間にはかなりの温度差があった。
私は山本くんは時々見るだけで良かった。私は男女問わず美しい人はとても好きだからだ。ところが、葵の山本くんに対する気持ちは私に反して燃え上がっていた。見るだけでは済まない、ライブの後もご一緒したい、あわよくば付き合いたい、という欲求が渦巻いていたのだ。
「山本くんのライブ、絶対全部行こうね!」
と、葵は興奮気味に私に言った。
え?ぜ、ぜ、全部?
当時高校生である。言わずもがな小遣い制だ。毎回ライブに行っていたら金がもたない。それ以前に、そこまでして山本くんのライブに行く気もなかった。
お金かかるから、せめて月イチくらいにしておこう、と私は葵に提案した。葵は一旦同意してくれたがすぐに
「じゃ、バイトしようよ!」
と言い出した。
彼氏でもない、ましてや付き合う可能性が限りなくゼロに近い男の人にそこまでするのか!と、私は興奮する葵を目の前にして絶望した。
バイトするのは嫌ではない。ただ、男の為だけに金を稼ぐというのが私は納得がいかなかったのだ。
それから、葵とパン工場でバイトした。
週末だけで微々たるバイト代だったが、インディーズバンドのライブに通うには充分な額ではあった。しかし、あーあ、このバイト代でレコードも買えるし服も買えるよな~、ライブ代で消えるのか・・・と私は何度も苦々しい思いに駆られた。
葵はライブの時、必ず最前列の山本くんの前に立った。毎回である。この最前列、山本前の場所を取るのに葵は命を懸けていた。ライブが始まるかなり前に会場入り、他の山本ファンに負けじと周りに睨みをきかせ、トイレに行く時には荷物と私をしっかりとその場所に置いていくという周到さを見せた。
最前列、山本前。
葵はこれにこだわっていたが、私にはこれはどうにも逆効果のような気がしていた。もし自分がミュージシャンで、ライブのたびに同じ女の子が目の前にいたらどうだろう。
絶対に嫌だ。気持ち悪い。
彼女でもないどうでもいい女の子が毎回毎回、うっとりした顔で目の前にいるのだ。いや、たとえ彼女だとしても鬱陶しいと思うだろう。
しかし、葵の情熱の前に、私はこれが言えないでいたのだ。
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