Aセクシャルの人

セリー

文字の大きさ

大中小

52 / 58

変な男の人たち

最後の彼氏　その4

しおりを挟む

洋平と別れた後
ものすごいダメージが残った。

結婚もしない、誰とも付き合わない、と自分の中で結論を出した。そこに気付けたのは良かったと思う。

が、洋平との付き合いが楽し過ぎて
色々なことを思い出した。
しばらくそれを引きずった。

洋平は立ち直っただろうか。
彼の泣いた顔を思い出しては心が痛んだ。
彼はまだ30才手前。
どうか幸せな結婚をして欲しい、と願った。

それは「恋に落ちたシェイクスピア」という映画を見た時だった。

劇中のシェイクスピアとヴァイオラが、情熱的に愛し合う姿を見て、「こんなに恋愛に夢中になったことはない、これが普通なのか？」と漠然と思った。

そして私は、某悩み事相談のサイトに質問を投稿した。

「恋愛に夢中になれません。私はおかしいのでしょうか？」

すると、何件かコメントがついた。

「まだ本当に好きな人に出会ってないんですよ」
これはよく言われた。
しかし、これを鵜呑みにして不特定多数の男の人と遊んでしまった。これこそ私にとって悪魔の言葉である。

そして最も笑い、最も腹立たしかったのがこのコメントだ。
「あなたみたいな人はね、もっとたくさんの男の人と知りあわなきゃだめなんですよ」
これ以上誰と知り合えと？
この人、遠回しに、男に慣れてないからダメなんですよ、と言いたいようだった。こちらの事情も知らないくせに笑わせてくれる。しかもこの人、カテゴリーマスター、という称号が付いていた。いい加減なものだ。

そして、最後にくれたあるコメントに目が止まった。
「もしかしてAセクシャルではないですか？」

Aセクシャル？初めて聞く言葉だった。

「それは何ですか？詳しく教えて頂けますか？」
と、そのコメント主に返事した。

「恋愛やセックスに興味を持てない人です。セクシャルマイノリティにカテゴライズされますが、一定数いらっしゃるようです」

それを読んだ途端、頭の中が弾け飛ぶような感覚を覚えた。
ああ、これで説明がつく！と初めて自分で自分の性分の納得がいった。

それから色々ネットで調べた。
調べれば調べるほど、自分はAセクシャルだと自覚する結果になった。

Aセクシャルにも色々あり、私のようにセックスはできるが恋愛には興味が持てない人もいれば、恋愛はできるがセックスはできないという人もいた。
いずれにせよ、Aセクシャルの人は大変な人生を歩むことに変わりなく、結婚しない人が大半だが、Aセクシャル同士で結婚するという選択をした人もいた。

色々調べていると、「彼氏にひどい振られ方をしてからAセクになりました」ということを言っている人がいたが
これは違う。
自分は男の人を嫌いになるような酷い経験をした事はないし、家庭環境が悪かったわけでもない。
気づいたらこうなっていたのだ。完全に先天性だ。

自覚してから、自分の人生を考えるようになった。
恐らく自分はこの先一生ひとりだろう。

30代にして、自分はやっと自分の振る舞い方を学んだのだ。

しおりを挟む